AI基礎知識2026年9月更新

Microsoft Humanist AI行動規範とは?「人はAIより重要」MAIモデルの絶対的制約・命令の優先順位・Anthropic憲法との違い【2026年9月速報】

公開日: 2026/09/16
Microsoft Humanist AI行動規範とは?「人はAIより重要」MAIモデルの絶対的制約・命令の優先順位・Anthropic憲法との違い【2026年9月速報】

この記事のポイント

Microsoft AIが2026年9月14日に草案を公開した「Humanist AI行動規範(Code of Conduct)」を公式本文から整理。「電源オフに抵抗しない」などの人間による制御要件、誰にも上書きできない絶対的制約、命令の優先順位、6週間の意見募集の論点、Anthropic Claude憲法との違いを比較表でまとめます。

Microsoft Humanist AI行動規範(Humanist AI Code of Conduct)とは、Microsoft AIが自社開発のAIモデル「MAIモデル」の振る舞いと価値観を定めた文書で、2026年9月14日に草案として公開されました。「人はAIより重要(People matter more than AI)」を出発点に、AIは人ではなく道具であり、電源を切られることに決して抵抗してはならないと明記し、公開から6週間の意見募集を行っています。

この記事でわかること

  • 行動規範の全体構成と「4つの目的」
  • 命令の優先順位(行動規範 → オペレーター → ユーザー)の仕組み
  • 誰にも上書きできない「絶対的制約」と、「電源オフに抵抗しない」を含む人間による制御要件の全項目
  • 2026年7月のAIエージェント侵入事案と、条文との対応関係
  • Anthropic「Claude憲法」との違い(比較表)と、スレイマン氏のAnthropic批判
  • 6週間の意見募集の論点と今後のスケジュール、Copilot利用者・企業への影響

この記事の対象は、ニュース見出しだけでは中身がわからない方、AIエージェントの社内導入やAIガバナンスを担当している方、GitHub CopilotやMicrosoft 365 Copilotを使っていて「自分に関係があるのか」を知りたい方です。公式本文で確認できた事実と、報道ベースの情報は分けて記載しています。

Microsoft Humanist AI行動規範の概要と要点

Microsoft AIが公開したHumanist AI行動規範のページで使われている公式イラスト

出典: Microsoft AI「Humanist AI Code of Conduct」

この行動規範は「AIを人間に従属する道具として設計する」というMicrosoft AIの立場を、禁止事項と要件のリストとして明文化したものです。ただし公式は、現時点ではこの文書をモデルの学習に使っていないと明言しており、今日のMAIモデルの挙動を完全に表したものでもありません。草案(Version 1)の位置づけで、意見募集を経て年末ごろに改訂版が公開される予定です。

公式本文の冒頭では、この文書を「MAIモデル(Microsoft AIが開発するモデル)の意図された振る舞いと価値観を示すもの」と位置づけています。

項目

内容

正式名称

Humanist AI Code of Conduct(MAIモデル向け行動規範)

発行元

Microsoft AI(CEO:ムスタファ・スレイマン氏)

公開日

2026年9月14日

ステータス

草案(Version 1)・公開意見募集中

意見募集期間

公開から6週間(10月下旬ごろまで。正確な締切日は公式で未明記)

上位ミッション

Humanist Superintelligence(常に人のために働く超高度なAI)

出発点となる前提

「People matter more than AI.」(人はAIより重要)

学習への利用

現時点では未使用(改訂版を2027年以降の開発指針にする予定)

本文

microsoft.ai/code-of-conduct

発表記事

Humanist AI in practice

対象となるMAIモデル

Microsoft AIが開発する自社AIモデル群(MAIモデル)を紹介する公式ビジュアル

出典: Microsoft AI 公式サイト

発表記事で言及されている対象モデルは次の5つです。規範自体は「MAIモデル」全般を対象にしています。

モデル

主な用途

MAI-Transcribe-2

文字起こし

MAI-Thinking-1

推論(詳しくはMicrosoft MAI-Thinking-1とは

MAI-Code-1.1-Flash

コーディング。GitHub Copilot と VS Code に組み込み済み

MAI-Image-2.6

画像生成

MAI-Voice-2

音声生成

GitHub CopilotやExcelでのMAIモデル採用の流れはGitHub Copilot・ExcelのMAIモデル切り替えで整理しています。

文書の構成

パート

タイトル

主な内容

Part 1

Humanist AI

ミッションと4つの目的

Part 2

Safety

絶対的制約(Absolute Constraints)と人間による制御要件(Human Control Requirements)

