AI活用事例2026年7月更新

警察・公安のAI活用事例|年齢進行顔画像・犯罪予測・疑わしい取引分析を徹底解説

公開日: 2026/04/24
更新日: 2026/07/15
警察・公安のAI活用事例|年齢進行顔画像・犯罪予測・疑わしい取引分析を徹底解説

この記事のポイント

日本の警察・公安が実運用するAI活用事例を2026年最新版で整理。年齢進行顔画像・犯罪予測・疑わしい取引分析の3主軸に、トクリュウ対策の生成AI・業務効率化・プライバシー規制まで横断解説します。

警察・公安領域でのAI活用は、大きく①指名手配被疑者の現在の顔を推定する「年齢進行顔画像(加齢顔画像作製)」、②犯罪が起きやすい地点・時間帯を割り出す「犯罪ホットスポット予測」、③年40万件超の届出を優先度付けする「疑わしい取引分析(AML)」の3主軸に整理できます。2025年以降はこれに加えて、匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)対策への生成AI導入、フィッシング偽サイトの自動識別、警察庁の業務効率化(国会答弁草案・長時間労働是正)といった新潮流が本格化しています。

この記事は、警察庁・都道府県警察・JAFIC(警察庁犯罪収益対策室)の公式情報と、2020〜2026年に公表された主要な導入事例を横断整理したものです。自治体・警察向けDXベンダー、金融機関のコンプライアンス部門、セキュリティベンダー、政策ウォッチャーの方が「どの領域に、どの技術で、どの程度の効果で入っているか」を一度に把握できるよう設計しています。

この記事でわかること

  • 日本の警察・公安が実運用しているAI活用事例の全体像(2026年最新版)
  • 3主軸(年齢進行顔画像/犯罪予測/疑わしい取引分析)の仕組みと効果
  • 2025〜2026年に本格化した生成AI活用(トクリュウ対策・業務効率化・偽サイト判別)
  • 金融機関側のAML AI導入事例と削減率ベンチマーク
  • プライバシー・バイアス・誤認リスクに対する日本独自の歯止め
  • AI導入を検討する組織が押さえておくべき規制・コンプライアンス上の論点

警察・公安AI活用の全体像(2026年最新版)

日本の警察・公安領域でのAI活用は、捜査支援・予測・金融情報分析・サイバー対策・業務効率化の5つのドメインに分かれています。令和4年版警察白書で「AIをはじめとする先端技術等の活用による警察力の強化」が政策項目として明記され、令和元年度以降、実証実験から本格運用への移行が段階的に進んできました。2026年(令和8年度)は、生成AIによるトクリュウ対策が予算化され運用フェーズに入る節目の年です。

警察・公安のAI活用全体像(捜査支援・予測・金融情報分析・サイバー対策・業務効率化)

主要な活用領域と運用主体

主軸テーマ

代表事例

運用主体

運用フェーズ

年齢進行顔画像(加齢顔画像作製)

加齢顔画像作製システム/TEHAIプロジェクト

科学警察研究所/警察庁+ヤフー・電通デジタル・PARTY

運用中(2014〜/2020〜)

犯罪予測(Predictive Policing)

神奈川県警ビッグデータ犯罪予測

神奈川県警/京都府警/警視庁

本格運用(2021年4月〜)

疑わしい取引分析(AML/STR)

JAFIC疑わしい取引分析システム

警察庁犯罪収益対策室(JAFIC)

本格運用(2022年3月〜)

トクリュウ対策(生成AI)

犯罪相関図自動生成・首謀者特定

警察庁

令和8(2026)年度に本格導入

業務効率化(生成AI)

国会答弁草案作成・長時間労働是正

警察庁

2024年3月〜検証/段階導入

サイバー対策

フィッシング偽サイトAI判別・闇バイト募集自動検知

警察庁/警視庁

2024年〜運用

車両・人物認識

Nシステム・車種判別・歩容認証

警察庁/都道府県警察

運用中/研究中

予算規模としては、令和8(2026)年度の生成AI活用による捜査支援に約2億7,000万円が計上されました(令和7年度の関連経費は約2,600万円)。わずか1年で10倍規模に拡大しており、警察庁が生成AI領域への投資を明確に加速させていることがわかります。なお、この2億7,000万円は概算要求ベースの報道値をもとにしており、最終的な執行額は今後の公式資料で確認するのが確実です。

