AI活用事例2026年9月更新

港湾・ターミナルのAI活用|コンテナ荷役自動化・本船スケジュール最適化・遠隔操作RTGの導入事例【2026年最新】

公開日: 2026/09/08
港湾・ターミナルのAI活用|コンテナ荷役自動化・本船スケジュール最適化・遠隔操作RTGの導入事例【2026年最新】

この記事のポイント

港湾・コンテナターミナルのAI活用を国交省の一次情報で整理。荷繰り削減6〜83%の実証値、東京港・神戸港の遠隔操作RTG導入事例、CONPASの待機時間20〜30分削減、補助率1/3の制度、TOSのセキュリティ規制まで2026年9月時点の最新情報でまとめました。

港湾・コンテナターミナルのAI活用は、実証段階を抜けて「コンテナ蔵置計画の最適化」「遠隔操作RTG」「ゲート予約システムCONPAS」の3つが実運用フェーズに入ったというのが2026年9月時点の現在地です。国土交通省の令和4年度実証では、AIによる蔵置計画で削減可能な荷繰り(シフト)作業の最少18%〜最大83%を削減でき、横浜港のCONPAS試験運用ではゲート前待機時間が平均20〜30分短縮されました。

一方で、「港湾AI」という単一の製品は存在しません。実体は①国の施策(ヒトを支援するAIターミナル/AIターミナル2.0(仮称))、②補助制度、③共通基盤(CONPAS・サイバーポート)、④ベンダー各社の個別ソリューションという4つの層が重なった構造です。この構造を理解しないまま「AIを入れれば効率化する」と考えると、投資判断を誤ります。

この記事でわかること

  • 港湾・ターミナルのAI活用を構成する4層構造と、岸壁/ヤード/ゲート/管理事務の領域別マップ
  • 国交省実証で確認された定量効果(荷繰り削減6〜83%、CONPAS待機時間20〜30分削減、AIダメージ判定の適合率83.2%)
  • 遠隔操作RTG・遠隔操作ガントリークレーンの港別導入状況(東京港・神戸港・横浜港・名古屋港・清水港)
  • 2026年に動いた最新トピック(AIターミナル2.0(仮称)、サイバーポート有料化、神戸港KICT拡張完了)
  • 導入コストと補助制度(補助率1/3・対象13港湾)、そして正直な制約・失敗要因
  • 名古屋港ランサムウェア事案から始まったTOSのセキュリティ規制の全体像

想定読者: コンテナターミナルオペレーター・港運事業者の経営企画/DX推進担当、港湾管理者(自治体)、荷主・フォワーダー・トラック事業者の物流部門、港湾向けにAI・システムを提案するベンダーやSIer。

港湾・ターミナルのAI活用とは — まず「4層構造」で理解する

港湾のAI活用とは、コンテナターミナルの蔵置計画・荷役機械の操作・ゲート処理・事務作業を、予測AIと数理最適化、画像認識、遠隔操作技術で置き換えていく取り組みの総称です。単一のツール導入ではなく、国の施策・補助制度・共通基盤・ベンダー製品が積み重なった構造になっています。

内容

代表例

① 国の施策

方向性と工程を示す政策パッケージ

ヒトを支援するAIターミナル(2018年度〜)、AIターミナル2.0(仮称)(2026年提示)

② 補助制度

民間投資への財政支援

遠隔操作RTG補助(補助率1/3)、遠隔操作ガントリークレーン補助(令和8年度拡充)、港湾技術開発制度

③ 共通基盤

港を横断して使う仕組み

CONPAS(ゲート予約)、サイバーポート(港湾物流の電子化基盤)

④ 個別ソリューション

ターミナル単位で導入する製品

TOS、日立の計画最適化AI、三井E&Sの港湾デジタルソリューション、荷役シミュレータ

重要なのは、港湾で使われているAIの大半は「生成AI」ではなく、予測(機械学習)と数理最適化の組み合わせだという点です。コンテナの搬出日を予測して積み方を決める、クレーンの作業順序を最適化する、といった処理は生成AIの守備範囲ではありません。生成AIが使われているのは契約書チェックなどの文書業務であり、両者は別領域として切り分けて考える必要があります。

押さえておきたい港湾用語

用語

意味

RTG

Rubber Tired Gantry Crane(タイヤ式門型クレーン)。コンテナヤードでコンテナを積み降ろしする移動式クレーン

GC(ガントリークレーン)

