AI活用事例2026年4月更新

警察・公安のAI活用事例 2026|年齢進行顔画像・犯罪予測・疑わしい取引分析を徹底解説

2026/04/24
警察・公安のAI活用事例 2026|年齢進行顔画像・犯罪予測・疑わしい取引分析を徹底解説

この記事のポイント

警察・公安のAI活用事例を、年齢進行顔画像(科警研の加齢顔画像作製システム/TEHAI)・犯罪予測(神奈川県警ホットスポット)・疑わしい取引分析(JAFIC)の3軸で整理。2024〜2026年最新の生成AI業務検証、フィッシング偽サイト判別AI、神奈川県警×日立協定、ゆうちょATM特殊詐欺対策まで網羅し、警察庁白書・JAFIC年次報告に基づいて1記事で解説します。

警察・公安分野のAI活用は、「捜査支援(年齢進行顔画像・車種判別)」「犯罪予防(犯罪予測・特殊詐欺検知)」「金融犯罪対策(疑わしい取引の優先順位付け)」「業務効率化(生成AI・LLM)」「サイバー対策(フィッシング偽サイト判別)」の5領域で本格運用フェーズに入っています。2025年4月には警察庁が生成AIの業務活用検証結果を公表し、国会答弁案の草案作成や犯罪グループの関係性分析での有効性を示しました。一方で、米国Geoliticaの予測的中率0.6%未満や日弁連の顔認証反対声明など、AI警察活用には固有の論点もあります。

本記事では、警察庁白書・JAFIC(Japan Financial Intelligence Center)年次報告書・各都道府県警の公式リリースを一次ソースに、2024〜2026年最新事例を体系的に整理します。

警察・公安のAI活用事例 2026 全体像(データ分析ダッシュボード)

この記事でわかること

  • 警察・公安のAI活用が広がった背景と、警察白書(令和4年・令和7年版)の位置づけ
  • 年齢進行顔画像の2系統(科学警察研究所「加齢顔画像作製システム」とヤフー×電通×警察庁「TEHAI」)の違い
  • 犯罪予測の日本型(神奈川県警の場所×時間ホットスポット)と米国型(PredPol/Geolitica)の思想差
  • JAFIC「疑わしい取引情報分析システム」の運用実態とSTR届出件数のスケール感
  • 2024〜2026年の最新事例(フィッシング偽サイト判別AI/クローズドLLM/神奈川県警×日立/ゆうちょATM特殊詐欺対策)
  • 警察AIの導入課題(バイアス・プライバシー・誤認)と個人情報保護委員会ガイドライン
  • AI悪用犯罪(ディープフェイク児童ポルノ・AI生成フィッシング)と警察の対抗策
  • 自治体・民間事業者がAI防犯ソリューションを検討する際の判断基準

こんな方におすすめ

  • 警察庁・都道府県警察・警察政策研究を担当する公務員・研究者
  • 自治体の防犯・安全対策、地域振興、デジタル推進担当
  • 金融機関のマネロン対策(AML/CFT)担当者
  • 防犯カメラ・顔認証・AML対策ソリューションを提供するベンダー・SIer
  • 民間事業者で防犯AIや顔認証導入を検討する管理部門
  • AIガバナンス・個人情報保護を扱う法務・コンプライアンス担当者

警察・公安でAI活用が広がった背景

警察・公安分野でAI導入が一気に進んだ理由は、「人手で処理しきれない情報量」と「犯罪の高度化・スピード化」が同時に起きていることに尽きます。SNS投稿・防犯カメラ映像・金融取引データ・サイバー攻撃ログはいずれも年間数百万〜数千万件単位で発生し、人手だけで全件精査することは事実上不可能になっています。

警察白書が示す方向性

警察白書 令和4年版 第1章第2節第2項では、AI活用は「警察力の強化」を目的とすると明記され、各種実証実験を経て安全・適切に導入する方針が示されています。令和7年版(2025年7月31日公表)はSNS悪用犯罪を特集し、AIによる規制薬物投稿抽出やフィッシング偽サイト判別の進捗が反映されています。