1. 年齢進行顔画像(加齢顔画像作製)

指名手配被疑者の「現在の顔」をAIで推定する技術です。指名手配から10年以上経過した被疑者は古い写真しか残っておらず、市民が街中で見かけても気づけない――この課題を解くために、科学警察研究所と民間企業がそれぞれ独自の手法でAI化を進めてきました。

科学警察研究所「加齢顔画像作製システム」

警察庁附属の研究機関である科学警察研究所が、平成24〜26年度(2012〜2014年度)に研究プロジェクトとして開発したシステムです。三次元顔画像を用いて、加齢による顔形状の変化・肌のくすみ・シミなど約10年間の変化を分析し、数十年後の顔を推定します。都道府県警察から依頼を受け、実際の捜査で活用されていることが令和4年警察白書に記載されています。

TEHAIプロジェクト(2020年公開)

ヤフー株式会社・電通デジタル・PARTYの3社が警察庁協力のもと公開した民間発のプロジェクトです。2020年9月30日に特設サイトが公開され、指名手配被疑者捜査強化月間(11月)に合わせて5名の重要指名手配被疑者の予測画像が提示されました。

  • 手法: ディープラーニングによる加齢変化予測AIと加齢顔特徴抽出AIの組み合わせ
  • 学習データ: 既存人物の加齢前後写真1〜2万枚
  • 生成方法: 顔の特徴・体型・髪型の変化を考慮した9パターンの予測画像
  • 背景: 2020年8月時点で約630名が指名手配、うち約3割が10年以上手配継続
AIによる年齢進行顔画像の生成イメージ

位置付けと注意点

加齢顔画像は「法的な同定根拠にはならない参考画像」という位置付けです。あくまで市民からの目撃情報を増やすための啓発素材であり、本人確認のための証拠としては使いません。既存の顔画像と映像を照合する「顔認証」とは技術も目的も別物である点にも注意が必要です。

2. 犯罪予測(Predictive Policing)

過去の犯罪データとオープンデータをAIで分析し、犯罪が発生しやすい地点・時間帯(ホットスポット)を予測する技術です。日本では神奈川県警・京都府警・警視庁が導入していますが、米国の一部警察のような「個人の犯罪可能性」を予測する運用は行っていない点が大きな特徴です。

神奈川県警ビッグデータ犯罪予測

2018年度に実証実験を行い、2021年4月から本格運用を開始したとされる事例です。

項目

内容

入力データ

気象・株価など約100種類のオープンデータ+原則過去5年間の犯罪データ

予測単位

地点・時間帯(人単位ではない)

運用フロー

県警職員が毎朝データ入力 → 昼頃に翌日のホットスポットをアウトプット → 県内全警察署に配信 → 重点パトロール

体制

ソフトウェア・機器は外注、データ入力・運用は県警職員

目的

単なる事件対応ではなく「問題解決型警察活動」への転換

2024年10月には、神奈川県警と日立製作所・日立ソリューションズ東日本が生成AIなどの先端技術活用に関する協定を締結し、犯罪統計データの学習・DX人材育成・業務効率化の試行運用へと連携を広げています。

京都府警・警視庁の取り組み

  • 京都府警: 早期に予測型警察活動を導入し、神奈川県警よりも小規模データで運用
  • 警視庁: 事件情報に加え、性犯罪の前兆とされる「声かけ」「つきまとい」などのビッグデータを重点分析し、重点パトロールで抑止

また警視庁は令和元年度、約1億4,000万円の予算で以下3領域のAI実証実験を実施しました。

  1. 自動車の車種判別(防犯カメラ映像)
  2. 疑わしい取引の分析
  3. 不審者・不審物の抽出

令和3年度以降は車両自動検出機能が追加され、判別精度・対応車種が拡大しています。

日本と海外の運用思想の違い

比較項目

日本(神奈川県警等)

米国(PredPol/COMPAS等)