岸壁で本船とヤードの間のコンテナ揚積みを行う大型クレーン

AGV / RMG

自動搬送台車/レール式門型クレーン。完全自動化ターミナルの中核機器

TOS

Terminal Operating System。ターミナル内のコンテナ情報を一貫管理する基幹システム

荷繰り(シフト)

蔵置中のコンテナを移動させる作業。取り出したいコンテナの上にあるコンテナをどかす作業を含む。AI最適化の主要な削減対象

CONPAS

新・港湾情報システム。コンテナ搬出入のゲート予約システム

サイバーポート

港湾物流・港湾管理・港湾インフラの3分野をつなぐ国の電子化プラットフォーム

EIR

機器受渡証。ゲートで発行され、コンテナのダメージを記録する書類

BMPH

荷役本数÷本船着岸〜離岸時間。1寄港あたりの荷役生産性指標

なぜ今、港湾にAIが必要なのか — 労働力データが示す限界

港湾がAI・自動化に踏み切っている最大の理由は、生産性向上そのものよりも「このままでは人が確保できない」という労働需給の逼迫にあります。国土交通省港湾局「港湾労働者不足対策等アクションプラン2025」(2025年6月)が示す数字は、他業種と比べても突出しています。

  • 日本の物資の輸出入の99.6%が港湾を経由している
  • 港湾運送事業の有効求人倍率は2024年度で5.22倍(全職業1.14倍、自動車運転者2.61倍)。2022年度3.96倍→2023年度5.03倍と年々上昇
  • 労働者不足を感じる事業者は「不足」+「やや不足」で約7割(2019年度56%→2022年度68%)
  • 港湾労働者は男性94%・女性6%、平均年齢43.6歳(2025年調査)。約33%が50歳以上
  • 採用が難しい理由の1位は「作業環境(暑さ寒さ等)が厳しい」

出典: 港湾労働者不足対策等アクションプラン2025(国土交通省)

同アクションプランで注目すべきは、現場が最も有効だと考える対策が「自動化・遠隔操作化された荷役機械の導入」で42%だった点です(教育プログラム充実20%、遠隔監視技術14%、警報器等9%)。AI・自動化は経営側が一方的に推し進めているのではなく、労働環境改善の手段として現場からも支持されている構図があります。

国交省の令和8年度予算資料では、港湾労働者数が2040年に向けて約4.3万人規模まで減少する試算(労働政策研究・研修機構の労働力需給推計を基に試算)も示されています。荷役量が維持されるなら、1人当たり処理量を上げる以外に選択肢がありません。

同じ構造は物流全体に共通しています。ドライバー不足と時間外労働規制を含む背景は物流業界のAI活用事例でも整理しています。

【領域別】港湾・ターミナルのAI活用マップ

国土交通省が運営する港湾物流の電子化基盤「サイバーポート」のロゴ

出典: 国土交通省 サイバーポート(www.cyber-port.mlit.go.jp

港湾のAI活用は、コンテナが流れる順に岸壁 → ヤード → ゲート → 管理・事務の4領域に分けると全体像が掴めます。領域ごとに成熟度も投資規模も大きく異なります。

領域

主な業務

AI・自動化の役割

報告されている効果

主なソリューション・制度

成熟度(2026年9月時点)

岸壁

本船への揚積み、本船積付計画

GCの遠隔操作化、本船積付計画(VP)とクレーン作業計画(WS)の自動立案

操作姿勢・振動の負担軽減、天候による効率ばらつき低減

遠隔操作GC補助(令和8年度拡充)、JFEエンジニアリングの実証

実証〜導入初期

ヤード

コンテナの蔵置、荷繰り、横持ち

搬出日予測に基づく蔵置計画の最適化、RTGの遠隔操作・自動化

削減可能な荷繰りの18〜83%削減(令和4年度実証)

遠隔操作RTG補助(補助率1/3)、日立の計画最適化AI、三井E&S TOS

実運用フェーズ

ゲート

搬出入受付、ダメージチェック、EIR発行

予約による平準化、OCRによる番号読取、画像・点群によるダメージ判定

ゲート前待機時間 平均20〜30分削減(横浜港試験運用)

CONPAS、コンテナダメージチェックシステム

CONPASは実運用/ダメージAIは実証

管理・事務

書類作成、契約、統計、保全計画

手続きの電子化、生成AIによる文書チェック、機器の予防保全

書類業務の削減、故障予兆の早期検知

サイバーポート、生成AI文書プラットフォーム、CARMS等の遠隔モニタリング

部分導入

この4領域のうち、投資対効果が最も見えやすいのはゲート(CONPAS)、次にヤード(蔵置計画AI)です。岸壁のGC遠隔操作は国内でもまだ実証段階で、機器更新のタイミングと合わせた長期計画が前提になります。

