ビジネス活用2026年8月更新

法務省が生成AIの「声の権利」指針を公表|パブリシティ権侵害になる例・AIカバーの線引き・企業の実務対応【2026年8月最新】

公開日: 2026/08/09
法務省が生成AIの「声の権利」指針を公表|パブリシティ権侵害になる例・AIカバーの線引き・企業の実務対応【2026年8月最新】

この記事のポイント

法務省が2026年8月7日に公表した生成AIと「声の権利」の解釈指針を、7つの想定事例・アウト/セーフ早見表・立場別の実務チェックリストまで一次情報ベースで整理します。「AI音声だと明示すればセーフ」が誤りである理由も解説。

法務省は2026年(令和8年)8月7日、生成AIによる肖像・声の無断利用について民事責任の考え方を整理した解釈指針を公表しました。最大のポイントは、人の「声」がパブリシティ権の保護対象に含まれると公的文書ではっきり書かれたことです。 ただしこれは新しい法律ではなく、現行の民法・判例法理・不正競争防止法を生成AI時代にどう当てはめるかを整理した「解釈指針」であり、罰則もありません。

正式名称は「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 ―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」。本文136ページ+巻末資料で全143ページというボリュームがあり、報道の要約だけでは実務判断に必要な線引きがほとんど拾えません。

生成AIの声の権利に関する法務省の解釈指針を象徴する法律書と天秤のイメージ

実務で効いてくるのは、この3点です。

  • 有名人・声優の声をAIで再現してSNSに公開し収益を得る行為は、パブリシティ権侵害と評価される可能性が高い
  • 「AI音声だと書いてあるからセーフ」は成り立たない。むしろ本人名を書くほど侵害が認められやすくなる面がある
  • AI音声サービスを提供する側も、作り方・売り方によっては差止や共同不法行為責任の対象になり得る

この記事でわかること:

  • 指針が何を決めたのか/何を決めていないのか(法律ではない、という前提の意味)
  • 声を守る3つの法的ルート(パブリシティ権/声をみだりに利用されない権利/不正競争防止法)の違い
  • どこからが侵害かの判断枠組みと、ユースケース別のアウト/セーフ早見表
  • 指針が示した7つの想定事例の全体像(AIカバー、性的音源、非収益目的、死後の声など)
  • 「AI音声です」と明記すればセーフ、が誤りである理由(パブリシティ権と不競法で逆に働く)
  • AI音声サービスを開発・提供する事業者の責任と、免責方向に働く技術的措置
  • 被害に遭ったときの削除請求・損害賠償の実務フロー
  • 企業・声優・事務所・個人それぞれのチェックリスト

こんな方に向けた記事です — 広告やコンテンツ制作でAI音声の利用を検討している企業の法務・マーケ担当者、音声生成AIを開発・提供している事業者、自分の声や所属タレントの声を守りたい声優・ナレーター・事務所、そして「自分の声が勝手にAIで使われた」個人の方。

何が公表されたのか:指針の基本情報

公表されたのは法律でも省令でもなく、有識者検討会による「解釈指針」です。 現行法の当てはめを整理し、当事者の予測可能性を高めることが目的とされています。

項目

内容

正式名称

肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 ―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―

発行主体

法務省(事務局:法務省民事局)

公表日

2026年(令和8年)8月7日

分量

本文136ページ+巻末資料(ピンク・レディー事件最高裁判決全文・構成員名簿)=全143ページ

法的性質

法律ではない。現行法(民法709条・判例法理・不正競争防止法)の解釈整理。罰則なし

対象

生成AIによる肖像・声の無断利用に関する民事責任(損害賠償・差止)

座長

田村善之(東京大学大学院法学政治学研究科教授)

公式ページ

法務省 検討会ページ報告書PDF

検討会は2026年4月24日の第1回から7月27日の第5回まで、約3か月で集中的に開かれました。

日付

議題

第1回

2026年4月24日

肖像、声等の無断利用に関する一般論の検討

第2回

2026年5月28日

関係者からのヒアリング、事例検討①

第3回

2026年6月25日

事例検討②

第4回

2026年7月13日

取りまとめ報告書案の検討①

第5回

2026年7月27日

取りまとめ報告書案の検討②

構成員には安藤和宏(東洋大)、今村哲也(明治大)、奥邨弘司(慶應義塾大)、櫛橋明香(東北大)、澤田将史(弁護士)、柴野相雄(弁護士)、米村滋人(東京大)の各氏が名を連ね、内閣府知的財産戦略推進事務局・同人工知能政策推進室・経済産業省知的財産政策室がオブザーバーとして参加しています。

なぜこのタイミングだったのか

直接の上位方針は、2026年6月12日に知的財産戦略本部が決定した知的財産推進計画2026です。同計画は、俳優や声優等の声を模倣した音声コンテンツの無断生成・公開が一定の場合にパブリシティ権等の侵害に当たり得ることを踏まえ、ガイドライン等を作成して周知するとともに、ハードロー整備(不正競争防止法改正を含む)の必要性も含め議論を継続するとしていました。今回の指針は、この「ガイドライン等」に当たる位置づけです。

