小さな薬局の採用がうまくいかない原因と人材確保の新しい選択肢|3つの打開策を整理

この記事のポイント
中小・個人薬局の薬剤師採用が難しい構造的な原因を整理し、採用手法の刷新・省人化DX/AI・調剤業務の外部委託という3つの新しい選択肢を比較して解説します。
小さな薬局の採用がうまくいかないのは、担当者の努力不足ではなく、「薬剤師の地域偏在」「薬局数の増加」「人材紹介会社への依存」といった構造的な要因が重なっているためです。打開のカギは、常勤1人を採るという発想から離れ、採用手法の刷新・省人化DX/AI・調剤業務の外部委託という3つの選択肢を自局の状況に合わせて組み合わせることにあります。
この記事でわかること:
- 小さな薬局の採用がうまくいかない構造的な原因(データつきで整理)
- 「常勤採用一本足」から抜け出すための3つの新しい選択肢
- 採用ルート・打ち手の比較と、自局に合う選び方
- こんな薬局におすすめ/おすすめしない条件とよくある質問
対象読者は、中小・個人・地方で店舗を運営する薬局経営者、管理薬剤師、採用担当者です。大手チェーン前提の一般論ではなく、限られた人員と予算で今日から取れる一手に絞って解説します。

「常勤1本足」から「3つの選択肢の組み合わせ」へ
小さな薬局の採用課題は、常勤薬剤師を1人採用できれば解決する、という単純な問題ではありません。求人を出しても応募が来ない地域では、そもそも採用の土俵に立てないケースが多いからです。
現時点で有効なのは、次の3方向を状況に応じて組み合わせる考え方です。
- 採用手法の刷新 — 人材紹介会社への依存から脱却し、リファラル・自社採用・スポット人材などルートを分散する
- 省人化DX/AI — 対物業務を自動化・効率化し、そもそも必要な人員数を減らす
- 調剤業務の一部外部委託 — 2025年の薬機法改正で制度化された仕組みを活用し、限られた薬剤師を対人業務に振り向ける
重要なのは、まず原因を正しく理解したうえで、自局の状況に合う選択肢を選び取ることです。
小さな薬局の採用がうまくいかない7つの原因
小規模薬局の採用難は、単独の理由ではなく複数の要因が積み重なって起きています。まずは全体像を整理します。
原因 | 内容 | 小さな薬局への影響 |
|---|---|---|
① 薬局数の増加 | 薬局は2010年ごろの約5.5万施設から2023年ごろには約6.1万施設へ増加 | 求人ポスト自体が増え続け、1店舗あたりの採用競争が激化 |
② 薬剤師の地域偏在 | 都市部は充足傾向、東北・中国四国など地方は慢性的に不足 | 地方・郊外の小規模店ほど応募ゼロが起きやすい |
③ 潜在薬剤師の未復職 | 結婚・出産で離職した層(薬剤師は約7割が女性)が復職していない | フルタイム前提の求人では母集団が広がらない |
④ 免許不要職への流出 | 製薬企業MR・研究職など薬局以外で働く薬剤師が一定数存在 | 調剤薬局が採れる母数がさらに絞られる |
⑤ 対人業務の拡大 | 在宅医療・服薬フォローアップなど対人業務が増加 | 1人あたり負担増→離職→採用難の悪循環 |
⑥ 調剤報酬改定による経営圧迫 | 2年に1回の改定で基本料・技術料が抑制傾向 | 大手と同水準の待遇を出しにくく、給与競争で不利 |
⑦ 人材紹介会社への依存 | 高額な紹介手数料と入社後のミスマッチ | 採用コストが経営を圧迫し、早期離職も起きやすい |
薬剤師の有効求人倍率は、調査時点や母集団により差はあるものの、全職種平均(おおむね1.3倍前後)を大きく上回る3倍前後の高水準で推移しているとの報告が複数あります。地方ではさらに高い水準になる地域もあり、「都市部は均衡に向かうが、地方・中小は依然深刻」というのが現時点の正確な整理です。
つまり、応募が来ないのは求人票の書き方の問題だけではなく、採れる薬剤師の絶対数が地域的に限られている構造があるということです。この前提を踏まえると、常勤採用だけに頼らない発想が必要になります。

原因の核心|人材紹介会社への依存がコストと早期離職を招く
7つの原因のうち、小さな薬局が自力でコントロールしやすいのが「⑦人材紹介会社への依存」です。ここを見直すだけでも、採用の費用対効果は大きく変わります。
