AI活用事例2026年10月更新

SBIグループ×Anthropic提携完全解説|Claude全役職員展開・Claude Security共同検証・日本金融市場AIエージェント開発【2026年6月】

公開日: 2026/06/15
更新日: 2026/10/20
SBIグループ×Anthropic提携完全解説|Claude全役職員展開・Claude Security共同検証・日本金融市場AIエージェント開発【2026年6月】

この記事のポイント

2026年6月2日に発表されたSBIグループとAnthropicの提携について、5本柱の内容と2026年10月時点の進み具合をまとめました。SBI証券の生成AIチャット開始、Ridge-iの受注、Claude Securityの現在の仕様、金融機関が導入するときの注意点も扱います。

SBIホールディングスは2026年6月2日、米Anthropicと組み、Claude(クロード)を使った全社的なAIトランスフォーメーション(AX)を進めると発表しました。SBIはこれを「日本の金融グループとして初めて」としています。中身は、全役職員へのClaude展開、Claude Securityの共同検証、日本の金融市場に向けたAIエージェントの共同実験など5本柱です。2026年10月時点で外から確かめられる進捗は、Ridge-iの大型受注(年9.8億円の全社AX案件など)、グループ内でのAI人材育成の開始、SBI証券の生成AIチャットの提供開始(9月9日)です。一方、顧客向けの金融AIエージェントはまだ出ていません。

この記事でわかること:

  • 提携の5本柱の中身と、2026年10月時点でどこまで進んだか
  • SBI証券の生成AIチャット(2026年9月開始)と提携の関係で、わかっていること・わかっていないこと
  • Claude Securityの現在の仕様と、金融機関が気にすべき制約
  • SBIとRidge-iがどんな経緯で今回の提携に至ったか
  • NEC経由の金融8社、MUFG×OpenAIとの違い
  • 金融機関がClaudeを導入するときの規制面の注意点と費用の目安

対象読者: 金融機関や大企業でAI・DXを進める担当者、Claude Enterpriseの導入を考えている方、SBIグループのサービスを使っている方。


SBIグループ×Anthropic提携とは?3分でわかる概要

SBIグループとAnthropicの提携概要

出典: Anthropic 公式サイト

SBIグループがAnthropicと直接組み、Claudeを社内業務と顧客向けサービスの両方に入れていく提携です。実際の開発は、SBIの持分法適用会社でAI開発を手がけるRidge-i(リッジアイ)が中心になります。SBIのリリースの正式タイトルは「SBIグループ、日本の金融グループとして初めて、Anthropicと共同でAIトランスフォーメーションを全面推進 ~Ridge-iと3社で、最新セキュリティと金融AIエージェントの導入を実施~」です。

SBIは、金融機関がAIを組み込むときに「サイバーセキュリティ、データ保護、出力の制御性、説明可能性、規制対応」の面で高い安全性が求められると書いています。そのうえで、AnthropicのConstitutional AI(AIの振る舞いの原則を明文化して学習させる手法)にも触れています。

項目

内容

発表日

2026年6月2日

提携当事者

SBIホールディングス株式会社 × Anthropic PBC

実装パートナー

株式会社Ridge-i(SBIホールディングスの持分法適用会社、東証グロース5572)

位置づけ

SBIは「日本の金融グループとして初めて」としている

提携の5本柱

①全社でのClaude活用 ②Claude Securityの先行利用と共同検証 ③日本の金融市場へのAIアクセス基盤とAIエージェントの共同実験 ④顧客向けサービスへのClaude組み込み ⑤Ridge-iを中核にした推進体制

Anthropicが提供するもの

最新モデル・機能を載せたセキュリティ機能や生成AIへの優先アクセス、製品ロードマップの早期共有、エンジニア研修の個別支援など

対象人数

原則として全グループ役職員(SBIHDの連結従業員は約1.9万人)

契約金額

非公表(2026年10月時点も変化なし)

出典:SBIホールディングス ニュースリリース(2026年6月2日)


2026年10月時点の進捗:5本柱は今どこまで進んだか

夜の東京の高層ビル群。日本の金融市場のイメージ

発表から約4か月半で、外から確かめられる動きは主にRidge-iのIR資料とSBI証券のリリースに出ています。全役職員への展開状況やClaude Securityの検証結果は、SBIからもAnthropicからも公表されていません。

