AIツール2026年8月更新

ソニー・ワーナーがAnthropicを提訴|1曲最大15万ドル請求の中身とBartz和解との違い【2026年8月速報】

公開日: 2026/08/31
ソニー・ワーナーがAnthropicを提訴|1曲最大15万ドル請求の中身とBartz和解との違い【2026年8月速報】

この記事のポイント

ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペルが2026年8月28日、Anthropicを著作権侵害で提訴。1曲最大15万ドルという数字の正しい読み方、訴状が争点化した取得・前処理・学習・出力の4段階、決着済みの15億ドルBartz和解との違いを整理します。

2026年8月28日(米現地時間・金曜)、ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペル・ミュージックを中心とする音楽出版社が、Claudeを開発するAnthropicを著作権侵害でカリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に提訴しました。現時点では提訴された段階にすぎず、侵害の有無も賠償額も一切確定していません。報道で見出しになっている「1曲あたり15万ドル」は、米著作権法が定める法定損害賠償の上限値であって、Anthropicの支払いが決まった金額ではありません。

争点は「AI学習はフェアユースか」という一点ではなく、データの取得・前処理・学習・出力という4段階すべてに広がっています。すでに裁判所の最終承認が下りた15億ドルのBartz和解とは完全に別件であり、両者の金額を合算して語ることもできません。

なお、訴状原本のPDFおよび事件番号は確認できていないため、訴状の内容についてはMusic Business Worldwide、TechCrunch、ITmedia NEWSなどの報道による訴状引用に依拠しています。断定を避けている箇所は、意図的に留保しています。

Claudeを開発するAnthropicのロゴ

出典: Anthropic 公式サイト

今回の訴訟で決まったこと・決まっていないこと

項目

内容

提訴日

2026年8月28日(米現地時間・金曜)

裁判所

米カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所(N.D. Cal.)

原告

ソニー・ミュージックパブリッシング、ワーナー・チャペル・ミュージックを中心とする複数の音楽出版社(35社とする報道あり)

被告

Anthropic PBC、およびダリオ・アモデイCEO、ベンジャミン・マン氏の個人2名

対象

数万曲規模の楽曲(詞・曲=composition)。原盤(レコーディング音源)ではない

請求

陪審裁判、法定損害賠償、侵害複製物の破棄、Claudeの学習データの開示・説明

金額の上限

故意の侵害で1作品あたり最大15万ドル、著作権管理情報の除去で1件あたり最大2万5,000ドル

確定していること

何もない。判決も和解もない

報道の見出しだけでは誤解しやすい点が3つあります。

  1. 「15万ドル×数万曲」は理論上の最大値であり、原告が総額を明示した報道は確認できていません。故意(willful)と認定された場合の上限であり、通常の法定損害賠償は1作品750〜3万ドルの範囲です。
  2. 2025年に話題になった15億ドルの和解(Bartz訴訟)とは別件です。あちらは作家による書籍の訴訟で、2026年7月に最終承認済み。今回の音楽出版社の訴訟はまったく新しく提起されたもので、金額を足し合わせて語るのは誤りです。
  3. Claudeの提供が止まる予定は現時点でありません。差止請求は含まれていますが、先行する同種訴訟では2025年3月に予備的差止の申立てが却下されています。

Claudeというサービス自体の全体像を先に押さえたい場合は、Claudeとは?機能・料金・使い方・ChatGPTとの違いを参照してください。

何が起きたのか:2026年8月28日の提訴の中身

ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペル・ミュージックが主導し、複数の音楽出版社が原告に名を連ねる形でAnthropicを提訴しました。訴状はAnthropicの行為を「史上最大かつ最も露骨な、現在進行中の知的財産の窃盗のひとつ(one of the largest and most blatant ongoing thefts of intellectual property in history)」と表現し、「違法なトレント取得、スクレイピング、ダウンロードによる厚顔無恥なキャンペーン」と主張しています。