主要4領域と最新動向

警察庁および都道府県警が現時点で公表している主要なAI活用は、大きく以下の4テーマに集約されます。

  1. 加齢顔画像作製 / 年齢進行顔画像生成(TEHAI、科学警察研究所のシステム)
  2. 犯罪予測(Predictive Policing)(神奈川県警ほか)
  3. 疑わしい取引分析(STR分析)(警察庁JAFIC)
  4. 防犯カメラ映像の車種判別・SNS違法情報抽出・フィッシング偽サイト判別

これらに加え、2024〜2026年は「生成AIの業務利用」「クローズド環境LLM」「ATM特殊詐欺検知」など、新たな実装が続々と公表されています。

警察・公安のAI活用5領域マップ(防犯カメラとAI監視)

警察・公安で使われるAIの5領域

警察AIは、用途別に「捜査支援」「犯罪予防」「金融犯罪対策」「業務効率化」「サイバー対策」の5領域に整理できます。それぞれの領域で運用主体・対象データ・運用フェーズが異なります。

① 捜査支援|顔・車両・画像解析

長期逃亡被疑者の発見、ひき逃げ・強盗の逃走車両特定など、捜査現場でのAI活用です。代表事例は科学警察研究所の加齢顔画像作製システム、ヤフー×電通×警察庁のTEHAI、警視庁・警察庁のAI車種判別システム。いずれも「人の判断を補助する」位置づけで、AIが最終決定を下す運用ではありません。

② 犯罪予防|犯罪予測(Predictive Policing)

過去の犯罪データ・気象・地理情報など多様な特徴量を機械学習に投入し、犯罪発生確率の高い「ホットスポット」を予測してパトロールに反映する手法です。神奈川県警が2018年実証→2021年本格運用を実現しています。

③ 金融犯罪対策|疑わしい取引(STR)分析

警察庁JAFICが運用する疑わしい取引情報分析システムが中心です。年間40〜80万件規模で寄せられるSTRをAIが学習し、職員が優先確認すべき情報の順位付けを行います。2019年度実証→2022年3月本格運用。

④ 業務効率化|生成AI・クローズドLLM

2024〜2025年に急速に立ち上がった領域です。神奈川県警×日立の生成AI協定(2024年10月)、警察庁のクローズド環境LLM調査研究(2025年3月)、警察庁の生成AI業務活用検証結果公表(2025年4月24日)など、国会答弁案草案や犯罪グループ関係性分析での効果が示されています。

⑤ サイバー対策|フィッシング・特殊詐欺

2024年8月、警察庁はフィッシング偽サイト判別AIを導入。2024年のフィッシング報告は171万8,036件で過去最高、不正送金被害は86.9億円に達しています。あわせて2025年12月、ゆうちょ銀行はATMコーナーでの特殊詐欺対策AI(携帯電話通話動作の検知)を発表しました。

業務別AI活用一覧表

警察・公安業務をミッション別に切ったときに、それぞれのAIがどう機能しているかを整理しました。

業務カテゴリ

代表業務

AIの役割

効果・運用形態

主要システム・事例

捜査支援(顔)

長期逃亡被疑者の現在像推定、行方不明者捜索

加齢処理AI(GAN系)で数十年後の顔を推定

科警研で恒常運用。都道府県警依頼ベース

科学警察研究所「加齢顔画像作製システム」、TEHAI(2020年期間限定)

捜査支援(車両)

ひき逃げ・強盗の逃走車両特定

防犯カメラ映像から車種を自動判別、類似順提示

2019年度実証→2021年度機能拡張

警察庁「AI車種判別システム」

犯罪予防

パトロール強化箇所の決定

過去5年の犯罪・気象・地理データから発生確率予測

神奈川県警で本格運用。場所・時間のホットスポット予測

神奈川県警 犯罪予測システム(2021年〜)、警視庁実証(2019年〜)