柱

発表時(2026年6月)の段階

2026年10月時点でわかっていること

出典

① 全社でのClaude活用

原則として全役職員に展開予定。業務システムからAPI経由でも使う

「Claude社内活用およびオンライン講座等、グループのAI人材育成を開始」。展開人数・完了時期は非公表

Ridge-i 通期決算説明資料(2026年9月)

② Claude Securityの共同検証

Ridge-iとSBI証券が開発中の生成AIチャットを対象に共同検証

検証結果や本番導入の有無は非公表

―

③ 金融市場へのAIアクセス基盤・AIエージェントの共同実験

Claudeから日本の金融市場・金融商品の情報や決済基盤につなぐ共同実験

進捗の発表なし

―

④ 顧客向けサービスへの組み込み

銀行・証券・保険などを横断するプラットフォームにClaudeを入れる構想。時期は未公表

SBI証券が9月9日に生成AIチャットを開始。ただし使っているモデルは明らかにしていない

SBI証券 リリース(2026年9月9日)

⑤ Ridge-iを中核にした体制

Ridge-iがセキュリティ検証・AIエージェント開発・定着支援を担う

SBIHDから「全社AX戦略・推進プロジェクト(年9.8億円)」を受注。「各グループ会社のAIエージェント開発も複数進行中」。柳原尚史社長がSBIHDの社外取締役に就任。金融系システム開発の創研情報を買収

Ridge-i 通期決算説明資料(2026年9月)

出典:Ridge-i 2026年7月期 通期決算説明資料、SBI証券 プレスリリース(PR TIMES、2026年9月9日)

SBI証券の生成AIチャット(2026年9月9日開始)

SBI証券は2026年9月9日、従来のチャットボットを強化した「生成AIチャット」をサイト上で始めました。質問の意図や文脈をくんで答え、追加の質問にも応じます。24時間使え、サイトの「生成AIチャット」アイコンから開けます。

  • 2026年6月からNISA・投資信託など一部の分野で試験提供していた
  • 「役に立った/役に立たなかった」ボタンで測った満足度は、従来のチャットボットの約3倍。比べた期間は、チャットボットが2026年4月18日〜6月18日、生成AIチャットが6月19日〜8月12日
  • 答えられなかった質問の割合も大きく下がった
  • 回答の正確性・安全性を確保する仕組みを整えたとしている

Claudeを使っているのか: SBI証券のリリースには、Claude・Anthropic・Ridge-i・Claude Securityのどれも書かれていません。ただ、Ridge-iは2026年7月に「SBI証券 顧客問い合わせ チャットAI開発(2億円)」を追加で受注し、「近日のリリースを目指す」と開示していました。6月の提携リリースでClaude Securityの検証対象とされた「Ridge-iとSBI証券が開発中の生成AIチャットサービス」と同じものである可能性は高いとみられます。ただし両者を結びつけた公式発表はありません。

北尾会長の「AI投資5億円→増収27億円」

ITmedia ビジネスオンライン(2026年8月21日)のインタビューで、北尾吉孝会長は全社のAIエージェント開発に5億円を投じ、年27億円の増収を見込むと語っています。これは見込みで、実績ではありません。記事の見出しには「孫さんはOpenAIだが、僕はAnthropic」という発言も使われています。

出典:ITmedia ビジネスオンライン(2026年8月21日)


提携の5本柱を詳しく解説

Claude SecurityのAIセキュリティプロダクト概要

出典: Claude Security 公式サイト

5本柱は「社内で使う」「守る」「市場とつなぐ」「顧客に出す」「作る体制」の5つに分けられます。発表時点で「実施」とはっきり書かれているのは社内展開と体制づくりです。顧客向けの金融AIエージェントは「検討」「共同実験」の段階にとどまっています。

1. グループ全役職員へのClaude展開

SBIは、Claudeを「原則的に全グループ役職員を対象に展開」するとしています。チャットとして使うだけでなく、業務システムからAPI経由でも呼び出します。業務コストを下げ、浮いたお金を次のAI投資に回す循環をつくる狙いです。

