AIツール2026年10月更新

楽天 Rakuten AI 3.0 = DeepSeek V3 リブランド炎上まとめ|GENIAC補助金・国産LLMの定義を揺るがした大事件徹底解説

公開日: 2026/04/28
更新日: 2026/10/07
楽天 Rakuten AI 3.0 = DeepSeek V3 リブランド炎上まとめ|GENIAC補助金・国産LLMの定義を揺るがした大事件徹底解説

この記事のポイント

楽天のRakuten AI 3.0がDeepSeek V3ベースだと判明した炎上の全体像を一次情報で整理。config.json・tokenizerの一致、NOTICE追加の正確な時刻、DeepSeekライセンスの版による違い、GENIAC公募ルール上の扱い、「国産LLM」の定義、企業の導入判断までまとめて解説します。

楽天のRakuten AI 3.0は、中国DeepSeek社のオープンモデル「DeepSeek V3」を土台に作られたモデルで、楽天自身も2026年3月27日にそれを認めています。 ただ、炎上の本当の原因は「中国製モデルを使ったこと」ではありません。公開時にベースモデルを明かさなかったこと、DeepSeekの著作権表示がない状態で配布が始まったこと、国の補助金(GENIAC)を受けた成果物なのに開発の中身が説明されていないことの3点です。

GENIACのルールでは、海外モデルに追加で事前学習をする開発はもともと認められています。そのため「補助金のルール違反」と言い切ることはできません。この記事では、Hugging Faceの公開ファイルや経済産業省・NEDOの公募資料といった一次情報をもとに、事件の全体像と論点を整理します。

この記事でわかること

  • 何が問題で、何が問題ではなかったのか(論点の切り分け)
  • 2025年7月の採択から2026年10月時点までの時系列
  • config.json・tokenizer・エキスパート構成など、DeepSeek V3ベースと判断できる技術的な根拠
  • NOTICEファイルが追加された正確な時刻と、DeepSeek V3のライセンスが版ごとに違うこと
  • GENIACの公募ルールで「海外モデルの追加学習」がどう扱われているか
  • 「国産LLM」に公的な定義はあるのか
  • Rakuten AI 3.0を企業で使う場合の判断基準とチェックリスト

こんな方に向けた記事です

  • 事件の経緯と論点を、感情論ではなく事実ベースで把握したい方
  • 「国産LLM」の調達や評価を担当している情報システム部門・DX担当者
  • DeepSeekベースのモデルを社内で使ってよいか判断したい企業の担当者

2026年4月以降の続報(補助金・GENIAC第4期・楽天の動き)を中心に知りたい方は、Rakuten AI 3.0炎上のその後【続報】にまとめています。

何が問題で、何が問題ではなかったのか

Hugging Faceで公開されているRakuten AI 3.0のモデルページ

出典: Rakuten/RakutenAI-3.0 — Hugging Face

問題視されたのは「説明しなかったこと」であり、「DeepSeekを使ったこと」そのものではありません。 オープンモデルを土台にした開発は世界中で一般的で、GENIACの他の採択企業もQwenなどをベースにしたことを公表しています。

区分

論点

2026年10月時点の評価

問題だった点

ベースモデルの非開示

2025年12月・2026年3月のプレスリリースのどちらにもDeepSeekの名前はない。3月19日の取材にも「非開示」と回答し、認めたのは3月27日

問題だった点

著作権表示の欠落

重みの公開時点ではNOTICEファイルがなく、同じ日のうちに追加された

問題だった点

公的資金の説明責任

GENIACの補助を受けた成果物だが、追加学習の規模・手法を示す技術レポートは公開されていない

問題ではない点

DeepSeek V3を土台にしたこと

GENIACの開発区分にも「既存の基盤モデル(国内に限らない)の事前追加学習」が含まれている

問題ではない点

中国へのデータ送信

重みをダウンロードして自社環境で動かす限り、DeepSeek社のサーバーとの通信は発生しない

まだわからない点

楽天の追加学習がどの程度だったか

楽天は詳細を公表しておらず、第三者による検証もない

「中国製だから危険」という批判と、「透明性・ライセンス・公金の説明責任」という本質的な論点は分けて考える必要があります。

炎上の時系列(2025年7月〜2026年10月)

