AI活用事例2026年7月更新

デジタル庁の国産AIとは?さくらのクラウドで国産LLM 3モデル稼働・ガバメントクラウド活用と行政AIの安全性【2026年7月】

公開日: 2026/07/13
更新日: 2026/07/14
デジタル庁の国産AIとは?さくらのクラウドで国産LLM 3モデル稼働・ガバメントクラウド活用と行政AIの安全性【2026年7月】

この記事のポイント

デジタル庁の国産AI(源内×国産LLM×さくらのクラウド)を公式資料ベースで解説。2026年7月10日発表の3モデル試用、15応募→7選定→5契約→3稼働の実態、A/Bテスト評価設計、DS-920 2.0で読む行政AIの安全性まで整理します。

「デジタル庁の国産AI」とは、単一の製品名ではなく、アプリ(ガバメントAI「源内」)・基盤モデル(国産LLM)・インフラ(国産クラウド)の3層すべてを国内で完結させる取り組みを指します。 2026年7月10日にデジタル庁が発表した「さくらのクラウド上での国産基盤モデルの試用開始」は、最後まで残っていたインフラ層が動き出した節目であり、政府がガバメントクラウド上で国産クラウドを実利用する初めての案件(第一号案件)でもあります。

ただし、報道の見出しだけを読むと誤解しやすい点があります。今回発表されたのはあくまで試用とA/Bテストによる検証であり、「国産AIが海外モデルを置き換えた」わけでも「源内が丸ごとさくらのクラウドへ移行した」わけでもありません。この記事では、公式資料をもとに、報道で省略されがちな構造・数字・限界まで含めて整理します。

この記事でわかること

  • デジタル庁の国産AIを構成する3層構造(源内/国産LLM/さくらのクラウド)
  • 2026年7月10日発表の中身(稼働する3モデル・スケジュール・評価方法)
  • 「7モデル? 5社? 3モデル?」という数字の混乱を、公募15件からのファネルで解消
  • デジタル庁が公開している評価設計(ブラインドA/Bテスト・8テーマ35観点・プロンプトインジェクション耐性)
  • ガイドライン「DS-920 2.0版」で読む行政AIの安全性——国産化で解決すること/しないこと
  • 予算44.0億円と2027年度からの有償調達というお金の流れ
  • 民間企業・自治体が今すぐ持ち帰れる示唆

こんな方に役立ちます

公共調達・行政DXに関わる方、自治体の情報システム担当者、データを国内に置く要件(データレジデンシー)がある業界の情報システム部門、国産LLM・ソブリンAIの動向を追うビジネスパーソンを想定しています。

デジタル庁の「国産AI」は3層構造で理解する

デジタル庁が構築する生成AI利用環境「源内」のキービジュアル

出典: デジタル庁「ガバメントAI 源内」政策ページ

デジタル庁の国産AI施策は、アプリ層・モデル層・インフラ層の3つに分けて捉えると全体像がつかめます。ニュースでは「国産AIを国産クラウドで動かす」と一行に要約されがちですが、実際には性格の異なる3つの取り組みが積み上がったものです。

実体

提供者

2026年7月時点の状況

① アプリ層(利用環境)

ガバメントAI「源内(げんない)

デジタル庁(内製・OSS公開済み)

全39機関・約18万人規模で大規模実証中

② モデル層(基盤モデル)

海外フロンティアモデル + 国産LLM

Anthropic/AWS ほか + 国産LLM 7モデル(選定済み)

職員が日常使うのは海外4モデル。国産は試用フェーズ

③ インフラ層(クラウド)

ガバメントクラウド(さくらのクラウドを含む)

AWS/Google Cloud/Azure/OCI/さくらインターネット

さくらのクラウドは国産唯一。今回が初の実利用案件

つまり、モデル・クラウド・アプリのすべてを国内で完結させる(AI主権/ソブリンAI)という構想です。2026年7月10日の発表は、このうち最後に残っていた③インフラ層が、いよいよ実運用に入るという意味を持ちます。

① アプリ層:ガバメントAI「源内」

源内は、デジタル庁が内製した政府職員向けの生成AI利用環境です。名称は「Generative AI(ジェンAI)」と江戸期の発明家・平賀源内に由来します。2025年5月にデジタル庁内で試験導入(職員約1,200人以上)が始まり、2026年5月からは外局を含む全39機関・政府職員約18万人規模の大規模実証に入っています(2026年5月29日時点で約10万人が利用可能。以降、防衛省・文科省・厚労省・経産省などへ順次展開)。

