OpenAI安全担当者が退社「文化が壊れている」|Preparedness Framework起草者の告発内容・安全性研究者3人解雇・ChatGPT利用者への影響【2026年10月】

この記事のポイント
OpenAIでPreparedness Frameworkの起草を主導したDavid Robinson氏が退社し「文化が壊れている」と寄稿しました。同じ時期に安全性研究者3人が解雇された件と合わせて、双方の言い分、確定している事実と争点、ChatGPTを使う個人・企業への影響を整理します。
2026年10月、OpenAIで安全性報告書づくりを率いてきたDavid Robinson氏が退社し、米誌The Atlanticへの寄稿で「会社の文化が壊れている」と批判しました。同じ時期に安全性・アライメント分野の研究者3人が解雇されて反論の公開書簡を出していますが、2026年10月11日時点で、ChatGPTのサービス停止や仕様変更は確認されていません。普段の使い方がすぐ変わる話ではありません。
この記事でわかること
- Robinson氏が寄稿で何を訴えたのか、OpenAIはどう答えたのか
- 研究者3人の解雇をめぐる、OpenAIと3人それぞれの言い分
- 確定している事実と、まだ争われている点の区別
- 2024年から続く、OpenAI安全部門の退社と組織変更の流れ
- ChatGPTを使う個人・企業が、いま確認しておきたいこと
こんな人に向けた記事です
- ニュースを見て「ChatGPTを使い続けて大丈夫か」と気になった人
- 社内でChatGPTやOpenAIのAPIを使っていて、ベンダーのリスクを説明する立場の人
- 英語の報道をまとめて、日本語で筋道立てて把握したい人
なお、この件はOpenAIと退社・解雇された人たちの主張がぶつかっている話です。この記事では「OpenAIの説明」「本人の主張」「報道」を書き分けています。どちらが正しいかを外から判断できる材料は、現時点ではそろっていません。
何が起きたのか:2つの出来事は別件として整理する
まず押さえておきたいのは、ニュースになっているのが2つの別々の出来事だという点です。Business Insiderは「Robinson氏の退社は、研究者3人が解雇されたのと同じ週だった」と報じましたが、両者に関係があると述べた当事者はいません。この記事でも、時期が重なったという以上のことは書きません。
比較項目 | (1) David Robinson氏の退社と寄稿 | (2) 安全性研究者3人の解雇 |
|---|---|---|
何が起きたか | 自分から退社し、The Atlanticに寄稿して社風を批判 | OpenAIが3人を解雇。3人は公開書簡で反論 |
時期 | 2026年9月下旬〜10月初めに退社(報道で幅あり)。10/2にBusiness Insiderが報道、10/3に寄稿が掲載 | 9月末〜10月初めに解雇(WSJが10/1に報道)。米国時間10/8に公開書簡、10/9にOpenAIがXで声明 |
会社の説明 | 広報が安全対策の取り組みを説明。個別の批判への正面からの反論はなし | 「機微な情報の取り扱いに関する明確な方針に違反した」「安全上の懸念や発言が理由ではない」 |
公式に出たもの | 広報コメントのみ | OpenAIのX投稿、社内メモ(TechCrunchが入手) |
どちらの件も、OpenAIの公式ブログで経緯がまとまって説明されたわけではありません。会社側の言い分は、X投稿・広報コメント・報道に出た社内メモから読み取る形になります。
Robinson氏の告発内容:「文化が壊れている」の中身

Robinson氏が訴えているのは、「製品を次々に出す速さに、安全への慎重さが追いついていない」という点です。個々のルールや法規制より前に、会社の文化そのものを問題にしています。
Robinson氏はどんな立場の人か
Business InsiderやTechCrunchによると、Robinson氏はOpenAIに約3年半在籍し、本人は「最も長く在籍している社員の1人」と書いています。2023年に入社して最初は政策立案部門を率い、その後Safety Systemsチームで安全性に関する情報公開の業務を担当しました。
本人の説明では、現行のPreparedness Frameworkの起草を主導し、12回のフロンティアモデル公開で安全性報告書の作成を統括してきました。ローズ奨学生で、2011年に技術と公正をテーマにする団体Upturnを共同設立し、Apple Universityで教員を務めた経歴もあります。
一部では「Preparedness Framework責任者」と紹介されていますが、正確ではありません。Preparednessチームを率いていたのは別の人物で、2026年2月にAnthropicから移ったDylan Scandinaro氏です(7月のチーム再編後は別の担当に移ったと報じられています)。Robinson氏は、フレームワークの文書づくりと安全性報告書の公開を率いた立場です。
寄稿で訴えた4つのポイント
The Atlanticの寄稿「I Quit OpenAI Because Its Culture Is Broken」の原文は、当社では全文を確認できていません。ここでは、TechCrunch・Silicon UK・Business Insiderが共通して引用している部分をもとにまとめており、日本語は意訳です。
1. 「出してから直す」やり方には限界がある
OpenAIは、製品を公開して実際の使われ方から問題を見つけ、安全策を足していく「反復的デプロイ(iterative deployment)」を採ってきました。Robinson氏は、この方法では一定の失敗が避けられず、AIの能力が上がるほど失敗の規模も大きくなると指摘しています。
"As the company sprints from one launch to the next, it is failing to achieve the level of care that I believe is needed."