国の施策:「ヒトを支援するAIターミナル」と後継の「AIターミナル2.0(仮称)」

岸壁に着岸したコンテナ船とガントリークレーンが並ぶコンテナターミナルの全景

日本の港湾AIは、国交省港湾局の施策「ヒトを支援するAIターミナル」が推進の中心です。2018年策定の長期政策「PORT2030」に基づき、労働人口減少とコンテナ船大型化への対応として、平成30年度(2018年度)から実証が始まりました。掲げる目標は「良好な労働環境と世界最高水準の生産性の両立」です。

公式に示されている施策の柱は9本あります。

  1. AIを活用した荷繰り最少化
  2. 遠隔操作ガントリークレーン(GC)の導入支援
  3. 遠隔操作RTG
  4. CTゲートの高度化
  5. CONPAS
  6. ダメージチェック
  7. 外来トレーラーの自動化
  8. 暗黙知(ノウハウの可視化)
  9. 予防保全

出典: ヒトを支援するAIターミナル(国土交通省港湾局)

AIターミナル2.0(仮称)— 2026年最大のトピック

2026年4月15日の港湾局資料「港湾ロジスティクスの強化に向けた施策(案)」および同年6月23日の交通政策審議会向け資料で、AIターミナルの次フェーズとして「AIターミナル2.0(仮称)」が提示されました。2026年9月時点でも名称は「(仮称)」のままで、正式決定や予算措置の確定内容は公表されていません。

考え方の核心は、これまで個別に進めてきた取組を、拠点ターミナルで統合的に集中導入する点にあります。示されている構成要素は次の8つです。

  1. AIを活用したターミナルオペレーションの最適化(荷繰り回数の最少化)
  2. CONPASの活用によるコンテナ搬出入処理能力の向上
  3. CONPASの完全導入とRTG自動化の連携(事前荷繰りの実施)
  4. OCRカメラ等によるコンテナ外装チェック(コンテナ情報の自動読取、ターミナル内行先指示の電子化)
  5. RTGの自動化・遠隔操作化
  6. ガントリークレーンの自動化・遠隔操作化
  7. コンテナヤード内横持ちトレーラーの自動化/ターミナル間横持ちの自動化
  8. コンテナヤードの拡張、オンシャーシデポ活用による渋滞緩和

出典: 港湾ロジスティクスの強化に向けた施策(案)港湾ロジスティクスについて(令和8年6月23日)

特に注目すべきは3番目の「CONPASの完全導入とRTG自動化の連携」です。ゲート予約情報があらかじめ揃っていれば、外来トレーラーが到着する前にRTGがコンテナを取り出しておける(事前荷繰り)。これは「予約システム単体」でも「RTG自動化単体」でも生まれない効果で、統合導入の意義を最も端的に示しています。

なお、令和8年度(2026年度)の国交省予算では「経済・生活を支える海上輸送の基盤(港湾・造船)強化」として785億円が計上され、その中に「AIの活用等による港湾業務高度化」が明記されています。

コンテナ荷役自動化の中核:AIによる蔵置計画最適化(荷繰り削減6〜83%)

コンテナ蔵置計画の最適化AIを提供する日立製作所のロゴ

出典: 株式会社日立製作所(www.hitachi.co.jp

港湾AIで最も効果が実証されているのが、コンテナ蔵置計画の最適化による荷繰り(シフト)削減です。取り出したいコンテナの上に別のコンテナが載っていると、それをどかす無駄な作業が発生します。この無駄をAIで事前に潰すのが基本発想です。

仕組みはシンプルです。過去のコンテナ移動履歴と属性(荷主・品目・本船など)をAIに学習させ、コンテナごとの搬出入タイミングを予測。引き取りが早いコンテナを上段、遅いコンテナを下段に配置することで、不要な荷繰りを未然に防ぎます。

国交省の実証で構築されたAI機能は4種類です。

機能

内容

搬出入予測機能

コンテナ属性ごとの搬出入・本船揚積み量を1日単位で予測

スタッキングプラン(SP)

属性ごとの蔵置エリア区分けの計画

ヤードプラン(YP)

搬入・本船揚げ時の具体的な蔵置場所の計画

ヴェッセルプラン/ワーキングスケジュール(VP/WS)