背景には実害の急拡大があります。報道によれば、NPO法人 肖像パブリシティ権擁護監視機構(JAPRO)は2025年6月からの約2か月間で、AIで芸能人の肖像や声優の声を無断生成したとみられる画像・動画を延べ4万3483件確認し、それらのSNS上の閲覧数は計約3億3500万回、経済的損失を約20億〜45億円と推計しています。また2025年11月には、声優の津田健次郎さんが自身の声質を模したナレーション付き動画を多数投稿されたとして、投稿者およびTikTok運営会社に対する削除請求等を求めて提訴したと報じられました(いずれも報道ベースの情報で、訴訟の結論は本記事執筆時点で確認できていません)。

声優・ナレーターの収録現場を象徴するスタジオマイクのイメージ

声を守る3つのルート:どれで戦うかで結論が変わる

声の利用許諾契約や権利処理の実務を象徴する契約書のイメージ

指針は、声の無断利用に対して3つの保護ルートを整理しました。守っている利益が異なるため、同じ事案でも「どのルートで請求するか」で結論と請求できる中身が変わります。

保護ルート

根拠

守るもの

主な請求

著名性の要否

パブリシティ権

ピンク・レディー事件最高裁判決(最判平成24年2月2日)/人格権に由来する権利

声の商業的価値(顧客吸引力)

損害賠償(逸失利益・使用料相当額)、差止(削除・データ廃棄)

顧客吸引力が必要

声をみだりに利用されない権利

人格権(肖像等をみだりに利用されない権利の一種)

声の精神的価値(名誉感情・私生活の平穏・自己像の同一性)

慰謝料、差止(削除)

不要(一般人でも可)

不正競争防止法

2条1項1号(周知表示混同惹起)/2号(著名表示冒用)/20号(誤認惹起)/21号(信用毀損)

商品等表示としての声

損害賠償(5条の損害額推定規定あり)、差止

周知性・著名性が必要

重要なのは、パブリシティ権侵害による財産的損害と、声をみだりに利用されない権利侵害による慰謝料は別の損害として両立すると指針が整理している点です。1つの音源で両方を請求できる場面があります。

「声」がパブリシティ権の対象になる根拠

ピンク・レディー事件最高裁判決は保護対象を「人の氏名、肖像等」と表現していましたが、「等」に何が含まれるかまでは判示していませんでした。そこで指針は、同判決の調査官解説が「肖像等」を本人の人物識別情報と捉え、「サイン、署名、、ペンネーム、芸名等」を含むとしていた点を引き、次のように述べています。

本検討会においても、声は、人物識別情報であり、かつ、個人の人格の象徴であることから、声がパブリシティ権の保護対象に含まれることについて、異論がなかった。

なお、声に関する人格的な権利の呼称はまだ定着していないため、指針では便宜上「声をみだりに利用されない権利」と呼んでいます。一部で使われる「人声権」「肖声権」といった呼称は学説上の提案段階であり、確定した法律用語ではありません。

著作権(著作隣接権)では声質は守れない

ここは誤解が非常に多いところです。著作権法の著作隣接権(実演家の権利)が保護するのは、演技・歌唱といった具体的な実演そのものです。実演を録音物からコピーすれば侵害になりますが、「声質」という声そのものは保護対象ではないと一般に解されています。AIが学習によって声の特徴を再現し、まったく新しい発話を生成した場合、既存の録音物のコピーではないため著作隣接権では捉えきれない。この空白があったからこそ、パブリシティ権・人格権による整理が必要とされた、という構造です。

AI学習データと著作権の関係については Anthropic著作権訴訟15億ドル和解の解説 でも整理しています。

どこからが侵害か:判断の3ステップ

指針の判断枠組みは、ピンク・レディー事件の基準がそのまま声にも当てはまる、というものです。「専ら声の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に不法行為法上違法になります。 実務では、顧客吸引力・識別性・類型該当性という3つの段階に分けて考えると整理しやすくなります。

ステップ1:その声に顧客吸引力があるか

  • 知名度のある芸能人であれば、通常は顧客吸引力が認められます。
  • 全国的に著名である必要はありません。 特定分野や一部地域の顧客層に対する販売促進効力があれば足りるとされています。
  • 声優については、氏名や顔が広く知られている必要はなく、その声自体に販売促進効力があれば足りると明記されています(脚注55)。
  • 「顧客吸引力は、商業的に利用された事実によって実質的に裏付けられる」という考え方が検討会で支持されました。AI音源をSNSで公開して収益を得た事実自体が、顧客吸引力の裏付けになり得ます。
  • 一方、実在の人の声ではない完全な合成音(架空キャラクターの声など)は、パブリシティ権の保護対象となる顧客吸引力があるとはいえないとされています(脚注54)。

ステップ2:「本人の声を使用した」といえるか(識別性)

生成AIの出力は「通常は、本人の声と完全に同一であることはなく、類似性があるにとどまる」ため、個別判断が必要です。判断材料は2つ。

  1. 声自体の類似性の程度 — 声質、歌い方の特徴など
  2. 付加情報 — タイトル、説明欄、公開された文脈など、音源の外にある情報

この2つを総合考慮し、視聴者が本人の声だと識別できるかで判断します。声紋鑑定は「考慮要素の一つとなり得るものの、決定的な要素にまでなるわけではない」とされています(脚注56)。逆に、説明欄で本人を示していても、声が聴覚的におよそ似ていない場合は「本人の声を使用した」とはいえないとされます。