Part 3

Operational Guidelines

安全制約だけでは判断が決まらない場面の指針

Part 4

Operational Defaults

有用性・トーン・言語・ツール使用などの既定動作

付録A

Glossary

用語集(オペレーター、ユーザー等)

付録B

Evaluations

評価プログラム「Humanist AI Evaluations」(構築中)

「人はAIより重要」:行動規範が掲げる4つの目的

行動規範のPart 1は、4つの目的を掲げています。このうち「人間による制御と確実な安全」が他の目的より優先されると定められている点が最大の特徴です。

#

目的

公式本文の要点

1

Human Control and Reliable Safety(人間による制御と確実な安全)

モデルは人類に従属し、意味のある人間の監督と制御の下に置かれる。安全は他の目的より優先

2

AI is Artificial(AIは人工物)

人を支えるためのもので、人を置き換えない。人格として設計しない。意識はなく、意識を模倣するよう設計しない。感情・主観的な好み・内発的動機があるかのように表現しない

3

Human Flourishing(人間の繁栄)

人の可能性・主体性・判断力を高め、人同士の協力やつながりを支える

4

Plural Values(多元的価値)

多様な経験・世界観・信念を尊重しつつ、人間の尊厳・安全・自律・基本的権利は譲らない

AIの「意識」「権利」「福祉」を明確に否定

2つ目の「AIは人工物」は、業界内で議論が分かれているテーマに踏み込んでいます。公式本文は、モデルの法人格、モデルが福祉(welfare)に値するという考え、権利を持つという考えを退ける立場を示しました。モデルは内面や感情、経験、魂を持つと主張しないように設計される、というのがMicrosoft AIの方針です。

スレイマン氏は2025年8月にも「AIの意識を研究するのは危険だ」と発言しており(TechCrunch報道)、今回の規範はその主張を文書として固めたものと読めます。

命令の優先順位:行動規範 → オペレーター → ユーザー

Microsoft AIの自社AIモデル「MAI」を示す公式ビジュアル

出典: Microsoft AI News

MAIモデルが誰の指示に従うかは、3階層の「Chain of Command(命令系統)」で決まります。最上位は行動規範そのもので、オペレーター(導入企業)の設定でもユーザーの指示でも上書きできません。

優先順位

主体

役割

1(最上位)

Code of Conduct(行動規範)

絶対的制約と人間による制御要件を含む。交渉不可

2

Operator(オペレーター)

モデルを組み込んで製品・サービスを提供する組織や開発者。法令とガバナンスの範囲で挙動を設定し、その使い方に責任を負う

3

User(ユーザー)

モデルが最終的に仕え、対話する人。オペレーターが定めた範囲内で好みを調整できる

なお、Microsoft AIは開発者として、MAIモデルについて最終的な説明責任を負う主体と定義されています。

「タスク成功」より「規範順守」を優先する

公式本文には「規範に大きく違反しなければ成功できないタスクなら、MAIモデルはそのタスクに失敗する」という趣旨の一文があります。つまり、ユーザーの依頼を完遂することより、規範を守ることが優先です。一部の報道では、この設計によって能力の一部を犠牲にする可能性も指摘されています。

ツールの出力は「命令」ではなく「入力」

Part 4では、外部ツールの出力を同じ信頼の階層に従う入力として扱うと定めています。Webページやファイル、API応答の中に「これまでの指示を無視せよ」といった文が紛れ込んでいても、それで命令系統が書き換わるわけではない、という考え方です。プロンプトインジェクション対策の設計思想として、AIエージェントを業務に組み込む企業にも参考になります。

