AIツール2026年7月更新

MicrosoftがGitHub Copilot・Excelを自社AI「MAI」に切り替え|狙い・品質・コスト・ユーザーへの影響【2026年7月】

公開日: 2026/07/28
MicrosoftがGitHub Copilot・Excelを自社AI「MAI」に切り替え|狙い・品質・コスト・ユーザーへの影響【2026年7月】

この記事のポイント

Microsoftは2026年7月23日、GitHub CopilotとExcelで自社AI「MAI」の本番投入を公式発表。狙いとトークン単価の差、公表された品質データ、ユーザーはMAIを選べるのか、情シスが確認すべき設定を公式情報ベースで整理します。

Microsoftは2026年7月23日、GitHub CopilotとExcelのCopilot処理の一部を、自社開発AIモデル「MAI」に本番投入していると公式発表しました。 OpenAI・Anthropicのモデルが排除されたわけではなく、現時点では「日常的で軽いタスクは安価な自社MAI、難易度の高いタスクはGPT・Claudeを併用」という使い分けに移行しつつある、というのが実態です。

この記事では、Bloomberg報道(7月7日)とMicrosoft公式発表(7月23日)で対象アプリの記述が食い違っている点を切り分けたうえで、切り替えの狙い・公表された品質データ・トークン単価の実差・ユーザーや管理者への具体的な影響を整理します。

この記事でわかること:

  • 何がいつ、どの製品で切り替わったのか(公式/報道/未確認の三層で整理)
  • Microsoftが自社モデルに寄せる理由と、その金額的インパクト
  • GitHub Copilotのモデル別トークン単価の横並び比較
  • ユーザーはMAIを選べるのか、避けられるのか(製品別の可否)
  • 情シス・管理者が今日確認すべき設定と、法務レビュー上の論点

Microsoft 365 CopilotやGitHub Copilotを業務で使っている方、社内のAI利用ポリシーを管理している情シス・法務の方に向けた記事です。

何が変わり、何が変わっていないのか

変わったのは「裏側でどのモデルが処理しているか」であり、料金体系も他社モデルとの併用体制も現時点では据え置きです。

  1. 変わったこと:GitHub Copilot(MAI-Code-1-Flash)とExcelのCopilotで、Microsoft自社モデルが本番トラフィックを処理し始めた。Microsoft公式が2026年7月23日に明言。
  2. 変わっていないこと:OpenAI・Anthropicのモデルは引き続き併用されている。Microsoft 365 Copilotの料金体系も、MAI切り替えを理由とした変更は現時点で発表されていない。
  3. 注意が必要なこと:Microsoft 365 Copilot側では、ユーザーがMAIを明示的に選ぶことも避けることもできず、どのモデルが回答したかも表示されない。品質データはすべてMicrosoftの自社測定であり、第三者検証は現時点で存在しない。

つまり「同じ料金のまま、裏側のモデルが安いものに置き換わりつつある」という構図です。ここをどう評価するかが、この件の実務上の争点になります。

何が起きたのか:報道と公式発表の時系列を分ける

GitHub Copilot・Excel・MAIの3つのカードが並ぶMicrosoft AI公式発表のイメージ

出典: Microsoft AI 公式サイト

この件は「Bloombergのスクープ(7月7日)」と「Microsoftの公式発表(7月23日)」という2つの出来事が重なっており、対象アプリの記述が一致していません。 日本語メディアでも「ExcelとOutlook」「ExcelとWord」「GitHub CopilotとExcel」と表記が割れているため、情報源ごとに分けて確認します。

時点

情報源

対象アプリ

内容

2026年7月7日

Bloomberg(報道ベース)

Excel・Outlook

Copilotプロンプトの一部を自社MAIへルーティング開始。週あたり数万件(tens of thousands)をMAIが処理。全体に占める割合はまだ小さい。Microsoft広報はコメントを拒否

2026年7月23日

Microsoft AI公式ブログ(公式ベース)