訴訟が提起された米連邦地方裁判所の庁舎

原告社数については報道が分かれています。ITmedia NEWSやinnovatopiaは「音楽出版社35社」としており、TechCrunchは「その他多数の音楽出版社」と表現、GIGAZINEは主要2社のみを挙げています。本記事では「ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペルを中心に複数の音楽出版社」と扱い、35社という数字は報道ベースの情報として留保します。見出しで「2社」と書かれるのは、あくまで訴訟を主導する2社を指しています。

原告は「レコード会社」ではなく「音楽出版社」

ここは日本語の報道でほとんど説明されていない、しかし理解に不可欠な点です。

音楽の権利は大きく2つに分かれます。ひとつは原盤権(レコーディングされた音源そのものの権利)で、これを持つのがソニー・ミュージックエンタテインメントやワーナー・ミュージック・グループといった、いわゆるレコード会社です。もうひとつが楽曲の著作権(詞・曲そのもの=composition)で、これを管理するのが音楽出版社です。日本でいえば、JASRACやNexToneが管理・徴収を担い、その背後に音楽出版社がいる領域にあたります。

今回の原告であるソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペルは、いずれも後者の音楽出版社です。したがって争点になっているのは音源データではなく、歌詞と楽譜(詞・曲の表現)です。これは、AIが生成した「音源」が既存アーティストの声や演奏に似ているかを争うタイプの訴訟(SunoやUdioに対して起こされてきた種類のもの)とは、性質がまったく異なります。

音楽業界全体でAIがどう使われ、どこで権利問題が起きているのかという地図は、音楽・レコード業界のAI活用事例で整理しています。

名指しされた楽曲

報道で確認できた範囲では、訴状には以下のような楽曲が例示されています。

  • Eye of the Tiger(Survivor)
  • Ain't No Mountain High Enough(Marvin Gaye / Tammi Terrell)
  • All I Want for Christmas Is You(Mariah Carey)
  • Paper Rings(Taylor Swift)
  • Livin' On a Prayer(Bon Jovi)
  • September(Earth, Wind & Fire)
  • Hallelujah(Leonard Cohen)
  • Uptown Funk(Mark Ronson ft. Bruno Mars)
  • Here Comes Santa Claus

ITmedia NEWSは、Anthropicが取得したとされる書籍データに含まれていた楽曲として Great Balls of Fire、Ramblin' Man なども挙げています。これらは訴状で対象作品の一例として示されたもので、対象は「数万曲(tens of thousands)」規模とされています。

「1曲あたり最大15万ドル」の正しい読み方

見出しで最も目立つ数字ですが、確定額でも請求総額でもありません。ここを取り違えると、記事全体の理解がずれます。

請求根拠

1件あたりの額

前提条件

通常の著作権侵害(法定損害賠償)

750〜3万ドル

米著作権法504条(c)(1)

故意(willful)の著作権侵害

最大15万ドル

504条(c)(2)。裁判所が「故意」と認定した場合の上限

著作権管理情報(CMI)の除去・改変

最大2万5,000ドル

米著作権法1202条(DMCA)。著作権侵害とは別建て

つまり「15万ドル」は、裁判所が故意を認定し、かつ上限額を選択した場合にのみ到達する数字です。実際の額は陪審または裁判所の裁量で決まり、作品ごとに大きく下振れする可能性があります。

数万曲に上限額を機械的に掛ければ理論上は数十億ドル規模になりますが、原告側が請求総額を明示したという報道は確認できていません。「Anthropicが数兆円を支払うことになった」といった表現は、現時点では事実に反します。

比較の材料として、参考になる実額があります。書籍をめぐるBartz訴訟の15億ドルの和解では、対象作品が約50万点、1作品あたりの分配は約3,000ドルでした。上限値と実際の着地額の間には、これだけの開きが生じ得るということです。

訴状の構造:「学習は著作権侵害か」だけを争っていない

今回の訴訟がこれまでのAI著作権訴訟と異なる最大の点は、データパイプラインの各段階が、それぞれ独立した侵害であると構成されているところです。「AI学習はフェアユースか」という一点勝負を避け、複数の入り口から攻めています。