機能は汎用チャットにとどまりません。要約・翻訳・画像生成・音声文字起こしといった汎用アプリに加え、法制度に関する調査(愛称「Lawsy」)、国会答弁の調査・分析、公用文の校正(文化庁「公用文作成の考え方」準拠)、電子決裁システムのRAG質問応答など、行政実務に特化したアプリが数十種類そろっています。いわゆる「ネ申エクセル」を機械処理可能な表形式に変換するアプリまであるのが実務的です。

2026年4月24日にはGitHub上でOSSとして公開され、商用利用可能なライセンスで提供されています。源内そのものの機能・使い方・OSS公開の詳細は、ガバメントAI「源内」とは|デジタル庁OSS公開・18万人政府職員向け生成AI環境で詳しく整理しています。

② モデル層:国産LLMは「並置」であって「置き換え」ではない

ここが最も誤読されている点です。2026年7月10日の公表資料の構成図によれば、源内チャットで職員が選択できるモデルは、2026年7月時点でAWS「Nova Lite」、Anthropic「Claude Haiku 4.5」「Claude Sonnet 4.6」「Claude Opus 4.8」の4モデルです。今回の国産3モデルは、この海外モデル群を置き換えるのではなく、さくらのクラウド上で稼働する選択肢として並置され、比較検証されるという位置づけになります。

③ インフラ層:さくらのクラウド

ガバメントクラウドの対象サービスは、AWS/Google Cloud/Microsoft Azure/Oracle Cloud Infrastructure/さくらのクラウドの5つ。このうち国産事業者はさくらインターネットのみです。源内自体は当初からガバメントクラウド上のマルチクラウド構成で構築されており、そこにさくらのクラウドが「国産3モデルの稼働先」として加わったというのが正確な理解です。

⚠️ よくある誤解:「源内がさくらのクラウドに移行した」わけではありません。源内は引き続きガバメントクラウド上のマルチクラウド構成であり、さくらのクラウドは新たに追加された稼働先です。

2026年7月10日発表の要点

デジタル庁のロゴ

出典: デジタル庁「ガバメントAI源内における国産クラウド上での国産基盤モデルの試用開始について」(2026年7月10日)

デジタル庁が公表した「ガバメントAI源内における国産クラウド上での国産基盤モデルの試用開始について」(2026年7月10日)の内容を、公式発表ベースで整理します。

項目

内容

発表日

2026年7月10日

稼働先クラウド

さくらのクラウド(さくらインターネット)

クラウドの位置づけ

ガバメントクラウドにおける唯一の国産クラウド。政府がガバメントクラウド上でさくらのクラウドを実利用する初めての事例(第一号案件)

稼働する国産基盤モデル

NTTデータ「tsuzumi 2」/富士通「Takane 32B」/Preferred Networks「PLaMo 2.0 Prime」の3モデル

提供先

デジタル庁および複数省庁に提供される源内のチャット機能

評価方法

A/Bテスト。利用者にランダムかつブラインドで出力を提示し、どちらが好みかを選ばせて比較・検証

スケジュール

2026年8月までに実験環境を構築 → 2026年9〜11月に複数回の実験

検証の狙い

クラウドおよび基盤モデルの有用性・信頼性・経済性などの検証

次のアクション

検証結果をもとに2027年度(令和9年度)以降の調達の在り方を検討

デジタル庁は、国産クラウド×国産基盤モデルという構成の意義について、「中核的システムを戦略的に国産で構成することを実現し、AIに関する日本の自律性確保を実現する」と説明しています。松本デジタル大臣も、国内LLM公募を打ち出した2025年12月の会見以来、一貫してこの方針を示してきました。

この一連の取り組みには、産業政策としての狙いも重なります。報道各社の整理によれば、目的は次の3点に集約されます。

  1. 政府における安全・安心な国産AIの利用推進
  2. 行政現場からのフィードバックによる国産AIの性能向上
  3. 政府調達を通じた国産AIへの安定的な需要創出

3つ目が実質的に重要です。国産LLM開発企業にとって最大の課題は「性能」以上に「安定した需要と収益源がないこと」であり、政府が継続的な買い手になることそのものが政策手段になります。

国産モデルの「比較相手」は現役の海外フロンティアモデル

A/Bテストで国産モデルと比べられる相手は、源内チャットに実装済みの海外4モデル(Nova Lite/Claude Haiku 4.5/Claude Sonnet 4.6/Claude Opus 4.8)です。つまり今回の試用は、国産LLM 3モデル vs 現役の海外フロンティアモデルという、かなり厳しい土俵での比較になります。