中国

予測単位

地点・時間帯

地点・時間帯+個人(COMPAS等)

街頭リアルタイム+個人監視

入力データ

犯罪データ+オープンデータ

犯罪データ中心

街頭カメラ映像+個人データ

監視カメラ規模

限定的

都市部で広範囲(ロンドン約50万台)

約2億台超(天網)

顔認証の街頭運用

一般市民向けには未展開

一部都市で禁止令(サンフランシスコ市等)

広範囲で実装

バイアス課題

論点化されているが運用は地点単位

COMPASで黒人被告の再犯リスク過大評価が指摘

民族マイノリティ監視への国際批判

「予測AIは個人の犯罪可能性を判定するものではない」というのが日本の運用方針です。米国で議論されているCOMPASのような個人再犯リスク予測は日本では採用されておらず、EUでもAI Act(2025年適用開始)で個人単位の犯罪リスクスコアリングが禁止されました。日本の地点・時間帯単位という設計は、バイアス・人種差別の再生産リスクに対する歯止めになっています。

3. 疑わしい取引分析(JAFIC)

金融機関などから年間40万件以上届出される疑わしい取引(STR)を、AIで優先度付けして捜査に活用する仕組みです。運用主体は警察庁犯罪収益対策室(JAFIC: Japan Financial Intelligence Center)で、日本の資金情報機関(FIU)として機能しています。

疑わしい取引分析(AML)のイメージ

JAFICの運用概要

項目

内容

運用主体

警察庁犯罪収益対策室(JAFIC)

年間受付件数

40万件超(近年は増加傾向。令和6年分は過去最多水準との報道あり)

実証実験開始

令和元(2019)年度

本格運用開始

令和4(2022)年3月

AI機能

特定事業者からの届出情報とその整理・分析結果をAIに学習させ、優先度付け

特定事業者

金融機関・宅地建物取引業者・宝石貴金属等取扱事業者 など

AIで優先順位付けすることで、分析担当職員が「注意を払うべき情報」に先に人的リソースを投入できるようになりました。日本国内でFIU業務に本格的にAIを導入している例は稀で、国際的にも先進事例に位置付けられます。届出件数は年によって幅があり、最新の正確な件数はJAFICの年次報告書で確認するのが確実です。

金融機関側のAML AI導入事例(削減効果ベンチマーク)

金融機関側でも、取引モニタリングへのAI導入が急速に進んでいます。JAFICへの届出精度向上と、金融機関内部のコスト削減の両面で効果が出ています。

事業者

AIソリューション

効果

公表時期

SBI新生銀行

AIスコアリングモデル

疑わしい取引調査件数 約50%削減

2025年1月

横浜銀行 × NEC

AI不正・リスク検知サービス for Banking

詳細調査対象を 30〜40%削減

2020年7月

愛媛銀行

AMLリスク3段階分類

確認作業 4割減

2025年5月

三菱UFJ銀行 × DCS

疑わしい取引届出確率予測モデル

モデル構築・運用中

継続

GMOあおぞらネット銀行 × Google Cloud Vertex AI

グラフデータベース化

疑わしい取引検知精度 20%向上

継続

AML領域はAI導入のROIが明確に出やすい分野です。導入前後で「確認作業工数」「誤検知率」「検知精度」が数値で比較しやすく、経営判断にも使いやすいのが特徴です。AML領域を含む金融機関側のAI導入動向は金融・銀行のAI活用事例でも詳しく整理しています。

4. トクリュウ対策(令和8年度に本格導入)

匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)の捜査報告書・逮捕情報・共犯者記録を生成AIで分析し、犯罪相関図と首謀者を自動抽出する仕組みです。2025年8月に警察庁が方針を公表し、2025年10月には警視庁に「トクリュウ情報分析室」が設置されました。令和8(2026)年度予算で本格導入が進められています。