薬剤師の人材紹介手数料は、一般的に採用者の年収の3〜4割が相場とされています。年収500万円の薬剤師を採用すれば約150万円、ドラッグストアなどで年収600万円クラスなら約180万円の手数料がかかる計算です。処方箋枚数が限られる小規模薬局にとって、この一括費用は重い負担になります。
さらに見落とされがちなのが定着率です。厚生労働省の調査では、有料職業紹介経由の6カ月以内離職率は9.43%で、それ以外の手法(5.12%)より高いという結果が示されています。「高い手数料を払ったのに早期に辞めてしまう」というミスマッチが、実際のデータとして表れているのです。
紹介会社が悪いわけではありませんが、採用ルートを紹介会社1本に絞ることがリスクだと理解しておく必要があります。手数料率だけでなく、定着率・返戻金規定・入社後フォローまで含めて比較する視点が欠かせません。
人材確保の新しい選択肢①|採用手法の刷新
紹介会社への一極集中から抜け出し、複数のルートに分散するのが最初の一手です。代表的な採用ルートを比較すると次のようになります。
採用ルート | コスト感 | 特徴 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
人材紹介会社 | 年収の3〜4割(高) | 母集団形成を任せられるが手数料が高く早期離職リスクも | 急いで即戦力を確保したい/自社で母集団を作れない |
リファラル採用 | インセンティブ数万円程度〜(低〜中) | 既存スタッフの紹介。定着率が高い傾向 | 働きやすい職場文化があり、口コミが期待できる |
ダイレクトリクルーティング/SNS | 媒体利用料(中) | 企業側から候補者へアプローチ。運用工数は必要 | 発信を継続でき、地域や条件で狙い撃ちしたい |
自社採用サイト・オウンドメディア | 制作・運用費(中・長期投資) | 手数料ゼロで応募獲得。立ち上げに時間がかかる | 中長期で採用を安定させたい |
スポット人材(スキマバイト系マッチング) | 稼働分の人件費のみ(変動費) | 必要な時だけ確保。常勤の代替ではなく補完 | 常勤採用が難しいが人手が足りない日がある |
ポイントは、手数料の安さだけで選ばないことです。求職者を対象にした調査では、勤務先を選ぶ優先順位として「残業の少なさ(約83%)」「人間関係(約78%)」「給与(約72%)」が上位に挙がっています。給与だけで大手と競うのではなく、働きやすさや柔軟な働き方を打ち出すことが、中小薬局の勝ち筋になります。
人材確保の新しい選択肢②|省人化DX・AIで「必要人員」を減らす
採用がうまくいかないなら、そもそも必要な人員数を減らすというアプローチも有効です。人を増やす前に、対物業務を自動化・効率化する発想です。
現場で導入が進んでいる代表的な仕組みは次の通りです。
- 調剤ロボット・全自動分包機 — 散剤調剤、水剤分注、錠剤の一包化などバックヤード業務を自動化。処方データを流すだけで調剤・一包化まで進められる仕組みが実用化されています。
- 遠隔接客AI — サイバーエージェント子会社のMG-DXは、CGアバターや対話エージェントが受付・案内を担う遠隔接客AIアシスタントを2024年8月から提供しています。1人の薬剤師が複数店舗を横断して対人業務に集中できる体制づくりに使えます。
厚生労働省も、ICTによる対物業務の効率化を進め、薬剤師は服薬指導・フォローアップなどの対人業務に集中する方向性を示しています。つまり、AIや調剤ロボットは薬剤師を代替するものではなく、限られた人員を有効に使うための補完と位置づけられています。最終的な監査や服薬指導は薬剤師の責任範囲であり、この点は導入後も変わりません。
ただし、調剤ロボットや接客AIには導入コストや設置スペースの制約があり、処方箋枚数が少ない小規模店ほど投資回収のハードルは高くなります。まずは費用対効果を各ベンダーに確認したうえで、無理のない範囲から段階的に検討するのが現実的です。
具体的な導入領域や事例は、薬局のAI活用事例|調剤・在庫管理・接客への導入ガイドで詳しく整理しています。省人化の全体像は中小企業のAI自動化・業務効率化もあわせて参考にしてください。