本船積付計画(揚港・危険物・重量バランスを踏まえた積付位置)と、ガントリークレーンの作業計画

実証で確認された効果(国交省港湾局、2023年5月公表)

検証

期間

総シフト回数

削減可能なシフト

AI活用による削減

削減率

令和3年度(ログデータによるシミュレーション)

6日間

約13,100回

約3,800回

約200〜1,600回

削減可能シフトに対し6〜42%

令和4年度(実際のTOSと連携)

5日間

1,832回

578回

102〜481回

削減可能シフトに対し18〜83%

副次効果として、RTGの走行距離削減、ターミナルオペレーターの計画作成時間・作業負荷の軽減も確認されています。

出典: AI等を活用したターミナルオペレーションの最適化 実証と効果検証結果(国土交通省)

注意すべきは効果に大きな幅がある点です。 「削減可能なシフト」に対する削減率であって、総シフト回数に対しては令和4年度実証でも6〜26%にとどまります。また最大値の83%はマーシャリング作業等がAIによって不要になったケースの数値であり、「AIを入れれば必ず◯%削減できる」とは言えません。効果はターミナルの蔵置密度・貨物構成・現行の計画精度に強く依存します。

神戸港六甲RC2での現地実証(三井E&S・三井倉庫・日立製作所)

この蔵置計画AIを実際のターミナルに持ち込んだのが、神戸港 六甲RC2コンテナターミナルでの現地実証です。国交省「港湾技術開発制度」の技術開発業務を3社が受託し、2025年11月に現地実証を開始(2026年2月までの予定)しました。

役割分担は、日立製作所がAI・数理最適化技術とソフト開発、三井E&SがTOS機能改修と荷役シミュレータ、三井倉庫が運営ノウハウと実証データ提供です。処理の流れは次のようになっています。

  1. TOSのデータからAIがコンテナの搬出日を予測
  2. 最適な配置計画と荷役作業手順計画を自動立案
  3. 三井E&Sの荷役シミュレータで仮想空間検証(荷繰り回数・外来トレーラー待機時間を定量評価)
  4. 現場のオペレーションに反映

背景には、従来のターミナル運営が熟練の計画立案者の経験と知見に大きく依存していたという構造があります。貨物量が増え、本船スケジュールや搬出入情報が刻々と変わるなかで、人手による計画立案は限界に近づいていました。日立は事前のシミュレーション評価で外来トラックのコンテナ搬出所要時間を大幅に削減できることを確認したと発表しています。

出典: 日立:AIを活用したコンテナ配置計画技術の開発(2023/9/27)日立 計画最適化ソリューション事例

蔵置場所を予測に基づいて決めるという考え方は、倉庫のロケーション最適化と本質的に同じです。陸側の施設については倉庫のAI活用事例もあわせて確認すると、サプライチェーン全体での最適化の見取り図が描けます。

遠隔操作RTGの導入事例【港別一覧・2026年9月時点】

東京港で遠隔操作RTGの導入を進める東京都のロゴ

出典: 東京都(東京都港湾局

遠隔操作RTGは、ヤードクレーンの運転員が機上の運転室ではなく、地上の事務所や作業棟からモニターを見ながら操作する方式です。荷役機械の自動化の中では最も実装が進んでおり、国の補助制度(補助率1/3以内)が普及を後押ししています。

港・ターミナル

状況(2026年9月時点)

基数

名古屋港 飛島ふ頭南側CT

2005年12月供用。世界初の遠隔自働RTG、日本初のAGV(2008年12月)を導入した日本初の自働化ターミナル

名古屋港 鍋田ふ頭CT(NUCT)

補助制度を活用して導入中。令和7年度末の運用開始を目指すとされ、港運中央労使で20基が了承(計画37基全ての稼働を了承)

20基

横浜港 本牧BC

運用中(2026年1月時点)

2基

清水港 新興津

令和2年度採択。運用中2基(採択22基)

22基採択

神戸港 ポートアイランド PC18

令和2年度採択、整備中。ターミナル内ワークスペース棟からの遠隔操作が可能に

神戸港 ポートアイランド PC14-17

令和5年度採択、整備中

12基

神戸港 KICT(六甲アイランド)