ステップ3:3類型(+「など」)に当てはまるか

類型

内容

声の具体例(指針より)

第1類型

声それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用

AIカバー、オーディオブック、ボイスメッセージ・ボイススタンプ

第2類型

商品等の差別化を図る目的で声を商品等に付す

声を聞くことのできる目覚まし時計、カーナビゲーション、スマートスピーカー

第3類型

声を商品等の広告として使用

広告等のナレーション、SNS等における有名人のなりすまし広告

「など」

3類型に準ずる程度に顧客吸引力を利用する目的が認められる場合

判決当時に予測できなかった利用態様(AIサービスの提供行為など)

指針は第1章のPoint欄で、「ボイスメッセージやボイススタンプ、オーディオブック、AIカバー、ナレーション、声を聞くことのできる目覚まし時計、カーナビゲーション、スマートスピーカー、広告等のナレーションに利用する場合が、声の無断利用によるパブリシティ権侵害の例であると考えられる」と具体名を挙げています。AIカバーが名指しされているのは、実務上かなり重い意味があります。

音楽生成AIの仕組みと権利上の論点は Suno(AI音楽生成)とは、音声クローン技術の実際は ElevenLabs Voice Design v3の解説 で扱っています。

アウト/セーフ早見表:ユースケース別に整理

指針の内容を、実務で遭遇しやすい場面に当てはめたのが次の表です。 指針自身が「想定事例は事実関係を相当簡略化しており、簡略化された事実関係のみから結論を出すことは困難」と断っているとおり、個別事情で結論は動きます。あくまで判断の出発点としてご覧ください。

ユースケース

評価

根拠・理由

有名歌手の声でAIカバーを作りSNSで公開・収益化

×

第1類型該当の可能性が高い。収益化の事実が顧客吸引力を裏付ける(想定事例2-1)

声優が演じるキャラ名を付したAI歌唱をSNS公開・収益化

×

キャラ名の表示が識別性を肯定する方向に働く(想定事例2-2)

有名人の声でわいせつ・性的な内容を読み上げる音源を公開

×

声をみだりに利用されない権利の侵害の可能性が高い。パブリシティ権と併存し得る(想定事例3-2)

有名人の声を無断で広告ナレーションに使用

×

第3類型(広告としての使用)に直球で該当

SNSでの有名人なりすまし広告(声を含む)

×

第3類型。指針が名指しで例示

収益目的なく興味本位でAI歌唱を公開

パブリシティ権は3類型該当が困難だが「など」該当の余地あり。人格権侵害は成立し得る(想定事例4-2)

投稿自体は無償だが、同じSNSで自社商品を紹介・販売サイトへ誘導

×寄りの△

第3類型該当の可能性(知財高判令和5年9月13日を参照)

「AI音声です」と明記したうえで有名人の声を再現・公開

△(セーフではない)

パブリシティ権では識別性を肯定する方向。不競法2号は混同不要のため打消し表示は効かない

本人の許諾を得て契約範囲内でAI音声を利用

権利者の同意があれば無断利用に当たらない。範囲・期間・用途の明記が前提

芸人・タレント本人が行うものまね芸(演者名を明示)

指針は原則としてパブリシティ権侵害に当たらないと整理

実在しない完全合成音のオリジナルAIボイス

実在の人の声ではないため保護対象となる顧客吸引力は認められない(脚注54)

特定の俳優・声優の声に特化した学習用データセットを販売

×

第1類型該当または「など」該当の余地。宣伝すれば第3類型(補論)

著名人の声を容易に生成できることを売りにAIサービスを有償提供

×

3類型に準ずる行為としてパブリシティ権侵害と考えられる(補論)

社内研修動画に社員本人の同意なくAI音声クローンを使用

顧客吸引力は問題になりにくいが、声をみだりに利用されない権利の問題が残る

故人の俳優・歌手の声をAIで再現し収益化

△(未決着)