公式リリースは、システム開発から法人営業まで4つの業務領域をユースケースに挙げています。

業務領域

公式の記載

想定されるClaudeの役割

システム開発

システム開発プロセスにおけるAIの活用

コード作成・レビュー・テストの補助

顧客向けAIエージェント

MCPに対応した顧客向けAIエージェントサービスの提供

外部サービスやデータとつながるエージェント

ハイブリッドな業務運営

問合せ対応、データ分析、UI/UX改善、需要予測など、人間とAIエージェントの組み合わせ

一次回答・分析・仮説出しをAIが担い、判断は人が行う

法人営業

法人営業・リレーションシップマネジメントのためのAI・データ活用

顧客情報の整理、提案準備

MCP(Model Context Protocol)は、AIを外部のツールやデータにつなぐための共通規格です。仕組みはMCPとはで解説しています。

ライセンス数や展開完了の時期は、2026年10月時点でも公表されていません。

2. Claude Securityの先行利用と共同検証(日本の金融機関として初)

SBIは、Anthropicの「Claude Security」の導入に向けた共同検証を「日本の金融機関として初めて」行うとしています。対象はまず、Ridge-iとSBI証券が開発中の生成AIチャットサービスです。目標は「AI安全実装の標準モデル策定」です。

Claude Securityとは

Claudeがコードを読み、脆弱性を見つけ、修正パッチの案を出すセキュリティツールです。2026年4月30日(米国時間)にClaude Enterprise向けのパブリックベータとして公開されました。2026年10月時点でも一般提供(GA)の発表は確認できません。

スキャンに使うモデルは、公開当初はClaude Opus 4.7でした。現在の製品ページでは、Enterprise向けのスキャンは限定提供モデルのClaude Mythos 5.1で動くと書かれています(ヘルプセンターの表記はMythos 5)。利用者はモデルを直接触るのではなく、スキャン結果だけを受け取ります。MythosについてはClaude Mythosとはを参照してください。

主な機能(2026年10月時点の公式情報):

機能

内容

スキャン範囲の指定

リポジトリ全体、特定のディレクトリやブランチを選んでスキャン

定期スキャン

スケジュールを決めて自動で繰り返す

データフローの追跡

ファイルをまたいだデータの流れを追って脆弱性を探す

多段階の検証

Claudeが自分の検出結果を見直して確かめ、誤検知を減らす

修正パッチ案

パッチの案と信頼度を出す

除外理由の記録

「問題なし」と判断した理由を残し、次回以降に引き継ぐ

出力・連携

CSV/Markdownでの出力、プロジェクト単位のWebhook(Slack・Jiraなど)

検出する主な分類は、インジェクション、認証・認可の不備、メモリ安全性、暗号、デシリアライズなどです。重大度(High/Medium/Low)は悪用のしやすさで決まります。

公開ベータ発表時のパートナー: セキュリティ製品はCrowdStrike、Microsoft Security、Palo Alto Networks、SentinelOne、TrendAI、Wizの6社。導入支援などのサービスはAccenture、BCG、Deloitte、Infosys、PwCの5社です。

金融機関が押さえておきたい制約:

  • パッチは自動で当たらない。 すべてのパッチは人のレビューと承認が要ります。公式も、Claudeは誤ることがあるので重要なシステムでは適用前に必ず確かめるよう書いています
  • ゼロデータ保持(ZDR)の対象外。 法令上の要請や利用ポリシー違反への対応のため、Anthropicがデータを保持する場合があります
  • 対応するのはGitHub.comとGitHub Enterprise Serverだけ。 それ以外のホスティングには対応していません
  • 結果は毎回同じとは限らない。 スキャンは確率的で、実行ごとに結果が変わることがあります
  • 対象は自社のコードか、正当な権利があるコードだけ。 第三者のコードやOSSのスキャンは利用範囲外です

料金は、Claude Security専用のプラットフォーム料金はなく、スキャンにかかるトークン代だけです(ヘルプセンター)。詳しくはClaude Securityとはで解説しています。

出典:Claude Security 製品ページ、Claude Help Center「Use Claude Security」

3. 日本金融市場へのAIアクセス基盤とAIエージェントの共同実験

SBIの日本の金融市場へのアクセスやデータと、Anthropicが開発中の金融知識に関するAIエージェントサービスを組み合わせる共同実験です。Claudeから日本の金融市場や金融商品の情報、さらに決済基盤にアクセスできるようにすることを目指し、「グローバル金融コンシェルジュサービス」の早期実現につなげるとしています。

公式の表現は「共同実験」で、商用サービスの提供時期は出ていません。2026年10月時点でも進捗の発表はありません。

Anthropicは金融業務向けのエージェント群をすでに出しています。内容はAnthropic金融サービス向けAIエージェント10種とはとClaude金融エージェント10テンプレートで整理しています。

4. 顧客向けサービスへのClaude組み込み

銀行・証券・保険・資産運用・暗号資産・メディアを横断するSBIのプラットフォームに、Claudeを生成AIエンジンとして入れる構想です。エンドユーザーや提携先の事業会社に向けて、資産運用のアドバイス、家計分析、保険の提案などを行う「パーソナライズされた金融AIエージェント」を目指しています。