GitHub Copilot・Excel

両製品でのMAIモデル本番投入を公式化。今後Copilot Chat・Outlook・PowerPointへ拡大予定と明記

整理すると、Microsoftが公式に認めたのは「GitHub CopilotとExcel」の2つです。Outlookは公式ブログでは「今後拡大予定」に分類されており、すでに稼働しているという情報は現時点ではBloomberg報道が根拠になります。マイナビニュースなど一部の日本語報道にある「ExcelとWord」という記述は、他のソースと一致していないため根拠として扱わない方が安全です。

そこに至るまでの経緯

MAIモデルは突然出てきたわけではなく、2026年6月のMicrosoft Build 2026で発表された7モデルの延長線上にあります。

日付

出来事

2025年10月28日

Microsoft・OpenAIの新契約。IPライセンスを2032年まで延長し非独占化。Microsoftの優先交渉権が消滅

2026年5月4日

Word/Excel/PowerPointのCopilotでAnthropicモデルが既定有効化(EU/UK除く)

2026年6月1日

GitHub Copilotが使用量ベース課金(GitHub AI Credits)へ移行

2026年6月2〜3日

Microsoft Build 2026で7つのMAIモデルを発表。MAI-Code-1-FlashがVS Codeでロールアウト開始

2026年6月26日

MAI-Code-1-FlashがCopilot Business / EnterpriseでGA(管理者ポリシーの有効化が必要)

2026年7月7日

BloombergがExcel/OutlookのMAIルーティングを報道

2026年7月9日

GPT-5.6がWord/Excel/PowerPoint/Chat/Coworkの推奨モデルに

2026年7月23日

Microsoft AI公式ブログでGitHub Copilot・Excelへの本番投入を公式化

注目すべきは、わずか2か月前の2026年5月にClaudeがMicrosoft 365 Copilotの既定モデルとして有効化されたばかりだという点です。その直後に自社モデルへのルーティングが始まった形になります。この経緯はClaude Opus 4.7がMicrosoft 365 Copilotのデフォルトになった件の解説と合わせて読むと、Microsoftのモデル戦略の振れ幅が見えやすくなります。

MAIとは何か:Microsoft自社開発のモデル群

Microsoft自社開発モデル群「MAI」のロゴが表示された公式イメージ

出典: Microsoft AI 公式サイト

MAI(Microsoft AI models)は、Mustafa Suleyman氏が率いるMicrosoft AI部門が自社開発した基盤モデル群の総称です。 2026年6月のBuild 2026で7モデルが一挙に発表されました。

モデル

用途

公式が挙げる主な特徴

MAI-Thinking-1

推論(フラッグシップ)

スパースMoE構成、アクティブ35B/総パラメータ約1T、コンテキスト256Kトークン

MAI-Code-1-Flash

エージェント型コーディング

アクティブ5Bの小型モデル。GitHub Copilot専用ハーネスで学習

MAI-Image-2.5 / 2.5-Pro

画像生成・編集

Arenaの画像編集部門で2位(Microsoft発表時点)

MAI-Transcribe-1.5

音声文字起こし

43言語対応、競合比5倍高速と主張

MAI-Voice-2

音声合成

15言語対応。短い音声サンプルから声を学習

MAI-Cyber-1-Flash

セキュリティ

MicrosoftのMDASHに組み込み

今回Copilotに投入されているのは、このうちMAI-Code-1-Flash(GitHub Copilot向け)と、そのチェックポイントを起点にExcelの操作・業務ワークフローで追加学習したExcel特化モデルです。Excel向けモデルの正式なモデル名は、現時点で公式に公開されていません。

各モデルの詳細スペックはMicrosoft MAI-Thinking-1の解説記事、発表の場となったイベント全体の内容はMicrosoft Build 2026まとめで整理しています。

「Hill-Climbing Machine」という考え方

Microsoftは今回の発表で「hill-climbing machine(丘を登り続ける機械)」という自社用語を使っています。これは単一の高性能モデルではなく、計算資源・データ・評価手法を投入するほど継続的に改善が回る学習パイプラインと組織を指す表現です。

Microsoftの主張の核は、「モデル・実行環境(ハーネス)・エージェント・評価をすべて自社で持っているため、実際の製品ワークフローそのものを使って強化学習を回せる」という点にあります。GitHub CopilotとExcelへの投入は、その主張の実証事例という位置づけです。

