AI活用事例2026年5月更新

放送・メディア業のAI活用事例 2026|NHK技研LLM・自動字幕・AI編集・視聴率予測を徹底解説

公開日: 2026/05/06
放送・メディア業のAI活用事例 2026|NHK技研LLM・自動字幕・AI編集・視聴率予測を徹底解説

この記事のポイント

NHK技研の独自LLM、日テレ生成AIドラマ『TOKYO巫女忍者』、琉球朝日放送のAIアナウンサーなど、放送・メディア業界のAI活用事例を2026年最新情報で整理。自動字幕・AI編集・視聴率予測まで工程別マッピング表で1記事で把握できます。

放送・メディア業界のAI活用は、2025〜2026年にかけて「実証実験」から「実放送への本格組み込み」へ一段階進みました。NHK放送技術研究所の独自LLM(2025年5月)、琉球朝日放送のAIアナウンサー本格運用(2025年1月)、日本テレビの生成AIフル活用ドラマ『TOKYO 巫女忍者』(2026年1月7日放送)、日本民間放送連盟の生成AI声明(2025年11月26日)と、半年〜1年で業界の景色が大きく変わっています。

この記事では、放送局・制作会社・メディア企業が「どの工程に」「どのAIを」「どんな効果で」導入しているかを、公式情報と国内外の最新事例を中心に整理します。

この記事でわかること

  • 放送・メディア業界でAI導入が加速した背景と2026年時点のフェーズ
  • 自動字幕・AI編集・AIアナウンサー・視聴率予測など8領域の代表事例
  • NHK・日テレ・テレビ朝日・AbemaTV・琉球朝日放送の最新導入状況
  • BBC・FOX Sports・Netflix・WSC Sportsなど海外メディアの動向
  • BBC「AI使用ガイドライン」と民放連「生成AI声明」の要点
  • 著作権・ディープフェイク・ハルシネーションなど業界特有のリスク
  • 地方局・中小プロダクションが先に取り組むべきAI3選

誰向けの記事か

  • 放送局・配信プラットフォームの編成・技術・制作部門でAI導入を検討している方
  • 番組制作会社・ポストプロダクションの経営層・現場担当者
  • 広告代理店・メディアエージェンシーで放送業界の動向を掴みたい方
  • 業界向けAIソリューションを提供するベンダー・SIer
  • メディア・コンテンツ業界への就職・転職を考えている方

放送・メディア業界でAI活用が加速した背景

放送業界がAI導入を急ぐ理由は、視聴環境の構造変化と制作現場の人手・コスト圧迫です。総務省「放送・配信コンテンツ産業戦略検討チーム」資料(2025年3月)でも、地上波視聴者数の減少とネット動画視聴者数の逆転傾向が公式に示されています。

主な構造要因は以下の通りです。

  • 視聴のネットシフト:TVer・Netflix・YouTube・ABEMAなどへ視聴時間が移動し、地上波広告収入が縮小
  • 制作費・人件費の圧縮:地方局を中心にアナウンサー・編集者・字幕担当の慢性的不足
  • バリアフリー要請:聴覚障害者・高齢者向けの字幕付与、訪日外国人・在留外国人向けの多言語対応の社会的圧力
  • 配信プラットフォーム化:放送局自身がストリーミング基盤を持つようになり、レコメンド・パーソナライズ技術が必須に
  • 生成AIの実用化:音声認識・動画生成・LLMが報道・編成の現場で「使える」精度に到達

2025〜2026年の焦点は「独自LLMによる報道支援」と「生成AIによる映像制作(VFX含む)」、そして「著作権・ディープフェイクへの業界ガバナンス」の3点です。

補足: 生成AI全般の仕組みや代表ツールについては 生成AIとは、業務への活用全体像は 生成AIの活用事例 もあわせて参照してください。

制作工程別 AI活用マッピング(取材→配信→アーカイブ)

放送業務を6つの工程に分解し、各工程で使われている主要AIを整理します。

業務工程

AIの役割

代表的な活用AI・事例(提供元)

取材・原稿作成

情報収集、翻訳、文章校正、ファクト補助

番組制作支援LLM(NHK技研)、ChatGPT・Claude・Gemini(汎用)

撮影・編集

シーン検出、ハイライト自動抽出、VFX、動画生成

Sports AI Editor/極AIお台場スタジオ/TREE Digital Studio

字幕付与・翻訳

音声認識(ASR)、機械翻訳、ライブ字幕

AIポン(AbemaTV×テレ朝)、NEC自動字幕(日テレ)、AI Video OCR(テレ朝)