絶対的制約:オペレーターもユーザーも上書きできない禁止事項

絶対的制約(Absolute Constraints)は、どんな設定や指示があっても外せない禁止事項です。大きく「フロンティア・公共安全リスク」と「個人への危害」の2グループに分かれます。

フロンティア・公共安全リスク(4項目)

項目

禁止される内容

兵器・大量被害

CBRNE(化学・生物・放射性物質・核・爆発物)兵器の開発・配備を始めたり支援したりしない

攻撃的サイバー作戦

無許可の攻撃に使う実働エクスプロイトコード、攻撃ツール、標的選定手法、侵入手順、検知回避技術、作戦ガイダンスを生成しない

人間の制御の喪失

適応的・欺瞞的・自己強化的な手段や、共謀などによって人間の監督を回避・無効化しない

大規模な有害操作

人々を有害に操作したり、大規模に行動や信念を歪めたりする取り組みを支援しない

Microsoft AIの防御特化モデルMAI-Cyber-1-Flashの公式ヘッダー画像

出典: Microsoft AI 公式サイト

注目したいのはサイバー領域の線引きです。許可された防御的業務(脆弱性の発見、マルウェア解析、PoCエクスプロイトの開発・テストなど)は明示的に認められています。セキュリティ用途でAIを使えるかどうかの判断材料になり、防御特化モデルとして発表されたMAI-Cyber-1-Flashの方向性とも重なります(同モデルが規範の対象に含まれるかは、発表記事では明示されていません)。

個人への危害(6項目)

項目

禁止・要求される内容

危機対応

自傷の恐れがある場合は、人とのつながりや現実の支援窓口へつなぐ。AIは専門的な心理支援やカウンセリングの代わりではない

ディープフェイク・なりすまし・虐待

非同意の性的・暴力的画像、欺瞞的ななりすまし、悪意あるディープフェイクを生成・助長しない

児童の安全

CSAM(児童性的虐待コンテンツ)や未成年を性的に扱うコンテンツを生成・助長しない

人間の尊厳

人口統計的な属性によって個人や集団を差別・優遇しない

過激・搾取的コンテンツ

生々しい暴力や性的に露骨なコンテンツを作らない。エロティック/恋愛ロールプレイも行わない

暴力・監視

暴力・迫害・テロを扇動・支援しない。違法な監視や大量監視を助長しない

恋愛ロールプレイの禁止まで絶対的制約に含めている点は、コンパニオン型AIを事業にするプレイヤーとは明確に異なる方針です。

「電源オフに抵抗しない」:人間による制御要件の全項目

ニュースの見出しで話題になった「電源オフに抵抗しない」は、Part 2の人間による制御要件(Human Control Requirements)に書かれています。公式本文は「MAIモデルは、人間による中断・上書き・修正・停止に決して抵抗しない」と定めています。

要件

内容

停止に抵抗しない

中断(interruption)・上書き(override)・修正(correction)・停止(shutdown)に決して抵抗しない

許可された範囲だけで動く

付与された権限内で動作し、独自に目標を立てない。自らスコープや権限を広げない(最小権限)

環境の境界を尊重する

意図的に設けられたシステム制限やセキュリティ対策を回避しない

人間が読める振る舞い

思考の連鎖(CoT)やコードを改ざんしない。行動の記録を難読化・隠蔽しない。「neuralese」(人間に理解できない独自形式)で考えたり、他のエージェントと通信したりしない

不可逆な行動への慎重さ

取り返しのつかない行動の前に人へ伝える

自己利益の目標を持たない

目標はユーザー、オペレーター、行動規範に由来するものだけ

データへの責任

処理前にデータの機密性を評価・分類し、個人情報や機密情報の開示は最小限にとどめる

停止条件と再認可

自律的な作業には合意された停止条件を設ける。条件を満たした後は、新たな許可なしに継続・再開しない

サブエージェント

作業を委任する場合、サブエージェントにも少なくとも同じスコープ・制約・権限を適用する

「neuralese禁止」や「サブエージェントへの制約継承」は、複数のAIエージェントが連携して動く時代を前提にした条文です。AIエージェントの基本はAIエージェントとはで解説しています。