SBIの発表では、この部分は共同開発を「検討」する段階です。2026年9月にSBI証券の生成AIチャットが始まりましたが、資産運用アドバイスや保険提案まで踏み込むAIエージェントはまだ提供されていません。

5. Ridge-iを中核にした推進体制

Ridge-iはAnthropicから優先アクセスや研修の支援を受け、セキュリティの共同検証、ユースケース開発、AIエージェント開発、現場への定着を中心になって進めます。金融規制に合ったAIエージェント開発をグループ内で回せるようにする(内製化する)のが狙いです。

発表後、Ridge-iの体制は大きくなりました。2026年7月期の売上高は29.93億円(前期比15.4%増)、営業利益は5.47億円(同93.3%増)です。カスタムAI事業の伸びについて、同社は「生成AI案件増加とSBI大型受注の影響」と説明しています。開発の人手を増やすため、PM10名・エンジニア60名を抱える金融系システム開発会社の創研情報を約2億円で買収しました。顧客の現場に入り込んで実装するFDE(Forward Deployed Engineer)人材も育てています。

柳原尚史・Ridge-i代表取締役社長のコメント(公式リリースより):「金融領域が求める安全性・規制対応の水準を満たすことは容易ではありません。(中略)この三者の連携が、日本の金融AXにおけるひとつのモデルとなることを目指します。」


Anthropicから受けるサポート内容

SBIのリリースによると、AnthropicはSBIグループとRidge-iに次のものを提供します。

  • 最新モデル・機能を載せたセキュリティ機能や生成AIへの優先的なアクセス
  • 製品ロードマップの早期共有
  • エンジニアトレーニングの個別支援

Anthropic側でSBIとの提携を扱った発表ページは、2026年10月時点で見つかっていません。一次情報はSBIとRidge-iの発表です。

東條英俊・Anthropic Japan 代表執行役 社長のコメント(公式リリースより):「金融領域に生成AIを実装するにあたっては、極めて高い水準の安全性、信頼性、そして説明責任が求められます。(中略)社会から信頼されるAIを提供することを使命としてまいりました。」


提携に至る背景:SBI × Ridge-iの協業経緯

SBI証券とRidge-iの段階的な協業経緯イメージ

今回の提携は、2025年9月に始まったSBIとRidge-iの協業の延長にあります。SBI証券向けの生成AIチャット開発が先に動いていて、そこにAnthropicが加わった形です。

時期

出来事

2025年9月12日

SBIホールディングスとRidge-iが資本業務提携を発表

2025年9月26日

SBI証券とRidge-iが「次世代の生成AIチャネル開発」の協業を始める。商品やサービスの質問への回答、注文・手続きのサポート、マーケット分析やポートフォリオ相談など、「専属の投資コンシェルジュ」のような体験を目指す

2025年11月

Ridge-iがSBIHD・SBI証券からSBI証券向け生成AIチャット開発の案件を受注

2026年3月

Ridge-iが「第1弾として、SBI HDおよびSBI証券から総額4億円のプロジェクトを受注」と開示(案件名「SBI証券 顧客問い合わせ対応 生成AIエージェントの開発」)

2026年4月30日

AnthropicがClaude Securityをパブリックベータで公開(Claude Enterprise向け)

2026年6月2日

SBIグループ×Anthropic提携を発表。Ridge-iも同時に発表

2026年6月

Ridge-iの柳原尚史社長がSBIHDの社外取締役に就任。SBI証券で生成AIチャットの試験提供が始まる

2026年7月

Ridge-iがSBI証券「顧客問い合わせ チャットAI開発(2億円)」を追加受注

2026年9月9日

SBI証券が生成AIチャットの提供を始める

2026年9月

Ridge-iがSBIHDから「全社AX戦略・推進プロジェクト(年9.8億円)」を受注

出典:SBI証券・Ridge-i 共同リリース(2025年9月26日)、Ridge-i プレスリリース(PR TIMES、2026年6月2日)、Ridge-i 通期決算説明資料(2026年9月)

Ridge-iはSBIグループとの資本業務提携で「年10億円規模の契約」を受注したとしています。SBI側の外部パートナーへの発注としてはかなり大きく、提携が発表だけで終わっていないことはこの数字から読み取れます。


