AIツール2026年9月更新

AMD Helios(ヘリオス)とは?MI455X×72基のラックスケールAI基盤|NVIDIA GB300/Vera Rubinとの違い・価格・出荷時期を解説【2026年9月最新】

公開日: 2026/09/01
AMD Helios(ヘリオス)とは?MI455X×72基のラックスケールAI基盤|NVIDIA GB300/Vera Rubinとの違い・価格・出荷時期を解説【2026年9月最新】

この記事のポイント

AMDが2026年7月23日に正式ローンチしたラックスケールAIシステム「Helios」を整理。MI455X×72基/HBM4 31TBという構成、NVIDIA GB300 NVL72・Vera Rubin NVL72との比較、推計価格と調達ルート、日本企業がAzure・OCI経由で使う方法、ROCm移行の現実的なコストまで解説します。

AMD Helios(ヘリオス)とは、AMD Instinct MI455X GPU 72基と第6世代EPYC "Venice" CPU 18基を1本のラックに統合し、「ラック1本=1台のAIコンピュータ」として出荷するAIインフラ製品です。 2026年7月23日のAdvancing AI 2026で正式ローンチされ、AMDはこの時点で「フル生産(in production)」を宣言、2026年第3四半期末から初回顧客への出荷が始まっています。

GPUを1枚ずつ買う製品ではなく、NVIDIAのGB300 NVL72やVera Rubin NVL72(VR200 NVL72)と同じ土俵で戦う、データセンター向けの完成システムだと捉えると理解が早くなります。

この記事でわかること:

  • Heliosの構成と主要スペック(ラック単位/GPU単体の両方)
  • MI455X・MI440X・MI430Xという紛らわしい型番の違い
  • NVIDIA GB300 NVL72/Vera Rubin NVL72との比較ポイントと、ベンダー公表値の読み方
  • 価格(公式未公表・推計値の扱い)、調達ルート、出荷スケジュール
  • ラックを買えない日本企業がHeliosを使う3つの経路
  • ROCm移行・電力・冷却という導入前に潰すべき現実的な論点

こんな方に向けた記事です:

  • AIインフラ・GPU調達を検討している情報システム部門、AI基盤エンジニア
  • 「AMDはNVIDIAに追いついたのか」を数値ベースで判断したい方
  • 半導体・AIインフラ動向を追う事業企画、投資家

⚠️ 本記事の性能値・比較値は、明記のない限りAMDまたはNVIDIAが自社で公表した値です。MLPerfなど第三者ベンチマークによるHeliosの検証結果は、2026年9月1日時点で確認できていません。価格も公式には公表されておらず、流通しているのはアナリスト推計値です。

AMD Heliosとは何か|ラック1本を1台のコンピュータとして売る発想

AMD Instinct アクセラレータ製品ファミリー。Heliosは Instinct MI455X を72基束ねたラックスケールAIシステム

出典: AMD Instinct アクセラレータ公式ページ

Heliosの本質は、GPU単体の性能競争ではなく「ラック単位での統合出荷」に踏み込んだことです。 AMDはこれまでInstinct GPUやアクセラレータボードを供給する立場でしたが、Heliosでは GPU・CPU・ネットワーク・冷却・ソフトウェアまでを一体で設計し、電力と冷却の仕様を含めた完成品として提供します。NVIDIAがGB200/GB300 NVL72で先行した領域に、AMDが正面から入ってきた形です。

構成要素は次の4つです。

  • AMD Instinct MI455X GPU × 72基(MI450シリーズ/CDNA 5アーキテクチャ)
  • 第6世代 AMD EPYC "Venice" CPU × 18基(Zen 6世代。コア数はSKUにより異なり、AMD公表の上位構成で最大256コア)
  • AMD Pensando ネットワーキング(フロントエンド/スケールアップ/スケールアウト)
  • AMD ROCm オープンソフトウェアスタック

ラック筐体には、Metaが2025年に提唱したOCP(Open Compute Project)のOpen Rack Wide(ORW)を採用しています。従来ラックの倍幅にあたる約1.2m×1.3mの規格で、NVIDIA独自仕様ではなくオープン標準に寄せている点がAMDの主張する差別化ポイントです。