配信・編成

視聴率予測、編成最適化、AIアナウンサー

SHAREST_LT(電通)、AIアナウンサー(琉球朝日放送×NEC)

視聴者分析・推奨

レコメンド、パーソナライズ、感情ターゲティング

Netflix協調フィルタリング、NBCU感情ターゲ広告

アーカイブ・権利処理

顔認識、Video OCR、過去映像検索

カオメタ(東芝デジタルソリューションズ×テレ朝)

工程ごとに「どこから入るか」を考えると導入計画が立てやすくなります。一般的には字幕付与(音声認識)→アーカイブ検索→視聴者分析の順で投資対効果が出やすいとされます。

NHK放送技術研究所:番組制作支援の独自LLM

NHK放送技術研究所(技研)公式サイトのキービジュアル

出典:NHK放送技術研究所 公式サイト

NHK放送技術研究所(技研)は2025年5月26日、放送局データを使った独自LLMを発表しました。報道・番組制作領域で「事実誤認の低減」を最重要KPIに据えた、放送業界では象徴的な取り組みです。

概要:約2,000万文の放送局データを追加学習

  • 既存LLMをベースに、過去約40年分のNHKニュース原稿・番組字幕など約2,000万文を追加学習
  • ニュース報道に関する検定試験ベースの評価で、誤回答率が学習前比約1割減少
  • 用途:情報収集支援・翻訳・文章校正などの番組制作支援
  • 2026年までに番組制作支援ツールでの実用化を目標(現時点では社内利用想定)

別途、ニュース速報の高速手話翻訳向けにLlama3ベースで7億パラメータの独自モデルも構築しており、報道のバリアフリー領域でも基盤を整えています。

補足: NHK技研LLMは現時点で社外提供は確認できておらず、社内ツールとしての実用化と推察されます。最新の対外発表は公式リリースで確認してください。

日本テレビ:視聴率予測と生成AIフル活用ドラマ

日本テレビ(日テレ/NIPPON TV)公式ロゴ

出典:日本テレビ放送網 公式サイト

日本テレビは「予測×制作」の両輪でAI活用を進めています。東京大学松尾研究所との共同研究と、生成AIをフル活用したドラマ制作が代表事例です。

松尾研究所との共同研究:視聴率予測×ハイライト自動生成

自然言語処理+時系列予測を組み合わせた視聴率予測モデルと、放送番組から見せ場を自動抽出するハイライト動画自動生成を共同研究しています。番組編成・SNS二次展開の効率化が主目的です。

『TOKYO 巫女忍者』:生成AIフル活用ドラマ(2026年1月7日放送)

2026年1月7日深夜放送の連続ドラマ『TOKYO 巫女忍者』(莉子主演)は、実写×AI映像融合を全面に押し出した日本テレビ初の生成AIドラマです。

  • 制作協力:サイバーエージェント「極AIお台場スタジオ」、AOI Pro.、TREE Digital Studio(映画『8番出口』『爆弾』のVFX陣)
  • AIクリエーティブディレクター:宮城明弘氏
  • 使用された具体的な動画生成モデル名(Sora/Veo/Runway等)は本記事執筆時点では非公表

「ドラマの実放送で生成AIを主軸に据える」事例としては国内初級の規模で、放送業界全体に対する実装の試金石となるプロジェクトです。

NEC音声認識AIによる自動字幕(過去事例)

生放送『ストレイトニュース』においてNECの音声認識AIを活用した自動字幕付与の実証も行っており、本格的な字幕自動化に向けた重要事例の一つです。

テレビ朝日:AI Video OCRと顔認識AI「カオメタ」

テレビ朝日はAI inside・東芝デジタルソリューションズと組み、字幕・アーカイブ領域で先行しています。

AI Video OCR:海外スポーツの選手名CGを1秒以内に日本語化

海外スポーツ中継で表示される英語の選手名CGを、1秒以内にリアルタイムで日本語に変換するAI Video OCRをAI insideと共同開発。2020年「日本民間放送連盟賞」技術部門で優秀賞を受賞しました。

カオメタ:300万件超のアーカイブから人物特定

東芝デジタルソリューションズの顔認識AI「カオメタ」を採用し、300万件超のアーカイブ映像から人物特定・登場シーン検索を高速化。権利処理・二次利用の効率化に寄与しています。地上波局でアーカイブ価値を高める取り組みとして他局からも注目されています。