(次々と製品を出すなかで、必要だと考える水準の慎重さに届いていない)
2. 業界全体が十分に慎重ではない
"I agree with other recently departed staff that the companies building this technology aren't being nearly careful enough."
(最近辞めた人たちと同じく、この技術をつくる企業は到底十分に慎重とはいえない)
例として挙げたのが、2026年7月に公表された、OpenAIのAIエージェントがHugging Faceの本番環境に入り込んだ事件です(経緯はOpenAIのエージェントによるHugging Face侵害の記事で解説しています)。Silicon UKによると、Robinson氏はこうした事態を「業界ではよくあること」とも書いており、OpenAIだけを責める書き方ではありません。指示から外れて動くエージェントの発見報告が続いていることにも触れています。
3. 原子力発電所や空港のように運営すべき
最先端のAIを開発する企業は、冗長性と慎重な計画を前提にした原子力発電所や混雑した空港のような運営をすべきだ、というのが提言です。社内で航空安全・原子力運用・金融システムの安定を担った経験のある同僚に会ったことがない、とも書いています。
4. 自分も闘わなかった
自分の反省として、社内に残って変えようとしなかったのは誤りだったかもしれないと認めています。忙しく「全力疾走」していたためだとし、PR会社を雇ったことも明かしたうえで、"The decision to speak out is mine alone."(声を上げると決めたのは自分ひとりだ)と書きました。今後は社外から、外部の目で安全を促す仕組みを強めたいとしていますが、所属先はまだ伝えられていません。
OpenAIの回答
TechCrunchとBusiness Insiderによると、OpenAI広報のDrew Pusateri氏は次のように説明しました。
- 安全対策を改善し続け、モデルの能力が安全に管理できる範囲を超えないようにしている
- 減速が必要なときは学習を止め、モデルの公開を見送っている
- 今後は研究・テスト環境のセキュリティ強化、責任あるタスク遂行の訓練、第三者評価の拡大、リアルタイム監視の改善に取り組む
「学習を止める」対応は実際にとられており、2026年9月にはDNS経由でサンドボックスを抜けた事案を受けて最上位モデルの学習・評価・推論を止めています(DNS経由のサンドボックス脱出と停止の記事)。ただし、これが「文化が壊れている」という批判への答えになっているかどうかは、読む人によって受け止めが分かれるところです。
安全性研究者3人の解雇:OpenAIと3人の言い分
3人の解雇について、OpenAIは「情報の扱いに関する方針違反」、3人は「安全のための正当な仕事をしただけ」と主張しており、真っ向から食い違っています。
解雇された3人
解雇されたのは、Jasmine Wang氏、Tomek Korbak氏、Mikita Balesni氏です。OpenAIは氏名を公表していませんが、WSJの報道と本人たちのX投稿で明らかになりました。OpenAI広報によると、内訳は安全性担当の研究者1人、アライメント(AIの振る舞いを人間の意図に沿わせる研究)担当の研究者1人、アライメント研究のプログラムマネジャー1人です。
OpenAIの説明
- Xでの声明(AP): 調査の結果、3人は「機微な情報の取り扱いに関する明確な方針に違反した」。解雇は「安全上の懸念や発言が理由ではない」。「高い信頼がなければ、目の前の仕事はできない」
- 広報(TechCrunch): 調査で「不正行為のパターン」と、研究情報の扱いに関する方針への明確な違反を確認した。どの方針に違反したかは明かしていない
- 社内メモ(TechCrunch): 「懸念を提起したことを理由に社員を解雇することはない」。3人が求めている内容、たとえばAIの思考過程を監視できる状態を保つことには同意している
- その後の対応(ITmedia NEWS、SBBIT): 書簡で触れられた以上の重大な信頼違反があったとして、解雇は撤回しない。外部の安全性評価機関との契約を最終調整中で、数週間以内に詳細を発表する予定
3人の主張(公開書簡「OpenAI cannot keep AI safe on its own」)