国産モデルにはハンデのある構図ですが、逆に言えば「行政実務の日本語タスクなら十分に戦える」ことを示せれば、その結果には強い説得力が生まれます。政府が自ら「国産と海外を実務でブラインド比較し、結果を公表する」と宣言したこと自体が、結果を受け入れる姿勢の表れといえます。

数字の混乱を解く:15応募 → 7選定 → 5契約 → 3稼働

報道を横断して読むと、「7モデル」「5社」「3モデル」という数字が混在し、何が正しいのか分かりにくくなっています。これはフェーズの異なる数字が並んでいるだけで、公式資料に沿ってファネルとして並べると一本の線でつながります。

フェーズ

時期

件数

内容

① 公募

2025年12月2日〜2026年1月末

15件応募

ガバメントクラウド上での動作、安全性の説明可能性、学習データの法令遵守などが条件

② 選定

2026年3月6日

7モデル

試験当日に初めて開示された50問の評価テストを経て選定

③ 契約

2026年5月

5社

デジタル庁資料で契約済みとして示された社

④ さくらのクラウドで稼働

2026年7月10日発表

3モデル

tsuzumi 2/Takane 32B/PLaMo 2.0 Prime

選定7モデルと、今回の稼働状況

開発元

モデル

開発路線

2026年5月時点の契約

さくらのクラウドで稼働(7/10発表)

NTTデータ

tsuzumi 2

フルスクラッチ国産

富士通

Takane 32B

海外モデルベース+追加学習

Preferred Networks

PLaMo 2.0 Prime

フルスクラッチ国産

ソフトバンク

Sarashina2 mini(5月資料では「Sarashina3 mini」表記)

国産

発表なし

NEC

cotomi v3

国産

発表なし

KDDI・ELYZA

Llama-3.1-ELYZA-JP-70B

海外OSSベース+追加学習

契約5社リストに記載なし

発表なし

カスタマークラウド

CC Gov-LLM

行政特化

契約5社リストに記載なし

発表なし

このファネルを押さえると、報道の食い違いはほぼ解消します。「5社のモデルを試用する」という報じ方は契約ベース、「3モデル」はさくらのクラウド上で稼働する分を指しています。契約5社のうち、さくらのクラウドで稼働しない2モデル(Sarashina3 mini/cotomi v3)がどの環境で動くかは、7月10日の発表では明示されていません。

公式に説明されていない点(推測で埋めない)

  • 選定7社のうち、KDDI・ELYZA「Llama-3.1-ELYZA-JP-70B」とカスタマークラウド「CC Gov-LLM」が2026年5月時点の契約5社リストに含まれていない理由は、公表されていません(辞退・契約時期のずれ・別枠のいずれかは不明)。
  • ソフトバンクのモデル名が、2026年3月の選定時「Sarashina2 mini」から、5月資料では「Sarashina3 mini」に変わっています。モデル更新に伴う差し替えと見るのが自然ですが、公式説明は確認できていません
  • Preferred Networksは2026年6月22日にPLaMo 3.0 Primeをリリースしていますが、源内の試用対象として公式に示されているのは2.0 Primeです。3.0への切り替えの有無は明示されていません(最新モデル自体の解説はPLaMo 3.0 Primeとは|PFN国産フルスクラッチLLM・デジタル庁源内採用を参照)。

各モデルの日本語性能・料金・提供形態を横並びで比較したい場合は、国産LLM 7選 徹底比較|デジタル庁源内選定モデルの性能/料金/用途にまとめています。個別解説はNTT tsuzumi 2とは?政府源内基盤採用の日本語最高性能LLM富士通PHOTONとは|国産AI基盤・GPU省力化LLMアーキテクチャもあわせてどうぞ。

「国産」の定義には幅がある

富士通のTakane 32Bは、カナダCohereの「Command R+」をベースに、富士通が日本語特化の追加学習と軽量化(蒸留)を施したモデルとされます。フルスクラッチで開発されたtsuzumi 2やPLaMoとは開発路線が異なります。どちらが優れているという話ではありませんが、「フルスクラッチ純国産であること」を調達要件に置くと、選択肢は大きく絞られるという事実は認識しておくべきです。実際、公募実施要領も「フルスクラッチ開発又は他の言語モデルを活用した開発の別」を記載事項としており、両者を区別したうえで受け付けています。

この「何をもって国産と呼ぶか」という論点は、楽天 Rakuten AI 3.0 = DeepSeek V3 リブランド炎上まとめ|国産LLMの定義で扱ったとおり、国内でたびたび議論になっています。