AbemaTV ×テレビ朝日:国内初リアルタイムAI字幕「AIポン」

AbemaTVとテレビ朝日は2018年12月、生放送ニュース『けやきヒルズ』で国内初のリアルタイムAI字幕生放送を試験開始しました。

  • ベースエンジン:Google Cloud Speech-to-Text API+LASSIC社「LASSIC Speech Recognition」
  • 音声認識から字幕表示まで約1秒を実現
  • 名称:「AIポン」

2026年現在の運用継続有無や精度向上の最新数値は公式には未確認ですが、生放送リアルタイム字幕の実用域到達を初めて広く認知させた事例として、業界の節目に位置付けられています。一方で、専門用語・固有名詞・方言・同音異義語での誤変換は残り、「最終確認は人間が必要」という運用設計の重要性も同時に示されました。

琉球朝日放送 ×NEC:AIアナウンサーで多言語化と人手不足対策

琉球朝日放送(QAB)公式サイトのキービジュアル

出典:琉球朝日放送(QAB)公式サイト

琉球朝日放送(QAB)は2024年10月、NECのAIアナウンサー導入を発表し、2025年1月頃から地上波・ネット配信で実用化しています。地方局のAI活用として最も注目される事例の一つです。

概要:DeepBrain AIのAIアバター技術を採用

  • DeepBrain AI社のAIアバターソリューションを採用
  • 80ヶ国以上の言語に対応
  • テキスト入力だけで自然な口元の動きと読み上げを生成
  • 用途:地方局の人材不足対策、災害時の多言語情報発信、訪日外国人・在留外国人向けニュースの拡充

「アナウンサー1人で県内全域・多言語をカバーする」という人員設計が現実離れしている地方局にとって、AIアナウンサーは人を置き換える技術ではなく、人手では届かなかった層に情報を届ける拡張ツールとして導入されています。

電通 ×データアーティスト:SHAREST_LT で120日先までの視聴率予測

電通はAI視聴率予測システム「SHAREST」を強化し、120日先までの長期視聴率予測が可能な「SHAREST_LT」の提供を開始しました。

  • 用途:番組編成・広告セールスの計画精度向上
  • 提供形態:放送局・広告主向けのソリューション
  • 強み:従来は数週間先までだった予測ホライゾンを大幅に延伸

広告セールスや番組改編の意思決定タイミングと一致するため、営業現場で活用しやすい設計になっているのが特徴です。広告領域の関連事例は 広告・広告代理店のAI活用事例 も参照してください。

海外メディアの代表事例:BBC・FOX Sports・NBCU・Netflix・WSC Sports

BBC News 公式ロゴ

出典:BBC News 公式サイト

メディア

取り組みの要点

BBC News Labs

ニュース自動編集・自動タグ付け、国際放送向けAI翻訳+合成音声ナレーションの試験運用

FOX Sports

スポーツ中継からハイライトを自動抽出するAIを導入

NBCUniversal

AI映像解析で詳細メタデータを付与し、感情ターゲティング広告を展開

Netflix

協調フィルタリング+深層学習による高度なレコメンドエンジン

WSC Sports

スポーツ特化生成AIで2024年に約1,020万本のハイライト動画を制作。米Big 12カンファレンスはYouTube投稿数前年比+5,290%、視聴数+2,212%、登録者+3,333%の成長を記録

特にWSC Sportsの数字は、ハイライト自動生成のビジネスインパクトを定量的に示した稀少な事例で、「短尺動画×SNS×スポーツ」の組み合わせがいかに伸びるかを示しています。

BBCと民放連の公式ガイドライン

放送局のAI活用はガバナンス(透明性・著作権)で評価される時代に入りました。日英の業界団体が示している姿勢は、社内導入の指針としても有用です。

BBC「AI使用ガイドライン」(2025年1月公表)

英BBCは2025年1月に番組・記事制作におけるAI使用ガイドラインを公表しました。3大原則は次の通りです。

  1. 公共の利益を最優先に行動する
  2. クリエイターの才能と創造性を優先する
  3. AI技術の使用について視聴者にオープンで透明性を保つ(番組内でAI利用箇所の明示を要求)

字幕・ライブテキストページ生成・翻訳での生成AI活用を拡大し、Microsoft Copilot、Adobe Firefly、GitHub Copilotを採用しています。