金融犯罪対策

疑わしい取引(STR)の優先順位付け

過去届出データを学習し、職員が優先確認すべき件を提示

2022年3月本格運用。年間40〜80万件規模を処理

警察庁JAFIC「疑わしい取引情報分析システム」

サイバー対策

フィッシング偽サイトの自動検知

生成AIで急増する偽サイトを判別

2024年8月導入、フィッシング報告171万件規模に対応

警察庁「フィッシング偽サイト判別AI」

サイバー対策

SNS規制薬物投稿抽出

SNS投稿から隠語・広告を高精度抽出

2021年度実証で「高い精度」確認

警察庁「SNS規制薬物情報分析システム」

特殊詐欺対策

ATMコーナーでの被害防止

防犯カメラ画像から通話動作を検知し警告

2025年12月発表。ゆうちょ銀行・SocioFuture

ゆうちょATM特殊詐欺AI

業務効率化

国会答弁案、犯罪グループ関係性分析、遺失物対応

クローズド環境LLM+RAGで職員業務を補助

2025年4月業務検証結果公表

警察庁オンプレLLM、神奈川県警×日立協定(2024年10月〜2025年3月)

出典:警察白書 令和4年版・令和7年版/警察庁JAFIC年次報告書/警察庁プレス資料/日立製作所2024年10月18日ニュースリリース/ヤフー2020年9月30日プレス/日本経済新聞2024年8月報道

① 年齢進行顔画像(加齢顔画像作製システム / TEHAI)

「年齢進行顔画像」は警察AIの中で最も誤解されやすい領域です。実は「科警研が運用する恒常システム」と「TEHAI(2020年の期間限定プロジェクト)」は別物で、運用主体・対象・公開範囲が異なります。

加齢顔画像作製システムとTEHAIの比較(顔認証・生体認証イメージ)

科学警察研究所「加齢顔画像作製システム」(恒常運用)

項目

内容

開発期間

平成24〜26年度(2012〜2014年度)

開発主体

科学警察研究所(NRIPS)

機能

任意の顔画像に加齢処理を施し、数十年後の顔を推定

運用形態

都道府県警察からの依頼に基づき科警研が個別実施

対象

長期逃亡被疑者、行方不明者

公開範囲

限定運用。一般市民を対象とした日常スクリーニングには非適用

出典

警察白書 令和4年版で「現在も活用中」と明記

科警研のシステムは、長期手配被疑者や行方不明者の捜索という限定目的で、依頼ベースで運用される捜査支援ツールです。AI出力は断定ではなく「推定」に留まる点も明確に運用ルール化されています。

TEHAI(てはい)プロジェクト(2020年期間限定)

項目

内容

実施期間

2020年9月30日〜12月31日(重要指名手配被疑者捜査強化月間)

連携主体

ヤフー株式会社、電通デジタル、PARTY、警察庁

対象

警察庁指定重要指名手配被疑者12名のうち5名

技術

加齢変化予測AIと加齢特徴抽出AIを競わせ(GAN的手法)、実在人物の加齢前後1〜2万枚の写真で数万回学習

出力

1人あたり9パターンの予測イメージ(AI+体型変化を加味)

受賞

2021年度グッドデザイン賞、第74回広告電通賞イノベーティブ・アプローチ最高賞

出典

ヤフー株式会社プレスリリース 2020年9月30日

TEHAIは「20年以上手配中で当時の顔写真しか残っていない被疑者の現在像を市民に提示し、目撃情報の質を高める」狙いで実施された啓発・捜査協力プロジェクトです。期間限定の特設サイトで公開されたもので、現在も常設で稼働しているわけではありません。

② 犯罪予測(Predictive Policing)

犯罪予測AIは、警察AIの中でも最も国際的議論が分かれる領域です。日本の運用は「場所・時間のホットスポット予測」に限定されており、米国型のような「個人スコア化」は公的に実施されていません。

神奈川県警の事例(2021年本格運用)