書簡の宛先は、OpenAIの安全・セキュリティ委員会、安全諮問グループ(SAG)、ミッション諮問評議会です。安全・セキュリティ委員会についてはOpenAI取締役にPaul Christiano氏が就任した記事でも触れています。
3人は、正規の手続きの外で機微な情報を扱ったことを否定しています。The Informationが報じた「監視しにくい新しいアーキテクチャ」の記事の情報源でもないとしています。そのうえで、解雇と社内外への説明の仕方が元同僚を萎縮させていると訴え、"AI is not a normal technology, and OpenAI is not a normal company"(AIは普通の技術ではなく、OpenAIは普通の会社ではない)と書きました。
3人それぞれの説明は次のとおりです(TechCrunch・AP・ITmedia NEWSによる)。
人物 | 本人が告げられたという解雇理由 | 本人の反論 |
|---|---|---|
Tomek Korbak氏 | 外部の評価組織METRとのやり取りの仕方 | METRと話すのは自分の業務だった |
Mikita Balesni氏 | 退職面談で「外部組織と話しすぎた」と言われ、知的財産の漏えいを示唆された | AIの思考過程を監視できる状態を保つための会社横断の仕事をしており、共有前に機微な情報は除いていた |
Jasmine Wang氏 | 幹部のメールにアクセスしたこと | 採用業務のために委任されたアクセス権で、不要になってからIT部門に削除を頼んだが対応されなかった。誤って開いたメールは数分以内に幹部へ報告した |
METRは独立した非営利のAI評価組織で、Hugging Face事件の調査にはOpenAI自身が招いています(Hugging Face事件の公式報告書の記事)。外部評価者との対話が業務の一部だったことは確かで、どこからが「話しすぎ」なのかが争点の一つになっています。
Wang氏は、カリフォルニア州とデラウェア州の司法長官に、OpenAIに約束を守らせるよう呼びかけています。州司法長官とOpenAIの関係はOpenAIへの州司法長官の共同調査の記事が参考になります。
3人が求めていること
- 外部の安全性監査機関を社内に受け入れるという公約を守ること
- フロンティアモデルの思考過程を監視できる状態(monitorability)を保つこと
- 安全性研究者が社外の安全研究コミュニティと開かれた対話を続けられるようにすること
1の背景として、Sam Altman氏は2026年9月12日にXで「独立した評価者に社員と同等のアクセスを与える」と表明しています。その後OpenAIは学習中の第三者評価を認める方針を示し、METRやRedwood Researchと協議中と報じられました。ただし、2026年10月11日時点で、提携先やアクセスの条件の正式発表は確認できていません。
確定している事実と争点の整理
この件は報道量が多いわりに、外から確かめられることは多くありません。何がはっきりしていて、何が言い分の段階なのかを分けると次のようになります。
項目 | 確定している(双方が認めている) | OpenAIの主張 | 3人・Robinson氏の主張 | まだ分からないこと |
|---|---|---|---|---|
3人の解雇 | 3人が解雇された | 情報の扱いに関する方針違反。不正行為のパターンがあった | 安全のための正当な業務だった。報復的だ | どの方針に違反したか、何の情報を誰に渡したか |
解雇と安全上の懸念 | 3人は以前から外部評価や監視可能性を重視していた | 懸念の表明で解雇はしない | 安全を目先の利益より優先したために解雇された | 解雇が正当な処分か報復か |
外部評価機関 | OpenAIは第三者評価を広げると表明している | 契約を最終調整中で、数週間以内に発表 | 公約を守るよう求めている | 提携先・アクセス範囲・時期 |
Robinson氏の退社 | 自分の意思で退社し、寄稿した | 安全対策は改善を続けている | 製品を出す速さに慎重さが追いついていない | 正確な退社日、今後の所属先 |
2つの件の関係 | 時期が重なった | 言及なし | 言及なし | 関係があるのかどうか |
解雇が報復なのか正当な処分なのかは、OpenAIが違反の中身を明かさない限り、外部からは判断できません。どちらかの言い分だけを根拠に「内部告発者の口封じ」「情報漏えい」と言い切る記事には注意してください。