パブリシティ権の相続性は検討会でも見解が分かれ結論なし。遺族の敬愛追慕の情・不競法ルートは残る

○=原則問題になりにくい/△=事情により結論が分かれる/×=侵害と評価される可能性が高い

指針が示した7つの想定事例

指針の第2章は、7つの想定事例で具体的な当てはめを示しています。報道ではほとんど紹介されていない部分ですが、実務判断の材料としてはここが本体です。

事例

事案の概要

客体

収益目的

主な検討対象

1

俳優Xに似た顔がアクションを演じる動画を生成しSNS公開・収益化

肖像

パブリシティ権/不競法

2-1

歌手Xによく似た歌声でA曲を歌う音源を生成しSNS公開・収益化

パブリシティ権/不競法

2-2

声優Xが演じるキャラCの声に似た歌声で「CにBの曲を歌わせてみた」としてSNS公開・収益化

パブリシティ権/不競法

3-1

俳優Xの顔と他人の裸を合成した画像を生成しSNS公開・収益化

肖像

肖像権/パブリシティ権

3-2

声優Xの声でわいせつテキストを読み上げる音源を生成しSNS公開・収益化

声をみだりに利用されない権利/パブリシティ権

4-1

収益目的なく興味本位で俳優Xに似た顔の動画を生成しSNS公開

肖像

パブリシティ権/肖像権

4-2

収益目的なく興味本位で歌手Xに似た歌声の音源を生成しSNS公開

パブリシティ権/声の権利

5-1・5-2

事務所Zに独占的利用許諾/譲渡していた場合の、Z自身からの請求

肖像・声

パブリシティ権/不競法

6

死後、故人俳優Xに似た顔の動画を生成しSNS公開・収益化

肖像

パブリシティ権/不競法

7

死後、故人俳優Xの顔で性的画像を生成しSNS公開・収益化

肖像

肖像権/遺族の敬愛追慕の情

想定事例6・7は肖像を素材にしていますが、指針は「歌手・声優等の声の無断利用においても同様の考え方が妥当する」と明記しています。

想定事例2(AIカバー)の要点

指針のPoint欄を要約すると、次の流れで侵害が肯定されます。

  1. Xが著名・有名であれば、その声に顧客吸引力が認められる
  2. SNS公開+収益化という利用態様自体から、顧客吸引力が実質的に裏付けられる
  3. 「AI歌手XにAの曲を歌わせてみた」といった本人と結びつくタイトル表示は、声自体の類似性とあいまって「Xの声を使用した」との評価を肯定する要素になる
  4. SNS公開で広告収入等を得た場合、その音源は「商品等」に当たる
  5. 視聴者がXの声だと識別する場合、視聴者はXの歌声を聞くこと自体を主要な目的として聞くといえ、第1類型(独立鑑賞の対象となる商品等としての使用)と評価できる
  6. Xは投稿者に損害賠償を、投稿者または投稿先SNSの運営事業者に投稿の削除を求めることができる
  7. Xの声が周知・著名な商品等表示となっていれば、不競法でも損害賠償・差止が可能

想定事例3-2(性的な内容の音源)の要点

保護法益は名誉感情・私生活の平穏で、社会生活上受忍すべき限度を超えるかで判断されます。指針は「一般的には、Xに強い羞恥心や不快感を抱かせ、自尊心を傷つけるものとの評価がされるものと考えられ、……声をみだりに利用されない権利を侵害すると評価される可能性が高い」としています。

実務上とくに効いてくるのは、対象者の属性を問わず成立し得るという点です。

  • 本人が自分を対象にしたものだと認識できれば侵害となる可能性がある(顧客吸引力は不要)
  • Xが一般人の場合でも、声優の場合と比べて侵害の有無等に大きな差異が生ずる可能性は低い

つまり、無名の一般人の声であっても、この類型では保護されるというのが指針の立場です。

想定事例4(収益目的がない場合)の要点

「非営利ならセーフ」という理解は、指針を読む限り成り立ちません。

  • パブリシティ権:収益目的がなければ「商品等」とはいい難く3類型該当は困難。ただし、「フォロワー数や閲覧数を獲得する意図を有している場合において、コンテンツをSNSに投稿して多数の閲覧数・再生数を獲得し、これによってXに営業上の不利益を現に生じさせたと認められるときは、3類型に準ずる(『など』に該当する)ものと評価し得る」とされています。検討会では、人気タレントは肖像等の露出を一定範囲に抑えて管理しており、大量拡散されると顧客吸引力としての価値が毀損される、という指摘がありました。
  • 声をみだりに利用されない権利:実質的な保護利益として、①自分の声を他人の管理下に置かれたくないという精神的利益、②自己像の同一性に対する利益(身に覚えのない行動・発言をしたかのように受け取られない利益)が挙げられています。そのうえで、「Yに収益を得る目的がないことが、権利侵害が受忍限度を超えるかの判断において、これを否定する方向の考慮要素となるものとは考え難い」と述べています。

まとめると、非営利でも人格権侵害はあり得る、そして投稿自体は無償でも同じSNSで自社商品を紹介したり販売サイトのURLを置いて誘引すれば第3類型に当たり得る(知財高判令和5年9月13日〔FEST VAINQUEURメンバー事件〕参照)ということです。

なお、公務員や公職選挙の候補者等については、政治的批判等の文脈での利用は受忍すべき場合があるとされています。

「AI音声です」と書けばセーフ? — 逆に働く場面がある

ここが本指針でもっとも誤解されやすく、かつ実務インパクトが大きい論点です。「AI生成である」と明示することは免罪符になりません。 適用する法律によって、打消し表示の意味が正反対に働きます。

適用ルート

「AI音声です」「AI歌手Xに歌わせてみた」との明示の効果

パブリシティ権

不利に働く。 本人名・キャラ名の明示は「本人の声を使用した」という識別性を肯定する方向の要素になる

不競法1号(周知表示混同惹起)

有利に働く。 「AI」と付ける等の打消し表示があると「混同を生じさせる行為」とはいい難くなる

不競法2号(著名表示冒用)

効かない。 2号は「混同」を要件としないため、全国的に知られている表示であれば打消し表示があっても該当し得る

つまり、「AIです」と書いた瞬間に不競法1号の混同要件は崩れやすくなる一方、パブリシティ権の識別性はむしろ強く肯定され、不競法2号も封じられない。「AI表記さえすれば大丈夫」という運用は、法的にはむしろ危うい方向に振れる可能性があります。

同じく「AI生成であることの開示」をルール化した動きとして、「小説家になろう」のAI利用開示義務化 や、EU AI規制法のラベリング義務 がありますが、開示義務を果たすことと、他人の権利を侵害しないことは別問題です。ここを混同しないでください。