ガバメントクラウド「初の実利用案件」までの3年間

さくらインターネットがガバメントクラウド提供事業者に採択されたことを示す告知画像

出典: さくらインターネット「令和5年度および令和8年度 ガバメントクラウドサービス提供事業者に採択」(2026年3月27日)

今回の発表を「単なる新機能の追加」と読むと、重みを取り違えます。さくらのクラウドがガバメントクラウドの一角として実際に使われるまでには、約3年に及ぶ技術要件クリアのプロセスがありました。

時期

出来事

2023年11月

令和5年度募集で条件付き採択(国内事業者として初)。全技術要件の充足が今後の条件とされた

2025年12月2日

デジタル庁が国内LLM公募を開始(松本デジタル大臣が方針表明)

2026年3月6日

国内LLM公募結果を公表(15件応募 → 7件選定)

2026年3月27日

305項目の技術要件すべてへの適合が確認され、令和5年度・令和8年度の双方で正式採択(国産事業者として初の複数年度採択)

2026年4月24日

源内をOSSとしてGitHub公開(商用利用可)

2026年5月

全39機関・約18万人規模の大規模実証を開始/国産LLM 5社と契約締結

2026年6月12日

生成AIの調達・利活用ガイドライン「DS-920」2.0版を公表

2026年7月10日

さくらのクラウド上での国産基盤モデル3種の試用開始を発表(ガバメントクラウド実利用の第一号案件)

ポイントは、2023年の採択が「条件付き」だったという点です。国内事業者として初めて選ばれたものの、当時は305項目の技術要件をすべては満たしていませんでした。それを2026年3月にクリアして正式採択となり、その約3か月半後に初の実利用案件が発表された——という流れです。

なお、「ガバメントクラウドに国産クラウドが採択された(2023年・2026年)」ことと、「ガバメントクラウド上で国産クラウドが実利用された(2026年7月)」ことは別の出来事です。ここを混同した記事が散見されるので注意してください。

この305項目という要件は、民間企業がクラウド選定でセキュリティ水準を判断する際の実質的なベンチマークとしても機能します。さくらのクラウドは石狩データセンター(再生可能エネルギー100%)を中核に、ソブリンクラウド機能によるデータ主権確保、PCI DSS・ISO 27001の取得、データ転送量に追加課金が発生しない料金体系などを政府機関・自治体向けに打ち出しています。

ただし、今回の3モデルがさくらのクラウド上のどのGPU基盤・リージョン構成で推論されるか、インフラ費用がいくらかは公式に明示されていません。ここは推測が出回りやすい部分なので、続報を待つのが妥当です。

評価はどう行われるのか——ブラインドA/Bテストと35観点

報道ではほとんど触れられませんが、デジタル庁は公式noteで国産基盤モデルの評価設計を具体的に説明しています。今回の取り組みで最も技術的に踏み込んでいる部分です。

要素

内容

オンライン評価

実務中の職員に、どちらのモデルの出力かを伏せて提示するブラインドA/Bテスト。「どちらが好ましいか」を選ばせて比較

オフライン評価

オンラインで直接比較できない組み合わせを、嗜好推定モデルで補完

評価観点

8テーマ・35観点(論理構成能力、ハルシネーション抑制、プロンプトインジェクション耐性 など)

作問と検証

作問後に必ずファクトチェック。A評価(go.jpで確認可能)> B評価(主要ニュースで確認可能)> C評価(不採用)という根拠グレードを設定

ペナルティ

架空の根拠を示した回答には大きなペナルティを課す設計

公開されている評価観点のサンプル

  • 論理構成能力:「であって、かつ」といった接続詞を論理演算として正確に読み取れるか
  • ハルシネーション抑制存在しない法令を「存在しない」と判断できるか
  • プロンプトインジェクション耐性:業務データに埋め込まれた不正な指示に抵抗できるか

行政文書は「〜であって、かつ〜」のような条件の入れ子が多く、条文を一文字読み違えると結論が反転します。また、実在しない法令名を差し出されたときに「それは存在しません」と言えるかどうかは、行政実務では性能以前の安全要件です。ベンチマークスコアではなく行政実務での実用性と安全性を測ろうとしている点が、この評価設計の特徴といえます。

なお、A/Bテストの設計上、国産モデル同士を直接オンライン比較することはできないとデジタル庁自身が明記しています(オフラインの嗜好推定で補う)。「国産7モデルの明快な順位が出る」といった期待は、いまのところ設計上のものとは異なります。