発表から約1時間20分後にNOTICEが追加され、発表から10日後に楽天がDeepSeekの採用を認めました。 確認できた事実だけを時系列に並べます。

日付

出来事

根拠

2025年7月15日

楽天がGENIAC第3期に採択されたと発表。テーマは「長期記憶メカニズムと対話型学習を融合した最先端の生成AI基盤モデルの研究開発」

楽天公式

2025年11月21日

GENIAC第3期の中間報告会で、楽天が「日本語1,250億トークン規模の事前学習で約700Bパラメータの日本語特化モデルを構築」と報告

経済産業省 GENIACマガジン

2025年12月18日

楽天がRakuten AI 3.0の開発を発表(約7,000億パラメータ、来春にオープンウェイトで公開予定)。ベースモデル名の記載なし

楽天公式

2026年3月17日 12時23分頃

提供開始を発表し、Hugging Faceで公開。プレスリリースは「オープンソースコミュニティ上の最良なモデルを基に」とだけ記載

楽天公式/Impress Watch

2026年3月17日 13時45〜52分

Hugging FaceにNOTICEファイル(DeepSeekの著作権表示とMITライセンス条文)を追加

Hugging Faceのコミット履歴

2026年3月17〜18日

config.jsonの deepseek_v3 指定などがSNSで広く拡散(発見日は報道によって17日・18日と幅がある)

各メディア

2026年3月18日

公式ベンチマーク表の一部数値が修正される

issoh.co.jpの検証

2026年3月19日

ITmediaの取材に楽天は「ベースモデルは非開示」と回答

ITmedia AI+

2026年3月27日

楽天広報が「Rakuten AI 3.0においてはDeepSeekのオープンモデルを採用した」と認める

Yahoo!ニュース エキスパート

2026年6月4日

GENIAC第4期の16件の採択が発表される。楽天は含まれていない

経済産業省

2026年8月5〜7日

Rakuten AI Optimism 2026。楽天公式ブログの基調講演要約では、DeepSeek問題への言及は確認できない

楽天公式ブログ

2026年10月7日時点

Hugging Faceのリポジトリは3月17日から更新なし。楽天の追加説明や技術レポート、補助金の返還・処分、制度変更はいずれも確認できない

Hugging Face・各公式発表

拡散の規模は「Xで約3万件」「約3.3万インプレッション」など、情報源によって数字がばらついています。確実に言えるのは、SNSと国内外のメディアで大きく取り上げられたということです。

背景には、日本政府が2025年2月に府省庁の職員へDeepSeekの業務利用について注意を呼びかけていた経緯があります。「国が支援した国産AIの中身がDeepSeekだった」という構図が、反発を大きくしました。

技術的な証拠:config.json・tokenizer・エキスパート構成

Hugging Faceで公開されているDeepSeek-V3のモデルページ

出典: deepseek-ai/DeepSeek-V3 — Hugging Face

公開されている設定ファイルとtokenizerは、DeepSeek V3(V3-0324)とほぼ同じです。 「アーキテクチャを参考にした」程度ではなく、DeepSeek V3のチェックポイントを出発点にしたと判断できる材料がそろっています。

config.jsonの構造値はDeepSeek-V3-0324と一致

発覚のきっかけは、Hugging Faceのリポジトリにある config.json でした。モデルの種類として "model_type": "deepseek_v3"、クラス名として "architectures": ["DeepseekV3ForCausalLM"] が指定されています。

2026年10月7日にDeepSeek-V3-0324のconfigと突き合わせたところ、モデルの構造を決める値はすべて一致しました。

項目

Rakuten AI 3.0

DeepSeek-V3-0324

model_type

deepseek_v3

deepseek_v3

ルーティングエキスパート数(n_routed_experts)

256

256

共有エキスパート数(n_shared_experts)

1

1

1トークンあたりの稼働エキスパート数

8

8

層数(num_hidden_layers)

61

61

隠れ層の次元(hidden_size)

7168

7168

語彙数(vocab_size)

129,280

129,280

総パラメータ/稼働パラメータ

671B/37B

671B/37B

コンテキスト長

128K

128K

違いは、auto_map がないこと、aux_loss_alpha・seq_aux・pretraining_tp の項目が追加されていること、transformers_version が異なること(4.57.1と4.46.3)くらいです。