北尾吉孝の「金融業務完全AIエージェント化」ビジョン

北尾吉孝会長兼社長は、提携の前から「グループ全体のAIドリブン化」を戦略目標に掲げていました。日本経済新聞は2026年3月、FIN/SUM 2026での発言を「SBIHD北尾氏、金融業務『完全にAIエージェント化』」という見出しで報じています。

提携リリースのコメントでは、セキュリティを特に強調しています。

特に顧客に安心・安全なサービスを提供することがその使命である金融機関にとっては、世界最先端のAIに対応できるセキュリティ体制を、将来を見越して整備することもまた必要不可欠です。

ITmediaのインタビュー(2026年8月)では、次のような考えも語っています。

  • 事業の柱は「全社AIドリブン」「金融のオンチェーン化」「個人メディア」の3つ
  • AIとブロックチェーンを組み合わせ、AIエージェントが自律的に動く経済圏を目指す
  • 「攻撃を検知してから30分以内に処理できなければ、大きな損害になる」。定期的なスキャンだけでは足りず、グループの開発パイプラインにAIを組み込んで、AIによるセキュリティチェックを続ける
  • 動的認証の技術(EVERSPIN)を取得し、仕組みを作っている

Claude Securityの共同検証は、このセキュリティ重視の考え方をそのまま形にした施策といえます。

出典:日本経済新聞(2026年3月)、ITmedia ビジネスオンライン(2026年8月21日)


Anthropicの日本展開タイムライン(他社との比較)

Anthropicの日本企業との提携タイムライン(2026年)

2026年春から、Anthropicは日本の大手企業と続けて提携しています。SBIはその中で、金融グループがAnthropicと直接組んだ例です。

発表日

企業

提携の規模・特徴

2026年4月23日

NEC

日本初のエンタープライズパートナー。金融・製造・自治体向けのAI開発

2026年5月19日

日立製作所

グループ29万人へのClaude導入、10万人のAI人材育成

2026年5月27日

富士通

グループ10万人への全社展開、1,000名のFDEチーム、重要インフラ向け

2026年6月2日

SBIグループ

金融グループとしてAnthropicと直接提携。全役職員展開とClaude Securityの共同検証

2026年6月11日

NEC+金融8社

三井住友FG、三井住友トラストグループ、大和証券グループ本社、MS&AD、住友生命、明治安田生命など8社。NECのサービスにClaudeを組み込む

出典:ITmedia「NEC、日立、富士通が"Anthropic協業"でそろい踏み」、innovatopia(NEC×金融8社)

SBIが他社と違う点:

  • 日立・富士通が主に社内業務の効率化と自社製品への組み込みを軸にするのに対し、SBIは金融サービスの利用者に向けたAIエージェントを明示している
  • Claude Securityを名指しした共同検証は、SBIが日本の金融機関として初めてとしている。NEC×金融8社もサイバーセキュリティ強化を柱の一つにしているが、Claude Securityの名指しは確認できていない
  • 銀行・証券・保険・暗号資産をグループ内で横断できる

各社の提携の詳細は、次の記事で解説しています。


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提携発表の前日にAnthropicがS-1を非公開提出

提携発表の前日の2026年6月1日、Anthropicは米SECに上場申請書類(Form S-1)の草案を非公開で提出したと報じられました。2026年10月20日時点でAnthropicは上場しておらず、上場の日付も公表していません。報道では、上場は11月以降にずれ込む見通しとされています。

Anthropicの売上規模やIPOに向けた最新の状況は、Anthropic年換算売上650億ドル突破・IPO前の現状にまとめています。


金融機関がAI導入で考慮すべき規制・注意点

金融機関のAI導入における規制対応イメージ

金融機関がClaudeのような生成AIを顧客向けに出すときは、業法、顧客情報の管理、海外ベンダーへの依存の3つを先に整理しておく必要があります。SBIのリリースも、AIエージェントの共同開発は「日本の金融規制に準拠することを前提に」と書いています。