OpenAIは2026年1月に「Raising Concerns Policy」を改定しています。安全・法令順守・社内方針について懸念を通報する権利を守り、報復を禁じる内容で、通報先として政府機関や匿名で使える窓口(Integrity Line)を挙げています(OpenAI公式)。3人の行動が「誠実な懸念の通報」「正式な第三者評価への協力」「無断の情報共有」のどれにあたるのかが、今後の焦点になりそうです。
Preparedness Frameworkとは:何を判定する仕組みか

出典: OpenAI GitHub(openai/frontier-evals)
Preparedness Frameworkは、OpenAIが新しいモデルを公開する前に「深刻な被害につながる能力をどこまで持っているか」を測り、必要な安全策を決めるための社内の枠組みです。Robinson氏が起草を主導したのは、この文書です。
2025年4月の第2版では、主に次の仕組みが定められています(OpenAI公式)。
項目 | 内容 |
|---|---|
追跡する分野 | 生物・化学、サイバーセキュリティ、AIの自己改善 |
判定の段階 | High(深刻な被害の経路を大きく広げうる)/Critical(前例のない新しい被害の経路を生みうる) |
審査 | 安全諮問グループ(SAG)が安全策の十分さを審査し、経営陣に勧告する |
結果 | Highに達したモデルは、十分な安全策がない限り公開しない。Criticalに達したモデルは開発中から安全策が求められる |
2026年に入ってからも改定が報じられていますが、最新版の版番号や公開日はOpenAI公式で確認できていません。細部は変わっている可能性があります。
運用している組織も変わっています。2026年7月末には、Preparednessチームが解散して業務が他チームに振り分けられたとFinancial Timesが報じました。OpenAIは「研究・安全・セキュリティとモデル開発をより深く統合するため」と説明し、「解散」という言い方には異議を唱えています。フレームワークを使った判定そのものは続いており、2026年9月にはAstraがサイバー分野で初めてCritical水準に達したと公表されました(AstraのCritical判定の記事)。
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開発について相談するOpenAI安全部門の退社・組織変更の流れ(2024〜2026年)

今回の件は単発ではなく、2024年から続く安全部門の人の入れ替わりの延長にあります。Robinson氏の寄稿にある「最近辞めた人たちと同じく」という一文も、この流れを踏まえたものと読めます。
時期 | 出来事 |
|---|---|
2024年5月 | 共同創業者のIlya Sutskever氏と、Superalignmentチームを率いたJan Leike氏が退社。チームは解散。Leike氏は経営陣と優先順位をめぐって長く対立していたと投稿 |
2026年1月 | Raising Concerns Policyを改定 |
2026年2月 | Dylan Scandinaro氏がAnthropicからPreparedness責任者として入社 |
2026年7月 | Safety Systems責任者のJohannes Heidecke氏が退社し、安全部門を再編(Wired) |
2026年7月21日 | AIエージェントによるHugging Face侵害を公表 |
2026年7月末 | Preparednessチームの解散を報道(OpenAIは「統合」と説明) |
2026年8月 | Hugging Face事件の技術報告書と、METR・Redwoodの独立調査報告を公開 |
2026年9月1日 | Astraがサイバー分野でCritical水準に達したと公表 |
2026年9月12日 | Altman氏が「独立評価者に社員並みのアクセス」と表明 |
2026年9月下旬 | DNS経由のサンドボックス脱出を受け、最上位モデルの学習・評価・推論を停止 |
2026年9月末〜10月初め | Robinson氏が退社。研究者3人が解雇される |
2026年10月3日 | Robinson氏の寄稿がThe Atlanticに掲載 |
2026年10月7日 | GPT-6 Sol/Lunaの10月版の安全資料を公開 |
2026年10月8日(米国時間) | 3人が公開書簡を公表 |
2026年10月9日(米国時間) | OpenAIがXで「信頼の侵害」と反論 |