ものまね・声まねは原則としてセーフ

指針は、人間が行うものまね・声まねについて、原則としてパブリシティ権を侵害しないと明記しました。 該当箇所は次のとおりです。

物まねや声まねは、本人(まねされた者)を示すものとして誤解されるような場合でない限り、本人のパブリシティ権を侵害するものとは解されない。

理由は2つ挙げられています。

  1. 物まね芸における「肖像等」は、人物識別情報としては芸をする者自身を示すものである(調査官解説)
  2. 人の目を引くのはその芸の力によるものであり、「専ら顧客吸引力の利用を目的とする」という要件を欠く(学説)

ただし例外があります。芸をする者自身の氏名等を明示せず、本人の声と類似するものを使い、顧客に本人だと誤解される場合には、パブリシティ権侵害の余地があるとされています。実務的には、演者名のクレジット表示が防御線として機能する、という理解になります。

AI音声サービスを開発・提供する事業者の責任

指針の第2章に置かれた補論「生成AIのサービス提供行為等について」は、AI提供側の民事責任を公的文書として初めて整理した部分です。BtoBの実務ではここが最重要です。

AI音声サービスの音声生成技術を象徴するオーディオ機材のイメージ

① モデル・サービスの提供行為そのもの

原則として、「生成AIのモデル・サービスそれ自体は『肖像等』とはいえず、その提供行為はパブリシティ権の3類型に直接該当するとはいえない」とされています。ただし例外が明示されました。

顧客吸引力を有する実在の著名人と同一又は類似の肖像・声を生成することが容易な生成AIを、当該容易性をセールスポイントとして有償提供するような場合には、……第1類型に近似し、……第2類型にも近似する。したがって、……3類型に準ずる行為として「など」に含まれると評価され、パブリシティ権を侵害するものと考えられる。

効果としては、提供が継続していれば差止請求が可能。さらに、まだ提供に至っていなくても、提供のおそれを基礎付ける事情があり侵害予防の必要性が認められれば、侵害予防請求(事前の差止)が可能とされています。「リリース前だから大丈夫」とはいえません。

② 共同不法行為責任(民法719条)

利用者が生成・公開して権利侵害をした場合、生成AIを提供した事業者も権利侵害結果の発生に寄与したと評価されるときは、共同不法行為として連帯して損害賠償責任を負う可能性があります。考慮要素は、権利侵害の蓋然性・重大性と、事業者における侵害発生の認識可能性です。

一方で、免責方向に働く事情も明示されています。

パブリシティ権侵害に至る可能性を低減するための措置がされている場合には、……利用者が侵害をする態様による利用をする蓋然性があるとは直ちにはいえないとの評価がされる可能性が高い

指針が脚注で引用している経済産業省「AI利活用における民事責任の解釈適用に関する手引き[第1.0版]」(2026年4月9日公表)が挙げる技術的措置は次のとおりです。

  1. データセットを十分大きくして過学習の可能性を低減する
  2. 学習時に十分長いテキストで画像を説明する(Re-captioning
  3. 潜在空間での学習
  4. 生成時に有名人・有名作品の固有名詞をLLM等でプロンプトから除去するフィルタリング

ただし「全ての事案で全ての措置が必要となるものではなく、AIモデルの特性に応じ必要かつ合理的な範囲の措置を講ずれば足り、結論として権利侵害の蓋然性が抑制されていることが重要」とされています。チェックボックス的に全部やることではなく、自社モデルの特性に合った措置を選んで、実際に抑止できているかを説明できることが要点です。

生成AIの安全設計全般については 生成AIのセキュリティリスクと対策 も参考になります。

③ 学習用データセットの販売

販売形態

評価

特定の俳優の肖像・声優の声に特化した学習用データセットを商品として販売

第1類型該当、または第1類型に近似する「など」該当の余地。「当該声等を学習できる」旨を宣伝すれば第3類型該当の余地

多数の肖像・声を含む一般的なデータセットの販売

原則として3類型該当は困難

一般的なデータセットだが、特定の俳優・声優が含まれることを明らかにして販売

差別化要因として第2類型該当の余地。宣伝すれば第3類型該当の余地

侵害に当たり販売が継続している場合は、差止請求が可能とされています。

④ 学習行為そのもの

特定の声を出力させる目的での学習行為自体がパブリシティ権侵害に当たるかは、検討会でも意見が分かれ、結論が出ていません。 肯定する意見と、3類型該当は困難とする意見の双方が併記されています。

ただし、仮に学習行為自体が侵害でなくても、そのような開発過程の事情があり侵害予防の必要性が認められれば、パブリシティ権侵害のおそれがあるものとして侵害予防請求ができると考えられる、とされています。学習段階の記録を残さない運用は、後で説明責任を果たせなくなるリスクがあります。

なお、AI学習段階における著作権法上の論点(30条の4など)は本指針の主対象外で、そちらは文化庁「AIと著作権に関する考え方について」の領域です。

被害に遭ったときの救済手段と実務フロー

指針が整理した救済手段は、損害賠償と差止(削除・データ廃棄)の2本立てです。実務上とくに重要なのは、投稿者だけでなくプラットフォーム事業者にも削除請求ができると明記された点です。