項目

内容

実証実験

2018年1月〜

本格運用開始

2021年

アプローチ

ビッグデータ×問題解決型

使用データ

過去5年の犯罪データ、相談事案データ、天候・気温・湿度、ガソリン価格、コンビニまでの距離、地価、海抜、30日以内の同種犯罪発生地点からの距離、65歳以上世帯数、250m以内の駐車場数 など

運用

毎日ホットスポット(発生確率の高い場所・時間)を予測し、パトロールに反映

特徴は「個人を予測対象にしない」点と、「気象・地価・コンビニ距離など多様な特徴量を組み合わせる」点です。場所×時間のリスク予測なので、市民の特定の個人をプロファイリングするわけではありません。

警視庁の事例(2019年度〜実証)

項目

内容

予算

2019年度から1億4,000万円規模で実証

対象テーマ

(1) 自動車の車種判別、(2) 疑わしい取引分析、(3) 不審者・不審物抽出

拡張

2019年4月以降、子ども・女性狙いの性犯罪前兆行動(声かけ・つきまとい)データを追加

警視庁は「3大テーマ実証」として車種判別・STR分析・不審者抽出を並行で進め、2020年代に重点パトロールへ反映する構造を取っています。

海外型(PredPol/Geolitica)との違い

国際的にはPredictive Policingに対する批判的研究が蓄積されています。とくに有名なのが米国Geolitica(旧PredPol)に対する2023年10月のThe Markup調査で、予測的中率は0.6%未満と報告されました。さらに、過去の警察活動データに含まれるバイアスがアルゴリズムに継承され、低所得層・有色人種地区への過剰配備につながる恐れも指摘されています。

観点

日本(神奈川県警)

米国(Geolitica/PredPol)

予測対象

場所×時間のホットスポット

場所+一部地域の人物スコア

主な批判

バイアス管理、運用透明性

予測精度の低さ、人種バイアス、過剰配備

運用思想

防犯的補助ツール

リアルタイム配備最適化

結果

継続運用

米国複数都市で契約終了

日本のPredictive Policingは地域・時間ベースのリスク把握に閉じている点で、米国型より相対的にプライバシー・バイアスの議論を回避しやすい設計です。それでも運用の透明性確保とアルゴリズム監査は引き続き重要なテーマです。

③ 疑わしい取引(STR)分析|警察庁JAFIC

マネーロンダリング対策(AML/CFT)におけるAI活用は、警察AIの中でも最も実務に直結し、効果が定量的に確認されている領域です。

JAFIC疑わしい取引情報分析システムの仕組み(金融取引モニタリング)

疑わしい取引情報分析システムの概要

項目

内容

所管

警察庁刑事局組織犯罪対策部 犯罪収益対策室(JAFIC: Japan Financial Intelligence Center)

実証実験

令和元年度(2019年度)

本格運用開始

令和4年3月(2022年3月)

対象データ

金融機関等から寄せられる「疑わしい取引の届出(STR)」

AIの役割

過去の届出データを学習し、職員が優先的に確認すべき情報に順位を付与

効果

警察白書で「業務の合理化が見込まれることが確認できた」と明記

STR届出件数のスケール感

JAFICが受理するSTR件数は年々増加しており、令和4年版警察白書時点では年間約40万件、その後の年次報告では80万件超規模に達しているとされます。1件1件を人手で精査することは現実的に不可能で、AIによる優先順位付けが必須インフラとなっています。

年次

STR受理件数

出典

令和4年版警察白書時点

約40万件規模

警察庁「警察白書」

直近の報告(参考)

80万件超とされる

JAFIC年次報告(最新値は要確認)

AIが「最終判断」しない設計

ここで重要なのは、AIはあくまで優先順位付けの補助であり、最終的な犯罪収益移転該当性判定は職員が行う点です。AML/CFTは法的責任を伴う業務であるため、AI出力をそのまま処分根拠とせず、職員確認を経るプロセスが組み込まれています。