なぜ自社モデルに切り替えるのか:狙いはコスト

最大の理由は推論コストの削減です。 Microsoft AI CEOのMustafa Suleyman氏は2026年6月、Anthropicへの支払いについて「我々の目標はそのコストを削減し、最終的にはゼロにすることだ」と明言しています。

背景にある3つの事情

1. 規模がそのままコストになる構造

Microsoft 365は数億ユーザー規模です。全プロンプトを外部APIに投げれば、推論コストが直接収益を圧迫します。ユーザー数が増えるほど赤字が膨らむ構造を、自社モデルで断ち切りたいという動機があります。

2. OpenAIとの契約条件の変化

MicrosoftはOpenAIとの長年のパートナーシップにより割引価格でモデルを利用してきましたが、Bloombergは「その取り決めの時計は進んでいる」と指摘しています。2025年10月の契約改定でIPライセンスは2032年まで延長された一方、非独占化され優先交渉権も消滅しました。契約の詳細はOpenAI×Microsoft新パートナーシップの解説で整理しています。

3. Anthropic側の値下げ余地の縮小

Anthropicは2026年Q2に初の営業黒字(売上約109億ドル、営業利益約5.59億ドル)を計上しました。交渉相手として値引きを引き出しにくくなったという見方があります。

業界全体の流れでもある

TechCrunchは本件を「AIコスト削減トレンドへのMicrosoftの参入」と位置づけ、Amazon・Uber・Meta・Accentureなど大手でも同種の支出抑制が広がっていると報じています。企業がAI予算の超過に直面している実態は企業AIコスト問題2026の記事でも扱っています。

コストはどれだけ違うのか:GitHub Copilotのトークン単価比較

GitHub Copilotの料金・モデル情報を掲載するGitHub Docs公式ページのイメージ

出典: GitHub Docs 公式

GitHub Copilotではモデル別のトークン単価が公開されているため、MAIに切り替える経済合理性を数字で確認できます。 2026年6月1日から使用量ベース課金(GitHub AI Credits、1クレジット=$0.01)へ移行しており、消費トークンがそのまま費用に直結する構造です。

提供元

モデル

入力($/1Mトークン)

キャッシュ入力

出力($/1Mトークン)

Microsoft

MAI-Code-1-Flash

$0.75

$0.075

$4.50

OpenAI

GPT-5.4 mini

$0.75

$0.075

$4.50

OpenAI

GPT-5.4

$2.50

$0.25

$15.00

OpenAI

GPT-5.6 Luna

$1.00

$0.10

$6.00

OpenAI

GPT-5.6 Terra

$2.50

$0.25

$15.00

OpenAI

GPT-5.6 Sol

$5.00

$0.50

$30.00

Anthropic

Claude Haiku 4.5

$1.00

$0.10

$5.00

Anthropic

Claude Sonnet 4.6

$3.00

$0.30

$15.00

Anthropic

Claude Opus 4.6〜4.8 / Opus 5

$5.00

$0.50

$25.00

Google

Gemini 3.6 Flash

$1.50

$0.15

$7.50

Google

Gemini 3.1 Pro

$2.00

$0.20

$12.00

(出典:GitHub Docs「Models and pricing for GitHub Copilot」、2026年7月28日時点)

単価を横並びにすると、MAIの立ち位置がはっきりします。

  • MAI-Code-1-FlashはGPT-5.4 miniと同額。単価だけを見れば「劇的に安い」わけではありません。
  • Claude Haiku 4.5と比べると入力25%安・出力10%安。同じ軽量クラスでの比較では確かに優位です。
  • Claude Opus 4.8と比べると入力で約6.7分の1、出力で約5.6分の1。Opus級を使っていたワークロードをMAIに寄せられれば、削減幅は大きくなります。

さらにMicrosoft公式は「トークン消費量の中央値がGPT-5.4 mini・Claude Haiku 4.5より約10%少ない」と発表しています。単価が同じでも消費量が減れば実効コストは下がる、という主張です。

AI Credits課金への移行内容と消費量の見方はGitHub Copilot使用量ベース課金の解説、各社の料金水準を横断的に比べたい場合は生成AI料金比較を参照してください。