なお、楽天の公式プレスでは「約7,000億パラメータ」「トークンごとに約400億が稼働」「共有エキスパート1+専門エキスパート8」と表現されています。Hugging Faceでは671B・37Bと書かれており、表記の仕方が違うだけです。エキスパートは「128個」と紹介されることがありますが、configではルーティングエキスパートが256個、共有エキスパートが1個で、1トークンごとに8個が動く構成です。

tokenizerはバイト単位で同一

tokenizer.json は、DeepSeek-V3およびV3-0324のものとバイト単位で同一です(Hugging Faceのファイル識別子が一致)。tokenizerは文章をトークンに区切る辞書のようなもので、日本語向けに語彙を拡張していればここが変わるのが一般的です。

一方、tokenizerはV3とV3-0324で共通のため、どちらのチェックポイントを出発点にしたかは公開情報からは確定できません。

GENIACで報告された内容と、公開版の設定にはずれがある

楽天はGENIACの報告会で、次のように説明していました。

  • 中間報告会(2025年11月):日本語1,250億トークン規模の事前学習、Attentionの一部をLinear Attentionに置き換える構造変更
  • 成果報告会:独自の高品質学習データで、最大200万トークンの長文脈処理を実現

一方、Hugging Faceで公開されたRakuten AI 3.0のconfigには、Linear Attentionへの変更を示す設定はありません。コンテキスト長も128Kです。GENIACで報告された研究モデルと公開版が同じものかどうかについて、楽天は説明していません。 現時点で言えるのは、「公開版の設定ファイルからは、報告会で説明された構造変更は読み取れない」というところまでです。

「リブランド」という言い方は正確か

「名前を変えただけで中身はまったく同じ」という意味なら、断定はできません。楽天は日本語データで追加学習したと説明しているからです。

呼び方

意味

Rakuten AI 3.0に当てはまるか

リブランド

名前だけ変えて重みは同じ

楽天は追加学習したと説明。完全に同じ重みだという検証はない

継続事前学習

既存モデルに大量のデータを追加して事前学習を続ける

楽天のGENIAC報告(1,250億トークン)はこれに近い

ファインチューニング(LoRAなど)

既存モデルを少量のデータで調整する

コミュニティには「LoRAによる微調整で、重みはDeepSeek-V3と平均コサイン類似度99.94%」とする分析がある。ただし筆者自身も完全な検証ではないとしており、第三者による確認はない

どちらが正しいかを判断できる公式の技術情報はありません。「リブランド」という言葉が広まった背景には、この技術情報の非開示があります。

楽天の説明と、確認できる事実の比較

楽天の説明には、公開ファイルの事実とかみ合わない部分があります。 ただし、意図があったかどうかは外部からは判断できないため、ここでは両者を並べるだけにします。

時期

楽天の説明

確認できる事実

2025年12月・2026年3月のプレス

「オープンソースコミュニティ上の最良なモデルを基に、楽天独自の高品質なバイリンガルデータ、技術力および研究成果によって開発」

ベースモデル名の記載はない

2026年3月19日(ITmedia取材)

ベースモデルは非開示。Hugging FaceのDeepSeek表記は「パラメータ数などが自動的に計算され、DeepSeekと出てしまうが『表記=DeepSeek』というわけではない」

config.jsonで model_type: deepseek_v3 が明示的に指定され、tokenizerもDeepSeek V3と完全に一致している

2026年3月27日(広報コメント)

「DeepSeekのオープンモデルを採用した」。理由はオープンソースの重要性と、日本企業が独自のインテリジェンスを構築できる環境づくりへの貢献

発表から10日後に、初めてベースモデルを認めた

2026年3月27日(安全面)

自社環境で運用し、データが他国に送信されることはない。脆弱性・バックドアがないこと、バイアス除去を分析・確認した

楽天側の説明であり、第三者による検証結果は公表されていない

2026年10月時点

追加の説明なし

追加学習のデータ量・手法を示す技術レポートは確認できない

ITジャーナリストの山口健太氏は、みずほフィナンシャルグループがAlibabaのQwenを採用した際には同じような炎上は起きなかったと指摘しています。反発を大きくしたのは、最初に開示しなかったことと、公的補助を受けていたことの組み合わせだという分析です(Yahoo!ニュース エキスパート)。