損害賠償・差止など司法上の救済手段を象徴する裁判所のイメージ

対応の流れ

  1. 発見・証拠保全 — URL、投稿日時、投稿者アカウント、再生数、収益化表示、音源そのものを保存する。スクリーンショットだけでなく取得日時が分かる形で残す
  2. 識別性の裏付けを固める — 声の類似性に加え、タイトル・説明欄・ハッシュタグ等の付加情報を記録する
  3. 投稿者への削除請求・警告 — 侵害の継続や否認は、後の差止の必要性を肯定する方向に働く
  4. プラットフォーム事業者への削除請求 — 指針は「インターネット上に投稿されたパブリシティ権を侵害するコンテンツの削除請求は、これを管理運営するプラットフォーム事業者に対してもすることができると考えられる」としています(最判令和4年6月24日〔ツイッター事件〕等を参照)
  5. 損害賠償請求 — 使用料相当額を基礎とした逸失利益、性的利用等がある場合は慰謝料を併せて検討
  6. 差止・データ廃棄請求 — 音源の削除に加え、学習済みモデルやデータの廃棄を求められる場合がある

損害賠償額の考え方

根拠は民法709条ですが、逸失利益の立証は容易ではありません。そこで著作権法114条(損害額の推定等)の類推適用が学説・調査官解説で議論されており、近時の裁判例では「114条3項を明示的に類推適用するか否かにかかわらず、使用料相当額を基礎に損害額が算定されている事案が多い」と指針は整理しています。不競法に該当するなら、不競法5条の損害額推定規定を使えます。

ただし、生成AI事案の裁判例はまだ存在しないため、賠償額の相場は不明です。指針自身も「特に生成AIによる無断利用事案については、裁判例もなく、権利侵害となる範囲が不明確であるとの指摘もあった」と述べています。

差止が認められやすい/認められにくい場面

傾向

具体的な状況

参照裁判例

認められやすい

侵害者が現に無断利用を継続している/侵害を否定している

知財高判平成25年10月16日〔嵐ら事件〕、東京地判令和5年11月30日〔ENRIKE事件〕

認められにくい

既に侵害行為を停止し、将来侵害するおそれが乏しい

東京地判平成25年4月26日〔ENJOY MAX事件〕、知財高判令和2年2月20日〔ジル・スチュアート事件〕、知財高判令和6年1月24日

誰が請求できるのか(事務所・レーベルの立場)

原則は権利者本人です。事務所が自ら請求できるかは、指針でも慎重な整理になっています。

  • 独占的利用許諾を受けた事務所:少なくとも現実に市場を独占しており、かつ警告してもなお侵害者が利用を継続しているときは、債権侵害を理由とする損害賠償請求が認められ得る
  • 差止:本人が独占的ライセンシーに対して侵害排除義務を負う例外的な場合に、転用型債権者代位権による代位行使の可能性が「相応にある」とされるにとどまる
  • パブリシティ権の譲渡性:裁判例・学説とも見解が分かれており、未決着
  • 不競法ルート:商品等表示の主体であるプロダクション等が自ら請求主体になり得る。本人の死亡にも直ちに影響されない

事務所側の実務としては、不競法ルートを使えるだけの表示実態(声がその商品化グループの商品等表示として広く認識されている状態)をどう作り、どう立証するかが現実的な鍵になります。

立場別・実務チェックリスト

一般企業(AI音声を広告・ナレーション・コンテンツに使う側)

  • AI音声の声のもとになったデータの出所をベンダーに確認し、書面で回答を得る
  • 実在の著名人・声優の声に類似していないことを、社内で聴取確認するプロセスを設ける
  • 外注先・制作会社との契約に、第三者の声・肖像の権利処理を行った旨の表明保証と補償条項を入れる
  • 社員・顧客の音声を学習に使う場合、利用目的・範囲・期間を明示した同意を取得する(個人情報保護法上の対応と併せて)
  • 「AI音声です」の表記は開示としては有用だが免責にはならない前提で運用する
  • 権利者から削除要請が来た際の社内エスカレーション経路を事前に決めておく
  • 過去に公開した音声コンテンツの棚卸し(いつ・誰の声で・どのツールで作ったか)

AI音声サービスを開発・提供する事業者

  • 著名人の声を再現できることをセールスポイントにしていないか、LP・広告文言を点検する(ここが最も直接的にアウトになる)
  • 生成時の固有名詞フィルタリング(有名人名をプロンプトから除去)の実装状況を確認する
  • 学習データの構成と過学習抑制策を、第三者に説明できる形で文書化する
  • 学習用データセットを販売する場合、特定の俳優・声優が含まれる旨を訴求していないかを確認する
  • 利用規約に、実在人物の声の無断再現を禁じる条項と、違反時の措置を明記する
  • 権利者からの申立てを受ける通報窓口と削除フローを用意する(共同不法行為の認識可能性に直結する)
  • 措置は「必要かつ合理的な範囲」で足りる前提だが、権利侵害の蓋然性が実際に抑制されていることを説明できる材料を残す