2026年8月に拡張完了。3→4バース、岸壁総延長1,050m→1,750m。拡張エリアに遠隔操作機能付き電動式RTG導入

12基

東京港 青海公共ふ頭

令和5年度採択。2026年3月31日運用開始(東京港初)。まず8基、2029年までに段階導入しふ頭全体で26基稼働予定

8基→26基

出典: 遠隔操作RTGの導入に対する補助制度(国土交通省)東京港で初となる遠隔操作RTGを導入(東京都)神戸港KICT拡張完了(商船三井 2026/8/19)

2026年の2大トピック

① 東京港で初の遠隔操作RTGが運用開始(2026年3月31日)
国内最大のコンテナ取扱量を持ちながら本格的な自動化が進んでいなかった東京港で、青海公共ふ頭に遠隔操作RTG 8基が導入されました。導入事業者は青海再整備共同企業体(山九・住友倉庫・第一港運ほか6社)。東京都と国の「港湾DX加速化補助事業」「水素燃料電池換装型荷役機械導入促進事業」により導入費用の一部が補助されています。導入されたRTGは燃料電池への転換が可能な設計で、水素エネルギー活用による脱炭素化も同時に狙っている点が特徴です。

② 神戸港KICTの拡張完了(2026年8月19日)
六甲アイランドのKICTが3バース体制から4バース体制へ、岸壁総延長1,050mから1,750mへ拡張。神戸港における外貿コンテナの約4割を取り扱う日本最大級のターミナルとなりました。拡張エリアには電動式トランスファークレーン計12基を新たに導入し、運転員は作業棟から遠隔操作できます。電動化と遠隔操作化が同時に進んでいるのは、AI・自動化投資が脱炭素投資と一体化している現在の潮流を示しています。

RTGと構内シャーシの連携技術(三井E&S、2025年6月完了)

遠隔操作の課題のひとつが、RTGとトレーラー(構内シャーシ)の位置合わせ(ドッキング)の難しさです。モニター越しでは距離感がつかみにくく、熟練者と初心者で作業時間に差が出ます。

三井E&Sは国交省「港湾技術開発制度」の受託業務として、ドッキング支援機能を開発。現地試験で熟練遠隔オペレーターの手動操作と同等の荷役時間を実現し、経験の浅いRTGオペレーターでも標準時間内に作業を完了できることを確認しました(2025年6月完了)。

出典: 三井E&S 遠隔自働化RTGと構内シャーシ連携技術開発完了(2025/6/3)

これは「技能の平準化」という観点で重要な成果です。属人的な熟練度に依存しない仕組みは、人材が確保しにくい業界ほど価値が高くなります。

遠隔操作ガントリークレーン — 国内初の実証と令和8年度の制度拡充

横浜港南本牧ふ頭で大型ガントリークレーンの遠隔操作実証を行ったJFEエンジニアリングのロゴ

出典: JFEエンジニアリング株式会社(www.jfe-eng.co.jp

岸壁のガントリークレーン(GC)の遠隔操作化は、RTGより一歩遅れて2025年から本格的な実証が始まった領域です。GCの操作は地上数十メートルの機上操作室への移動を伴い、前屈姿勢での長時間操作が必要なため、作業者の身体的負担が特に大きい工程でした。

横浜港南本牧ふ頭での国内初実証(JFEエンジニアリング)

JFEエンジニアリングは2025年7月31日、横浜港南本牧ふ頭で国内初となる大型ガントリークレーンの遠隔操作化の実証実験を開始しました。地上事務所の操作卓とGCを接続し、カメラ・センサーで地上/船上の作業者と船上コンテナの状態を検知してデータを収集します。使用するのは24列9段積コンテナ船に対応する国内最大級のクレーン(同社製)です。

出典: JFEエンジニアリング 国内初の大型GC遠隔操作実証(2025/7/31)

令和8年度予算で補助制度が「拡充」

令和8年度(2026年度)の港湾局予算では、遠隔操作ガントリークレーンの導入促進が「拡充」として新規制度等に明記されました。補助率は1/3以内です。公式に想定効果として挙げられているのは次の3点です。

  • 腰をかがめる操縦姿勢や振動が無くなる操作環境の改善
  • 天候による作業効率のばらつきの低減
  • 危険状況の検知・警報による安全性向上

出典: 令和8年度 港湾局関係予算概要遠隔操作ガントリークレーン導入に対する補助制度

生産性向上だけでなく、労働環境改善が公式の目的として明示されている点は、港湾の自動化投資の性格をよく表しています。

ゲートのAI化:CONPASとコンテナダメージチェックAI

ゲートは、AI・デジタル化の効果が最も直接的に体感できる領域です。ゲート前でトレーラーが数十分から数時間待つという長年の課題に対し、予約システムと画像認識が投入されています。