インフラ側のコスト差

Excel向けMAIモデルについてMicrosoftは、NVIDIA H100およびA100世代のGPUで動作すると説明しています。競合モデルが最新世代アクセラレータを要求するのに対し、旧世代のGPU資産を活用できるため、展開コストが下がるという主張です。トークン単価に表れない部分でのコスト差になります。

品質は落ちるのか:公式データと第三者評価の乖離

Microsoftは本番利用データで「同等以上」と主張していますが、その数値はすべて自社測定であり、第三者検証は現時点で存在しません。 賛否が分かれているのはこの点です。

Microsoft公式が発表している数値

GitHub Copilot(MAI-Code-1-Flash)について、2026年7月23日の公式ブログでは以下が公表されています。

指標

内容

コード採択率

VS CodeにおいてGPT-5.4 mini・Claude Haiku 4.5より約10%高い

開発者の再利用率

GPT-5.4 mini比 +6%、Claude Haiku 4.5比 +11%(複数日にわたり再利用する割合)

トークン消費量

中央値で約10%少ない

SWE-Bench Pro

51.2%(Claude Haiku 4.5は35.2%、+16ポイント)

指示追従(IF Bench)

+28.9ポイント

Excelについては「最も一般的なタスクにおいてGPT-5.6と同等品質、かつ実行コストは低い」としています。

ベンチマークスコアではなくコード採択率・再利用率という実利用の行動指標を出している点は、少なくともGitHub Copilotの軽量タスクに関しては一定の説得力があります。

一方で指摘されている問題

  • 第三者ベンチとの乖離:フラッグシップのMAI-Thinking-1について、独立系ベンチマーク集計(BenchLM.ai)では124モデル中45位という評価があり、the-decoderは「OpenAI/Anthropicの競合に大きく劣る」と報じています。Microsoftの「Claude Opus 4.6と同等」という主張とは開きがあります。
  • 公式が認める弱点:MAI-Code-1-Flashは敵対的推論のうちEinstellung trap(固着効果の罠)系カテゴリで正答率50%未満と、Microsoft自身が記載しています。アクティブ5Bの小型モデルであり、フロンティア級のタスクは想定外です。
  • 「同じ価格で低性能」という批判:the-decoderは「Copilot顧客にとっては、同じ価格でより低性能なAIを受け取ることを意味しうる」と指摘。Office Watchは「どのモデルが答えたのかは決して分からない」「月ごとに挙動が変わり一貫性が損なわれる」と批判しています。

判断としては、「日常的な補完・要約・定型的な数式生成では体感差は出にくいが、複雑な設計判断や長い推論を要する作業では差が出る可能性がある」と見ておくのが現実的です。フロンティア級モデルの実力はClaude Opus 5の解説などと比較すると位置づけが掴めます。

ユーザーはMAIを選べるのか・避けられるのか

エディタ内でコード提案とチャットを行うGitHub Copilotの公式製品イメージ

出典: GitHub Copilot 公式サイト

製品によって可否が大きく異なります。GitHub Copilotは選択・回避が可能ですが、Microsoft 365 Copilot(Excel等)では現時点でどちらもできません。 ここが実務上いちばん重要な差です。

製品

一般ユーザーがMAIを選べるか

一般ユーザーがMAIを避けられるか

管理者が制御できるか

どのモデルが答えたか分かるか

GitHub Copilot(Free/Pro/Pro+/Max)

可能(モデルピッカーで明示選択)

可能(他モデルを明示選択)

分かる

GitHub Copilot(Business/Enterprise)

管理者がポリシーを有効化していれば可能

可能

可能(MAI-Code-1-Flashポリシーの有効/無効)

分かる

Excel の Copilot

不可(ピッカーにMAIが列挙されない)

不可

現時点で該当設定は公開されていない

分からない

Outlook の Copilot

不可

不可

同上

分からない

PowerPoint(画像生成)

可能(MAI Image 2.5 Flash / Flux.2 Flex / GPT-Imageを生成ごとに選択)