取得・前処理・学習・出力の各段階を争点化した訴状の構造を象徴する法律記録と資料のイメージ

段階

訴状の主張(報道による引用)

争点になりやすさ

①取得(acquisition)

2021年6月にマン氏がLibGen(Library Genesis)から500万冊超をBitTorrentでダウンロード。2022年7月には従業員がPiLiMi(Pirate Library Mirror)から200万冊超を取得。取得書籍に楽譜集・歌詞集が含まれ、原告管理楽曲の歌詞・楽譜が入っていたとされる。加えて、正規ライセンスの歌詞サイトMusixMatch・LyricFindからのスクレイピング、中古書籍を裁断スキャンして現物を廃棄する「destructive scanning」、Common Crawl・The Pile・Books3といったデータセットの利用も挙げられている

。先行判例で「海賊版ライブラリからの取得はフェアユースではない」と判断された領域

②前処理(cleaning)

本文抽出ツールの選定において、jusTextではなくNewspaperを採用したという技術的判断が、著作権表示などの管理情報を除去する意図の証拠として引用されている

中〜高。1202条請求の土台

③学習(training)

クラウド環境上での訓練用の複製が、複製権の侵害にあたるという主張

低〜中。先行判例で「本質的に変容的」とされた部分と重なる

④出力(output)

Claudeが歌詞を逐語的に出力する、あるいは著作物と同一・酷似した複製物を生成すると主張

中。再現性の立証が鍵

原告がこの構成を取った理由は明快です。書籍をめぐるBartz訴訟でウィリアム・アルサップ判事は、合法に入手した書籍でのAI学習は「本質的に変容的(quintessentially transformative)」でフェアユースにあたると判断する一方で、海賊版ライブラリからの取得と保存はフェアユースではないと切り分けました。

つまり「学習そのもの」を正面から攻めても勝ちにくい。だからこそ原告は、フェアユースの盾が効きにくい「取得」と「管理情報の除去」を主戦場に置いていると読めます。さらに、Bartz訴訟の証拠開示で明らかになったトレント取得の日時や冊数を、今回の事実的な土台として流用しています。

請求原因は4カウント

Music Business Worldwideの報道によれば、訴状の請求原因は次の4つです。

#

請求原因

被告

1

トレント取得による直接侵害

Anthropic、アモデイ氏、マン氏(全員)

2

トレント取得への寄与侵害(contributory infringement)

アモデイ氏、マン氏(個人)

3

学習・出力による直接侵害

Anthropicのみ

4

著作権管理情報の除去・改変(1202条)

Anthropicのみ

CMI(著作権管理情報)とは何か:著作権侵害とは別建ての請求

日本語の報道でほぼ触れられていないのがこの論点ですが、請求構造を理解するうえでは決定的に重要です。

CMI(Copyright Management Information/著作権管理情報)とは、作品に付随する権利者名、著作権表示、権利条件などの情報を指します。米著作権法1202条は、侵害を助長する目的でこれらの情報を故意に除去・改変することを独立した違法行為として禁じています。

ここが実務上重要なのは、著作権侵害が成立しなくても、1202条違反は別途成立し得るという点です。仮にAI学習がフェアユースだと判断されたとしても、学習データの前処理過程で著作権表示を意図的に剥がしていたと認定されれば、1件あたり最大2万5,000ドルの法定損害賠償が別途発生する構造になっています。

訴状は、Anthropicが本文抽出ツールとしてjusTextではなくNewspaperを選択したという技術的判断を、この「意図」の証拠として持ち出しています。技術選定の記録が法的評価の材料になり得るという点は、AI開発や大規模なデータ収集を行う企業にとって、そのまま実務上の警告になります。

なぜCEOと共同創業者が「個人」で訴えられているのか

今回の訴訟で異例なのは、法人であるAnthropic PBCだけでなく、ダリオ・アモデイCEOとベンジャミン・マン氏という共同創業者2名が個人として被告に含まれていることです。