主な規制・法律上の論点

規制・法律

AI活用で論点になること

金融商品取引法

AIの回答が投資助言や勧誘にあたるか。資産運用アドバイスを出すなら、登録や説明義務との関係を確かめる必要がある

銀行法

顧客情報の管理と、外部委託先(AIベンダー・開発会社)の管理・監督

個人情報保護法

資産や家計のデータをAIで分析するときの利用目的の明示と、同意の範囲

資金決済法

暗号資産や決済の機能にAIをつなぐときの要件

AIの回答が投資助言業にあたるかどうかなど、法令がどう当てはまるかはサービスの設計ごとに変わります。実際には弁護士や監督当局への確認が必要です。

なぜClaude Securityが金融機関に適しているか

  1. 人が承認しないとパッチが当たらない:検出から修正案まではAIが担い、適用の判断は人が行います。金融機関の内部統制や変更管理の流れに組み込みやすい作りです
  2. 既存のセキュリティベンダーと組み合わせやすい:CrowdStrikeやPalo Alto Networksなど、金融機関が使っていることの多い製品の会社がパートナーに入っています
  3. 誤検知を減らす仕組みがある:Claudeが自分の検出結果をもう一度確かめるので、担当者が誤検知の確認に追われにくくなります

現時点での制約・未解決事項

  • AIの誤回答(ハルシネーション)への責任:顧客に誤った情報を出したときの説明や補償の決まりを、先に作っておく必要があります
  • Claude Securityはまだベータ:一般提供の発表はありません。ZDRの対象外であること、GitHubにしか対応していないことは、金融機関のデータ管理の規程と照らし合わせる必要があります
  • 海外AIベンダーへの依存:2026年6月中旬、米商務省の指示でAnthropicはClaude Fable 5とMythos 5の提供を全顧客向けに一時止めました。6月30日に指示は解除され、Fable 5は7月に戻りましたが、Mythosは今も限定提供です。最上位モデルが政策で突然使えなくなることがある、という例です。SBIへの影響は公表されていません。経緯はFable 5・Mythos 5の米輸出管理命令で解説しています
  • モデルの世代交代が速い:Claude Securityの公開当初に使われたOpus 4.7は、すでに旧モデル扱いです。2026年10月時点の主力はOpus 5.5、Sonnet 5.5、Haiku 5.5です。業務システムに組み込むなら、モデルを切り替える前提で作っておくのが安全です

AIエージェントを入れるときのセキュリティ設計全般はAIエージェントのセキュリティ対策ガイドを、金融業界でのAI活用の全体像は金融業界のAI活用を参考にしてください。

自社で同じような導入を考える場合の費用の目安

SBIの契約条件は公表されていません。参考までに、Claudeの公開されている定価(2026年10月時点)は次のとおりです。大口契約は個別の条件になることが多いため、目安として見てください。

プラン

定価

主な特徴

Claude Team Standard

1席 月$25(年払いで月$20)

2〜150席

Claude Team Premium

1席 月$125(年払いで月$100)

2〜150席

Claude Enterprise

1席 月$20(年払いのみ)+利用量はAPI料金で別途。最低20席

SSO、監査ログ、データ保持の設定、SCIM、IP許可リスト、支出上限など

Claude Security

専用の料金なし。スキャンのトークン代のみ

Enterprise向けパブリックベータ

出典:Claude 料金ページ。プランの違いはClaudeの料金で詳しく比べています。

ライセンス代より大きくなりやすいのは、業務システムにつなぐ開発と運用の費用です。SBIもRidge-iに年9.8億円規模の全社AX案件を出しています。新しいモデルや機能を自社の業務システムに組み込むときの進め方と費用の目安は、AI開発の費用相場(改修・PoC・本開発の価格と見積の内訳)で整理しています。


SBIユーザー(一般顧客)にとって何が変わるか

SBI証券のAIエージェント型チャットサポート提供開始の告知画像

出典: SBI証券 プレスリリース(PR TIMES、2026年9月9日)

2026年10月時点でSBIのユーザーに目に見えて変わったのは、SBI証券サイトの生成AIチャット(9月9日開始)です。24時間、文脈をふまえて質問に答えてくれます。ただしClaudeを使っているかどうかは公式には明らかにされていません。資産運用のアドバイスや保険の提案を行う金融AIエージェントは、まだ提供されていません。

SBI証券ユーザーへの影響(見通し)

時期

サービスの変化

状況

2026年9月〜

生成AIチャット(商品・サービスの質問への回答、追加の質問への対応)

提供中。使用モデルは非公表

時期未定

AI投資コンシェルジュ(注文・手続きのサポート、ポートフォリオ相談)

2025年9月の協業発表で示された構想

時期未定

パーソナライズされた資産運用アドバイス・家計分析・保険提案

提携の柱④の構想。共同開発を「検討」中

SBI新生銀行・SBI損保・SBI生命保険ユーザーへの影響

最終的な目標は、銀行・証券・保険をまたいで家計分析から資産形成まで手伝う「グローバル金融コンシェルジュサービス」です。金融規制への対応が前提になるため、2026年10月時点で実現の時期は公表されていません。