民間連携|マネロン対策共同機構

2025年2月の報道ベースでは、マネロン対策共同機構に約30行が協定を結び、AI判定サービスを運用する動きも出ています。金融機関側でもAIによるSTR候補抽出が進めば、JAFICとの双方向効率化が期待できます。

④ サイバー対策|フィッシング偽サイト判別AI

2024年は日本でフィッシング報告件数171万8,036件(過去最高)、不正送金被害86.9億円という数字が記録されました。この規模に人手で対応することは不可能であり、AIによる自動判別が不可欠です。

警察庁フィッシング偽サイト判別AI

項目

内容

導入時期

2024年(日本経済新聞報道)

機能

生成AIを活用し、急増するフィッシング偽サイトを自動判別

背景

フィッシング報告171万件、不正送金被害86.9億円

出典

日本経済新聞「口座情報盗む偽サイト、AIが識別 効率化へ警察庁導入」(2024年8月)

SNS規制薬物情報分析システム

項目

内容

実証実験

令和3年度(2021年度)

機能

SNS投稿から規制薬物の広告・隠語等を高精度で自動抽出

評価

警察庁「高い精度で抽出できることが確認」

これらは「警察がAIを使って犯罪を取り締まる」典型例ですが、同時に犯罪者側もAIで攻撃を高度化しています。

AIが攻撃にも使われる時代

2025年、警察庁は生成AIで作成された18歳未満の性的ディープフェイク画像について、2025年1〜9月で79件の相談があり、加害者の約半数が同校の生徒だったと発表しました。フィッシングメール自動生成、ボイスクローン詐欺、ディープフェイクポルノなど、AI悪用犯罪は今後さらに広がる見通しです。

警察AIは、こうした「AIを使った攻撃に対するAI防御」という対称構造の中で進化していく必要があります。

⑤ 特殊詐欺対策|ATMでのAI検知

2025年12月、ゆうちょ銀行・SocioFuture・日本ATMビジネスサービスの3社は、ATMコーナーでの特殊詐欺対策AIを発表しました。

項目

内容

実施主体

株式会社ゆうちょ銀行・SocioFuture・日本ATMビジネスサービス

時期

2025年12月(プレスリリース)

機能

ATMコーナー防犯カメラ画像をリアルタイムでAI分析。携帯電話通話動作を検知すると警告画面を表示

狙い

還付金詐欺・振り込め詐欺の現場での被害防止

ATM前で携帯電話を使いながら振込操作するパターンは特殊詐欺被害の典型行動として知られています。職員・警察官が常駐できないATMコーナーでも、AI検知によりリアルタイム警告が可能になりつつあります。

⑥ 業務効率化|生成AIとクローズドLLM

2024〜2025年に急速に広がったのが、警察職員自身の業務効率化に生成AI・LLMを使う動きです。

警察庁クローズド環境LLMの構成イメージ(データセンター)

警察庁|クローズド環境LLMの調査研究(2025年3月)

項目

内容

報告書

「クローズド環境下での生成AIのオンプレミス利用環境の構築・運用に係る調査研究事業」検証報告書(株式会社RUTILEA)

公表時期

令和7年3月(2025年3月)

内容

警察保有情報をファインチューニングしたLLMとデータベース連携をクローズド環境で構築

警察情報は最高水準の機密扱いが必要なため、外部クラウド型のChatGPTやClaudeをそのまま業務に使うのは現実的ではありません。閉域・オンプレ環境でのLLM運用を前提とした調査研究が進められています。

警察庁|生成AI業務活用検証結果(2025年4月24日公表)

警察庁は2025年4月24日、生成AIの業務活用検証結果を公表しました。具体的には国会答弁案の草案作成犯罪グループの関係性分析で、長時間労働是正の可能性が示されています。

業務領域

AI活用の効果

国会答弁案の草案作成

答弁草稿の初稿生成で工数削減

犯罪グループの関係性分析

大規模データから関係性をAIが整理し、捜査の俯瞰を補助

出典:Plus Web3 media「生成AIが国家公務員の業務改革に貢献へ」(2025年4月24日)