仕組みと体制

項目

内容

本格導入時期

令和8(2026)年度

予算

令和8年度に生成AI捜査支援として約2億7,000万円を計上

機能

捜査報告書・逮捕被疑者情報・共犯者記録を生成AIで分析 → 犯罪相関図と分析レポートを自動作成 → 首謀者・上位者を特定

連携組織

警視庁「トクリュウ情報分析室」(2025年10月設置)/各都道府県警の対策本部

環境

クローズド環境オンプレミスの生成AI基盤

トクリュウは、SNSで都度集まる流動的な犯行体制を取るため、従来の組織犯罪捜査の手法では首謀者にたどり着きにくい課題がありました。全国の警察が作成する膨大なテキストデータを生成AIで横串分析することで、人間では見つけにくい相関関係を抽出しようとする試みです。2025年のトクリュウ関連検挙は約1万2千人規模とされ、対策の優先度は高まっています。

未確認・未公表の項目(2026年7月時点)

  • 使用する生成AIモデル(国産LLMか海外製か)は非公表
  • 具体的なアーキテクチャ・精度指標は未公表
  • 概算要求から確定した執行額・運用実績は今後の公式資料で確認が必要

5. 警察庁の業務効率化(生成AI活用)

2025年4月に警察庁が公表した検証結果によれば、生成AIは以下の業務で活用が進んでいます。

  • 国会答弁案の草案作成
  • 犯罪グループ関係性の分析
  • 長時間労働是正に向けた文書作業の効率化

クローズド環境オンプレ生成AIの構築

警察庁では、機密性確保のため外部インターネット非接続のクローズド環境(オンプレミス)で生成AI環境を構築しています。検証環境には高性能GPU(NVIDIA H100 SXMを計36枚)を導入し、ファインチューニングやRAGなどの知識獲得手法を検証。調査研究事業の検証報告書が公式サイトで公開されています(令和7年3月)。

この運用方針は、外部クラウド型生成AIへの機密情報漏えいを防ぐためのものであり、民間企業のDX担当者にとっても「機密性の高い業務に生成AIを使う際の参考モデル」になります。機密情報を扱う業務での生成AI利用の注意点は生成AI セキュリティ リスクで体系的に解説しています。

ガバメントAIとの関係

政府全体では府省庁横断の生成AI基盤の整備が進んでおり、警察庁もその流れに連なります。ただし警察庁は機密情報を扱うため、独自のクローズド環境を基本としつつ、一般的な事務作業では政府共通基盤を併用する二層構成が見込まれます。

6. サイバー犯罪・サイバーパトロール

フィッシング偽サイトAI判別(2024年〜運用)

警察庁が2024年に導入した、生成AIで偽サイト(口座情報詐取サイト)を自動識別するシステムです。背景には次の数値があります。

  • 2024年フィッシング報告件数: 171万8,036件(過去最高)
  • 不正送金被害額: 86億9,000万円

従来は人手で1件ずつ判別していたものが、AIにより大量の疑わしいURLを高速にトリアージできるようになりました。

闇バイト募集自動検知

警視庁がAIでSNS上の闇バイト募集投稿を自動検知し、投稿者に警告を表示する仕組みを運用しています。2024年12月からはデジタル庁の支援で、警察庁がX(旧Twitter)プラットフォーム上の犯罪勧誘情報に対するフィルタリングも開始しました。

SNS規制薬物広告検出

令和3年度の実証実験で高精度な抽出が確認されており、現在も運用が続いています。SNS上の違法ドラッグ広告等を自動抽出し、削除要請や捜査の端緒につなげる取り組みです。

7. その他の警察AI活用事例

自動車ナンバー自動読取装置(Nシステム)

全国の主要道路に設置されている、通過車両のナンバープレートをディープラーニングで自動読取し、手配車両リストと自動照合するシステムです。

  • 手配車両検出時は車種・所有者・メーカー情報も自動特定
  • データは一定期間保存・検索可能
  • 古くから運用されているが、AIによる認識精度が継続的に向上

歩容認証(Gait Recognition)

防犯カメラ映像から歩き方の特徴で人物を特定する技術で、顔が映らない角度・距離でも絞り込みが可能です。NECなど国内ベンダーが技術を提供しており、警察庁で研究・導入検討が進んでいます。

不審者・不審物の抽出

警視庁の令和元年度AI実証実験の一環として開発された、大規模イベント会場等での不審者・不審物抽出技術です。会場に設置された防犯カメラ映像をリアルタイム解析し、警備員への通知に活用されています。