ライセンス問題:違反だったのか

公開時点では著作権表示がありませんでしたが、同じ日のうちにNOTICEファイルが追加され、現在は表示が整っています。 ただし、「炎上を受けて追加した」「意図的にライセンスを差し替えた」と断定できる証拠はありません。

DeepSeek V3のライセンスは版によって違う

「DeepSeek V3はMITライセンス」と一言で説明されがちですが、正確には版によって異なります。

版

コード

モデルの重み

商用利用

DeepSeek-V3(2024年12月の初期版)

MIT

DeepSeek Model License(独自の契約)

可

DeepSeek-V3-0324(2025年3月)以降

MIT

MIT

可

出典: deepseek-ai/DeepSeek-V3/deepseek-ai/DeepSeek-V3-0324

MITライセンスは、商用利用・改変・再配布を認める代わりに、著作権表示とライセンス条文を同梱することを条件にしています。Rakuten AI 3.0のNOTICEには「Copyright (c) 2023 DeepSeek」とMIT条文の全文が書かれており、V3-0324系をベースにした可能性も考えられます。ただし、楽天からの公式説明はありません。

NOTICEファイルが追加された正確な時刻

Hugging Faceのコミット履歴を確認すると、次のとおりです。

日本時間

コミット内容

3月16日 21時42分

初回コミット(READMEなどのみ)

3月17日 0時20分

重み・config・tokenizerをアップロード(LICENSE・NOTICEはなし)

3月17日 13時32分

モデルカードを更新

3月17日 13時45分

NOTICEファイルを作成

3月17日 13時52分

MITの許諾文を追記

Impress Watchの発表記事が掲載されたのは3月17日12時23分です。NOTICEは発表から約1時間20分後に追加されたことになります。リポジトリが一般公開された正確な時刻と、SNSで指摘が広がった時刻ははっきりしないため、「指摘を受けて追加した」のか「予定どおりの作業が遅れた」のかは判断できません。

英語圏の一部報道には「DeepSeekのMITライセンスを削除し、Apache 2.0に差し替えた」という主張もありました。しかし公開されているコミット履歴には、LICENSEファイルが一度存在して削除された記録はありません。Apache 2.0の表示は、モデルカードのメタデータに書かれています。

利用者が守ること

Rakuten AI 3.0はApache 2.0で公開されており、商用利用・改変・再配布ができます。ただし、DeepSeek由来の部分はMITの条件を引き継ぐため、再配布や派生モデルを公開するときは、NOTICEファイル(DeepSeekの著作権表示とMIT条文)を必ず同梱してください。 実際の製品に組み込む場合は、ライセンス条文を法務担当者と確認することをおすすめします。

GENIAC補助金:ルール違反だったのか

GENIAC補助金をめぐる行政機関のイメージ

GENIACの公募ルールでは、海外モデルを土台にした「事前追加学習」は最初から認められた開発区分です。 そのため、「中国製モデルを使ったから補助金のルール違反」とは言えません。論点になりうるのは、楽天がどの程度の学習をしたのかと、その説明責任です。

GENIACとは

GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)は、経済産業省とNEDOが2024年2月に始めた生成AIの開発支援事業です。基盤モデルの開発に必要な計算資源の利用料などを補助します。

期

期間・発表

楽天との関係

第1期

2024年2〜8月

—

第2期

2024年10月〜2025年4月

—

第3期

2025年8月〜2026年3月

楽天が採択(2025年7月15日発表)

第4期

2026年度、16件採択(2026年6月4日発表)

楽天は採択リストにない

楽天は2026年3月のプレスリリースで、学習費用の一部がGENIACの補助を受けていると明記しています。一方、補助金額は楽天の公式発表には書かれていません。 SNSやnoteでは「最大5億円」「約30億円相当」といった数字が出回りましたが、一次情報は確認できていません。

GENIACを含む国内の基盤モデル政策の全体像は、日本のAI基盤モデル開発とはで解説しています。

公募で認められている3つの開発区分

楽天が応募した第3期の公募に向けた経済産業省の検討資料では、開発の対象が次のように定められています。

開発区分

海外モデルを土台にできるか

① フルスクラッチで開発するモデル

(土台なし)

② 既存の基盤モデルを事前追加学習するモデル

できる(「国内で開発された基盤モデルに限らない」と明記)