神奈川県警×日立 生成AI協定(2024年10月)

項目

内容

締結日

2024年10月18日

期間

2024年10月〜2025年3月

パートナー

日立製作所、日立ソリューションズ東日本

内容

生成AIによる業務効率化の試行運用(遺失物対応、運転免許管理、問い合わせ対応チャットボット等を想定)

出典:日立製作所ニュースリリース 2024年10月18日

都道府県警察レベルでも、生成AIによる事務効率化の試行が始まっています。本格導入のスケジュールは公表されていませんが、自治体・大手SIerの協業モデルが他県に広がる可能性があります。

警察・公安AIのメリット

警察AIの導入で得られる主な効果は以下に整理できます。

  • 大量データの自動処理:年間40〜80万件のSTR、171万件のフィッシング報告など、人手では不可能な規模を処理
  • 長期逃亡被疑者の発見可能性向上:加齢顔画像で20年以上前の顔写真しかない被疑者の現在像を市民に提示
  • ホットスポット型予防:神奈川県警の犯罪予測で、限られたパトロール人員を発生確率の高いエリアに集中配備
  • 特殊詐欺の現場検知:ATMコーナーAIで、職員不在時間帯にも被害防止を試みられる
  • 職員の長時間労働是正:国会答弁草案や関係性分析を生成AIで補助、警察庁検証で効果確認
  • サイバー攻撃のリアルタイム対抗:フィッシング偽サイト判別AIで、犯罪者側のAI高速生成に対抗

警察・公安AIの導入課題とリスク

一方で、警察AIには固有のリスク・課題があります。導入を検討する自治体・企業はこれらを必ず押さえておく必要があります。

① バイアスの継承(過去データ依存)

過去の犯罪データ・取締りデータには、警察活動自体のバイアス(特定地域への偏った配備、人種・属性による職質頻度の偏り)が含まれている可能性があります。これをそのまま機械学習に投入すると、バイアスがアルゴリズムに継承されます。米国Geoliticaの例(予測的中率0.6%未満/低所得層・有色人種地区への過剰配備)は重要な教訓です。

対策の方向性

  • バイアス監査の定期実施
  • 特徴量の選定における倫理レビュー
  • ホットスポット予測対象を「場所×時間」に限定し、個人スコア化を避ける(神奈川県警モデル)

② プライバシー・顔認証の論点

公共空間での顔認証リアルタイム監視は、日本警察では大規模運用されていません。JR東日本が2021年に駅構内顔認証運用を始めたが、日弁連等の反発で停止した事例があります(民間)。EU AI規制法でも、警察による公共空間でのリアルタイム顔認証は原則禁止(例外あり)とする議論が進んでいます。

個人情報保護委員会は2023年3月、「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」を公表し、目的外利用や共同利用に警鐘を鳴らしています。民間事業者が顔認証を導入する際は、このガイドラインを必読としてください。

③ 誤認・推定の限界

加齢顔画像はあくまで「推定」であり、断定ではありません。AI車種判別も「類似順提示」で、最終判断は職員が行う設計です。AI出力を確定情報として扱わない運用ルールが必須です。

④ AI悪用犯罪との対称構造

警察がAIで対策する一方、犯罪者側もAIで攻撃を高度化しています。

  • ディープフェイク児童ポルノ(2025年1〜9月で79件相談)
  • AI生成フィッシングメール
  • ボイスクローン詐欺
  • AI生成偽動画による名誉毀損

警察AIは「攻撃側AIに対する防御側AI」として、継続的なアップデートが必要です。

⑤ 法令・コンプライアンス

警察AIは個人情報保護法・刑事訴訟法・憲法上の権利との整合性が常に問われます。拓殖大学・守山正名誉教授の警察政策学会講演でも、AI利活用のコンプライアンス課題が指摘されています。