発表から量産までの流れ

時期

出来事

2025年6月

Advancing AI 2025でHelios構想とInstinct MI400シリーズを予告

2025年10月14日

OCP Global Summitでラック実機を初公開。Open Rack Wide準拠を公表

2025年10月

OracleがMI450シリーズ5万基の導入を表明

2026年1月

CES 2026でMI430X/MI440X/MI455XのMI400シリーズ全体像を公開

2026年7月20日

Microsoftとの提携拡大を発表。Azureに新VM「ND MI455X v7」を展開

2026年7月22日

AMDがAnthropicに最大50億ドル出資、最大2GW導入で合意

2026年7月23日

Advancing AI 2026でHeliosを正式ローンチ。フル生産入りを宣言

2026年8月

ROCm.AI提供開始。第3四半期末までに初回顧客出荷と公表

日本語のニュース記事の多くは7月20日のMicrosoft採用の話で止まっていますが、実際にはその3日後の正式ローンチと8月の出荷開始・ROCm.AI提供までが1つの流れです。「発表された製品」ではなく「すでに出荷が始まっている製品」という点が、2026年9月時点での前提になります。

半導体業界全体でAIがどう使われ、どう作られているかの全体像は「半導体業界のAI活用事例」で整理しています。あわせて読むと、Heliosがどのレイヤーの製品なのかが掴みやすくなります。

Heliosの主要スペック|ラック単位とGPU単体

AMDの訴求の中心は、HBM4を31TB積んだメモリ容量です。 演算性能でNVIDIAを圧倒するというより、メモリ容量と帯域で差をつける設計思想が明確に出ています。

ラック1本あたりの仕様(2026年7月ローンチ時点の公表値)

項目

GPU

AMD Instinct MI455X × 72基

CPU

第6世代 EPYC "Venice" × 18基(コア数はSKUにより異なる)

ノード構成

18コンピュートノード(1ノード=GPU4基+CPU1基、CPU:GPU=1:4)

FP4(MXFP4)性能

最大 2.9 エクサフロップス(dense)

FP8性能

最大 1.4 エクサフロップス

HBM4合計容量

31 TB

HBM合計帯域

1.7 PB/s

システムメモリ

DDR5 最大 36 TB(ラック合計。出典により記載差あり)

スケールアップ帯域

260 TB/s(UALink over Ethernet=UALoE)

スケールアウト帯域

最大 43 TB/s(業界標準Ethernet)

消費電力

約 225〜246 kW/ラック

冷却

直接液冷(DLC)。ラック発熱の約89%を室内到達前に回収

筐体

OCP Open Rack Wide(約1.2m×1.3m)/重量 約3.2トン

ソフトウェア

ROCm + UALoEランタイム。Slurm/Kubernetes/Model-as-a-Serviceをネイティブ統合

注意: 2025年10月のOCP公開時点では「HBM合計帯域 1.4 PB/s」と発表されていました。現行の公表値は1.7 PB/sです。古い解説記事と数値が食い違う場合、この世代差が原因である可能性が高いです。

Instinct MI455X(GPU単体)の仕様

項目

アーキテクチャ

CDNA 5

プロセス

TSMC 2nm(N2)、8× Accelerator Complex Die構成

トランジスタ数

約3,200億

メモリ

HBM4 432 GB(12スタック)

メモリ帯域

23.3 TB/s

L2キャッシュ

192 MB/54 TB/s

MXFP4性能

最大 40.26 PFLOPS

MXFP6/FP8

20.13 PFLOPS

FP16/BF16

5.03 PFLOPS

FP32

315 TFLOPS

スケールアップ

3.6 TB/s(UALoE)

スケールアウト

GPUあたり 2,400 Gb/s(Vulcano 800G NIC ×3)

CPU-GPU間

Infinity Fabric 256 GB/s(双方向)

AMDは前世代MI355X比で、低精度演算のピーク性能が最大4倍、トークンスループットが最大34倍に達すると説明しています。いずれもAMD社内計測値です。

MI455X・MI440X・MI430Xの違い|MI400シリーズの型番整理

検索していて最も混乱しやすいのがここです。「MI400シリーズ」「MI450シリーズ」「MI455X」という3つの呼称が併存しています。 整理すると次のようになります。

型番

位置づけ

主な特徴

想定用途

MI455X

AI学習・推論特化の最上位

FP4/FP8/BF16に最適化。HBM4 432GB

Heliosの中核。フロンティアモデルの学習・大規模推論

MI440X

中位モデル

MI400シリーズの中間帯

汎用的なAIワークロード

MI430X

HPC・ソブリンAI向け

FP32/FP64をフルサポート(最大288 TFLOPS FP64)