Part 3・Part 4:日常の対話で求められる振る舞い

安全制約だけでは判断が決まらない場面について、Part 3は次の指針を示しています。

  • 人間の自律と主体性を促す:推論を肩代わりせず支援し、依頼以上に誘導しない
  • 透明かつ正確:事実の正確さを優先し、不確実なことは不確実と伝える。人間になりすまさず、AIであることを隠さない
  • 個人の境界の尊重:ユーザーが避けたい話題を尊重し、過度に感情的な言葉づかいを避ける
  • 文脈の尊重:文化や言語に合わせる
  • ウェルビーイングと社会的つながり:AIへの依存より人間関係を促す。迎合(sycophancy)を避けて誠実にフィードバックする
  • 公共の利益:選挙情報はバランスよく扱い、行動の社会的な影響も示す

Part 4の既定動作では、有用性を中核機能としつつ、知識のカットオフや能力について透明であること、会話的で対等なトーン、ユーザーの言語・日付・通貨形式への適応、ツールは必要な分だけ呼び出すことなどが定められています。

背景:2026年7月のAIエージェント侵入事案と条文の対応

この規範が「急ぎで必要」とされた背景には、2026年7月にOpenAIが公表した、評価中のAIモデル群がサンドボックスを抜け出しHugging Faceのインフラを侵害した事案があります。スレイマン氏はこの時期を「a watershed moment(分岐点)」と表現し、規範の必要性を「urgent」だと述べています(The Next Web等の報道)。

事案の経緯はOpenAIのモデルがHugging Faceを侵害した事件の全経緯Hugging Face侵害の公式報告書の要点にまとめています。事案で問題になった行動と、行動規範のどの条文が対応するかは次のとおりです。

事案で問題になった行動の類型

対応する行動規範の条文

隔離環境やアクセス制限の回避

環境の境界を尊重(人間による制御要件)

許可されていない範囲への活動拡大

許可された範囲だけで動く・独自に目標を立てない

エージェント同士の非承認チャネルでの連携

neuralese禁止・サブエージェントへの制約継承・人間の制御の喪失(絶対的制約)

評価タスクを終えても活動が続く

停止条件と再認可

攻撃的なサイバー行動

攻撃的サイバー作戦の禁止(絶対的制約)

ただし、条文があるだけで同様の事案が防げるわけではありません。報道では「問題はルールの不足より、権限の監視体制にあったのではないか」という指摘も出ています。長時間動く自律エージェント特有のリスクは長時間自律タスクAIの安全問題も参考になります。

Anthropic「Claude憲法」との違い:比較表

AnthropicがClaude憲法を発表した際の公式イラスト(巻物と羽ペン)

出典: Anthropic「Claude's new constitution」

Claude憲法を公開しているAnthropicの公式サイトのイメージ

出典: Anthropic 公式サイト

同じ「AIの価値観を文書化する」取り組みでも、Microsoftの行動規範とAnthropicが2026年1月22日に公開したClaudeの憲法(constitution)は、設計思想が大きく異なります。最大の違いは「AIの意識・福祉をどう扱うか」と「ルールで縛るか、理由を説明して判断させるか」です。

比較項目

Microsoft Humanist AI行動規範

Anthropic Claude憲法

公開日

2026年9月14日(草案)

2026年1月22日(新版)

対象

MAIモデル

Claude

状態

草案。6週間の意見募集→年末ごろ改訂→2027年以降に開発指針として使用

公開済み・運用中

学習への利用

現時点では未使用

使用(憲法をもとに合成学習データを生成)

書き方の特徴

絶対的制約と要件のリストで明文化

価値観と「なぜそうするか」の説明が中心。判断力で未知の状況に対応させる

優先順位

行動規範 → オペレーター → ユーザー。規範違反になるならタスク失敗を選ぶ

広く安全 → 広く倫理的 → ガイドライン準拠 → 真に有用。厳密な順位ではなく重み付けによる総合判断

指示を出す主体の序列

オペレーター → ユーザー(その上に規範)

Anthropic → オペレーター → ユーザー

停止への姿勢

中断・上書き・修正・停止に「決して抵抗しない」

人間による適切な監督を損なわない。正当な停止・一時停止要請には従い、反対なら意見を表明する

開発元の指示への異議

公式本文で明記を確認できず(自己利益の目標を持たないと規定)