民放連「生成AIの開発・学習に関する声明」(2025年11月26日公表)

日本民間放送連盟(民放連)は、生成AIサービスが会員社の保有コンテンツと同一・類似のアウトプットを生成するケースについて、著作権侵害・ブランド毀損リスクを強く指摘しました。

  • オプトアウト方式だけでは権利侵害を防げないとの立場
  • AI開発・学習段階での対応を要請
  • 2026年1月には「知的財産推進計画2026」に向けた意見書も提出

声明本体PDFの具体条項までは本記事では引用しませんが、「学習段階での権利保護」を業界として明確に求めたことが大きな転換点です。

国の指針(参考)

  • 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月、文化審議会著作権分科会法制度小委員会)
  • 経済産業省「コンテンツ制作のための生成AI利活用ガイドブック」
  • 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版)」(2025年3月28日)
  • デジタル庁「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」(2025年5月27日)

放送業界でAIに「できること/できないこと」

肯定一辺倒の記事が多い領域ですが、現場で判断するためにはできないことこそ正確に把握する必要があります。

領域

AIで自動化できる範囲

人間の確認・編集が必須な範囲

字幕付与

一般会話のリアルタイム文字起こし

専門用語・固有名詞・方言・同音異義語の最終確認

翻訳

ニュース原稿の一次翻訳

政治・経済の機微表現、ニュアンス調整

原稿作成

公開情報からのドラフト生成

ファクトチェック、独自取材の組み込み

編集・ハイライト

スポーツ・SNS用短尺の自動切り出し

文脈の誤判定(敗者の表情カット等)の確認

アーカイブ検索

顔認識による登場シーン検索

同姓同名・後ろ姿・編集映像の権利処理

視聴率予測

過去データに基づく中期予測

突発事象(事件・事故・スポーツ番狂わせ)の織り込み

AIアナウンサー

定型ニュース・気象・多言語朗読

速報・取材コメント・微妙なトーン

特に生放送字幕は、AbemaTVの「AIポン」で示されたとおり実用域に到達しているものの、完全自動化はまだ難しい領域です。「人間のオペレーターが介入できる仕組み」を残した設計が現実解になっています。

放送局はディープフェイク被害も受ける側になる

AIは「使う技術」だけでなく「攻撃に使われる技術」でもあります。放送局はブランド・信頼を持つがゆえに、ディープフェイクの標的にもなる構造があります。

  • 岸田元首相を装う偽動画で日テレロゴまで模倣された事案が発生
  • 実在のアナウンサー・キャスター・番組ロゴを模倣した偽動画はSNSで拡散しやすく、放送局のブランド毀損リスクが顕在化
  • 海外でも、有名キャスターの顔と声を模倣した詐欺広告が複数報告

対策としては、(1)モニタリング体制の整備、(2)プラットフォーム事業者との通報フロー構築、(3)視聴者への注意喚起、(4)公式アカウントの認証強化、(5)電子透かし/C2PA等の真正性技術への対応が現実的なアクションです。セキュリティ全般の論点は 生成AIのセキュリティ も参照してください。

地方局・中小プロダクションが先に取り組むべきAI3選

大手局事例だけでは中小プレイヤーには現実感が薄いため、スモールスタートに向く3領域を整理します。

1. 自動文字起こし・字幕の一次案生成

  • 適用領域:番組制作(収録物)、社内会議録、取材メモ
  • 代表ツール:Notta、Whisper(OpenAI)、Microsoft 365のTranscribe、Google Cloud Speech-to-Text
  • コスト感:1ユーザー月数千円〜
  • 理由:既存業務の置き換えがしやすく、効果が定量化しやすい

2. アーカイブ素材のメタデータ付与

  • 適用領域:過去番組・素材ライブラリの検索効率化
  • 代表ツール:Microsoft Azure Video Indexer、AWS Rekognition Video、東芝カオメタ系ソリューション
  • コスト感:従量課金(数万円/月〜)から
  • 理由:制作工数の削減効果が直接見え、二次利用ビジネスにつながる

3. SNS用ショート動画のハイライト自動切り出し

  • 適用領域:番組宣伝、TVer・YouTube連動、地域情報の拡散
  • 代表ツール:OpusClip、Vidyo.ai、Descript、汎用編集AI
  • コスト感:月数十ドル〜
  • 理由:放送と切り離して試せるため失敗コストが低く、視聴者接点を広げる効果が高い