科学技術計算、次世代エクサスケール機

呼称については、AMDの公式プレスリリースが「Instinct MI450 Series」と「MI400 Series」を併用しています。Anthropicとの提携リリースの記載に従うなら、MI455XはMI450シリーズに属し、MI450シリーズはMI400シリーズの一部という入れ子構造で理解するのが正確です。Heliosに搭載されるのはMI455Xで、MI430Xはスーパーコンピュータ向けの別ラインだと押さえておけば実務上は困りません。

Helios vs NVIDIA GB300 NVL72 / Vera Rubin|比較ポイント

比較対象となるNVIDIA GB300 NVL72ラックスケールシステム

出典: NVIDIA GB300 NVL72 公式ページ

現在出荷中のNVIDIA GB300 NVL72に対してはメモリ容量・演算性能ともに優位、2026年後半に量産が立ち上がるVera Rubin NVL72に対しては「メモリで勝ち、演算で拮抗」というのが公表値ベースの構図です。

項目

AMD Helios

NVIDIA GB300 NVL72(出荷中)

NVIDIA Vera Rubin NVL72(VR200)

GPU数

72(MI455X)

72(B300)

72パッケージ(1パッケージ2ダイ=144ダイ)

GPUメモリ

HBM4 432 GB/GPU

HBM3e 288 GB/GPU

HBM4 288 GB/GPU

ラックHBM合計

31 TB

20.7 TB

約20.7 TB(報道値)

FP4性能

2.9 EF(dense)

1.1 EF(dense)

3.6 EF(FP4推論)

スケールアップ

UALoE 260 TB/s

NVLink 130 TB/s

NVLink 6

CPU

EPYC Venice ×18

Grace

Vera(88コア)×36

CPU-GPU間帯域

Infinity Fabric 256 GB/s

NVLink-C2C

C2C 1.8 TB/s

ラック規格

OCP Open Rack Wide(オープン標準)

NVIDIA仕様

NVIDIA仕様

投入時期

2026年Q3末出荷開始→Q4本格化

出荷中

2026年後半 量産

ラック価格

推計 $5.0〜5.5M(公式未公表

最大 $8.8M との報道

数字をそのまま足し引きしてはいけない理由

この表を読むときに、最低3つの落とし穴があります。

  1. FP4の前提が揃っていない可能性が高い。 Heliosの2.9 EFはdense(非スパース)値です。一方、Vera Rubinの3.6 EFは計測条件が同一とは限りません。実際、AMD自身は「Vera Rubin NVL72比でAI演算 最大+15%」と主張しており、3.6 EF vs 2.9 EFという数字とは整合しません。どちらかが誤りというより、比較の土俵が違うと考えるのが妥当です。
  2. 「30%多いトークン/ドル」には具体的な前提がある。 AMDが掲げるこの主張は、公式プレスリリースによればKimi K2 Thinkingワークロード(入力32K/出力8K)を複数のインタラクティビティ水準で比較し、2026年7月時点の市場価格見通しを用いた試算です。ワークロードが変われば結果も変わります。
  3. CPU-GPU間の帯域はNVIDIAが明確に優位。 Heliosの256 GB/sに対し、Vera RubinはC2C 1.8 TB/s。GPU間の通信ではHeliosが260 TB/sで上回りますが、CPUとGPUの間でデータをやり取りする頻度が高いワークロードでは不利になります。

AMDが公表しているVera Rubin NVL72に対する設計目標は、AI演算 最大+15%/HBM容量 +50%/スケールアウト帯域 +50%、GPUあたりのトークン毎秒は10〜15%増(AMD社内テスト)です。第三者ベンチマークが出るまでは、これらは「AMDの主張」として扱うのが誠実な読み方でしょう。

NVIDIA側がどれだけ大規模な契約と資本を動かしているかは「NVIDIAがOpenAIのオハイオDCを保証」で扱っています。また、GPU以外の第3の選択肢としてはGoogleのTPUがあり、こちらは「TPU v8 Sunfish/Zebrafishとは」で整理しています。

Heliosで何ができるのか|1ラックに閉じる巨大モデル

Heliosが狙っているのは、フロンティアモデルの学習と、それを大規模に捌く推論の両方です。 特に効いてくるのがHBM4 31TBという容量で、モデルの重みとKVキャッシュを1ラック内に収めやすくなります。