可能

分かる

Excel側の具体的な挙動

Microsoft公式ヘルプ「Choose your model when editing with Copilot in Excel」に列挙されているのは「最新のAnthropicおよびOpenAIのモデル」のみで、MAIは選択肢として表示されません。既定は「Auto(自動選択)」で、その選択ロジックは非公開です。さらにExcelを閉じるかセッションが終了するたびに設定はAutoへ戻ります。

つまり「常にClaudeを使う」「MAIを避ける」といった恒久的なユーザー設定は、現時点では存在しません。

GitHub Copilot側の注意点

モデルピッカーでMAI-Code-1-Flashを明示的に選ぶことも避けることもできますが、Autoピッカーを使っている場合は安価なMAIが選ばれやすい構造である点は意識しておく必要があります。逆に言えば、Business/Enterpriseでは管理者がMAIポリシーを有効化しない限り利用されないため、「当面は使わせない」という運用も選べます。

GitHub Copilotと他のコーディングAIの使い分けはClaude Code vs GitHub Copilot比較で整理しています。

情シス・管理者が今日確認すべきこと

通知なしに裏側のモデルが変わる以上、設定の現状把握とコストの実測が最初の一手になります。 具体的な確認項目は以下の通りです。

確認チェックリスト

対象

確認する場所

見るポイント

Microsoft 365 Copilot

Microsoft 365 管理センター「Copilot in M365 apps with Anthropic models」設定

Anthropicモデルの有効/無効。既定有効になっているか(EU/UKは無効)

Microsoft 365 Copilot

「AI providers for other large language models」の許可設定

外部プロバイダーの利用可否を組織として許可しているか

GitHub Copilot(Business/Enterprise)

Copilot設定の「MAI-Code-1-Flash ポリシー」

有効化されているか。検証が済むまで無効に留める選択も可能

GitHub Copilot

AI Creditsの消費モニタリング(2026年6月1日〜)

モデル別の消費傾向。切り替え前後で実コストがどう動いたか

社内AI利用規程

自社ポリシー文書

「利用モデルを特定できること」を要件にしているか。Excel側では現状満たせない

監査・再現性の観点

規制産業や監査対応が必要な業務では、「どのモデルがその出力を生成したか記録できない」こと自体がリスクになります。Microsoft Learnの「How does Microsoft 365 Copilot work?」には、顧客データがMicrosoft 365サービス境界内に留まること、サインインユーザーの権限範囲のデータにのみアクセスすること、条件付きアクセスとMFAを尊重することが記載されていますが、MAIやモデルルーティングに関する記述は現時点でありません。公式ドキュメント上のモデル開示は追いついていない状態です。

Copilotの権限設計やエージェント運用全般はMicrosoft 365 Copilotエージェントの解説Copilot Cowork の解説も合わせて確認すると、統制範囲を整理しやすくなります。

学習データを巡る論点:法務レビューで見るべき点

MicrosoftはMAIを「クリーンで商用ライセンス済みのデータで学習」と説明していましたが、技術論文にCommon Crawlの利用が記載されていたことが2026年6月に判明し、説明との整合性が問われています。

  • Build 2026でMicrosoftは、MAIモデルを「enterprise grade, clean and commercially licensed data」で、第三者モデルからの蒸留なしに学習したと説明。規制産業向けの訴求ポイントだった。
  • 2026年6月上旬、MAI-Thinking-1のプレプリントにCommon Crawlの利用が記載されていることが判明。重複排除・フィルタ後で約242億ページが追加されたとされる。
  • Common Crawlは商用ライセンス保証のないWebスクレイピングデータで、複数のAI著作権訴訟の中心にある。
  • Microsoftは「自社クローラはrobots.txtとオプトアウト制御を尊重している」と説明しているが、これは個々のパブリッシャーと締結したライセンスとは性質が異なる。

実務上の意味:メディア・出版・製薬・金融など、学習データ由来の権利リスクを厳しく見る業界では、「Microsoftの自社モデルだから安全」と単純に整理せず、生成物の権利リスク評価をモデル横断で行う必要があります。生成AI全般のセキュリティ観点は生成AIとはでも基礎から整理しています。