報道されている根拠は、当時の社内方針としてデータセットの取得にアモデイ氏の承認が必要であり、その承認記録が存在するという主張です。原告はこれを寄与侵害(他者の侵害行為を認識しながら実質的に助長した責任)の根拠にしています。マン氏については、2021年6月のLibGenからの取得を自ら実行したとされる点が直接侵害の根拠です。

企業のAI導入・データ運用という観点で読み替えると、示唆は明確です。社内でどのデータをどこから取得するかを承認した記録は、将来の訴訟でそのまま個人の責任を裏づける証拠になり得るということです。これは経営層が承認プロセスから距離を置けばよいという話ではなく、承認する以上は取得元の適法性を確認するプロセスが必要だという意味になります。

AI関連の法務対応を体系的に押さえたい場合は、法律・法務のAI活用事例|AI法施行・LegalTech導入ガイドも参考になります。

15億ドルのBartz和解と今回の訴訟はどう違うのか

日本語の報道で最も混同されているのがここです。「Anthropicはまた2,400億円払うのか」という理解は誤りです。別の訴訟であり、Bartzのほうは決着済み、今回のほうは始まったばかりです。

約50万点の書籍が対象となった15億ドルのBartz和解を象徴する図書館の書架

Bartz v. Anthropicは、作家らが起こした集団訴訟でした。2025年6月にアルサップ判事が略式判決を下し、合法に入手した書籍でのAI学習はフェアユース、海賊版ライブラリからの取得はフェアユースではないと切り分けたのが転換点です。最終的に15億ドル(約2,400億円)という米国著作権訴訟史上最高額での和解が成立し、2025年9月に仮承認、2026年7月20日に最終承認されました。対象作品は約50万点、1作品あたりの分配は約3,000ドルです。

比較ポイント

Bartz v. Anthropic(決着済み)

ソニー・ワーナーら音楽出版社訴訟(本件)

原告

作家個人(クラスアクション)

音楽出版社(法人。SMP・WCMら)

対象著作物

書籍

楽曲(歌詞・楽譜=composition)

争点の範囲

主に取得段階(海賊版ダウンロード)

取得+前処理+学習+出力の全段階

CMI(1202条)請求

主要争点ではない

独立した請求原因として明示(1件最大2.5万ドル)

個人被告

なし

アモデイ氏・マン氏を個人で被告に

出力側の主張

限定的

Claudeによる歌詞の逐語出力を正面から主張

現在の状況

和解成立・裁判所最終承認済み(2026年7月)

提訴直後。判決も和解もなし

金額

15億ドルで確定

上限15万ドル/曲。総額は未確定・原告も未明示

Bartz和解の中身(海賊版700万冊の扱い、フェアユース認定の射程、分配の仕組み)については、Anthropic著作権訴訟で15億ドル和解を裁判所承認|史上最高額・フェアユース認定を完全解説で詳しく整理しています。今回の訴訟を評価するうえでの前提知識になるので、混同を解消したい方はそちらから読むのが早道です。

Anthropicが直面している音楽業界訴訟は5件が同時進行

今回の提訴は単発の出来事ではありません。Anthropicに対しては、2023年から音楽出版社による訴訟が積み重なってきました。

提訴時期

原告

対象

請求・経緯

2023年10月

UMPG(ユニバーサル・ミュージック・パブリッシング)、Concord、ABKCO(通称Concord I)

約500曲の歌詞

2025年1月に裁判所承認の合意でガードレール維持義務。2025年3月に予備的差止は却下

2026年1月

同上(通称Concord II)

2万作品超に拡大

30億ドル超

2026年3月

BMG

493作品

請求額は未確認

2026年8月17日

Round Hill Music

未確認

最大10億ドルと報道

2026年8月28日

ソニー・ミュージックパブリッシング、ワーナー・チャペルら

数万曲

上限15万ドル/曲+2.5万ドル/CMI

今回のニュース価値は金額そのものよりも、この一覧が示す状況にあります。ユニバーサル、ソニー、ワーナーという世界3大音楽出版社が、これでそろってAnthropicを訴えたという点です。業界全体が同じ方向を向いたことで、Anthropicにとっては個別に和解して終わらせるという選択肢が取りにくくなり、包括的なライセンス交渉に進む圧力が高まったと見ることができます。