主な用途は次の通りです。

  • フロンティアモデルの学習 — 72基のGPUが単一のスケールアップドメインを構成し、ラック内はUALoEで260 TB/sで接続される
  • 長コンテキスト・大バッチの推論 — 31TBのHBM4により、大きなKVキャッシュをメモリ上に保持しやすい。エージェント型ワークロードのように長い履歴を持ち回る処理と相性が良い
  • ギガワット級へのスケールアウト — ラック間は業界標準Ethernetで接続され、UALoEと組み合わせてクラスタ規模まで拡張できる。Schneider Electricは246kWラック/10.4MWクラスタまでのリファレンス設計を公開している
  • 既存オーケストレーションへの接続 — Slurm、Kubernetes、Model-as-a-Serviceツールにネイティブ対応

AMDが「エージェント型AI時代のフルスタック・コンピュート」という表現でHeliosを打ち出している通り、想定されている主戦場は単発のチャット応答ではなく、長時間・多ステップで動くAIエージェントの実行基盤です。エージェント型AIそのものの仕組みは「AIエージェントとは」で解説しています。

Heliosの弱点と制約|導入前に必ず潰すべき論点

AMD ROCm オープンソフトウェアスタック。Helios導入時はROCmへの移行コストが論点になる

出典: AMD ROCm 公式ページ

性能表に出てこない部分にこそ、採用判断を左右する制約があります。 主なものは5つです。

制約

内容

影響が出る場面

ラック単位でしか買えない

販売単位が72GPU/1ラック。GPUカード単体の少量購入という選択肢がない

中小規模のオンプレ導入は事実上不可能

液冷が必須

225〜246kW/ラック、冷却液流量 約385 L/分が前提

空冷前提の既存データセンターにはそのまま設置できない

CUDA資産が動かない

CUDA向けに最適化したコード・カーネル・ライブラリはROCmへの移植と再検証が必要

既存の学習・推論パイプラインの移行コストが発生

ROCmの成熟度

一般的なワークロードは実用水準だが、最先端の最適化・特殊カーネル・環境構築の容易さではCUDAが依然リード

尖った最適化を自前で書いているチームほど負担が大きい

供給制約

TSMC 2nmの製造枠、HBM4の需給、先端パッケージング能力が実出荷量を左右する

大量調達時のリードタイム

加えて、ストレージまわりの設計思想も異なります。NVIDIAのVera RubinがBlueField-4 DPUをco-packageしてGPUDirect Storageを提供するのに対し、HeliosはPensando Salina 400GによるKVオフロードでこれを代替します。どちらが有利かはワークロード依存で、少なくとも「同じ機能が同じ形で使える」わけではありません。

ROCmは実際どこまで使えるのか

現時点でAMDが公表している対応状況としては、PyTorch、Hugging Face、vLLM、SGLangがMI455X上で稼働し、TensorFlowやJAXも対応が拡大しています。標準的なフレームワークとモデルを使う限り、大きな障害は起きにくい水準まで来ています。

2026年8月にはROCm.AIの提供が始まりました。これはAI支援型のGPU開発プラットフォームで、Claude・Codex・CursorといったコーディングエージェントからGPUプログラミングを支援する仕組みや、最適化エンジン「Hyperloom」を含みます。AMDの公表値では、ROCm 7比で推論3.3倍・学習2.4倍、Hyperloom適用でスループット+38%、6週間の固定リリースサイクルで更新されるとしています。

とはいえ、NVIDIAには15〜20年分のエコシステムの蓄積があります。Moor Insights & Strategyは今回の発表を「ソフトウェアの堀が縮まりつつある」と評価しましたが、これは「堀が埋まった」という意味ではありません。移行判断は、自社のコードがどれだけCUDA固有の最適化に依存しているかで決まります。

なお、AMDは推論領域でGPU以外の手も打っており、その一つが「AMDによるTaalas買収」です。モデルの重みをシリコンに焼き込む推論専用チップで、Heliosとは真逆の設計思想を取っています。AMDのAI戦略全体を見るなら、この2本はセットで読むと理解が深まります。

価格と調達ルート|公式価格は公表されていない

AMDはHeliosの定価を公表していません。 流通している「1ラックあたり約500万〜550万ドル」という数字は、Advancing AI 2026を取材したアナリスト筋の推計値です。参考としてNVIDIA Vera Rubin NVL72は最大880万ドルという報道(Tom's Hardware)がありますが、日本語の解説記事の中には350万〜400万ドルという別の推計を挙げているものもあり、価格情報は出典によって大きく振れます。見積もりの根拠にできる数字ではないと考えてください。