③ 国内で開発された基盤モデルをファインチューニングするモデル

できない(国内モデルのみ)

出典: 経済産業省「GENIAC 次回公募に関する検討状況について」

注目したいのは、海外モデルの場合、「ファインチューニングだけ」は対象外だという点です。そのため、楽天が「事前追加学習」と言える規模の学習をしたのか、それとも軽い微調整だったのかが、制度上の論点になりえます。楽天はGENIACの報告会で「日本語1,250億トークン規模の事前学習」と説明していますが、公開版との関係は説明されていません。

2026年度の公募でもベースモデルの開示義務はない

NEDOによる2026年度の公募(2026年1月27日〜3月19日)も、同じ3区分です。

  • 補助率は大企業1/2、中小企業等2/3。予算規模は約100億円、事業期間は原則6か月
  • 成果の公開として求められるのは「開発ノウハウを技術ブログや勉強会の登壇などで、公開可能な範囲で公開すること」
  • データセット・ソースコード・モデルなどの公開は必ずしも求めない
  • ベースモデル名の開示を義務づける記載は、公募要領に見当たらない(提案時に「フルスクラッチ開発に該当するか」を入力する項目はある)

出典: NEDO 公募ページ/公募要領(PDF)

この公募は炎上前の1月に始まっているため、炎上を受けた制度変更ではありません。2026年10月時点で、ベースモデルの開示を義務化する制度変更も確認できません。

他の採択企業はベースモデルを公表していた

GENIAC第3期の中間報告会では、他の採択企業がベースモデルを明らかにしています。

企業・モデル

ベースモデル

開示

野村総合研究所(GENIAC第3期)

Qwen3-14B、Gemma 3 27B、gpt-oss-20bなどのオープンLLM

報告会で明記

別のGENIAC第3期採択企業

Qwen3-VL-32B

報告会で明記

楽天 Rakuten AI 3.0

DeepSeek V3

発表時は非開示。3月27日に認めた

中国製モデルを土台にすること自体はGENIACでも珍しくありません。 楽天のケースで問われたのは、最初に開示しなかったことでした。

補助金の返還や処分は出ていない

2026年10月7日時点で、経済産業省・NEDOによる返還要求や処分の公式発表は確認できません。GENIACのルール上、海外モデルの事前追加学習が認められていることを考えると、返還を求める根拠ははっきりしないのが実情です。その後の経緯は、Rakuten AI 3.0炎上のその後【続報】で追っています。

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「国産LLM」の定義:何をもって国産と呼ぶのか

楽天グループ公式サイトのロゴイメージ

出典: 楽天グループ株式会社 公式サイト

2026年10月時点で、「国産LLM」「国産AI」を定めた法令や公的な定義は確認できません。 ただし、GENIACには事実上の基準として「国内で開発された基盤モデル」の定義があります。

GENIACの「国内で開発された」は開発者の所在地で決まる

GENIACの資料では、「国内で開発された基盤モデル」を日本国内で登記され、国内に開発拠点を持つ企業・大学などが開発したものとしています。これは開発者がどこにいるかの基準で、フルスクラッチかどうか、ベースモデルがどこの国のものかは問われていません。

つまり、この基準では、海外モデルを土台にしたモデルでも「国内で開発された」と扱われる可能性があります。この制度上の「国産」と、一般の人が思い浮かべる「日本で一から作ったAI」の間のずれが、今回の反発の背景にありました。

開発方式による段階分け

「国産」の中身は、開発方式によって大きく違います。

段階

開発方式

主な例

1

フルスクラッチ:構造設計から事前学習まで自前で行う

NTT tsuzumi 2、PFN PLaMo 3.0 Prime、NII LLM-jp-4

2

既存の構造(Transformerなど)+独自データで一から学習

研究機関のモデルなど

3

海外のオープンモデル+継続事前学習

Rakuten AI 3.0(楽天はGENIACでこの区分に近い説明をしている)

4

既存モデルのファインチューニング・事後学習

Sakana Namazu(Kimi K2.6ベース)、ELYZA Thinking(国産LLM-jp-4ベース)など

5

他社モデルのAPIを使ったアプリ

多数

フルスクラッチには大量の計算資源と日本語データが必要です。そのため、段階3・4の開発は技術的にも費用面でも合理的な選択です。問題になるのは方式そのものではなく、どの段階なのかを利用者が判断できる情報が出ているかどうかです。