争点化している「ガードレール」の実効性

2025年1月、先行するConcord I訴訟において、裁判所が承認した当事者間の合意により、AnthropicはClaudeが著作権で保護された歌詞を出力しないためのガードレールを維持する義務を負いました。

今回の訴状は、このガードレールを「再プロンプトするだけで容易に回避できる薄い盾(thin shield)」と評価しています。つまり「対策済み」という主張自体を争点化しているわけです。ここが認められるかどうかは、④出力段階の主張の成否に直結します。

Anthropic側の反論と、今後の見通し

Anthropicの広報担当者は、報道機関に対して次のようにコメントしています。

「出版社側の主張には同意できない。法廷で全面的に争う」(We disagree with the publishers' claims and we intend to defend ourselves robustly in court.)

現時点で、Anthropicの公式ニュースルームに本件専用の声明が掲載されているかは確認できていません。上記はあくまで報道機関に対する広報コメントです。過去の同種訴訟と同様、フェアユース(公正利用)を主軸に争うと報じられています。

今後の展開として、次の2つの見方が示されています。

1. 判決まで行かず、ライセンス契約に着地する可能性

大型の著作権訴訟は、陪審評決まで進まずに和解で終わることが多いのが実情です。音楽AI分野でも、SunoやUdioといった企業が訴訟を経てレーベル・出版社とのライセンス契約に転換した経緯があります。今回も最終的にはライセンス料率の交渉に収束するという見方が業界内では強いようです。音楽生成AI側の事情についてはSunoとは?料金・機能・著作権問題を完全解説で整理しています。

2. IPOとの時間的な緊張関係

Anthropicは2026年10月にもIPO(新規株式公開)を予定していると報じられており、評価額は最大2兆ドルに達するという銀行筋の観測も出ています。いずれも未確定の観測報道であり、訴状自体も2026年8月のForbes報道を引用する形でこの点に言及しています。

上場を控えた企業にとって、未解決の巨額訴訟は開示上のリスク要因になります。原告側がこのタイミングを選んだこと自体が交渉圧力として機能している、という読み方は成り立ちます。上場準備の経緯はAnthropic IPO・S-1機密提出の完全解説にまとめています。

判決の時期については、現時点で見通しを立てられる材料がありません。提訴直後で審理日程も公表されておらず、証拠開示(ディスカバリー)だけで年単位を要するのが通常です。

日本の著作権法から見るとどうなるのか

「日本ならAI学習は合法だから関係ないのでは」という理解は、半分正しく、半分危ういというのが正確なところです。

日本で楽曲の著作権を管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)のロゴ

出典: JASRAC 公式サイト

日本の著作権法30条の4は、著作物に表現された思想・感情の享受を目的としない利用(情報解析を含む)であれば、原則として権利者の許諾なく利用できると定めています。この点で、米国のフェアユースよりもAI学習に対して条文上は明確かつ寛容だと評価されています。

ただし、実務上は次の3点を分けて考える必要があります。

  1. ただし書がある。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は30条の4の適用外です。有償で提供されているデータベースの無断利用や、技術的な保護措置の回避などが典型例として想定されています。
  2. 取得の適法性は別問題。海賊版サイトから複製物を取得する行為そのものは、30条の4の情報解析の議論とは別の次元で問題になり得ます。今回の訴訟の中核が「取得段階」であることを踏まえると、日本法でも同じ論点は避けられません。
  3. 出力段階は30条の4の対象外。生成されたものが既存の楽曲や歌詞と類似している場合は、通常の著作権侵害(類似性と依拠性)の枠組みで判断されます。学習が適法であることは、出力が適法であることを保証しません。

制度面では、2026年8月25日に日本政府が生成AI事業者向けの「プリンシプル・コード」を策定し、学習データの透明性開示を求める方針を示しました。ただし法的拘束力はありません。声や肖像といった隣接領域の動きは、法務省が生成AIの「声の権利」指針を公表|パブリシティ権侵害になる例で扱っています。