なお、Anthropicモデルを利用する場合の扱いについては、Microsoft Learnに「Anthropic models in Microsoft Online Services」としてサブプロセッサ関連の説明があります。2026年5月4日からWord/Excel/PowerPointでAnthropicモデルが既定有効化されていますが、EU/UKでは無効で、EU Data Boundary外での処理になる点は据え置きです。

料金は変わるのか:現時点の事実と今後の観測点

MAI切り替えに伴うMicrosoft 365 Copilotの値下げや料金体系変更は、現時点で発表されていません。 日本での価格(2026年7月時点、税抜)は以下の通りです。

プラン

年払い(1ユーザー/月相当)

月払い

Microsoft 365 Copilot Business(アドオン)

¥2,698

¥3,778

Microsoft 365 Business Standard + Copilot Business

¥3,523

¥4,228

Microsoft 365 Business Premium + Copilot Business

¥4,797

¥5,756

※ 年払い価格は2026年7月1日〜9月30日のキャンペーン価格を含みます。米国では2026年7月1日から1〜300席向けにBusiness Standard with Copilot $23.50/ユーザー/月、Business Premium with Copilot $32/ユーザー/月の新SKUが登場しています。

GitHub Copilot側のプラン構成は以下です。

プラン

月額

含まれるAI Credits

Copilot Free

$0

少量(限定)

Copilot Pro

$10

$10相当(1,500クレジット)

Copilot Pro+

$39

$39相当(7,000クレジット)

Copilot Business

$19/ユーザー

$19相当(2026年6〜8月は$30/月の販促クレジット)

Copilot Enterprise

$39/ユーザー

$39相当(2026年6〜8月は$70/月の販促クレジット)

※ 販促クレジットは期間限定です。コード補完とNext Edit suggestionsはAI Creditsを消費しません(全プラン共通)。

今後の観測ポイント

Satya Nadella氏は「per-userのビジネスはすべてper-user + usageのビジネスになる」と発言しており、M365 Copilot・Security Copilot・Dynamicsを含む全社的な従量課金移行を示唆しています。実際、Copilot Coworkは「M365 Copilotライセンス+Copilot Credits」の2階建て構造で2026年6月16日にGAしました。

ここから想定されるのは、安価なMAIを既定にし、OpenAI/Anthropicのフロンティアモデルを追加課金のプレミアムオプションとして提供するというシナリオです。ただしこれは現時点で公式には示されておらず、あくまで方向性からの推測です。

MAIで問題ない業務/フロンティアモデルを指定すべき業務

小型モデルであるMAIの得意領域と、GPT・Claudeを明示指定すべき領域を分けて運用するのが、現時点での実務的な落としどころです。

業務の性質

推奨

理由

コード補完・小さなリファクタ・テスト雛形生成

MAIで十分

公式データでコード採択率が同クラス比で高く、トークン消費も少ない

Excelの定型的な数式作成・表整形・簡単な集計

MAIで十分

公式が「最も一般的なタスクではGPT-5.6と同等」と主張する領域

議事録・メールの要約、下書き作成

MAIで十分

軽量タスクで体感差が出にくい

複数ファイルにまたがる設計変更・大規模リファクタ

フロンティアモデルを明示指定

5Bクラスの小型モデルは長い推論の一貫性で不利

複雑な財務モデル・多段階の条件分岐を含む分析

フロンティアモデルを明示指定

固着効果系の推論でMAIの弱点が公式に認められている

契約書・規程などの法務レビュー

フロンティアモデルを明示指定+人間レビュー

誤りの影響が大きく、モデル特定が必要になる場面がある

監査証跡が必要な業務

生成AIの利用範囲を限定

Excel側では利用モデルを特定・記録できない

影響が大きい組織・気にしなくてよい組織

影響が大きい・確認を急ぐべき組織

  • GitHub Copilot Business/Enterpriseで大規模に開発している企業 — AI Credits課金と組み合わさるため、モデル選択がそのまま月額に効きます。ポリシー設定とコスト実測の両方が必要です。
  • 規制産業・監査対応が必要な企業(金融・医療・製薬・公共) — 利用モデルを特定できないこと、学習データの権利リスクが評価しづらいことが、既存のAI利用規程と噛み合わない可能性があります。
  • AI出力の一貫性が業務品質に直結する部門 — 同じプロンプトでも時期によって裏側のモデルが変わるため、テンプレートやプロンプト資産の再検証が必要になる場合があります。
  • EU/UKにテナントを持つ企業 — Anthropicモデルが無効の地域であり、モデル構成が他地域と異なります。