警察・公安AI活用事例 横断比較表

主要な導入事例を運用主体・開始時期・技術・効果の観点で横断整理します。

#

活用事例

運用主体

開始時期

技術

主な効果

1

加齢顔画像作製システム

科学警察研究所

2014年〜

三次元顔画像分析

指名手配被疑者の現在の顔を推定

2

TEHAIプロジェクト

ヤフー・電通デジタル・PARTY+警察庁

2020年9月〜

ディープラーニング(9パターン生成)

5名の重要指名手配被疑者の公開

3

神奈川県警犯罪予測

神奈川県警

2021年4月〜

ビッグデータ分析(オープンデータ約100種類)

ホットスポットへの重点パトロール

4

JAFIC疑わしい取引分析

警察庁犯罪収益対策室

2022年3月〜

機械学習による優先度付け

年40万件超届出の人的リソース最適化

5

車種判別・Nシステム

警察庁/都道府県警察

継続運用

ディープラーニング画像認識

手配車両自動検出・容疑者車両絞り込み

6

フィッシング偽サイト判別

警察庁

2024年〜

生成AI

偽サイトの自動識別

7

闇バイト募集自動検知

警視庁

2024年〜

自然言語処理

SNS投稿者への警告表示

8

警察庁生成AI業務活用

警察庁

2024年3月〜検証

クローズド環境オンプレ生成AI

国会答弁草案・長時間労働是正

9

トクリュウ生成AI分析

警察庁

令和8(2026)年度〜

生成AI(LLM、モデル非公表)

犯罪相関図・首謀者自動特定

10

歩容認証

NEC等ベンダー+警察

研究・検討中

歩容特徴抽出AI

顔が映らない場合の人物絞り込み

警察AI活用の最新ニュース年表

時期

内容

令和8(2026)年度

警察庁、生成AIによるトクリュウ犯罪相関図自動生成を本格導入(約2.7億円計上)

2025年10月

警視庁「トクリュウ情報分析室」設置

2025年8月

警察庁、生成AIトクリュウ分析の導入方針を公表

2025年4月

警察庁、生成AI業務活用の検証結果を公表

2025年3月

クローズド環境オンプレ生成AIの検証報告書公表(H100×36枚)

2024年10月

神奈川県警×日立、生成AI等活用に向けた協定締結

2024年8月

警察庁、生成AIで偽サイト(フィッシング)識別システム導入

2024年3月

警察庁、クローズド環境オンプレ生成AI環境構築(報告書公開)

2022年3月

警察庁、疑わしい取引分析AI本格運用開始(JAFIC)

2021年4月

神奈川県警、犯罪予測ビッグデータシステム本格運用開始

2020年9月30日

TEHAIプロジェクト特設サイト公開

導入コスト感とハードル

予算規模の目安

予算項目

金額

令和8(2026)年度 警察庁 生成AI捜査支援

約2億7,000万円

令和7(2025)年度 警察庁 生成AI構築・検証

約2,600万円

令和元(2019)年度 警視庁AI実証実験(車種判別・AML・不審者抽出)

約1億4,000万円

政府全体のAI関連予算

年1,000億円超規模で推移(内閣府CSTP資料)

導入のハードル

  1. 機密性の確保 — 外部クラウド型生成AIに捜査情報を投入できないため、クローズド環境(オンプレ)の構築コストが高い
  2. AI人材の確保 — 警察内部での運用・保守・精度検証を行える人材確保が課題
  3. データ整備 — 警察データは各都道府県警で分散管理されており、全国横串分析には事前のデータ標準化が必要
  4. 法制度との整合 — 犯罪収益移転防止法・個人情報保護法・刑事訴訟法などとの整合確認
  5. 説明可能性(XAI)の担保 — AIの判断根拠を捜査員・検察・裁判所に説明できる必要がある