人材確保の新しい選択肢③|調剤業務の一部外部委託(薬機法改正)
3つ目は、2025年の薬機法改正で制度化された「調剤業務の一部外部委託」です。バックヤード業務を外部に出すことで、限られた薬剤師を対人業務に集中させられるため、実質的な人材確保策になり得ます。
現時点で押さえておきたいポイントは次の通りです。
項目 | 現時点の内容 |
|---|---|
制度の内容 | 一包化などの定型的な調剤業務を、知事等の許可を得て他の薬局へ委託できる |
施行時期 | 公布から2年以内(2027年5月20日までの政令指定日)。2026年7月時点では未施行 |
対象業務 | 錠剤の一包化(同一時点に服用する薬剤)が中心。漢方・分包品・散剤は対象外 |
運用範囲 | 当面は同一都道府県内に限定される見込み |
2026年に入ってからも、厚生労働省の「薬局・薬剤師の機能強化等に関する検討会」で制度化や範囲拡大の議論が進んでおり、一包化作業の外部委託を可能にする動きも報じられています。
注意したいのは、「制度化された=今すぐ全面的に使える」ではないという点です。施行は2027年5月まで、対象業務も限定的で、当面は同一都道府県内という制約があります。将来の選択肢として情報を追いつつ、現時点では採用手法の刷新や省人化DXを優先的に検討するのが妥当です。
働き方の多様化で応募の母集団を広げる
採用ルートを増やしても、そもそも応募できる人が限られていては効果は限定的です。そこで有効なのが、フルタイム前提を外して母集団そのものを広げる工夫です。
- 時短・柔軟シフト — 結婚・出産で離職した潜在薬剤師(復職を検討する層)を取り込む
- 午前のみ・週数日勤務 — 「フルタイムは無理だが少しなら働きたい」層に応募の入口を用意する
- オンライン服薬指導の活用 — 在宅・遠隔での勤務余地を広げる
ただし、オンライン服薬指導はコロナ禍で一時拡大した後、対面回帰の流れもあり普及は頭打ちの側面があります。「在宅採用の万能策」と過大評価せず、地域や患者層に合うかを見極めて使うことが大切です。柔軟な働き方は、給与だけでは動かない層に届く現実的な打ち手として位置づけましょう。
スポット人材(スキマバイト系マッチング)という補完策
採用手法の刷新の一環として、近年は薬剤師のスポット勤務に特化したマッチングサービスが広がっています。これは常勤採用の代わりではなく、「人手が足りない日だけ」を埋める補完策として理解するのが適切です。
主な利点は次の通りです。
- 固定費を増やさない — 月給制と違い、稼働した分だけの変動費で済むため、処方箋枚数が読めない小規模店でも導入しやすい
- ピンポイント補充 — 午前のみ、土曜の数時間、月1〜2回といった細かい単位で依頼でき、急な欠勤にも対応しやすい
- オンライン完結 — 求人掲載から応募確認・契約・支払いまでオンラインで完結し、事務負担を抑えられる
- 休業リスクの回避 — 一人薬剤師体制でも、担当者が休む日をカバーして営業を継続できる
「常勤を増やすほどの処方箋枚数はないが、人手が足りない日は確実にある」という矛盾を抱える薬局にとって、スポット人材は現実的な選択肢です。一方で、初めて来る薬剤師への引き継ぎや当日の運用が属人化していると、せっかく人が来ても現場負担が増えてしまいます。依頼から確定・引き継ぎ・勤怠管理までの運用フローを整えておくことが、継続活用のカギになります。

3つの選択肢の比較|自局に合う打ち手の選び方
ここまでの選択肢を、導入のしやすさと効果の性質で整理します。
選択肢 | 今すぐ着手できるか | コスト構造 | 効果の性質 |
|---|---|---|---|
① 採用手法の刷新(ルート分散・スポット人材) | ◎ すぐ着手可 | 変動費中心 | 人手不足の即時的な穴埋め・採用コスト削減 |
② 省人化DX/AI(調剤ロボット・接客AI) | △ 投資判断が必要 | 初期投資+運用費 | 必要人員そのものを中長期で削減 |
③ 調剤業務の外部委託 | ✕ 施行は2027年5月まで | 委託費 | 将来的にバックヤードを外出しできる |
選び方の目安は次の通りです。
- 今すぐ人手が足りない → まずは①(ルート分散・スポット人材)で穴を埋める