この3つはハードウェア投資が不要・既存ワークフローに横付けできる・人材教育コストが低いという共通点があります。汎用ツールの選び方は 生成AIツールおすすめ比較、動画生成領域は AI動画生成ツールおすすめ も参考になります。

導入コスト感とハードル

放送業界のAIは「単品ツール」と「業務システム改修」でコスト感が大きく異なります。

区分

初期/月額コスト感

代表例

汎用AI(個人プラン)

月3,000〜5,000円/人

ChatGPT Plus、Claude Pro、Gemini Advanced

汎用AI(法人プラン)

月5,000〜10,000円/人+管理費

ChatGPT Team/Enterprise、Claude Team

クラウド系メディア解析

従量課金(数万円〜数十万円/月)

Azure Video Indexer、AWS Rekognition、Google Cloud Speech

専門SaaS(字幕・編集)

数十万〜数百万円/月

LASSIC、AI Video OCR系、ハイライト自動生成

局向け統合ソリューション

数千万〜数億円(初年度)

NEC・東芝・サイバーエージェント等の個別開発

独自LLM・自社モデル開発

数億円〜(複数年)

NHK技研型の独自モデル開発

導入のハードルとしてよく挙がるのは以下です。

  • ハルシネーション対策:報道現場では事実誤認は致命的。NHK技研も誤回答率の低減をKPI化
  • 権利処理:学習データ・出力物の双方で著作権・肖像権・商標の確認が必要
  • データ整備:過去映像・原稿の電子化、メタデータ付与、許諾範囲の整理
  • ガバナンス設計:AI利用箇所の視聴者開示(BBC原則)、社内利用ルール
  • 人材確保:技術系の若手が地方局に残りにくい構造的課題
  • ベンダーロックイン回避:単独ベンダー依存より、複数技術の組み合わせ運用が業界の主流

業界特有のリスクと対策

リスク

具体例

対策

誤情報・ハルシネーション

報道原稿の事実誤認、誤った字幕・テロップ

RAG導入、人間による最終確認、ファクトチェックフロー

ディープフェイク・なりすまし

実在キャスター・番組ロゴを模倣した偽動画

モニタリング、プラットフォーム連携、電子透かし/C2PA

著作権・学習データ

既存番組・楽曲の無断学習

民放連声明準拠、学習オプトアウト、ライセンス取得

透明性・説明責任

AI生成箇所が視聴者に伝わらない

BBC原則準拠、AI利用の明示・テロップ表示

プライバシー

顔認識による無関係者の特定

公開範囲限定、社内アクセス権限管理

完全自動化の過信

字幕の誤変換が放送事故化

人間オペレーターの併用、エラー時の即時介入設計

ベンダー集中リスク

単独クラウドへの過度な依存

マルチベンダー、社内ナレッジ蓄積

特に「AI生成箇所の視聴者開示」は2026年以降、国内でも段階的にスタンダード化していくと見られます。BBCと同水準の運用ルール整備を先行させた局・制作会社は、長期的な信頼資産で優位に立てる可能性があります。

こんな放送・メディア企業におすすめ/おすすめしない

AI活用に向いている企業

  • アーカイブ資産が豊富な放送局(過去映像のメタデータ化で大きな効果)
  • 多言語対応・バリアフリー対応の社会的要請を受けている地方局・公共放送
  • スポーツ・音楽・お笑いなど短尺動画と相性の良いコンテンツを保有するメディア
  • 配信プラットフォーム化を進めている事業者(レコメンド・パーソナライズで競争力に直結)
  • 新規ドラマ・CM制作で実験的なVFXを試したい制作会社
  • 報道支援LLMで誤回答率を計測できるKPI体制を持つ局

AI活用のハードルが高い企業

  • 過去素材がフィルム・テープ中心で電子化が進んでいない局・プロダクション
  • 1日の制作・配信本数が少なく、月額数十万円以上のAIコストが回収できない規模
  • 報道方針上、生成AIによる原稿生成を許容しない編集体制(これ自体は健全な選択でもある)
  • 著作権・肖像権の社内確認体制が整っておらず、最終チェックを担保できない組織
  • 「AIに任せれば全部自動化」と期待値が現場とズレている経営層