CONPAS(ゲート予約システム)の実運用状況

CONPASは、事前に搬出入情報を登録しておくとTOS情報と自動照合され、ドライバーはゲートでPSカード(ICカード)をかざすだけで受付が完了する仕組みです。予約情報を使ってCY内で事前に荷役しておくこともできます。

状況(2026年9月時点)

横浜港 本牧BC2ゲート

「原則予約」の試験運用を3回実施(2025年8月 2日間/1,406台、2025年11月 2日間/3,022台、2026年3月 5日間/8,089台)。2026年3月の試験運用で平均20〜30分程度のゲート前待機時間削減効果を確認。2026年5月18日に常時運用開始(同年7月中旬から)を発表

東京港

大井1・2号(2025年8月20日)→大井3・4号(2026年1月15日)→大井6・7号(2026年3月9日)と常時運用を順次拡大。青海4号・中央防波堤外側Y1は試験運用中

神戸港

PC18で2024年9月27日に運用開始(神戸港初)。KICTでは2026年3月末から常時運用開始

出典: 横浜港におけるCONPAS常時運用の開始について(関東地方整備局)東京港 CONPAS予約制ターミナル拡大(東京都)

注目すべきは、横浜港が「予約推奨」ではなく「原則予約」+ペナルティ制度という強い枠組みに踏み込んだことです。予約制は一定以上の利用率がないと待ち行列が平準化されないため、任意運用では効果が出にくいという実務上の教訓が反映されています。ゲート待機時間の削減は、トラック事業者側の労働時間管理にも直結します。

コンテナダメージチェックのAI化 — 実証結果と限界

コンテナのダメージチェックは、現在も目視で行われ、コンテナ1本ごとに高所作業を含む確認が必要な工程です。EIR(機器受渡証)も紙運用が残っています。国交省はゲートにカメラとセンサーを設置してこれを自動化する実証を行いました。

実証内容と結果は次のとおりです。

手法

得意なこと

苦手なこと

2Dカラーカメラ(遠隔目視)

屋内モニターでの判別が可能。腐食・傷の確認

膨らみ・へこみの判別。悪天候・逆光で画質がばらつく

3D点群データ(2D LiDAR)

奥行き方向の凹凸をコンター図で判別。通過後1〜2秒でほぼリアルタイム表示

腐食・傷の判別

2Dと3Dの併用が理想という結論になっており、単一センサーでは完結しません。AIによる腐食ダメージ判定については、学習データ512枚の最終版モデルで、再現率100%(ダメージ有りコンテナの見逃しゼロ)のときの適合率83.2%という結果でした。つまり「見逃さない」設定にすると、ダメージ無しのコンテナも一定数拾ってしまいます。処理時間は40ftコンテナ1本(両側面・天井面)あたり合計23.62秒(最上位クラスGPU搭載の実験用PC)でした。

出典: コンテナダメージチェックシステム 実証試験結果(国土交通省)

この数値は「AIだけでは完結しない」ことを明確に示しています。 実証で対象になったのは腐食のみ、しかもコンテナ外側(両側面・天井面)のみです。運用設計としては「AIが一次スクリーニングし、最終判断は作業員が行う」という前提が必須になります。なお岸壁側では、ガントリークレーンにカメラを設置して本船荷役中にコンテナ底面・前後面を撮影できることも確認されています。

本船スケジュール・配船の最適化はどこまで進んでいるか

複数のガントリークレーンが同時に荷役を行う本船と岸壁の様子

本船スケジュール関連のAIは、「ターミナル側(積付計画・クレーン作業計画)」と「船社側(配船計画)」で状況が大きく異なります。両者はよく同じ言葉で語られますが、要件も投資規模も別物なので分けて整理します。

対象

内容

国内の状況(2026年9月時点)

本船積付計画(VP)・クレーン作業計画(WS)

揚港・危険物・重量バランスを踏まえた積付位置と、GCの作業計画をAIが立案

国交省実証でAI機能として構築済み。ターミナルAIの一部として実装が進む

バース割当(バースウィンドウ)最適化

どの本船をどの岸壁にいつ着けるかの最適化

国内ターミナルでの本格運用事例は公表資料では確認できていない。政策上は大規模ターミナルの一体利用によりバースウィンドウの柔軟性が高まる方向性が示されている

船社の配船計画

船隊全体をどの航路にどう充当するかの最適化

日本郵船・MTI・グリッドが自動車専用船のAI配船システムを本格導入(2025年9月)