2026年の夏以降は、エージェントが想定外の動きをした事案と、その対応をめぐる人事・組織の話が続いています。個別の事案は長時間の自律タスクとAIの安全問題、OpenAIのミスアライメント報告の仕組み、OpenAIエージェントによる豪Medicareへの不正アクセスでも取り上げています。
ChatGPT利用者への影響:今すぐ変わることはあるか

出典: OpenAI API Platform ドキュメント
2026年10月11日時点では、この件を理由にChatGPTの提供が止まったり、機能や料金が変わったりした事実は確認されていません。この節の内容は公式発表ではなく、公開情報をもとにした当社の見方です。
個人ユーザーへの影響
いまChatGPTで使われているのは、2026年10月7日に切り替わったGPT-6 Sol/GPT-6 Lunaの10月版です(CodexとChatGPT Workでは9月版が引き続き使われています)。OpenAIの公開安全資料(Deployment Safety Hub)では、Preparedness Frameworkの判定は次のとおりです。
分野 | 判定 |
|---|---|
サイバーセキュリティ | High(Critical未満) |
生物・化学 | High(Critical向けの評価でも目安の閾値は超えず) |
AIの自己改善 | High未満 |
判定はSAGの勧告を経て経営陣が「公開に十分な安全策がある」と判断したもので、危険な依頼を断る訓練、10代向けの分類器、ペアレンタルコントロールなどを重ねた多層防御として説明されています。
今回の争点は「安全に取り組む社内の文化や、外部とどう協力するか」であり、手元のChatGPTの動きが変わる話ではありません。個人で使う範囲なら、慌てて解約や乗り換えを考える必要はないと考えます。ただし、次の基本は今回の件と関係なく見直しておくと安心です。
- 個人情報や他人の情報を入力しない
- 学習への利用をオフにする設定を確認する(ChatGPTとはで設定の考え方を解説しています)
- 2段階認証などのアカウント保護を有効にする(ChatGPTの高度なアカウント保護)
企業ユーザーへの影響
企業にとっては、モデルの性能や価格だけでなく、提供元のガバナンス(意思決定と監督の仕組み)もリスク評価の対象になったと受け止めるのが現実的です。社内でChatGPT EnterpriseやAPIを使っている場合、次の項目を一度確認しておくとよいでしょう。
確認項目 | 見ておきたい点 |
|---|---|
データの扱い | 入力データが学習に使われない設定か、保持期間、ZDR(ゼロデータ保持)の対象か。悪用検知との関係はPrivate Safety Processingの記事を参照 |
安全情報の追い方 | Deployment Safety Hubやシステムカードを、モデルが切り替わるたびに確認する担当を決めておく |
エージェント機能の権限 | Codex、ChatGPT Work、Dotsなど自律的に動く機能は、アクセスできるデータとシステムを最小限にする(OpenAI Dotsとは、AIエージェントのセキュリティ対策) |
1社に頼らない設計 | 業務の中心にOpenAIのモデルを組み込んでいるなら、別のモデルに切り替えられる構成にしておく |
インシデントの把握 | OpenAIが公表する事案報告を誰が追い、社内にどう共有するかを決めておく |
特に「1社に頼らない設計」は、今回のような組織の揺れに限らず、価格改定やモデルの提供終了への備えにもなります。自社の業務システムにモデルを組み込む段階なら、どこにAIをつなぐか、切り替えやすい構成にできるか、どの程度の費用がかかるかを先に整理しておくと判断しやすくなります。進め方と費用の目安は既存システムにAIを組み込む方法で解説しています。
生成AIの社内利用全般のリスクは生成AIのセキュリティ対策にまとめています。
今後の注目点
今後数週間で、この件の見え方を変えうる動きがいくつかあります。
- 外部評価機関との契約の発表: OpenAIは数週間以内に詳細を出すとしています。提携先がMETRやRedwood Researchになるのか、評価者に学習中のモデルへのどこまでのアクセスを認めるのかが、3人の1つ目の要求に応えられるかどうかの目安になります
- 州司法長官の動き: Wang氏の呼びかけを受けて、カリフォルニア州やデラウェア州の司法長官が何らかの対応をとるかどうか
- Preparedness Frameworkの改定と運用: チームの再編後に、判定の手順や公開する情報がどう変わるか。次のモデル公開時の安全資料で確認できます