規制・コンプライアンス上の注意点

警察政策学会などで論点化されている主な項目を整理します。AIを捜査・防犯に用いる際は、技術の高度化と同時に「どこまでを許容するか」という制度設計が問われます。

プロファイリング・プライバシー保護法制との整合

個人情報保護法・犯罪捜査規範などとの整合が求められます。特に、警察が保有するデータは「捜査目的」の範囲内で利用する原則があり、目的外利用とならないよう慎重な運用が必要です。個人情報保護委員会は2023年3月に「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」を公表し、一律規制はしないものの、個人情報保護法の遵守と肖像権・プライバシーへの配慮を求めています。

統計的差別・バイアスの再生産

米国COMPASの再犯リスク予測で黒人被告の再犯リスクを白人より高く評価する傾向が指摘されたように、過去の犯罪データで学習したAIは既存の社会的バイアスを再生産するリスクがあります。日本では「地点・時間帯単位の予測」に限定することで、個人単位でのバイアス問題を回避する設計を採っています。

誤認・誤検知時の責任所在

AIの判断が誤っていた場合、捜査員・AI開発ベンダー・警察組織のどこに責任があるかを事前に整理しておく必要があります。米国では顔認証の誤マッチにより少なくとも8人が誤認逮捕され、その多くが黒人だったとの調査報道もあります。顔認証は有色人種の識別精度が相対的に低いとの指摘があり、AIの示唆を「確定事実」のように扱わない運用が欠かせません。

説明可能性(XAI)の担保

「AIがなぜその判断に至ったか」を裁判で説明できる必要があります。ディープラーニング系モデルはブラックボックス化しやすいため、説明可能な設計・記録の保存が重要です。

日本が採用する歯止めの全体像

歯止めの観点

日本での運用方針

予測の対象単位

地点・時間帯(個人単位の予測は採用しない)

街頭顔認証

一般市民向けにはリアルタイム監視を展開していない

AI判断の位置付け

単独で捜査の結論とせず、あくまで捜査員の判断支援

生成AI環境

機密業務はクローズド環境オンプレで運用

加齢顔画像

法的同定根拠とせず、市民目撃情報の参考素材

こんな組織におすすめ/導入が難しい組織

AI活用がおすすめの組織

  • 大規模なテキスト・画像データを継続的に保有する警察組織・自治体
  • 捜査員・分析担当職員のリソースが慢性的に不足している機関
  • 金融庁・FIU連携を含むAML業務を大量に抱える金融機関
  • 機密情報の取扱いを伴うため、オンプレ・クローズド環境でのAI運用に予算を付けられる組織
  • 説明可能性・ガバナンスを組織内で設計できる法務・コンプライアンス体制を持つ機関

現時点でAI導入が難しい組織

  • データ標準化・デジタル化が未達の小規模警察組織・小規模自治体
  • AI運用・保守の専門人材が確保できない組織
  • 判断根拠の説明責任を担保する体制が未整備の組織
  • 個人情報・プライバシー保護の内部規程が未整備で、目的外利用が発生するリスクが高い組織

実務ベンダー・DX担当者への示唆

警察・公安領域のAI導入は、実証実験から本格運用への移行に約3年かかるのが一般的な傾向です(例: JAFIC疑わしい取引分析は2019年実証 → 2022年本格運用)。ベンダーとして参入を検討する際は、以下の観点で準備しておくと評価されやすくなります。

  • クローズド環境オンプレでの運用実績 — 外部クラウド非接続前提の設計経験
  • 説明可能性を担保したモデル構成 — ブラックボックス化しない仕組みの提示
  • 日本語・警察業務特有のドメイン知識 — 報告書・捜査書類形式への対応
  • 個人情報・犯罪収益移転防止法など法令知識 — 法務・コンプライアンスとセットでの提案
  • 自治体・警察導入実績 — 類似BtoG実績があれば優位

金融機関側では、横浜銀行(NEC)・SBI新生銀行・愛媛銀行の事例のように、「確認作業を何割削減できたか」という定量的な指標を出せると経営判断が通りやすくなります。AIが自律的に判断・実行する仕組みの全体像はAIエージェントとは、業務系AIの安全運用はAIエージェント セキュリティ 対策も参考になります。

FAQ

Q1. 警察のAIは個人の犯罪可能性を予測していますか?