日本郵船らのAI配船システムは、数カ月先までの最大数百万通りの配船を10分程度で試算します。顧客ニーズ、船隊の稼働状況・修繕予定、港での滞船リスクを考慮し、船舶稼働率・輸送効率・輸送コストのKPIを最適化する設計です。

出典: 日本郵船 AI配船システム本格導入(2025/9/22)

ただしこれは自動車専用船を対象としたもので、コンテナ船のバース計画とは別物です。「本船スケジュールのAI最適化」を検討する際は、船社側の配船最適化なのか、ターミナル側の積付・バース計画なのかを最初に定義しないと、要件が噛み合いません。 船社側のAI活用全般は海運業界のAI活用事例で詳しく扱っています。

港湾業務での生成AI活用 — 文書業務という別戦線

ここまで見てきた港湾AIは予測・最適化が中心ですが、生成AIは主に契約書・書類などの文書業務で使われ始めています。役割が根本的に異なるため、投資判断も別枠で考える必要があります。

代表例が、日本郵船とLighthouseが開発した文書業務支援プラットフォーム「N-DOX」(2025年12月18日発表)です。ドライバルク部門の傭船契約書のチェック・契約更改時の差異抽出を対象とし、文書管理/ルールチェック/影響分析に対応します。エージェント指向・マルチAIモデル対応・段階的な機能拡張が特徴で、約3カ月でプロトタイプを構築し実運用を開始したとされています。

出典: 日本郵船 生成AI文書業務プラットフォーム「N-DOX」(2025/12/18)

港湾・海運分野は、B/L(船荷証券)、傭船契約書、通関書類、EIRなど定型的だが分量の多い文書が大量に発生します。この領域は荷役機械への数十億円投資と違い、比較的短期間・低コストで着手できるため、ターミナル自動化の前段として現実的な入口になります。他業界での類似の活用パターンは生成AIの企業活用事例にまとまっています。

電子化基盤「サイバーポート」は2026年4月から有料化

港湾物流の電子化基盤であるサイバーポート(港湾物流分野)は、令和8年度(2026年4月)から有料化されました。構築期間中は無料提供されていましたが、本格運用への移行に伴う変更です。

項目

内容

料金

月額6,600円/1社(事業所数・ユーザー数によらず定額)

無料条件

累計100トランザクションまで、または月間トランザクションが10件以下の月

請求方法

前年度分を毎年5月下旬に一括請求、Pay-easyで支払い

未登録時の影響

課金情報未登録の場合、帳票連携機能・NACCS連携・CONPAS利用ができなくなる(ターミナル照会は利用可)

利用登録社数

1,065社(2026年2月1日時点)→1,168社(2026年7月1日時点)

出典: サイバーポート(港湾物流)利用登録1,000社突破・令和8年度より有料化(国土交通省)

特に重要なのは「課金情報未登録だとCONPASが使えなくなる」点です。 ゲート予約の常時運用が広がるなかで、サイバーポートの課金手続きが未了だと搬出入業務そのものに影響が出ます。月額6,600円は投資というより実務上の必須コストと捉えるべき性質のものです。

海外の港湾はどこまで自動化しているのか

自動化コンテナターミナルでコンテナを搬送する無人搬送台車(AGV)の列

日本の港湾の自動化は、世界的に見ると明らかに遅れています。 この事実を踏まえないと、国内の投資判断のスピード感を誤ります。

  • 世界初の自動化コンテナターミナルは1993年のロッテルダム港デルタターミナル
  • 現在、世界で約100カ所のターミナルで自動荷役設備が稼働
  • 世界のコンテナ取扱量上位20港のうち18港(約9割)で何らかの自動化技術が導入済み
  • 日本は2005年の名古屋港飛島ふ頭南側CT以降、横浜港・神戸港などの一部で遠隔操作RTGの導入にとどまる

出典: 名古屋港におけるコンテナターミナルの自動化に向けて(名古屋港管理組合 2026/2/26)

ロッテルダム港とシンガポールTuas港

ロッテルダム港は2015年から完全自動化を本格導入し、GCの遠隔操作化、ヤード搬送のAGV、蔵置・積替の自動RMGを全面導入。荷役作業の約9割を自動処理しています。TOSが船の入出港計画・コンテナ配置・搬送指示をリアルタイムで自動最適化する構成です。