民間事業者・自治体が警察AI関連ソリューションを検討する際の判断基準

民間銀行・鉄道・小売・自治体が「防犯AI/顔認証/AML対策」を検討する場合、以下の観点を必ず押さえてください。

検討ステップ

  1. 目的の明確化:犯罪予防・被害防止・本人確認のいずれか。複数目的を1システムに混載しない
  2. 個人情報保護委員会2023年ガイドラインの遵守:顔識別機能付きカメラの利用範囲・保存期間・目的外利用禁止
  3. データ最小化:取得する顔特徴量・行動データを最小限に絞る
  4. 第三者監査の確保:アルゴリズムの公平性・バイアス監査を外部委託
  5. EU AI規制法・各国法令の動向確認:グローバル展開時に重要
  6. AI出力を確定情報としない運用設計:必ず人による最終判断を組み込む

こんな企業・組織におすすめ

  • 大量の取引・通信・映像データを抱え、人手では処理しきれない規模に達している組織
  • 法務・コンプライアンス体制が整備済みで、AIガバナンスを継続的に運用できる組織
  • 個人情報保護委員会・金融庁等のガイドラインに即した運用設計が可能な組織
  • 自治体・警察との連携窓口が確立されている民間事業者

慎重に検討すべき組織

  • 顔認証・行動分析を導入したいが、プライバシー保護体制が未整備
  • AI出力を「自動判定」として運用したく、人の確認プロセスを省略したい
  • 過去の取締り・営業データのバイアス監査を行わず、そのままAIに学習させようとしている
  • AI悪用犯罪(ディープフェイク・ボイスクローン)への対策視点が抜けている

海外事例(参考)

国際比較で警察AIを理解するために、主要な海外事例も整理します。

名称

国・組織

内容

評価

PredPol(現Geolitica)

米国LAPD協力

短期・長期パターン機械学習+「余震」アルゴリズム

The Markup 2023年10月調査で予測的中率0.6%未満

HunchLab(現ShotSpotter Missions)

米国

リスクテレイン・モデリング、気象・社会経済指標を複合

一定運用継続中

Palantir

米国

リアルタイムデータ統合・分析プラットフォーム

警察・国防で導入。プライバシー懸念も

Vadodara市 顔認証CCTV

インド

約700台の顔認証CCTVで指名手配検知実証

大規模公共空間運用

Prüm条約拡張

EU

欧州各国の顔画像共有・顔認識アルゴリズム活用提案

議論継続中

これらの海外事例は、規模・思想ともに日本の運用とは異なります。「日本では場所×時間のホットスポット予測が中心で、個人スコア化は行われていない」という点を、民間事業者も自治体も理解しておく必要があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 加齢顔画像作製システムとTEHAIは同じものですか?

別物です。加齢顔画像作製システムは科学警察研究所が平成24〜26年度に開発し、現在も都道府県警の依頼に応じて運用している恒常システムです。一方、TEHAIはヤフー・電通デジタル・PARTY・警察庁が2020年9月30日〜12月31日に実施した期間限定の捜査協力プロジェクトで、特設サイトで重要指名手配被疑者5名のAI予測像を公開したものです。技術系統も運用主体も異なります。

Q2. 日本でも個人を予測する犯罪予測AIは使われていますか?

公的に大規模運用されている事例はありません。神奈川県警の犯罪予測は「場所×時間のホットスポット」を予測するもので、個人をプロファイリングする運用ではありません。米国PredPol/Geoliticaのような個人スコア化型は、日本の警察実務では公表ベースで確認されていません。

Q3. 疑わしい取引情報分析システムはどれくらいの件数を処理していますか?

警察白書 令和4年版時点で年間約40万件規模、その後の報告では80万件超とされる規模です。AIは届出データに優先順位を付け、職員が優先確認すべき件を提示する役割を担います。最終的な犯罪収益移転該当性の判定は職員が行います。

Q4. 警察庁は生成AIを業務に使っていますか?