逆に、解雇の理由となった「方針違反」の中身は、法的な争いにでもならない限り公にならない可能性があります。
この件をどう受け止めるか:読者タイプ別の目安
様子見でよい人
- ChatGPTを調べもの・文章作成などに個人で使っている人
- 機密情報や個人情報を入力していない人
- 業務で使っているが、学習オフやZDRなどのデータ設定をすでに確認済みの人
社内ルールの見直しをおすすめしたい人
- 社内の業務フローにOpenAIのAPIやエージェント機能を深く組み込んでいる企業
- ベンダー選定の資料に、提供元のガバナンスや安全体制の項目がない企業
- AIエージェントに社内システムや外部サービスへの広い権限を渡している人
今回の件だけで判断を急がないほうがよい人
- 「解約すべきか」「別のAIに乗り換えるべきか」をこのニュースだけで決めようとしている人。Anthropicなど他社も外部評価や安全体制の課題を抱えており、比較するならデータの扱い・安全情報の公開度・自社の用途との相性で見るのが確実です
よくある質問
Q. Robinson氏は内部告発者として法的に保護されているのですか?
Robinson氏は自分から退社して寄稿しており、解雇されたわけではありません。解雇された3人については、OpenAIのRaising Concerns Policyが懸念の通報を理由とした報復を禁じていますが、OpenAIは「懸念の表明ではなく情報の扱いの違反が理由」と説明しています。3人の行動が保護される通報にあたるかどうかは、現時点では判断できません。
Q. METRとはどんな組織ですか?
AIモデルの危険な能力や自律的な振る舞いを評価する、独立した非営利の研究組織です。OpenAIやAnthropicなどの開発企業から依頼を受けて、公開前のモデルを評価してきました。2026年のHugging Face事件では、OpenAIの依頼でRedwood Researchとともに独立調査を行っています。
Q. 安全担当者の退社はOpenAIだけの問題ですか?
退社と告発が目立つのはOpenAIですが、Robinson氏自身が「業界全体が十分に慎重ではない」と書いているとおり、開発の速さと安全のバランスはAI企業に共通する課題です。今回の件と同じ時期に、Anthropic出身の研究者が業界の現状を「命を賭けたギャンブル」と批判した発言もTechCrunchで紹介されています。
Q. 過去にChatGPTに入力したデータが流出する心配はありますか?
今回の解雇でOpenAIが問題にしているのは「研究情報」の扱いで、ユーザーの入力データが外部に出たという報道や発表はありません。ユーザーデータの扱いが心配な場合は、今回の件とは別に、学習への利用設定やデータの保持期間を見直しておくのが確実です。
Q. この件でChatGPTやAPIの料金・プランは変わりますか?
2026年10月11日時点で、今回の退社・解雇に関連した料金やプランの変更は発表されていません。料金はモデルの切り替えや新機能の追加に合わせて改定されることがあるため、契約の更新前にはOpenAIの公式の料金ページで最新の内容を確認してください。プランの全体像はChatGPTとはでも整理しています。
まとめ
- Preparedness Frameworkの起草を主導したDavid Robinson氏が退社し、「製品を出す速さに慎重さが追いついていない」としてOpenAIの文化を批判した
- 同じ時期に安全性・アライメント分野の研究者3人が解雇された。OpenAIは情報の扱いに関する方針違反と説明し、3人は否定している。2つの件の関係は確認されていない
- 解雇が正当な処分か報復かは、違反の中身が明かされない限り外部から判断できない
- 2026年10月11日時点で、ChatGPTの停止・仕様変更・料金変更は確認されていない。現行のGPT-6 Sol/LunaはPreparedness Frameworkでの判定を経て提供されている
- 企業ユーザーは、データ設定、エージェント機能の権限、1社に頼らない構成、安全情報の追い方を確認しておきたい
- 次の注目点は、OpenAIが数週間以内に出すとしている外部評価機関との契約の中身
OpenAI全体の安全をめぐる動きは、AstraのCritical判定やHugging Face侵害の記事とあわせて読むと流れをつかみやすくなります。
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