国産LLMを横並びで比べたい場合は国産LLM 7選の比較が、政府での採用状況を知りたい場合はデジタル庁の国産AIの記事が参考になります。

開示した事例と比べるとわかること

モデル

ベースモデル

開示のタイミング

Sakana Namazu(Sakana AI、2026年8月)

Moonshot AI「Kimi K2.6」

公式ページで最初から明示

NRIのGENIAC開発モデル

Qwen3・Gemma 3・gpt-ossなど

GENIACの報告会で明示

NTT tsuzumi 2

なし(フルスクラッチ)

開発方式を公表

楽天 Rakuten AI 3.0

DeepSeek V3

発表から10日後に広報コメントで認めた。技術レポートはなし

Sakana Namazuも中国発のモデルをベースにしていますが、最初から公表していたため、楽天のような炎上にはつながっていません。中国発のオープンモデルが世界のAI開発でどれほど使われているかは、中国製AIモデルの台頭で解説しています。

セキュリティ:DeepSeekベースのモデルは危険なのか

DeepSeek公式サイトのブランドイメージ

出典: DeepSeek 公式サイト

「中国製だから危険」でも、「ローカルで動かせば完全に安全」でもありません。 DeepSeek社のサービスを使うことと、公開された重みを自社環境で動かすことでは、リスクの種類が違います。

利用形態

DeepSeek社へのデータ送信

主なリスク

DeepSeek社のアプリ・APIを使う

起こりうる

越境データ移転、事業者側のデータ管理(韓国の個人情報保護当局による指摘や、Wizによる公開データベースの発見などは、このサービス側の話)

Rakuten AI 3.0の重みを自社環境で動かす

起きない(重みファイル自体に通信機能はない)

ベースモデル由来の安全性の水準、学習データ由来の偏り、社内規程への適合、出自とライセンスの確認の手間

自社環境で動かす場合でも、次の点は残ります。

  • 安全性の水準を引き継ぐ可能性:Palo Alto Networks Unit 42などは、DeepSeekモデルの脱獄(ジェイルブレイク)への耐性の弱さを指摘しています。派生モデルも同じ傾向を持つ可能性があるため、本番で使う前に独自のレッドチーム評価をしておくと安心です
  • 学習データに由来する偏り:モデルカードにも、偏った出力・不正確な出力・安全でない出力が起こりうると明記されています
  • 社内規程との関係:「中国製・中国由来のAIは使用禁止」と定めている組織では、オープンウェイトでも規程に当たるかどうかを確認する必要があります
  • 出自とライセンスの確認の手間:ベースモデルやライセンスの関係を自分たちで確認しなければなりません

楽天は「バックドアなし・バイアス除去済み」と説明していますが、これは自社による確認で、第三者の評価は公表されていません。閉域環境での構成の考え方はAIセキュリティアーキテクチャ、社内のAI利用ルールの作り方はシャドーAIのリスク、ベースモデルとしてのDeepSeekの特徴はDeepSeekとはで詳しく扱っています。

Rakuten AI 3.0のスペック・必要環境・性能

モデルは無料ですが、動かすにはGPU 8枚クラスのサーバーが必要です。 個人や一般的な中小企業の環境で試せるモデルではありません。

基本スペック(2026年10月7日時点)

項目

内容

公開日

2026年3月17日

公開場所

Hugging Face(Rakuten/RakutenAI-3.0)

総パラメータ/稼働パラメータ

671B/37B(公式プレスでは「約7,000億」「約400億」)

構造

MoE(ルーティングエキスパート256+共有エキスパート1、1トークンあたり8稼働)

コンテキスト長

128K

言語

日本語・英語

ライセンス

Apache 2.0(DeepSeek由来部分のNOTICE同梱が必要)

重みのサイズ

FP8で約673GB(163ファイル)

推奨の推論環境

SGLangで8 GPUのテンソル並列

料金

無償。公式のAPIや有償プランの発表は確認できない

リポジトリの最終更新

2026年3月17日(NOTICE追加)以降、更新なし

ダウンロード数

直近30日で343件(2026年10月7日時点)