他の大手日本企業×Anthropic提携との比較

Claudeの金融サービス向けソリューションのイメージ画像

出典: Claude for Financial Services 公式サイト

SBIは、金融グループがAIベンダーと直接組み、社内利用と顧客向けサービスを同時に進めている点で目立ちます。同じ金融業界の動きとして、NEC経由でClaudeを使う金融8社と、OpenAIと組んだ三菱UFJ銀行と比べると違いがわかりやすくなります。

金融機関のAIベンダー提携の比較

比較項目

SBIグループ × Anthropic

NEC × Anthropic × 金融8社

三菱UFJ銀行 × OpenAI

発表日

2026年6月2日

2026年6月11日

2025年11月12日

提携の形

AIベンダーと直接。実装はグループのRidge-i

NECを起点にした共創

AIベンダーと直接

対象人数

原則全役職員(連結約1.9万人)

各社ごと(非公表)

約3.5万人の行員にChatGPT Enterpriseを順次展開

顧客向けサービス

金融AIエージェントを検討中。SBI証券は生成AIチャットを提供中(モデル非公表)

金融サービスの品質・付加価値の向上を柱の一つに

リテールのデジタル接点「エムット」を軸に展開

セキュリティの取り組み

Claude Securityの共同検証

サイバーセキュリティ強化とIT近代化を柱の一つに

公式発表では個別ツールの名指しなし

出典:三菱UFJ銀行 ニュースリリース(2025年11月12日)、OpenAI 公式事例(MUFG)

OpenAI側の金融向けの取り組みはChatGPT for Financial Servicesで解説しています。

日立・富士通との比較

比較項目

日立製作所

富士通

SBIグループ

提携発表日

2026年5月19日

2026年5月27日

2026年6月2日

展開規模

グループ29万人

グループ10万人

連結約1.9万人(全役職員)

主な活用の軸

社会イノベーション事業

重要インフラ・FDEモデル

金融業務の効率化・顧客向けAIエージェント

Claude Security

発表文での名指しは確認できず

発表文での名指しは確認できず

日本の金融機関として初の共同検証

顧客向け展開

自社の製品・サービスに組み込む

自社の製品・サービスに組み込む

金融AIエージェント(検討・共同実験中)

強み

製造・インフラの知見

グローバルなFDE体制

金融規制への対応、暗号資産を含む多くの事業

人数では日立・富士通の方がずっと多いものの、SBIはグループ内に証券・銀行・保険・暗号資産の顧客接点を持っています。社内で作ったAIをすぐ自社の顧客に出せる点が、製造業やITサービス企業の提携とは違うところです。


こんな企業・担当者に参考になる提携事例

特に参考になる立場:

金融機関のIT・DX推進担当者:規制の厳しい業界で、全社展開とセキュリティ検証、顧客向けチャットを同時に進めた実例として使えます

Claude Enterpriseの導入を考えている企業:ライセンスを配るだけでなく、Ridge-iのような実装パートナーに大きく発注し、FDEを置いて定着させるやり方が読み取れます

金融系のAIエージェントを作るスタートアップ・SIer:MCP対応の顧客向けエージェントや、市場データ・決済基盤につなぐ構想の先行例です

セキュリティ・コンプライアンス担当者:Claude Securityの「人が承認しないとパッチが当たらない」作りと、ZDR対象外・GitHub限定といった制約を、自社の規程と比べる材料になります

SBIグループやRidge-iの株主・投資家:発表と実際の受注・サービス開始を時系列で確かめられます(本記事は投資を勧めるものではありません)

あまり参考にならない立場:

個人向けClaude(claude.ai)の新機能を知りたい人:法人向けの提携で、個人向けサービスの変更は発表されていません

SBIで今すぐAIの資産運用アドバイスを受けたい人:生成AIチャットは使えますが、個人に合わせた資産運用アドバイスを行うAIエージェントはまだ提供されていません

すでに他社のAI(ChatGPT、Geminiなど)に絞り込んでいる金融機関:この提携はAnthropicと組む場合の例です。ベンダーの比較は別に行う必要があります


よくある質問(FAQ)

Q1. SBI証券の生成AIチャットはClaudeで動いているのですか?