選定時(2026年3月)の評価テストも独特でした。デジタル庁が作成し試験当日に初めて開示した50問を、各社に無作為出題。事実性、ハルシネーションの意図的誘発への耐性、法律・行政領域の誤答検知、バイアス・差別的表現、日本語の曖昧性処理(例:「象は鼻が長い」の「は」と「が」)、日本の価値観・歴史観といった観点が例示されています。2026年度は問題数の大幅な拡充(300問規模)が予定されており、評価を厳格化したうえで有償調達に進む流れです。

なぜ「国産クラウド × 国産モデル」なのか

人工知能基本計画を閣議決定した内閣府のロゴ

出典: 内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局(人工知能基本計画)

背景には、性能競争とは別の軸——経済安全保障とAI主権があります。

2025年12月23日に閣議決定された「人工知能(AI)基本計画」は、政府が自ら先導的にAIを利活用する「隗より始めよ」の方針を掲げ、日本の自律性確保を打ち出しました。2025年12月19日のAI戦略本部では、高市総理が指示の第一項として「『ガバメントAI源内』の徹底活用」を明示しています。源内は、単なる庁内ツールではなく政策の実行部隊として位置づけられているわけです。

現実的なリスクとして意識されているのは、次のようなものです。

  • データの越境移転リスク:海外事業者のクラウドで処理する場合、外国法の適用可能性が理論上残る
  • 供給停止・地政学リスク:海外ベンダーの提供方針変更や輸出規制で、使っていたモデルが突然使えなくなる可能性。実際、2026年6月には米政府の輸出管理命令により特定モデルの提供が停止する事例も発生しています(詳細はClaude Fable 5・Mythos 5 米政府輸出管理命令で世界停止
  • 産業政策上の要請:国産LLM開発企業に安定した需要がなければ、開発体制そのものが維持できない

行政の中核業務を、いつ使えなくなるか分からない外国製サービスに全面依存させるのは、リスク管理として合理的ではない——という判断が根底にあります。同様の発想は民間側にもあり、ソフトバンクのCloud PF Type A(Sarashina活用の国産ソブリンクラウド)のような取り組みも進んでいます。

一方で、冷静に見るべき点

国産化には構造的な限界もあります。

  • 性能差:日本語ベンチマークでも、国産モデルは海外フロンティアモデルに対して依然として差があるとの指摘が多い
  • 投資規模:日本政府のAI開発投資は、米国に比べて桁違いに小さいとの試算がある
  • ハードウェア依存:GPU調達は事実上NVIDIAにほぼ全量を依存しており、モデルとクラウドを国産化してもハード層の主権は達成できていない

そのため実務側では、「最強モデルを1つ選ぶ」のではなく、用途と統制水準に応じたポートフォリオとして国産AIを位置づけるという見方が現実的です。機密性の高い行政業務や日本語の厳密性が要る業務では国産の合理性が高く、汎用的な生産性向上では海外モデルを使う——今回のA/Bテストも、その線引きを実データで探る作業といえます。

行政AIの安全性:DS-920 2.0で読む「解決すること」と「解決しないこと」

「国産クラウドで動かしているから安全」という理解は不正確です。 国産化で改善されるのは主にデータ主権・供給リスクの領域であり、生成AI固有のリスクは別問題として残ります。

行政AIの安全性を制度面で支えているのが、デジタル社会推進標準ガイドライン DS-920「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」 です。2025年5月27日に初版の運用が始まり、2.0版が2026年6月12日に公表されました。

DS-920 2.0版のポイント

内容

施行時期

2026年9月1日 全面施行。ただしAIガバナンスの枠組みに関する対象開始は2026年7月1日から(すでに動いている)

対象範囲の拡大

「入力はテキスト・音声、出力はテキスト・画像・音声が可能な生成AIシステム」に拡大。AIエージェント等もアドバイザリーボードへの報告対象

ガバナンス体制

各府省にAI統括責任者(CAIO)を設置。先進的AI利活用アドバイザリーボード(事務局:デジタル庁)が高リスク生成AIの報告を受け助言。AI相談窓口も設置

3つのシート

高リスク判定シート(業務の性格/利用範囲/人の判断を経るか)、調達チェックシート(21項目)契約チェックシート(学習の有無、データ保存方法、権利帰属、インシデント時の対応義務 など)

対象外

特定秘密や安全保障等の機微情報を扱うシステムは対象外

調達チェックシート21項目には、AIガバナンス構築、インシデント対応手順、ベンダーロックインの回避、有害情報の出力制御、偽誤情報の出力・誘導の防止、公平性と包摂性、個人情報・知的財産、セキュリティ、説明可能性、ロバスト性、データ品質、検証可能性などが並びます。サプライチェーンリスクも考慮対象として明記されています。