2025年4月24日、警察庁は生成AIの業務活用検証結果を公表し、国会答弁案の草案作成犯罪グループの関係性分析での効果を示しました。また2025年3月には「クローズド環境下での生成AIのオンプレミス利用環境」に関する調査研究報告書を公表しており、本格導入のスケジュールは現時点では未公表です。

Q5. 公共空間で警察が顔認証リアルタイム監視を行っていますか?

日本警察では大規模運用されていません。JR東日本が2021年に駅構内顔認証運用を始めたものの、日弁連等の反発で停止した事例があります(民間運用)。EU AI規制法でも、警察による公共空間でのリアルタイム顔認証は原則禁止(例外あり)とする議論が進行中です。

Q6. 民間事業者が防犯AIや顔認証を導入する際、何を参照すべきですか?

最重要は個人情報保護委員会「犯罪予防や安全確保のための顔識別機能付きカメラシステムの利用について」(2023年3月)です。目的外利用・共同利用に関する具体的な指針が示されています。あわせて警察白書 令和4年版・令和7年版、JAFIC年次報告、EU AI規制法の動向も押さえておくと、グローバル展開・将来の規制変更に備えられます。

Q7. AIで作成された児童ポルノやディープフェイクへの対策はありますか?

警察庁は2025年、生成AIで作成された18歳未満の性的ディープフェイク画像について、2025年1〜9月で79件の相談があり加害者の約半数が同校の生徒だったと発表しました。法的整備・取締り強化が進行中です。生成AI悪用犯罪は警察AIの新たな対象領域として急速に拡大しています。

まとめ|警察・公安AIは「補助ツール」フェーズで成熟しつつある

警察・公安のAI活用は、2025〜2026年にかけて以下の通り整理できます。

  • 捜査支援:科警研の加齢顔画像作製システム(恒常運用)、TEHAI(2020年期間限定)、AI車種判別(警視庁・警察庁)
  • 犯罪予防:神奈川県警の場所×時間ホットスポット予測(2021年本格運用)。個人スコア化は行わない日本型
  • 金融犯罪対策:警察庁JAFICの疑わしい取引情報分析システム(2022年3月本格運用、年間40〜80万件規模)
  • 業務効率化:警察庁の生成AI業務検証結果公表(2025年4月)、クローズドLLM調査研究(2025年3月)、神奈川県警×日立協定(2024年10月)
  • サイバー対策:警察庁フィッシング偽サイト判別AI(2024年8月)、SNS規制薬物情報分析システム(2021年度実証)
  • 特殊詐欺対策:ゆうちょ銀行ATM特殊詐欺対策AI(2025年12月)

いずれも「人の判断を補助するツール」としての位置づけが徹底されており、AIが最終判断を下す運用ではありません。一方で、過去データのバイアス継承、公共空間での顔認証の是非、AI悪用犯罪への対抗など、固有の論点が並走しています。民間事業者・自治体が関連ソリューションを検討する際は、個人情報保護委員会2023年ガイドラインを軸に、人の確認プロセスを必ず組み込む運用設計が前提になります。

警察AIは「テクノロジー単体の話」ではなく、「公正性・透明性・人権保護を伴った運用設計の話」です。今後も警察白書・JAFIC年次報告・個人情報保護委員会ガイドラインの最新版を参照しながら、自組織の活用方針を継続的にアップデートしてください。

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参考ソース

一次ソース(公式)

信頼メディア

  • 日本経済新聞「手配容疑者の顔、AIで推測 警察庁が民間と連携」(2020年9月)
  • 日本経済新聞「口座情報盗む偽サイト、AIが識別 効率化へ警察庁導入」(2024年8月)
  • 日本経済新聞「犯罪予測で子ども・女性守れ」(2019年)
  • Plus Web3 media「生成AIが国家公務員の業務改革に貢献へ」(2025年4月24日)

国際動向(参考)

  • Nature「Reform predictive policing」
  • The Markup「Predictive Policing Software Terrible At Predicting Crimes」(2023年10月)
  • WIRED「欧州で賛否、顔認識の国際ネットワークは実現するか」

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