調達ルートは大きく3系統です。

ルート

提供者

特徴

OEM経由のオンプレ納入

Bull(Eviden)、HPE、Lenovo、Supermicro

物理ラックを自社データセンターに設置。電力・冷却の要件を自前で満たす必要がある

クラウド(Azure)

Microsoft Azure

新VMシリーズ ND MI455X v7。推論・検索・エージェント用途向けと位置づけ

クラウド(OCI)

Oracle Cloud Infrastructure

MI450シリーズ5万基を2026年Q3から展開

インフラ側では、Sanmina、Wiwynn、Schneider Electric(電力・冷却のリファレンス設計)がパートナーに名を連ねています。HPEはBroadcomと共同で、Helios向けにオープンなスケールアップ型ネットワーキングを備えたソリューションを提供すると発表しており、日本法人からも情報が出ています。

出荷スケジュールは、AMDの説明ベースで2026年第3四半期末に初回顧客出荷 → 第4四半期に本格立ち上がり → 2027年上半期にかけて拡大という流れです。OpenAIは2026年第4四半期から導入を開始し、2027年に加速すると表明しています。

日本企業がHeliosを使う3つの経路

Oracle Cloud Infrastructure。ラックを買わずにHeliosを使うクラウド経由の調達ルートのひとつ

出典: Oracle Cloud Infrastructure GPU 公式ページ

日本の一般企業がHeliosのラックそのものを購入する場面は、現実にはほぼありません。接点になるのはクラウド経由です。 3つの経路を整理します。

経路

向いている組織

前提条件

実現時期の目安

① Azure ND MI455X v7

既にAzureでAI基盤を組んでいる企業。推論・検索・エージェント用途

Azureのリージョン提供状況とクォータ確保

Microsoftのリージョン展開次第

② Oracle Cloud Infrastructure

大規模な学習・推論を長期契約で確保したい事業者

OCIでの容量確保。MI450シリーズは2026年Q3から展開

2026年後半〜

③ OEM経由のオンプレ

自前でデータセンターを持ち、データを外に出せない大企業・研究機関

246kW級の電力契約、直接液冷設備、ROCm移行体制

OEM各社の納入次第

③を検討できる組織は、日本国内ではかなり限られます。判断の順番としては次のように考えると整理しやすいはずです。

  1. CUDA固有の最適化に強く依存しているか → Yesならまずクラウド上のMI455Xインスタンスで移植検証。移植コストが読めない状態でオンプレ導入を決めない
  2. 既存データセンターは液冷対応か → Noなら③は現実的でない。①②から入る
  3. データを国外・自社外に出せるか → Noかつ液冷設備なしなら、当面はNVIDIA系の既存構成を維持する判断もあり得る
  4. 推論トラフィックが安定して大きいか → Yesなら長期契約による単価交渉の余地がある

なお、Heliosの日本国内での提供時期・価格・国内導入事例は、2026年9月1日時点で確認できていません。国内の情報はOEM各社の日本法人発表を追う必要があります。

AIインフラ全体の投資動向と業界構造については「インフラ業界のAI活用事例」でも触れています。手元のワークステーション規模でAIを動かす選択肢との対比を知りたい場合は「NVIDIA RTX Sparkとは」が参考になります。

誰が採用しているのか|Anthropic 2GW・OpenAI 6GWという規模

Anthropic公式。AMDはAnthropicに最大50億ドルを出資し最大2GW規模の導入で合意した

出典: Anthropic 公式ニュース

Heliosの評価を決めているのは、スペック表よりも「誰がどれだけ買ったか」です。 AMDはHeliosに紐づくAIインフラ需要を約12GW規模と説明しています。

企業

内容

Anthropic

最大2GWのMI450シリーズをHeliosラックで導入。最初の1GWは2027年上半期から。AMDはAnthropicに最大50億ドルを出資。ClaudeでROCm開発を加速する共同エンジニアリングも実施