Claudeユーザー・AI導入企業がいま確認すべきこと

個人ユーザーが今すぐ何かをやめる必要はありません。一方、Claudeを商用のコンテンツ制作に組み込んでいる企業には、確認しておくべき論点があります。

Anthropicが提供する生成AIサービスClaudeのロゴ

出典: Claude 公式サイト

立場

現時点の影響

取るべき対応

個人でClaudeを使っている

ほぼなし。サービス停止の予定は現時点でない

特になし。歌詞の全文出力を目的とした使い方は避ける

業務でClaudeを文章生成に使っている

ほぼなし

生成物に第三者著作物が混入していないかの確認フローを持つ

Claude APIを製品に組み込んでいる

現時点で仕様変更のアナウンスはない

出力側の制限が将来強化される可能性を織り込んでおく

自社でAIモデルを学習させている

影響大

学習データの取得元・取得経路・承認記録を洗い直す

権利者側(音楽出版・レコード会社)

直接の影響はないが判断材料になる

自社カタログのAI利用に関する方針整理

1. サービスは止まらない前提で問題ない。 差止請求は含まれていますが、先行するConcord I訴訟では2025年3月に予備的差止の申立てが却下されています。日本からの利用が制限されるといった話も、現時点では出ていません。

2. 出力チェックの責任は利用者側にも残る。 訴状は、Claudeのガードレールが再プロンプトで回避可能だと主張しています。ツール側の対策が完全であるという前提は置かないほうが安全です。歌詞や楽譜、書籍の一節などが生成物に混入していないかは、商用利用時には人の目で確認する運用が現実的です。

3. 生成物のうち「既存作品と似ているもの」だけがリスク。 通常の業務文書、要約、コーディング支援などで著作権上の問題が生じる場面は限定的です。リスクが集中するのは、歌詞・詩・小説の一節・楽譜など、短い表現でも著作物性が高いコンテンツを生成させるケースです。

4. データ調達のガバナンスを文書化する。 今回の訴訟で個人被告の根拠になったのが「承認記録」だという事実は、逆に言えば取得元の適法性を確認した記録が防御にもなることを意味します。自社でスクレイピングやデータセット購入を行う場合、取得元・ライセンス条件・確認者を残す運用が有効です。コンテンツ制作側の著作権対応はメディア・出版業のAI活用事例|著作権対策まででも整理しています。

このニュースを重く受け止めるべき人/過度に心配しなくてよい人

重く受け止めるべき人

  • 自社で大規模なデータ収集を行い、AIモデルを学習させている企業:取得段階と前処理段階の両方が争点化しているため、既存の「学習はフェアユース/30条の4で適法」という前提だけでは足りません。
  • AIで歌詞・詩・楽曲関連のコンテンツを商用生成している事業者:出力段階の主張が認められた場合、影響が直接及ぶ領域です。
  • 音楽出版・原盤権を保有する権利者:ライセンス交渉の相場形成に直結する案件で、今後の和解条件が業界の基準になり得ます。
  • AI企業への投資判断を行う立場の方:IPOを控えた時期の未解決訴訟という位置づけを踏まえる必要があります。

過度に心配しなくてよい人

  • Claudeを文章作成・要約・調査・コーディングに使っている個人・企業:現時点でサービスは通常どおり提供されており、利用者が責任を問われる構図ではありません。
  • Bartz和解の対象だった作家・出版関係者:今回は音楽出版社が原告で、対象著作物も楽曲です。Bartz和解の分配とは無関係です。
  • 日本国内でAIツールを業務利用しているだけの企業:米国での係争であり、ツール利用者に直接の法的影響が及ぶ性質のものではありません。

よくある質問

Q. Claudeは使えなくなりますか。日本から使えなくなる可能性はありますか。

現時点でその予定はありません。訴状には侵害複製物の破棄を求める請求が含まれていますが、これはサービス停止と同義ではありません。先行訴訟では2025年3月に予備的差止の申立てが却下されており、提供が即座に止まる状況にはありません。日本からの利用制限に関する報道・公式アナウンスも確認できていません。