公式には明らかにされていません。SBI証券の2026年9月9日のリリースには、Claude・Anthropic・Ridge-iの名前は出てきません。Ridge-iがSBI証券向けのチャットAI開発を受注し「近日のリリースを目指す」と開示していたことから、提携でClaude Securityの検証対象とされたチャットと同じものとみられますが、確定した情報ではありません。

Q2. Claude Securityは一般の企業でも使えますか?

Claude Enterpriseを契約している組織なら、パブリックベータとして使えます。組織のオーナーが管理画面で有効にし、各ユーザーがGitHubアカウントをつなぐ流れです。Team・Maxプランは4月の公開時点で「近日対応」とされていましたが、2026年10月時点で提供開始は確認できていません。Claude Code向けのClaude Securityプラグイン(ベータ)は、Claude Codeの全ユーザーが使えます。

Q3. SBIとAnthropicの提携費用・投資額は?

提携そのものの金額は公表されていません。関連する数字としては、Ridge-iがSBIグループから年10億円規模の契約(全社AX戦略・推進プロジェクト年9.8億円など)を受注していること、北尾会長が全社のAIエージェント開発に5億円を投じて年27億円の増収を見込むと語ったことがあります(後者は見込み)。

Q4. 他の大手銀行(三菱UFJ、三井住友など)はどのAIと組んでいますか?

三井住友FGなど金融8社は、2026年6月11日にNECを起点としたAnthropicとの連携を発表しています。三菱UFJ銀行はOpenAIと2025年11月に戦略的な協業契約を結び、約3.5万人の行員にChatGPT Enterpriseを展開しています。Anthropicと直接組んだ日本の金融グループとしては、SBIが「初めて」としています。

Q5. Ridge-iとはどんな会社ですか?

東証グロースに上場するAI開発会社(証券コード5572)で、SBIホールディングスの持分法適用会社です。2025年9月にSBIと資本業務提携を結び、SBI証券の生成AIチャット開発を受注しました。この提携ではClaude Securityの検証やAIエージェント開発を担う中核の実装役です。2026年6月には柳原尚史社長がSBIHDの社外取締役に就いています。

Q6. Claude Securityを金融機関で使うときに一番気をつけることは?

データの扱いです。Claude Securityはゼロデータ保持(ZDR)の対象外で、法令上の要請などでAnthropicがデータを保持する場合があります。コードを外部のAIに見せてよいか、どの範囲まで見せるかを、社内のデータ管理の規程と照らして決めておく必要があります。対応するのがGitHub.comとGitHub Enterprise Serverだけである点も確認が必要です。

Q7. 今回の提携で使われるClaudeのモデルはどれですか?

SBIの業務で使うモデルは公表されていません。Claude Securityのスキャンは、公開当初はOpus 4.7、現在の製品ページではMythos 5.1で動くとされています。2026年10月時点のClaudeの主力モデルはOpus 5.5、Sonnet 5.5、Haiku 5.5、上位にFable 5.1があります。SBIは提携で最新モデルへの優先アクセスを受けるとしています。

Q8. 顧客向けの金融AIエージェントはいつ使えるようになりますか?

提供時期は公表されていません(2026年10月時点)。資産運用アドバイス・家計分析・保険提案を行うパーソナライズされた金融AIエージェントは、共同開発を「検討」する段階とされています。金融市場や決済基盤とつなぐ仕組みも「共同実験」の段階です。


まとめ:この提携が持つ意味

SBIグループ×Anthropic提携は、金融グループがAIベンダーと直接組み、社内利用・セキュリティ・顧客向けサービスを同時に進めようとする取り組みです。発表から4か月半で、Ridge-iへの大型発注、グループ内のAI人材育成、SBI証券の生成AIチャットと、目に見える動きが出てきました。

① Claude Securityの共同検証:日本の金融機関として初めての取り組みです。人が承認しないとパッチが当たらない作りは、金融の内部統制と合わせやすい一方、ZDR対象外・GitHub限定・ベータという制約もあります。検証結果は未公表なので、続報を待つ段階です。

② 顧客向けへの広がり:日立・富士通が社内と自社製品を軸にするのに対し、SBIは顧客に直接AIを出すことを掲げています。SBI証券の生成AIチャットでは、試験導入で満足度が従来の約3倍になりました。ただし資産運用アドバイスまで行うAIエージェントは、規制への対応が前提となるため、まだ時間がかかりそうです。

③ 実装の体制:SBIはライセンス契約だけでなく、Ridge-iへの年10億円規模の発注とFDE体制で「作って定着させる」部分にお金をかけています。自社で同じような導入を考える企業にとっては、この進め方がいちばん参考になるはずです。

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