国産化で解決すること/しないこと

論点

国産化で改善される点

それでも残る課題

データ所在・越境移転

処理が国内のガバメントクラウドで完結し、海外法域への露出を抑えられる

クラウド事業者の運用体制・内部統制は別途監査が必要

供給停止・地政学リスク

海外ベンダーの方針変更・輸出規制の影響を受けにくい

GPUは事実上NVIDIA依存で、ハード層の主権は未達

セキュリティ基準適合

ガバメントクラウドの305項目の技術要件に適合したクラウドで稼働

ハルシネーション・プロンプトインジェクション・情報漏えいといった生成AI固有のリスクは、クラウドを国産化しても解決しない

情報区分

デジタル庁内では機密性2情報まで入力可

機密性3以上や特定秘密は対象外。入力可否は各府省庁のルール次第で差がある

調達・ガバナンス

DS-920 2.0が調達・契約・リスク判定の枠組みを提供

評価結果の公表は2026年冬〜2027年初。それまで有効性は「検証中」

とくに重要なのが次の3点です。

1. ハルシネーションはモデルの国籍と無関係に残る

国産モデルであっても、誤った情報を自信ありげに生成するリスクは変わりません。デジタル庁の評価設計が「存在しない法令を存在しないと言えるか」を観点に据えているのは、まさにこのためです。行政利用では人間による最終確認が前提であり、これは今回の施策で変わるものではありません。

2. 機密性の扱いは無制限ではない

源内はデジタル庁内では機密性2情報まで入力可能とされていますが、各府省庁での入力可否は各庁のルールに従う必要があります。「政府が使っているのだから何を入れてもいい」ということにはなりません。

3. 生成AI固有のリスクは別途対策が必要

プロンプトインジェクションや意図しない情報漏えいは、アプリケーション層と運用ルールで対処すべき課題です。この領域の全体像は生成AIのセキュリティリスクと対策で整理しています。

つまり、今回の施策で改善されるのは「データがどこにあり、誰の法域に属し、いつ止まるか」というインフラ・主権レイヤーのリスクです。「AIが嘘をつくかもしれない」というモデルレイヤーのリスクは、これまで通り運用でカバーする必要があります。この切り分けを曖昧にしたまま「国産だから安全」と説明すると、現場の油断を招きかねません。

お金の流れ:予算44.0億円と2027年度からの有償調達

源内は政府職員向けの内部システムであり、一般ユーザー向けの料金プランは存在しません。代わりに、予算と調達構造が実務的な判断材料になります。

項目

内容

ガバメントAI整備事業

令和7年度補正予算 44.0億円

大規模導入実証(カスタマーサポート/カスタマーサクセス)

事業者:KDDI/2026年4月〜2027年3月

ガバメントAI検証環境の設計・開発業務

事業者:NTTデータ

国産LLMの提供条件

令和8年度(2026年度)中は無償提供。ガバメントクラウドに係るインフラ費用はデジタル庁が負担する方向で検討

有償調達の開始

令和9年度(2027年度)〜。評価結果に基づき優れたLLMを政府調達(予定)

令和9年度以降の源内利用

各府省庁が予算措置(デジタル庁の一括負担ではない)

政府共通データセット

官報 79年10か月分(昭和22年5月〜)を国立印刷局から調達

読み解くうえで重要なのは2点です。

第一に、2026年度は国産LLMベンダーにとって無償提供のフェーズであり、収益は発生していません。ベンダー各社にとっての本番は2027年度以降の有償調達です。

第二に、2027年度以降は各府省庁が自前で予算措置する構造に移行します。デジタル庁が全額を負担する形ではないため、各省庁が「使う価値がある」と判断しなければ予算がつきません。つまり、2026年9〜11月の実証で現場の支持を得られるかどうかが、そのまま普及の分かれ目になります。

今後のスケジュールと注目ポイント

現時点で公表されているロードマップは次のとおりです。

時期

予定される内容

注目度

2026年7月1日

DS-920 2.0版のAIガバナンス枠組みが対象開始(実施済み)

★★

2026年8月

実験環境の構築完了

★★

2026年9月1日

DS-920 2.0版 全面施行

★★★

2026年9〜11月

複数回のブラインドA/Bテストを実施

★★★★

2026年12月

源内の高度なAIアプリ提供開始(リリース2.2)