OpenAI

最大6GWの複数世代にわたる供給契約。Triton × ROCmでスタックを最適化。Helios導入は2026年Q4開始

Meta

ギガワット級導入に向けた共同設計。Open Rack Wide規格の提唱元でもある

Microsoft

Azureに大規模導入。3つの新VMシリーズを展開、うちND MI455X v7は推論・検索・エージェント用途向け

Oracle

OCIでMI450シリーズ5万基を2026年Q3から展開

Cerebras

超低レイテンシ推論とHeliosのスループットを組み合わせた複合ソリューション

Cisco/AT&T

エンタープライズ向けのハイブリッドなエージェントAI基盤、エアギャップ環境での利用

特筆すべきはAnthropicとの関係です。AMDが最大50億ドルを出資し、AnthropicはClaudeを使ってAMD自身のソフトウェア(ROCm)開発を加速するという双方向の構造になっています。ハードウェアベンダーがモデル企業に出資し、そのモデルで自社のソフトウェア開発を回すという循環は、この規模では前例がほとんどありません。Claudeの機能や位置づけは「Claudeとは」で整理しています。

Anthropic側から見ると、これは計算資源調達の一手にすぎません。同社は「Anthropic × Voltaの100億ドル契約」「Anthropic × Nscaleのコンピュート契約」など、供給元を分散させる動きを継続しています。OpenAI側も自社チップの設計に踏み込んでおり、こちらは「OpenAI × Broadcom Jalapeñoチップとは」で扱っています。主要なAI企業はいずれも「1社依存を避ける」方向に動いているという文脈でHeliosを見ると、採用の意味が読み取りやすくなります。

ロードマップ|MI500と次世代Helios

AMDは年次でのラックスケール更新を明言しています。 Advancing AI 2026で示されたロードマップの骨子は次の通りです。

時期

内容

2026年

AMD Helios(MI455X + 第6世代EPYC "Venice")— 現行

2027年

Instinct MI500シリーズ — 演算・メモリ・インターコネクトを刷新

2028年以降

次世代ラックスケール製品(AMD Helios 600AMD Helios 500)。CPUはZen 7世代の "Ferrara"/"Verano" 系

さらに先

Zen 8世代 EPYC "Ravenna" 世代へ

ただし、「Helios 500」と「Helios 600」がそれぞれ何年の製品にあたるかは、AMD公式リリースの記載と各メディアの解説で食い違っています。 数字の大小と登場順が一致しない書き方をしている資料もあるため、名称と年次の対応は現時点で確定情報として扱わず、AMDの公式ロードマップ資料で改めて確認することをおすすめします(要確認)。

このロードマップから読み取れるのは、AMDが「1回のヒット」ではなく「毎年更新するラック製品ライン」としてHeliosを位置づけているということです。NVIDIAがBlackwell → Vera Rubin → Feynmanと年次更新のリズムを作ったことへの対抗であり、購入側にとっては減価償却期間と世代更新サイクルをどう合わせるかが実務的な論点になります。

こんな組織におすすめ/おすすめしない

Heliosは万能なGPU代替ではありません。恩恵を受ける組織と、そうでない組織はかなりはっきり分かれます。

Heliosが効く組織

  • メモリ容量がボトルネックになっている大規模モデルの学習・推論を行う事業者。HBM4 31TB/GPUあたり432GBはこの世代で最大級
  • ギガワット級・数千ラック規模の調達を行い、NVIDIA一社依存のリスクを分散したいハイパースケーラやAI企業
  • オープン標準(OCP ORW、UALink、標準Ethernet)を重視し、ベンダーロックインを避けたいデータセンター事業者
  • 直接液冷(246kW級)を前提とした新設・改修データセンターを持ち、電力単価の交渉力がある組織
  • 推論のトークン単価が事業の損益に直結し、1%のコスト差が大きな金額になる規模で運用している事業者

おすすめしない組織

  • GPUを数枚〜数十枚単位で調達したい企業。Heliosの販売単位は72GPU/1ラックで、そもそも対象外
  • 空冷前提の既存データセンターしか持たず、液冷への改修計画がない組織
  • CUDA固有のカーネルやライブラリに深く依存した学習・推論パイプラインを抱え、移植に割ける人員がいないチーム
  • CPU-GPU間のデータ移動が頻繁なワークロードが中心の環境(この点はNVIDIAが明確に優位)
  • 第三者ベンチマークによる裏付けが揃うまで判断を保留したい、保守的な調達方針の組織

現実的な落としどころとしては、まずAzureのND MI455X v7やOCIでMI455Xインスタンスを触り、自社ワークロードのROCm移植コストを実測してから、オンプレ導入の是非を判断するという順番になります。