- 恒常的に人が足りず採用も難しい → ②の省人化DX/AIで必要人員を減らす投資を検討
- 中長期の経営設計を見直したい → ③の外部委託の動向を追い、施行に備える
多くの小規模薬局にとっては、①で足元を安定させながら、②を段階的に検討するという順番が現実的です。
こんな薬局におすすめ/おすすめしない
新しい選択肢が特に効果を発揮する薬局と、慎重な検討が必要な薬局を整理します。
おすすめの薬局(特にスポット人材・採用手法の刷新)
- 一人薬剤師の日が多く、急な欠勤で休業リスクを抱えている
- 繁忙日や特定の時間帯だけ増員したい
- 常勤を増やすほどの処方箋枚数はないが、人手が足りない日が確実にある
- 帰省・学校行事などでスタッフが休むと店舗が回らない
- 人材紹介会社への手数料負担が経営を圧迫している
慎重な検討が必要な薬局
- 処方箋枚数が非常に少なく、調剤ロボット等の投資回収が見込みにくい(→まずは採用手法の刷新から)
- 恒常的にフルタイム人員が不足しており、スポット補充だけでは根本解決しない(→省人化DXや常勤採用の待遇見直しと併用が必要)
- 外部委託を「今すぐ使える解決策」と見込んでいる(→施行は2027年5月までで対象業務も限定的)
自局がどの状態にあるかを見極め、足元の穴埋めと中長期の体制づくりを分けて考えることが、失敗しない進め方です。
よくある質問(FAQ)
Q. 人材紹介会社を使わずに薬剤師を採用できますか?
A. 可能です。リファラル採用、自社採用サイト、ダイレクトリクルーティング、スポット人材マッチングなど、紹介会社以外のルートは複数あります。特に定着率の面では、既存スタッフの紹介によるリファラル採用が有効とされています。紹介会社は「急ぎで即戦力が必要なとき」に絞り、常用ルートは分散させるのがおすすめです。
Q. 調剤業務の外部委託はいつから使えますか?
A. 2025年の薬機法改正で制度化されましたが、施行は公布から2年以内(2027年5月20日まで)の政令指定日で、2026年7月時点では未施行です。対象業務も一包化が中心で、当面は同一都道府県内に限定される見込みです。将来の選択肢として動向を追いつつ、現時点では採用手法の刷新や省人化を優先しましょう。
Q. AIや調剤ロボットを入れれば薬剤師はいらなくなりますか?
A. いいえ。AIや調剤ロボットはあくまで対物業務の補完であり、最終的な監査や服薬指導は薬剤師の責任範囲です。厚生労働省も「対物業務を効率化し、薬剤師は対人業務に集中する」方向性を示しています。人員をゼロにするのではなく、限られた薬剤師をより価値の高い業務に振り向けるための手段と考えてください。
Q. スポット人材(スキマバイト)は常勤採用の代わりになりますか?
A. 完全な代わりにはなりません。急な欠勤のカバーや繁忙日の増員といった「足りない日を埋める」補完策として最も効果を発揮します。恒常的な人員不足がある場合は、省人化DXや常勤採用の待遇見直しと組み合わせることが必要です。
Q. 給与で大手に勝てない小さな薬局はどう採用すればよいですか?
A. 求職者は給与だけでなく「残業の少なさ」「人間関係」を重視する傾向があります。時短・柔軟シフトなど働きやすさを打ち出し、潜在薬剤師(復職層)を取り込むことで、給与競争を避けた採用が可能になります。あわせて紹介会社依存を減らし、浮いた手数料を待遇改善に回すのも一手です。
まとめ
小さな薬局の採用がうまくいかない背景には、薬剤師の地域偏在・薬局数の増加・紹介会社依存といった構造的な原因があります。常勤を1人採るという発想だけでは、応募が来ない地域では立ち行きません。
打開のカギは、採用手法の刷新・省人化DX/AI・調剤業務の外部委託という3つの選択肢を、自局の状況に合わせて組み合わせることです。まずは足元の人手不足をスポット人材やルート分散で埋め、中長期では省人化DXで必要人員そのものを減らす。そして外部委託の制度動向を追いながら、経営体制を段階的に整えていく——この順序が、限られた人員と予算で持続可能な薬局経営を実現する現実的な道筋です。
この記事の著者

AI革命
編集部
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