重みはFP8で約673GBあります。H100 80GB×8枚(合計640GB)では、公式の推奨設定で使えるメモリ量を考えるとフルサイズの重みが載りきらないという試算もあります(issoh.co.jp)。現実的には、H200クラス×8枚の環境か、量子化版の利用が前提になります。

量子化版はHugging Face上に -W4A16・-W4A8・-NVFP4、GGUF版、MLX版などがあります。ただし、楽天の公式組織アカウントが公開したものではないため、配布元とライセンスの扱いを確認してから使ってください。

なお、楽天のAIアシスタント「Rakuten AI」(アプリ・エージェント)と、オープンモデルの「Rakuten AI 3.0」は別物です。アプリ版の中でRakuten AI 3.0が使われているかどうかは、公式には確認できません。

ベンチマーク(楽天の自社測定)

ベンチマーク

Rakuten AI 3.0

GPT-4o

JamC-QA(日本の文化・知識)

76.9

74.7

MMLU-ProX(推論)

71.7

64.9

MATH-100(数学)

86.9

75.8

M-IFEval(指示に従う力)

72.1

67.3

出典: 楽天グループ 公式プレスリリース(2026年3月17日)

この数字を読むときは、次の3点に注意してください。

  • すべて楽天による自社測定で、第三者の独立した評価は確認できない
  • 公式の比較表は3月18日に一部の数値(MMLU-ProX・MATH-100)が修正されたとされる
  • 同じ表では、GPT-OSS-Swallow-120B-RL-v0.1がMMLU-ProX 77.5・MATH-100 96.0とRakuten AI 3.0を上回っている。「GPT-4o超え」だけを取り出すと実態より良く見える

2025年12月の開発発表では、日本語MT-Benchで8.88(GPT-4oは8.67)という数値も出ていました。

こんな企業・開発者におすすめ/おすすめしない

Rakuten AI 3.0を選ぶかどうかは、性能よりも「GPU環境を用意できるか」と「調達ルールに合うか」で決まります。

おすすめできるケース

  • H200クラス×8枚などのGPU環境を持っているか調達でき、閉域環境で大規模な日本語LLMを動かしたい企業
  • 外部APIにデータを送れない業務があり、重みを手元に置いて運用したい組織
  • MoE型の大規模モデルや、日本語での追加学習を研究・検証したい開発者
  • Apache 2.0の範囲で、日本語対応モデルを自社製品に組み込みたい事業者(NOTICEの同梱を前提に)

おすすめしないケース

  • 一般的なGPUしかない個人・中小企業:約673GBの重みは現実的に動かせません。小型の国産モデルや、Apache 2.0の中型オープンモデル(例:Qwen 3)のほうが扱いやすいです
  • すぐ使えるAPIがほしい人:公式APIは発表されていません。ChatGPT・Claude・Gemini、またはSakana NamazuのようなAPI型の日本語特化LLMが候補になります
  • ベースモデルや学習内容の開示を調達条件にしている組織:追加学習の技術レポートがないため、説明責任の要件を満たしにくいです
  • 社内規程で中国由来のモデルを制限している組織:オープンウェイトでも規程上の扱いを先に確認する必要があります
  • 「国産だから安心」という理由だけで選ぼうとしている人:「国産」の中身はモデルによって大きく違います

フルスクラッチの国産モデルを優先したい場合は、1GPUで動くNTT tsuzumi 2やPLaMo 3.0 Primeが比較候補になります。

企業が海外モデルベースの「国産LLM」を評価するチェックリスト

今回の事件から得られる実務上の教訓は、「国産」という言葉ではなく中身を確認することです。 LLMの調達・評価で、次の点を確認しておくと判断を誤りにくくなります。

確認項目

確認すること

Rakuten AI 3.0の場合

ベースモデル

フルスクラッチか派生か。派生ならモデル名と版

DeepSeek V3(V3か0324かは未公表)

学習の中身

追加学習のデータ量・手法・技術レポートの有無

技術レポートなし

ライセンスの連鎖

ベースモデルの条件(帰属表示など)が守られているか

NOTICEで対応済み。再配布時は同梱が必要

設定ファイル

config.jsonの model_type やtokenizerがベースと一致するか

DeepSeek V3と一致

評価の独立性

ベンチマークが自社測定か第三者評価か

自社測定のみ

データの流れ

API経由か自社環境か。データがどこを通るか

自社環境で動かせる(外部送信なし)