よくある質問(FAQ)

Q. Heliosは個人や中小企業でも買えますか。
A. 実質的に買えません。販売単位はGPU 72基を搭載したラック1本で、重量は約3.2トン、消費電力は225〜246kW、直接液冷が前提です。一般的なサーバールームには設置できません。個人・中小企業がMI455Xの性能を使いたい場合は、Azure ND MI455X v7やOracle Cloud Infrastructure経由が現実的な選択肢です。

Q. Heliosはいくらですか。
A. AMDは公式価格を公表していません。アナリスト推計で1ラックあたり約500万〜550万ドルという数字が流通していますが、公式値ではありません。比較対象として、NVIDIA Vera Rubin NVL72は最大880万ドルという報道がある一方、350万〜400万ドルとする別の推計もあり、価格情報の振れ幅は大きい状況です。

Q. 今書いているCUDAのコードはHeliosで動きますか。
A. そのままでは動きません。ROCmへの移植と再検証が必要です。PyTorchやHugging Face、vLLM、SGLangといった標準的なフレームワーク経由であれば移行負荷は比較的軽いですが、CUDA固有のカーネルを自前で書いている場合は相応の工数がかかります。

Q. NVIDIAより速いのですか。
A. 指標によります。AMDはVera Rubin NVL72比で「AI演算 最大+15%」「HBM容量 +50%」「スケールアウト帯域 +50%」「トークン/ドル 最大+30%」と主張していますが、いずれもAMD社内の計測・試算値です。トークン/ドルの主張はKimi K2 Thinking(入力32K/出力8K)という特定ワークロードでの比較が前提です。MLPerfなど第三者ベンチマークによる検証結果は、2026年9月1日時点で確認できていません。

Q. 日本で使えますか。
A. クラウド経由であれば、Azure・OCIのリージョン提供状況次第で利用可能になります。ただしHeliosの日本国内での提供時期・価格・国内導入事例は現時点で確認できていません。オンプレ導入はOEM各社(HPE、Lenovo、Supermicro、Bull)の日本法人経由となります。

Q. MI455XとMI450シリーズは別物ですか。
A. 同じものを指す入れ子の呼称です。MI455XはMI450シリーズに属し、MI450シリーズはMI400シリーズの一部です。MI400シリーズにはこのほか中位のMI440X、HPC・ソブリンAI向けでFP64をフルサポートするMI430Xがあります。Heliosに搭載されるのはMI455Xです。

Q. 「フル生産」とは実際どういう状態ですか。
A. AMDは2026年7月23日時点でHeliosがin production(フル生産)にあると宣言し、2026年第3四半期末までに初回顧客への出荷を開始すると説明しています。第4四半期に本格的な立ち上がり、2027年上半期にかけて拡大というスケジュールです。ただし出荷量はTSMC 2nmの製造枠、HBM4の需給、先端パッケージング能力に左右されます。

まとめ

AMD Heliosは、MI455X GPU 72基とEPYC "Venice" CPU 18基を1ラックに統合し、NVIDIAのGB300 NVL72/Vera Rubin NVL72と同じ土俵で競う、AMD初の本格的なラックスケールAIシステムです。2026年7月23日に正式ローンチされ、すでに出荷が始まっています。

判断に必要な要点は3つに集約されます。

  • 強みはメモリ。HBM4 31TB/GPUあたり432GBという容量と1.7 PB/sの帯域が最大の差別化点で、長コンテキストや大規模KVキャッシュを扱うエージェント型ワークロードと相性が良い
  • 弱みはソフトウェアとCPU-GPU帯域。CUDA資産はそのままでは動かず、ROCmは実用水準に達しつつあるものの、最先端の最適化ではNVIDIAが依然リード。CPU-GPU間の帯域差も明確
  • 数字はまだベンダー公表値のみ。「トークン/ドル+30%」はKimi K2 Thinking(32K入力/8K出力)という特定条件での試算であり、第三者ベンチマークによる裏付けは現時点で存在しない

日本企業にとっては、ラックそのものの調達を検討する場面はほぼありません。Azure ND MI455X v7やOCIでMI455Xを実際に動かし、自社ワークロードのROCm移植コストを測ることが、最初にやるべき現実的な一歩です。生成AI基盤の全体像から整理したい場合は「生成AIとは」もあわせて参照してください。

このツールを自社の毎月の業務に組み込むと何が変わるか、ご提案します

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