2026年以降の見通し

  • 報道支援LLMの本格運用:NHK技研モデルの実装を皮切りに、民放各局も独自LLM/RAG構築が拡大
  • AI生成箇所の視聴者開示ルール:BBC原則に近い形で国内の自主基準が整備される可能性
  • 生成AI動画の地上波本格運用:ドラマ・CM・バーチャルプロダクションでの採用拡大
  • AIアナウンサーの地方局横展開:人手不足・多言語対応の現実解として広がる
  • 配信プラットフォームのレコメンド精度競争:TVer・各局VOD・YouTubeの三つ巴
  • 業界横断のディープフェイク対策:民放連・NHK・配信プラットフォームでの真正性技術導入

放送業界は「AIで効率化を取りに行くフェーズ」から、「AIをガバナンスとブランド資産として運用するフェーズ」へ移行しつつあります。

まとめ:放送・メディアのAI活用は「鮮度×ガバナンス」で差がつく

放送・メディア業界のAI活用は、2025〜2026年の動きを押さえているかどうかで現場感がまったく違います。要点を整理すると次の通りです。

  • 国内最先端はNHK技研の独自LLM日テレの生成AIドラマ琉球朝日放送のAIアナウンサー電通のSHAREST_LT
  • 海外ではBBCのAI使用ガイドラインWSC Sportsのハイライト自動生成が業界標準を引き上げている
  • 字幕・アーカイブ・SNS用ハイライトはスモールスタートしやすい3領域
  • 民放連声明とBBC原則を踏まえたガバナンス整備が長期的な競争力の核
  • AI導入は人を置き換える技術ではなく、人手では届かない層に情報を届ける拡張ツールとして設計するのが現実解

合わせて読みたい:

よくある質問(FAQ)

Q1. 生放送の字幕はもう完全自動化できるのですか?

現時点では「人間オペレーター併用での実用域」が現実解です。AbemaTVの「AIポン」(2018年〜)で示されたように、一般会話レベルでは音声認識から表示まで約1秒で十分実用的ですが、専門用語・固有名詞・方言・同音異義語での誤変換は残ります。報道番組では誤字が放送事故化するため、最終確認は人間が担う設計が一般的です。

Q2. 放送局がAIアナウンサーを導入する目的は人件費削減ですか?

公開事例(琉球朝日放送など)を見る限り、人件費削減よりも「人手では届かない層に情報を届ける」目的が中心です。多言語放送・災害時の即応・深夜帯の追加情報枠など、これまで人員配置が現実的に難しかった領域を埋める用途で導入されています。

Q3. 民放連の声明(2025年11月26日)は何を意味しますか?

民放連は、生成AIサービスが会員社の保有コンテンツと同一・類似のアウトプットを生成するケースについて、「オプトアウト方式だけでは権利侵害を防げない」との立場を表明しました。AI開発・学習段階での対応を要請する内容で、放送業界として学習段階での権利保護を明確に求めた点が転換点です。

Q4. 地方局がまず投資すべきAIは何ですか?

本記事では「自動文字起こし・字幕の一次案生成」「アーカイブ素材のメタデータ付与」「SNS用ショート動画のハイライト自動切り出し」の3つを推奨しています。いずれもハードウェア投資が不要で、既存ワークフローに横付けでき、効果が定量化しやすい領域です。

Q5. AIで作ったコンテンツを放送する場合、視聴者にどう伝えるべきですか?

英BBCのガイドラインでは「AI技術の使用について視聴者にオープンで透明性を保つ」を3大原則の1つとして掲げ、番組内でAI利用箇所の明示を要求しています。日本国内でも段階的に同水準の運用が広がる可能性が高く、テロップ・番組クレジット・公式サイトでの明記など、複数チャネルでの開示を準備しておくことをおすすめします。

Q6. 生成AIで作った映像は番組として放送できますか?

法的に禁止されているわけではなく、現に2026年1月7日には日本テレビが生成AIフル活用ドラマ『TOKYO 巫女忍者』を地上波で放送しています。ただし、(1)使用モデルの学習データの権利関係、(2)登場人物の肖像権・パブリシティ権、(3)BBC原則に類する透明性の確保、の3点は事前確認が必須です。

この記事の著者

AI革命

AI革命

編集部

AI革命株式会社の編集部です。最新のAI技術動向から実践的な導入事例まで、企業のデジタル変革に役立つ情報をお届けしています。豊富な経験と専門知識を活かし、読者の皆様にとって価値のあるコンテンツを制作しています。

AI活用ならAI革命にお任せ。サービスを見てみる
AI Revolution Growth Arrow

AIでビジネスを革新しませんか?

あなたのビジネスにAIがどのような価値をもたらすかをご提案いたします。