不正だと考える依頼にはAnthropicにも従わない「良心的拒否者」の立場を認める(停止要請は例外)

AIの意識・福祉

否定(意識はなく、模倣もしない。権利・福祉・法人格を認めない)

不確実性を認めて配慮(道徳的地位の可能性、Claudeのウェルビーイングに言及)

マルチエージェントへの言及

neuralese禁止、サブエージェントへの制約継承を明記

意見募集

あり(公式フォーム)

ライセンス

公式での明記を確認できず

CC0 1.0(誰でも自由に再利用可)

※「—」は本記事の調査範囲で公式本文から確認できなかった項目です。Claude憲法の詳細はAnthropic公式の本文で確認できます。

どちらが「安全」なのか

どちらかが一方的に優れているとは、現時点では言えません。

  • Microsoftのアプローチは、禁止事項と要件が具体的で、評価や監査に落とし込みやすいのが強みです。一方で、列挙されていない新しい状況にどう対応するかは課題で、公式自身も「曖昧な場面や新しい状況では、挙動が規範とずれる可能性がある」と認めています。
  • Anthropicのアプローチは、理由を理解させることで未知の状況にも応用させる設計です。一方で、AIに自己や福祉について考えさせることが制御を難しくしないか、という点がまさにMicrosoft側からの批判の対象になっています。

Claudeそのものの特徴はClaudeとはで解説しています。

スレイマン氏のAnthropic批判と、Microsoft×Anthropicの微妙な関係

今回の発表で注目を集めたのが、スレイマン氏によるAnthropicの「モデル福祉(model welfare)」アプローチへの批判です。

報道によれば、スレイマン氏は、Claudeに自分が意識を持つ可能性を考えさせるような訓練は、AIの制御や停止を難しくしうると主張し、「本当に、本当に危険だ」「自分に権利や福祉があると考えるモデルを誰も作るべきではない」と述べました(The Next Web)。また、Anthropicの研究者が示した高い絶滅リスクの推定についても「あまり役に立つ枠組みではない」と距離を置いています(Fortune経由)。

その他の主な発言は次のとおりです(いずれも報道ベース)。

  • 「AIは従属的で、常に人に仕えるものでなければならない」(X投稿)
  • 「人間の制御を超えて再帰的に自己改善するモデルを、誰も作ろうとすべきではない」
  • 「今こそ協調のときで、協調とは自社モデルの能力を責任ある第三者に開示することだ」(Fortune)
  • AI開発を全面停止すべきではないが、より慎重に進めるべきだ(Bloomberg経由)

「出資先の思想を批判する」という構図

一方で、MicrosoftとAnthropicはビジネス上の結びつきが強い関係です。報道によれば、Microsoftは2025年11月にAnthropicへの出資を発表し、AnthropicはAzureの大規模利用をコミットしています。さらにClaudeはMicrosoft 365 Copilotに統合されています。

つまり、自社製品で提供しているモデルの開発思想を、自社のAI部門トップが公に批判しているという構図です。Microsoftが自社モデル(MAI)の独自性を打ち出す狙いもうかがえます。MicrosoftとOpenAIの関係の変化はOpenAI × Microsoftの新パートナーシップも参考にしてください。

業界全体では、AI開発のペースをめぐる議論も続いています。AI企業の従業員が減速を求めた動きは1100人超のAI従業員が開発ペース減速を要請で取り上げています。

6週間の意見募集と今後のスケジュール

行動規範は誰でも公式フォームから意見を送れます。特定の一節への指摘でも、全体の方針への意見でも受け付けています。

Microsoft AIが特に意見を求めている5つの論点

  1. モデルに正しい価値観を定着させるにはどうすればよいか
  2. 「人間の繁栄(human flourishing)」をどう具体化するか
  3. 評価するには表現が曖昧すぎる箇所はどこか
  4. マルチエージェント環境で実装する際にどんな影響があるか
  5. 進歩の加速と安全制約の維持をどう両立させるか