Q. 15億ドルの和解の対象者は、今回も対象になりますか。

なりません。15億ドルの和解は書籍の著作者を対象とした集団訴訟の決着であり、2026年7月に最終承認されて手続きが完了しています。今回は音楽出版社が原告で、対象は楽曲です。両者は当事者も対象著作物も別で、金額を合算して語ることもできません。

Q. Claudeに歌詞を出力させたら、利用者が訴えられますか。

今回の訴訟の被告はAnthropicと創業者個人であり、一般利用者ではありません。ただし、出力された歌詞をそのまま自社サイトやSNSに掲載すれば、それは通常の著作権侵害の問題になります。日本国内でも歌詞の全文掲載には権利処理が必要です。AIの出力であることは免責の理由になりません。

Q. なぜCEO個人まで訴えられているのですか。

報道によれば、当時の社内方針でデータセット取得にCEOの承認が必要で、その承認記録が存在するという主張が根拠です。これに基づき寄与侵害の責任を問う構成になっています。もう1名の共同創業者については、海賊版ライブラリからの取得を自ら実行したとされる点が直接侵害の根拠とされています。

Q. SunoやUdioなどの音楽生成AIに対する訴訟とは何が違いますか。

対象になっている権利が違います。音楽生成AIの訴訟は主に原盤(音源)の無断利用が争点で、原告はレコード会社が中心でした。今回は楽曲(詞・曲)の著作権が対象で、原告は音楽出版社です。またClaudeは音楽を生成するツールではなく、歌詞というテキストの学習・出力が問題になっている点も異なります。

Q. 日本の作曲家や音楽出版社は、この訴訟で何か請求できますか。

今回の訴訟は原告として名を連ねた音楽出版社が管理する楽曲を対象としており、集団訴訟(クラスアクション)の形式ではないと報じられています。日本の権利者が自動的に対象になる構図ではありません。自社管理楽曲の扱いについては、提携する米国の出版社を通じた確認が現実的な経路になります。

Q. 判決はいつ出ますか。

現時点で予測できる材料がありません。提訴直後で審理日程は公表されておらず、証拠開示だけで年単位を要するのが一般的です。加えて、この規模の著作権訴訟は評決前に和解する傾向が強く、判決という形で決着しない可能性も十分にあります。

まとめ

2026年8月28日、ソニー・ミュージックパブリッシングとワーナー・チャペルを中心とする音楽出版社が、数万曲の歌詞・楽譜を無断で学習に使ったとしてAnthropicを提訴しました。訴状はAnthropicの行為を「史上最大級の知的財産の窃盗」と表現し、CEOと共同創業者を個人としても被告に加えています。

ただし、報道の数字をそのまま受け取ると実態を見誤ります。

  • 「1曲15万ドル」は故意認定を前提とした上限値であり、確定額でも請求総額でもありません。通常の法定損害賠償は750〜3万ドルで、Bartz和解での実際の分配は1作品約3,000ドルでした。
  • 2026年7月に最終承認された15億ドルの和解とは別件です。あちらは書籍・作家、こちらは楽曲・音楽出版社。合算して語ることはできません。
  • 判決も和解もなく、Claudeの提供にも現時点で変更はありません。

一方で、この訴訟が「学習の是非」ではなく取得・前処理・学習・出力の全段階を争点化し、著作権管理情報の除去を別建ての請求として立てている点は、AI開発とデータ運用を行うすべての企業にとって実務的な含意があります。データをどこから取得し、誰が承認し、その記録が残っているか。ここが法的評価を左右するという構図は、日本の著作権法30条の4のもとでも本質的には変わりません。

係争中の案件のため、審理の進展や当事者の動きに応じて状況は変わり得ます。Anthropicが提供するClaude自体の機能・料金の現況はClaudeとは?機能・料金・使い方・ChatGPTとの違い、音楽業界でのAI活用の全体像は音楽・レコード業界のAI活用事例を参照してください。

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