現時点で、日本の警察は個人単位の犯罪予測を行っていません。 神奈川県警などの犯罪予測システムは「地点・時間帯」単位のホットスポット予測に限定されており、米国COMPASのような個人再犯リスク予測は採用していません。

Q2. 日本は中国のようなAI監視社会に向かっているのでしょうか?

一般市民向けの街頭リアルタイム顔認証監視は展開されていません。中国の天網システム(約2億台超のカメラ+AI顔認証)と日本の運用モデルは根本的に異なります。日本では捜査支援・業務効率化が中心で、無差別監視は行われていない点が重要な区別です。

Q3. 加齢顔画像は裁判で証拠になりますか?

なりません。加齢顔画像はあくまで「市民からの目撃情報を増やすための参考画像」であり、法的な同定根拠にはなりません。最終的な本人確認は、DNA鑑定・顔認証・指紋照合などの別の証拠で行います。

Q4. AIが犯罪の結論を出しているのですか?

いいえ。警察庁の公式見解として、AI分析結果は単独で捜査の結論とせず、あくまで人間の捜査員による判断支援に位置付けられています。AIは「優先度付け」「仮説提示」までを担い、最終判断は人間が行います。

Q5. JAFICの疑わしい取引分析AIは何をしているのですか?

金融機関などから年間40万件以上届出される疑わしい取引情報に対して、機械学習で優先度付けを行い、分析担当職員がどの情報に先に注意を払うべきかをランク付けしています。全件を人手で精査すると時間がかかりすぎるため、AIで効率化している形です。

Q6. 生成AIを警察が使っても情報漏えいの心配はないのですか?

警察庁では外部インターネット非接続のクローズド環境(オンプレミス)で生成AIを運用しており、外部クラウドへの情報漏えいリスクを遮断する設計になっています。機密業務は引き続きクローズド環境が基本です。

Q7. 民間企業でも警察と同じようにAIを活用できますか?

活用領域によります。 疑わしい取引分析(AML)は金融機関側で既に多数の導入事例があります(SBI新生銀行50%削減、横浜銀行30〜40%削減など)。一方、犯罪予測・加齢顔画像・トクリュウ分析は警察の捜査権限に基づく運用であり、民間での類似運用はできません。

Q8. トクリュウ対策の生成AIは何を分析するのですか?

全国警察が作成する捜査報告書・逮捕被疑者情報・共犯者記録などのテキストデータを生成AIで横串分析し、犯罪相関図を自動作成して首謀者・上位者を特定することを目的としています。令和8(2026)年度から本格導入され、生成AI捜査支援として約2億7,000万円が計上されています。

関連記事

警察・公安領域のAI活用を理解する上で、以下の関連記事も併せて参考にしてください。

まとめ

警察・公安領域のAI活用は、「加齢顔画像」「犯罪予測」「疑わしい取引分析」の3主軸で既に本格運用フェーズに入っており、2025〜2026年は生成AIによるトクリュウ対策・業務効率化・フィッシング偽サイト判別という新たな展開が重なる転換期です。

  • 年齢進行顔画像: 2014年〜科学警察研究所で運用、2020年〜TEHAIプロジェクト公開
  • 犯罪予測: 神奈川県警2021年〜本格運用、地点・時間帯単位で個人予測は行わない
  • 疑わしい取引分析: JAFIC 2022年〜本格運用、年40万件超をAIで優先度付け
  • トクリュウ対策生成AI: 令和8(2026)年度〜本格導入、生成AI捜査支援に約2.7億円
  • 業務効率化生成AI: 2024年3月〜クローズド環境オンプレで構築、国会答弁草案・長時間労働是正に活用

日本の運用は、街頭リアルタイム監視や個人単位の犯罪予測を行わず、捜査員の判断支援と業務効率化を中心に据える点で、米中の運用モデルとは明確に区別されています。バイアス・誤認逮捕・説明可能性といったコンプライアンス課題に対しても、個人情報保護委員会のガイドラインや警察政策学会などで継続的に議論が行われています。

自治体・警察向けDXベンダー、金融機関のコンプライアンス部門、セキュリティベンダーの方々は、「どの領域で、どの技術を、どの程度の効果で、どのような歯止めのもとに運用するか」を一貫して設計することが、今後の導入提案の鍵になります。

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