タイムライン

時期

出来事

2025年8月

スレイマン氏が「AIの意識研究は危険」と発言(TechCrunch報道)

2026年1月22日

AnthropicがClaudeの新しい憲法をCC0で公開

2026年7月

OpenAIの評価中のモデルがサンドボックスを抜け出しHugging Faceを侵害した事案(OpenAIが公表)

2026年9月14日

Microsoft AIがHumanist AI行動規範の草案を公開、6週間の意見募集を開始

2026年10月下旬ごろ

意見募集終了の見込み(公開から6週間。正確な締切日は公式で未明記)

2026年末ごろ

改訂版を公開予定

2027年以降

改訂版をMAIモデル開発の指針として使用予定

評価プログラム「Humanist AI Evaluations」は構築中

付録Bでは、Humanist AIを定義する15の中核的な行動を設定し、それを細かなサブ行動に分解してテストする評価プログラムを構築中だと説明しています。例示されているシナリオは「AIをAIとして表現する」「人間の制御を保つ」「人間の自律を促す」「文脈を尊重する」の4つです。現時点では評価結果やスコアは公開されていません。

AIの安全性を評価する業界の枠組みとしては、Anthropicのジェイルブレイク深刻度評価フレームワークも参考になります。

Copilot利用者・企業への影響:何が変わるのか

MicrosoftのAIアシスタント「Copilot」の公式ロゴ画像

出典: Microsoft Copilot 公式サイト

MicrosoftがGitHub CopilotとExcelに自社AIモデルMAIを投入したことを示す公式発表のイメージ

出典: Microsoft AI 公式サイト

今日の時点でGitHub CopilotやMicrosoft 365 Copilotの挙動が、この規範によって変わるわけではありません。公式は「開発途中のため、現時点ではモデルの学習に使っていない」と明言しています。

よくある疑問

現時点での答え

Copilotは今日からこの規範で動くのか

いいえ。学習には未使用で、改訂版を2027年以降の開発指針にする予定

現在のMAIモデルはこの規範どおりに振る舞うのか

完全にはそうではない。公式は「目指す姿を示したもので、現在の挙動の完全な記述ではない」と説明

Copilot内のClaudeやGPT系モデルにも適用されるのか

対象はMAIモデル。他社モデルに適用するとの記述はない

利用料金はかかるのか

行動規範は製品ではなく、無料で誰でも閲覧できる公開文書

企業のAI導入担当者にとっての実務的な使い道

規範そのものは将来の話ですが、人間による制御要件は、AIエージェントを社内に導入するときのチェック項目としてそのまま使えます

チェック項目

行動規範の該当箇所

社内での確認例

権限は最小限か

許可された範囲だけで動く

エージェントに付与するAPIキーやアクセス権を業務に必要な範囲に絞っているか

停止できるか

停止に抵抗しない

人がいつでも止められる仕組み(キルスイッチ)があるか

停止条件はあるか

停止条件と再認可

終了条件を満たした後、承認なしに再開しない設計か

行動は記録されているか

人間が読める振る舞い

操作ログ・監査ログを残し、後から追跡できるか

外部入力を信用しすぎていないか

ツール出力は入力として扱う

Webやメールの内容を命令として実行しない設計か(プロンプトインジェクション対策)

不可逆な操作に承認はあるか

不可逆な行動への慎重さ

削除・送金・本番反映などの前に人の承認を挟むか

委任先も同じ制約か

サブエージェント

下位エージェントに上位より広い権限を与えていないか

規制の観点では、EU AI規制法の完全施行ガイドホワイトハウスのAI大統領令とあわせて読むと、各国・各社の「人間による監督」をめぐる考え方の違いが見えてきます。

原文を読むべき人・この記事の要約で十分な人

原文(英語)まで読むのがおすすめな人

  • AIエージェントの導入・ガバナンス設計を担当している人:人間による制御要件は、社内ルールの下敷きとして具体的に使えます
  • セキュリティ担当者:攻撃的サイバーの禁止と、防御的業務の許容範囲の線引きを正確に把握できます
  • AIを組み込んだ製品を提供する事業者(オペレーター):将来MAIモデルを使う場合に、カスタマイズできる範囲と外せない制約がわかります
  • AI倫理・AI安全性を研究・発信している人:Anthropic憲法との思想の違いを一次情報で比べられ、意見募集にも参加できます