声優・ナレーター・タレント本人

  • 制作会社との契約時に、AI学習利用の有無の説明を必ず求める(日本俳優連合が2026年2月10日公表の「音声データ無断利用に関する注意」で推奨)
  • 生成AI音声の学習・利用には本人の許諾を要する旨を契約に明記する
  • AI音声ビジネスでは買取り契約を避け、案件ごとの個別契約(パートナーシップ提携契約等)を検討する
  • 自分の声を使ったコンテンツを定期的にエゴサーチし、発見時は証拠保全を最優先にする
  • 性的・侮辱的な内容での利用は、顧客吸引力の有無にかかわらず人格権のルートで争えることを知っておく

芸能事務所・レーベル

  • 所属タレントの声について、独占的利用許諾の実態と契約書面を整理する(請求主体性の前提になる)
  • 不競法ルートを使うため、声が商品等表示として認識されている実績(使用歴・広告露出・関連商品)を記録する
  • 故人タレントについては、相続性が未決着であることを前提に、遺族の敬愛追慕の情・不競法ルートも含めた戦略を立てる
  • プラットフォームへの削除請求の定型フォーマットを準備しておく

一般個人(自分の声を勝手に使われた方)

  • 著名でなくても、声をみだりに利用されない権利で争える可能性がある(特に性的・侮辱的な利用)
  • 収益化されていなくても、人格権侵害は成立し得る
  • 投稿者が特定できなくても、プラットフォーム事業者に対する削除請求という選択肢がある
  • 具体的な対応は弁護士への相談を推奨。AI関連の法務対応については 法律・法務のAI活用ガイド も参考に

まだ決まっていないこと:指針の限界

誠実に読むために、指針が「決めていない」部分を明示しておきます。 報告書の「終わりに」では、検討会でも見解が一致しなかった論点が列挙されています。

未決着の論点

状況

パブリシティ権の相続性

相続性肯定説・否定説の双方が併記され、一致した見解を見出し難いとされた

パブリシティ権の譲渡性

裁判例・学説とも見解が分かれる

権利者以外の者(所属事務所等)による損害賠償・差止請求の可否

一定の場合に認められ得るとの整理にとどまる

学習行為それ自体の侵害該当性

意見が分かれ結論なし

第2類型の「付す」を「使用する」と読むか

整理が残された

不正競争防止法改正などのハードロー整備

知財推進計画2026は「必要性も含め引き続き議論を継続」の段階。具体的な法案・時期は未定

加えて、次の前提も押さえておく必要があります。

  • 法律ではない。 新しい権利を創設したものではなく、罰則もない。民事責任の整理であり刑事罰の話ではありません
  • 裁判例がまだない。 想定事例の結論も「〜と考えられる」「〜可能性が高い」という留保付きの表現です
  • 想定事例は事実関係を相当簡略化しており、実際の判断は具体的事実関係次第です
  • 故意・過失の要件は直接の検討対象外とされています

死後の肖像・声については、指針は次のように整理しています。パブリシティ権の相続性は未決着である一方、肖像等をみだりに利用されない権利(人格権)は死亡とともに消滅し相続の対象にもならないため、遺族が「故人の肖像権侵害」を主張することは困難です。代替ルートとして、①遺族固有の敬愛追慕の情の侵害(故人の性的画像生成は「遺族の敬愛追慕の情を社会生活上受忍すべき限度を超えて侵害するものと評価される可能性が高い」とされ、故人が一般人でも同様)、②不競法(プロダクションや遺族が管理し商品等表示として広く認識されていれば、プロダクション等が請求主体になり得る)が示されています。

業界側の反応と今後の見通し

日本俳優連合(日俳連)は今回の指針を「大きな前進」と評価しつつ、さらなる明確化を要望しています。 具体的には、①AI利用における明示的・事前の同意要件の明確化、②プラットフォーム・サービス提供者の責任の所在、③削除・差止・損害賠償の迅速な救済手段、④商業目的・著名性を問わない人格的保護、の4点です。「実演家の声は単なる音声データではなく、アイデンティティ・尊厳・職業上の評価を構成するもの」という主張が示されています。

議論の焦点は、「禁止か否か」から「どういう条件なら使えるか(利用条件・ライセンス)」へ移りつつあります。翻訳・吹き替え・アクセシビリティ対応など、AI音声には正当な用途が多数あり、実演家への対価還元と両立する仕組みづくりが次の課題です。音楽・エンタメ業界の権利管理とAI活用の現在地は 音楽・レコード業界のAI活用事例 で扱っています。

制度面では、不正競争防止法改正を含むハードロー整備の議論が継続します。今回の指針は最終形ではなく、次の法改正議論の土台という位置づけで読むのが適切です。

今すぐ確認が必要な方/当面は静観でよい方

今すぐ社内確認をおすすめする方

  • AI音声を広告・CM・SNS動画のナレーションに使っている企業 — 声のもとになったデータの出所が説明できないなら、優先度は高いです
  • 音声生成・音声クローンのサービスを提供している事業者 — LPやマーケ文言に著名人の名前や「〇〇風の声」といった訴求がある場合、補論に直撃します
  • 声優・ナレーターを起用した音源を大量に保有している制作会社・出版社 — 過去契約にAI学習利用の可否が書かれていないケースが多く、棚卸しの価値があります
  • AIカバーやAI歌唱をSNSで公開・収益化している個人 — 指針が名指しで例示した類型です
  • 故人アーティストの声・肖像を使った企画を検討している方 — 相続性が未決着のため、法的リスクの読みが難しい領域です