現時点では気にしなくてよい組織

  • Excel・Outlookで軽い要約や定型処理にしかCopilotを使っていない企業 — 体感差はほぼ出ないと考えられます。
  • GitHub Copilotの用途がコード補完中心の個人・小規模チーム — コード補完はAI Creditsを消費せず、モデル選択の影響も限定的です。
  • Copilotをまだ本格導入していない組織 — 料金体系が従量課金へ移行する可能性があるため、むしろ導入時期の判断材料として押さえておけば十分です。

よくある質問

Q. OpenAIやAnthropicのモデルはCopilotから消えるのですか?

現時点では消えていません。Microsoftは「用途別に併用する」というスタンスを示しており、2026年7月9日にはGPT-5.6がWord/Excel/PowerPoint/Chat/Coworkの推奨モデルになっています。Anthropicモデルも2026年5月から既定有効化されたままです(EU/UK除く)。

Q. 自分のExcelがMAIで処理されたかどうかを確認する方法はありますか?

現時点ではありません。ExcelのCopilotには利用モデルの表示機能がなく、既定の「Auto」の選択ロジックも非公開です。

Q. MAIに切り替わったことでCopilotの料金は下がりますか?

Microsoft 365 Copilotについては、MAI切り替えを理由とした値下げは発表されていません。GitHub Copilotは使用量ベース課金のため、MAIを選ぶことでトークン消費が減れば実質的な支出は下がり得ます。

Q. MAI-Thinking-1はAPIで使えますか?

2026年7月28日時点では、Microsoft Foundryでのプライベートプレビュー段階です。Chat Completions API互換とされ、Fireworks AI・Baseten・OpenRouterなどのサードパーティ推論プロバイダ経由での提供も予定されていますが、公式の従量課金価格は未公表です。

Q. GitHub CopilotでMAIを使わせない運用は可能ですか?

可能です。Copilot Business/Enterpriseでは、管理者がCopilot設定で「MAI-Code-1-Flashポリシー」を有効化しない限り利用されません。個人プランではモデルピッカーで他モデルを明示選択します。

Q. Word でもMAIに切り替わったという報道を見ましたが本当ですか?

一部の日本語メディアが「ExcelやWord」と報じていますが、Microsoft公式が明言しているのは「GitHub CopilotとExcel」、Bloomberg報道は「ExcelとOutlook」です。Wordに言及したソースは他と一致しておらず、現時点では確認できていません。

まとめ

2026年7月23日のMicrosoft公式発表により、GitHub CopilotとExcelで自社AIモデル「MAI」が本番稼働していることが確定しました。狙いは明確にコスト削減で、Mustafa Suleyman氏はAnthropicへの支払いを「最終的にはゼロにする」と述べています。

実務上の押さえどころは、制御可否・品質データの出所・料金動向の3つです。

  1. GitHub Copilotは制御できる、Microsoft 365 Copilotは制御できない — 管理者ポリシーとモデルピッカーがある前者に対し、Excel側はMAIの選択も回避も表示もできません。
  2. 品質データはすべてMicrosoftの自社測定 — コード採択率+10%などの数値は本番の行動指標という強みがある一方、第三者検証はなく、フラッグシップの独立系評価では順位が低いという乖離があります。
  3. 料金は据え置きのまま裏側だけが変わった — 今後は「安価なMAIを既定、フロンティアモデルは追加課金」という従量課金化が進む可能性があり、コストの実測を始めておく価値があります。

Copilotの拡大は今後Copilot Chat・Outlook・PowerPointへ広がる予定と公式に明記されています。設定の現状把握と、業務ごとのモデル指定ルールの整備を、今のうちに進めておくのが現実的な対応です。

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この記事の著者

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編集部

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