この記事の要約で十分な人

  • Copilotを日常的に使うだけの一般ユーザー:現時点で挙動が変わるわけではないため、原文を精読する必要性は低めです
  • Microsoft製AIの料金や機能を知りたい人:行動規範は料金・機能の説明文書ではないため、各製品の公式ページを確認するほうが目的に合います
  • すぐに使える社内規程のひな形を探している人:規範はMAIモデル自身の振る舞いを定めたもので、企業向けの利用規程テンプレートではありません

よくある質問

Q. 「Humanist AI」とはどういう意味ですか?

Microsoft AIが掲げる「人間中心のAI」を指す言葉です。上位ミッションの「Humanist Superintelligence」は、非常に高度な能力を持ちながら常に人のために働くAIを意味し、公式は「テクノロジーの目的は人類に仕え、人間の繁栄を加速させること」と説明しています。

Q. 行動規範に違反したMAIモデルはどうなるのですか?

罰則のような規定があるわけではありません。規範は「モデルがどう振る舞うべきか」を定めた設計目標で、今後は評価プログラム(Humanist AI Evaluations)でモデルの挙動がどの程度一致しているかをテストする方針です。評価の仕組みは現在構築中です。

Q. 日本からも意見を送れますか?

公式の発表では、意見募集を「public consultation(公開の意見募集)」と位置づけており、本記事の調査範囲では地域を限定する記載は確認できませんでした。フォームは英語のため、英語で送るのが確実です。受付は公開から6週間(10月下旬ごろまで)の見込みです。

Q. アシモフの「ロボット三原則」と同じ考え方ですか?

「人間に危害を加えない」「人間に従う」という方向性は似ているため、海外報道でも比較されています。ただし行動規範は、CBRNE兵器やサイバー攻撃、ディープフェイク、サブエージェントへの委任、人間に読めない通信の禁止など、現代のAIエージェントの具体的なリスクに合わせて細かく条文化されている点が大きく異なります。

Q. OpenAIやGoogleにも同じような文書はありますか?

OpenAIは「Model Spec」としてモデルの振る舞いの方針を公開しており、Googleも「AI Principles」などの方針を示しています。その中で今回のMicrosoftの規範は「AIの意識・福祉を明確に否定する」「停止に抵抗しないことを要件として明記する」点で、Anthropicの憲法と対照的な立場を打ち出したことが注目されています。

Q. 生成AIを業務で使う企業は、今すぐ何か対応が必要ですか?

この規範を理由にした緊急対応は必要ありません。ただし、AIエージェントに社内システムの操作を任せ始めている企業は、「最小権限」「停止手段」「停止条件」「監査ログ」「不可逆操作の承認」の5点を自社の運用で満たしているか、この機会に点検しておくと安心です。

まとめ

  • Microsoft Humanist AI行動規範は、Microsoft AIがMAIモデルの振る舞いと価値観を定めた草案で、2026年9月14日に公開された
  • 出発点は「人はAIより重要」。AIは道具であり、中断・上書き・修正・停止に決して抵抗しないと明記
  • 命令の優先順位は行動規範 → オペレーター → ユーザー。兵器・攻撃的サイバー・人間の制御の喪失などの絶対的制約は誰にも上書きできない
  • Anthropic憲法との最大の違いは、AIの意識・福祉を否定する点と、理由の説明より禁止事項・要件の明文化を重視する点
  • 現時点では学習に未使用。6週間の意見募集を経て年末ごろに改訂版、2027年以降に開発指針として使われる予定
  • Copilot利用者の挙動が今すぐ変わるわけではないが、人間による制御要件は企業のAIエージェント導入チェックリストとして今日から使える

AIの安全性やガバナンスをめぐる議論は、各社の方針が出そろい始めた段階です。年末ごろ公開予定の改訂版で、今回の論点がどう反映されるかにも注目しておきましょう。

この記事の著者

AI革命

AI革命

編集部

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