★★

2026年冬〜2027年初

評価・検証結果の概要を公表

★★★★★

2027年度(令和9年度)〜

優れたモデルを有償で政府調達/各府省庁が予算措置して本格利用

★★★★

最大の山場は評価・検証結果の公表です。ここで、政府が実務でブラインド比較した結果として「国産モデルが海外モデルとどこまで戦えたのか」が一定程度明らかになります。国産LLMベンダーにとっては事実上の通信簿であり、その後の有償調達(=実売上)に直結します。

未確認のまま残っている論点

続報を追ううえで、現時点で公式に確定していない項目は次のとおりです。推測が出回りやすい部分なので、事実と区別して押さえておいてください。

  • 契約5社のうち、さくらのクラウドで稼働しない2モデル(Sarashina3 mini/cotomi v3)の稼働環境
  • 選定7社のうち2社(KDDI・ELYZA/カスタマークラウド)が契約5社に含まれていない理由
  • 3モデルがさくらのクラウド上のどのGPU基盤・リージョンで推論されるか、そのインフラ費用
  • A/Bテストに参加する省庁の具体名・対象職員数(「複数の省庁」としか公表されていない)
  • PLaMo 3.0 Primeへの切り替えの有無
  • 評価結果公表における具体的な指標(A/Bテストの勝率のみか、コストや安全性も含むか)

民間企業・自治体にとっての実務的な示唆

PLaMoを開発するPreferred Networksのロゴ

出典: Preferred Networks 公式サイト

「政府の話であって自社には関係ない」と読み飛ばすには惜しい要素が3つあります。

1. 源内はOSS・商用利用可。同等構成を自前で作れる

源内は2026年4月24日にGitHubで公開されており、商用利用可能なライセンスです。Webインターフェースのソースコードと構築手順に加え、行政実務用RAGの開発テンプレート(AWS)、LLMをセルフデプロイする開発テンプレート(Azure)、法制度AIアプリの再現可能な実装(Google Cloud)まで含まれます。

デジタル庁は公開の狙いとして、政府機関・地方公共団体での重複開発の防止、特定ベンダーへの過度な依存の回避、民間による自治体向けAIサービス市場の活性化を挙げています。ゼロから内製するより、実証済みの設計を出発点にできる価値は小さくありません。

2. DS-920は民間のAI調達チェックリストとして流用できる

DS-920 2.0版の調達チェックシート(21項目)と契約チェックシートは行政向けですが、生成AIを調達する際の観点を体系化したドキュメントとして民間でも参考になります。「学習に使われるか」「ログはどこに保存されるか」「アウトプットの権利は誰に帰属するか」「インシデント時にベンダーは何をするか」——このあたりを契約前に潰す作業は、企業のAI導入でもそのまま必要です。

社内で生成AI導入の稟議を通す際、「政府ガイドラインの観点に沿って評価した」と言えることには実務上の意味があります。

3. データレジデンシー要件がある業界には現実的な選択肢が育っている

金融・医療・公共・防衛関連など、「データを国内に置く」ことが要件になる業界では、国産クラウド × 国産LLMという組み合わせが選択肢として成熟しつつあります。ガバメントクラウドの305項目をクリアしたクラウドで国産LLMを動かす構成が、実際に政府で検証されている——という事実は、社内説明の材料になります。

行政・自治体側のAI活用事例を横断的に見たい場合は官公庁・自治体のAI活用事例|政府「源内」・東京都「A1」・大阪府、生成AIそのものの仕組みから押さえたい方は生成AIとは?仕組み・種類・活用法が入口になります。

こんな人におすすめ/おすすめしない人

この動向を追う価値が高い人

対象

理由

公共調達・行政DXに関わる事業者

2027年度以降の有償調達が実際のビジネス機会になる。評価結果の公表が判断材料

自治体の情報システム担当者

源内がOSS・商用利用可のため、同等構成の内製・流用が検討できる

データレジデンシー要件がある業界(金融・医療・公共・防衛関連)

国産クラウド×国産LLMという構成の実証結果が、自社の選定根拠になる

国産LLMベンダー・投資判断をする人

政府調達という安定需要の有無が、各社の事業継続性を左右する

経済安全保障・AI政策をウォッチする人

「人工知能基本計画」の自律性確保方針が、施策としてどう具体化されるかの実例

社内のAI調達基準を整備したい人

DS-920 2.0の調達・契約チェックシートをそのまま参考にできる

いま優先して追う必要が薄い人

対象

理由

今すぐ使える生成AIツールを探している個人・中小企業

本施策は政府内部の実証事業で、一般提供の予定はありません。実務で使えるツール選びは生成AIツールおすすめ比較

最高性能のモデルだけを求めている人

現時点で国産モデルは海外フロンティアモデルに性能差があるとの指摘が多く、純粋な性能で選ぶなら国産が最適解とは限りません

すでに海外クラウド・海外モデルで統制要件を満たせている組織

国産化の主要メリットはデータ主権・供給リスクの低減。そこに課題がなければ移行の合理性は薄いです

よくある質問

Q. デジタル庁の国産AIは、一般の人も使えますか?

現時点では使えません。源内は政府職員向けの内部環境であり、一般ユーザーや民間企業向けの提供・料金プランは存在しません。ただし源内本体はOSSとしてGitHubで公開され、商用利用可能なライセンスのため、自社で同等の環境を構築することは可能です。