運用要件

必要なGPU・メモリ・推論ソフト

8 GPUクラス、約673GB

社内規程

中国由来モデルの扱い、公的資金の成果物としての条件

組織ごとに確認が必要

継続性

更新・サポートの有無

2026年3月17日以降、リポジトリの更新なし

よくある質問

Q. DeepSeekのオープンモデルを土台にするのは、日本企業の間で珍しいことですか?

珍しくありません。GENIAC第3期でも、野村総合研究所がQwen3やGemma 3などを土台にしたことを報告会で明らかにしています。Sakana AIのSakana NamazuもMoonshot AIのKimi K2.6をベースにしています。違いは、最初からベースモデルを公表していたかどうかです。

Q. Hugging Faceのモデルカードには、今はDeepSeekと書かれていますか?

2026年10月7日時点で、モデルカードの説明文にDeepSeekの名前はなく、ベースモデルを示す base_model 欄も空のままです。DeepSeekとの関係がわかるのは、メタデータのタグ(DeepSeek-V3 など)とNOTICEファイル、config.jsonです。

Q. 楽天はRakuten AI 3.0以外にもAIを作っているのですか?

楽天は2026年8月のイベント「Rakuten AI Optimism 2026」で、楽天市場で24時間接客する「AI店長」などを発表しました。自社のAI戦略としては、OpenAI・Google(Gemini)・Anthropic・Microsoftのモデルと自社AIを組み合わせると説明しています。この場では、Rakuten AI 3.0の後継モデルに関する発表は確認できませんでした。

Q. Rakuten AI 3.0を改変して自社モデルとして公開しても大丈夫ですか?

Apache 2.0なので改変・再配布はできます。ただし、DeepSeek由来の著作権表示とMIT条文(NOTICEファイル)を同梱する必要があります。さらに、自社モデルとして公開するなら、ベースがRakuten AI 3.0(さらにその土台がDeepSeek V3)であることを明記しておくと、今回のような問題を避けられます。

Q. 「国産LLM」と書かれた製品を見分けるには、どこを見ればよいですか?

公式の技術レポートやモデルカードで「フルスクラッチ」「継続事前学習」「ファインチューニング」のどれに当たるかを確認します。オープンウェイトのモデルなら、config.jsonの model_type と architectures、tokenizerの語彙数がほかのモデルと一致していないかも手がかりになります。記載がない場合は、提供元に直接問い合わせるのが確実です。

Q. GENIAC第4期で楽天が採択されなかったのは、炎上が原因ですか?

採択されなかった理由は公表されていないため、炎上との関係は判断できません。確認できるのは、2026年6月4日に発表された第4期16件に楽天が含まれていないという事実だけです。

まとめ

Rakuten AI 3.0の炎上は、「中国製モデルを使ったから」起きた事件ではありません。ベースモデルを最初に開示しなかったこと、公開時点で著作権表示がなかったこと、公的補助を受けた成果物なのに学習の中身が説明されていないことが重なって起きた事件です。

  • 技術面:config.jsonの構造値とtokenizerはDeepSeek V3(V3-0324)と一致。楽天がGENIACで報告した構造変更や200万トークンの長文脈は、公開版の設定からは読み取れない
  • ライセンス面:NOTICEは発表から約1時間20分後に追加され、現在は表示が整っている。DeepSeek V3の重みのライセンスは、初期版が独自ライセンス、V3-0324以降がMIT
  • GENIAC:海外モデルの事前追加学習はルール上認められている。ベースモデル名の開示義務はなく、2026年10月時点で返還・処分・制度変更は確認できない
  • 国産LLMの定義:法令上の定義はない。GENIACの基準は開発者の所在地で、ベースモデルの出自は問わない

企業がこの事件から学べるのは、「国産」というラベルではなく、ベースモデル・学習の中身・ライセンス・データの流れを自分たちで確認することの大切さです。補助金やGENIACのその後の動きは、Rakuten AI 3.0炎上のその後【続報】で引き続き追っています。DeepSeekの最新モデルについてはDeepSeek V4とはもあわせてご覧ください。

このツールを自社のシステムや業務にどう組み込むか、ご提案します

この記事の著者

AI革命

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編集部

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