当面は大きな対応が不要と考えられる方

  • 完全にオリジナルの合成音声(実在人物の声に由来しない)だけを使っている場合 — 指針は実在の人の声でないキャラクター声について、保護対象となる顧客吸引力があるとはいえないとしています
  • 本人の同意を得たうえで、契約範囲内でAI音声を利用している場合 — 範囲・期間・用途が契約に明記されているかの再確認だけで足りることが多いはずです
  • 演者名を明示したうえで人が行うものまね・声まね — 指針は原則としてパブリシティ権侵害に当たらないと整理しています
  • AI音声を社内の閉じた用途(議事録読み上げ等)だけで使っている場合 — 公開・商品化を伴わないため、3類型の該当性は問題になりにくい構造です

ただしいずれも「現時点で優先度が低い」という意味であり、不競法改正の議論次第で前提が変わり得る点は留意してください。

よくある質問

Q. 個人がSNSにAIカバーを上げて収益化していない場合、本当に何も問題ないのですか。

A. 「何も問題ない」とは言い切れません。パブリシティ権については、収益目的がなければ3類型該当は困難とされる一方、閲覧数の獲得を意図し、実際に大量拡散して本人に営業上の不利益を現に生じさせた場合は「など」に該当し得るとされています。また声をみだりに利用されない権利(人格権)については、収益目的がないことが侵害を否定する方向に働くとは考え難い、と明記されています。

Q. 海外のAI音声サービスを日本から使った場合はどうなりますか。

A. 本指針は日本の現行法の解釈整理であり、準拠法や国際裁判管轄については扱っていません。ただし、日本の利用者が日本のSNSに日本の著名人の声を模した音源を公開すれば、行為地・結果発生地はいずれも日本になるのが通常です。サービスが海外製かどうかは、利用者自身の責任を左右しません。

Q. 声優の許諾を得て収録した音声を、後からAI学習に使うのは問題ないですか。

A. 収録時の契約に「AI学習利用」が含まれていなければ、許諾の範囲外と主張される可能性があります。日本俳優連合は2026年2月10日公表の注意喚起で、契約時にAI学習利用の有無の説明を求めること、生成AI音声の学習・利用には本人の許諾を得ることを求めています。既存の音声資産については、追加許諾の取得か利用停止の判断が現実的な選択肢です。

Q. 指針に違反したら罰則やペナルティはありますか。

A. 指針自体に罰則はありません。そもそも指針は民事責任(損害賠償・差止)の考え方を整理した文書で、行政処分や刑事罰を定めるものではありません。ただし、指針に沿って侵害と評価される行為をすれば、民事訴訟で損害賠償や削除・データ廃棄を求められる可能性があります。

Q. 社内で使うAI音声について、どのくらいの記録を残しておくべきですか。

A. 最低限、①どのサービス・モデルで生成したか、②入力したプロンプト・参照音声、③生成日時、④公開先と公開日、の4点を残しておくと、後から権利者や取引先に説明できます。共同不法行為の判断では「侵害発生の認識可能性」が考慮要素とされているため、記録の有無は事業者側の主張の強さに直結します。

Q. 動画の翻訳・吹き替えに出演者本人のAI音声を使うのは問題ですか。

A. 本人の許諾があり、用途・言語・配信範囲が契約で明確なら、無断利用には当たりません。この分野は指針が想定する「禁止すべき利用」ではなく、むしろ正当な活用が期待される領域です。実務では、追加言語や二次利用の範囲をどう定めるかが交渉のポイントになります。

まとめ

法務省が2026年8月7日に公表した解釈指針は、「声はパブリシティ権で守られる」という前提を公的文書としてはっきり示した点で大きな意味があります。同時に、これは新しい法律ではなく現行法の解釈整理であり、生成AI事案の裁判例はまだ存在しません。断定調の報道や解説には注意が必要です。

実務者が押さえるべきポイントを改めて整理します。

  • 有名人・声優の声を再現した音源をSNSで公開・収益化する行為は、第1類型(独立鑑賞の対象となる商品等)としてパブリシティ権侵害と評価される可能性が高い
  • 「AI音声です」の明示は免罪符にならない。 パブリシティ権では識別性を肯定する方向に働き、不競法2号は混同を要件としないため打消し表示が効かない
  • 人が行うものまね・声まねは原則セーフ。 ただし演者名を隠して本人と誤解される場合は例外
  • 一般人の声も守られる。 性的・侮辱的な利用は顧客吸引力の有無にかかわらず人格権の問題になる
  • AI音声サービスの提供側も無関係ではない。 著名人の声を作れることを売りに有償提供すれば侵害と評価され得るし、共同不法行為の可能性もある
  • 削除請求はプラットフォーム事業者にもできると明記された
  • 相続性・譲渡性・学習行為の評価は未決着で、不競法改正の議論も続く

まずは自社の音声コンテンツの棚卸しと、外注契約・利用規約の点検から始めるのが現実的です。指針の原文は 法務省の検討会ページ から全文を確認できます。具体的な事案の判断は法的な検討を要するため、実際の対応にあたっては弁護士等の専門家にご相談ください。

※ 本記事は2026年8月9日時点で確認できる公表情報にもとづく解説であり、個別事案に対する法的助言ではありません。

この記事の著者

AI革命

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編集部

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