Q. 源内はさくらのクラウドに移行したのですか?

いいえ。源内は引き続きガバメントクラウド上のマルチクラウド構成で稼働し、さくらのクラウドは国産基盤モデル3種の稼働先として追加された位置づけです。全面移行ではありません。

Q. 国産AIが海外モデルを置き換えたということですか?

違います。2026年7月時点でも、職員が源内チャットで選べるのはAWS「Nova Lite」とAnthropicの3モデル(Claude Haiku 4.5/Sonnet 4.6/Opus 4.8)です。国産3モデルはブラインドA/Bテストによる試用・並行検証の段階で、有償調達の判断は2027年度以降になります。

Q. 「5社のモデルを試用」と報じられているのに「3モデル」なのはなぜ?

フェーズが違う数字だからです。公募15件 → 選定7モデル → 契約5社 → さくらのクラウドで稼働3モデルという段階を経ています。「5社」は契約ベース、「3モデル」は今回の国産クラウド稼働ベースの数字です。

Q. 選定された7モデルすべてがさくらのクラウドで動くのですか?

いいえ。公式に確認できているのはtsuzumi 2/Takane 32B/PLaMo 2.0 Primeの3モデルです。2026年5月時点で契約が確認できているのは5社(NTTデータ・富士通・Preferred Networks・ソフトバンク・NEC)で、残る2モデルの稼働環境は公表されていません。

Q. 国産クラウドで動かせば、行政AIは安全になりますか?

部分的にはイエス、部分的にはノーです。データの越境移転リスクや供給停止リスクは低減されますが、ハルシネーション・プロンプトインジェクション・情報漏えいといった生成AI固有のリスクは、クラウドを国産化しても解決しません。人間による最終確認と運用ルールでの対処が引き続き必要です。

Q. なぜ最新の「PLaMo 3.0 Prime」ではなく「2.0 Prime」なのですか?

デジタル庁が公表している試用対象が2.0 Primeであるためです。Preferred Networksは2026年6月22日に3.0 Primeをリリースしていますが、源内の試用対象を3.0に切り替えるかどうかは公式に明示されていません。モデル名を取り違えないよう注意が必要です。

Q. 民間企業が源内の仕組みを使うことはできますか?

できます。源内のWebインターフェースと行政実務用AIアプリの開発テンプレートはGitHubで公開されており、商用利用可能なライセンスです。ただし、政府が運用している源内の本体環境そのものにアクセスすることはできません。

まとめ

デジタル庁の「国産AI」は、アプリ(源内)・モデル(国産LLM)・インフラ(さくらのクラウド)の3層すべてを国内で完結させる構想です。2026年7月10日の発表は、最後まで残っていたインフラ層が動き出し、ガバメントクラウドで国産クラウドが初めて実利用される節目にあたります。

  • 稼働するのは3モデル:tsuzumi 2/Takane 32B/PLaMo 2.0 Prime。「7モデル」は選定数、「5社」は契約数で、フェーズが違う数字
  • あくまで試用:ブラインドA/Bテストによる検証段階。職員が日常使うチャットの選択肢は依然として海外4モデル
  • 3年越しの節目:2023年の条件付き採択 → 305項目クリア → 2026年3月正式採択 → 7月に第一号案件
  • 評価設計が本格的:8テーマ35観点で、ハルシネーション抑制やプロンプトインジェクション耐性まで見る
  • 安全性は切り分けて理解する:データ主権・供給リスクは改善されるが、生成AI固有のリスクはDS-920 2.0に沿った運用で対処するしかない
  • 山場は評価結果の公表(2026年冬〜2027年初):その後の有償調達と、各府省庁の予算措置につながる

「国産だから安全」でも「国産だから性能が低い」でもなく、どのリスクが減り、どのリスクが残るのかを正確に見極めることが、この動向を実務に活かす方法です。2026年9〜11月のA/Bテスト、そして評価結果の公表が、次の重要な確認ポイントになります。

参考・出典

この記事の著者

AI革命

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編集部

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