シンガポールTuasメガポートは、建設段階から全工程自動化を前提に設計され、2022年に第1期が供用開始。原則として人が現場に立ち入らない運用で、AGVの走行制御や荷役順序の判断にAIを活用した統合運行管理システムを導入しています。2026年3月にPhase 2の自動化を完了し、AI電動プライムムーバーによる自律水平搬送を展開。2026年4月には自律型のゲートウェイ間フィーダー船も投入しました。

自動化レベルの分類

自動化は「する/しない」の二択ではなく、機器ごとの段階があります。名古屋港管理組合が整理した分類が実務的です。

荷役機器

従来ターミナル

一部自動化ターミナル

完全自動化ターミナル

該当例

名古屋港(飛島東側)、東京港、大阪港、名古屋港(鍋田)

横浜港(本牧BC)、神戸港(PC18)、名古屋港(飛島南側)

ロッテルダム港、シンガポール港

ガントリークレーン(岸壁)

有人

有人

遠隔・自動

構内横持ち

有人(シャーシ)

有人(シャーシ)

完全自動(AGV)

ヤードクレーン

有人(SC)/有人

遠隔操作(RTG)/遠隔自動(RTG)

完全自動(RMG)

外来シャーシ

有人

有人

有人

※出典: 一般社団法人港湾荷役システム協会(名古屋港管理組合資料に掲載)

完全自動化ターミナルでも外来シャーシは有人である点に注目してください。ターミナル外から来るトラックまで自動化されている港は存在せず、ここがCONPASのような予約システムが重要になる理由です。

なお日本の港湾は、ガントリークレーン1基あたりの生産性は高いものの、多くの荷役機械を投入する海外主要港に比べBMPH(1寄港あたりの荷役生産性)が低いという分析が国交省から示されています(対象15港95ターミナル、集計期間2024年1月〜12月、S&Pグローバルデータより港湾局作成)。オペレーターの技能ではなく、投入機器数と自動化の差が生産性差の主因という見方です。

導入コストと補助制度 — いくらかかり、いくら支援されるか

港湾AI・自動化の投資は、荷役機械(数十億円規模)とソフトウェア・基盤(年間数万円〜数千万円)で桁が2〜3つ違います。どちらから着手するかで初期負担がまったく変わります。

対象

コスト感

支援制度

自動荷役機器(RTG・GC等)の導入

数十億円規模の投資が必要(名古屋港管理組合資料)

遠隔操作RTG補助(補助率1/3以内)、遠隔操作GC補助(1/3以内、令和8年度拡充)

自治体の上乗せ支援

東京都「港湾DX加速化補助事業」「水素燃料電池換装型荷役機械導入促進事業」等

技術開発(AI・システム)

港湾技術開発制度(国がテーマを設定し民間案件を採択)

サイバーポート利用

月額6,600円/1社

累計100トランザクションまで無料等の条件あり

CONPAS利用

ターミナル・港により異なる

国の施策として導入推進

遠隔操作RTG補助制度の要件

  • 補助率: 1/3以内
  • 対象: 民間事業者。遠隔操作の無人化機械および導入に必要な施設整備。新設は本体全体、改良は遠隔操作化に関連する部分のみ
  • 対象港湾(13港): 苫小牧港、仙台湾港、京浜港、新潟港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、水島港、広島港、関門港、博多港
  • 令和元年度から令和6年度まで毎年公募が行われている

出典: 遠隔操作RTGの導入に対する補助制度(国土交通省)

対象が13港湾に限定されている点は重要です。 地方港のターミナルは現時点でこの補助の直接の対象外であり、ソフトウェア側(蔵置計画の見直し、TOSの活用度向上、文書業務の効率化)から着手する方が現実的です。

港湾技術開発制度の採択テーマ(2023年度創設)

国がテーマを設定して民間の技術開発案件を採択する制度で、令和8年度予算資料時点で4テーマ・10案件が採択されています。ベンダーにとっては参入の入口になります。

テーマ

採択案件

開発期間

ターミナルオペレーションの高度化

AIを活用したコンテナ蔵置計画の最適化

R5〜R7

TOS高度化によるリーファーコンテナ管理の効率化と荷役安全性の確保

R5〜R7

荷役機器等の作業状況を踏まえた荷役指示最適化

R6〜R8

AIを活用したコンテナ在庫管理の最適化

R7〜R9

荷役機械の高度化

ガントリークレーンの遠隔操作化

R5〜R7

RTGと構内シャーシの連携技術の開発

R5〜R6(完了)

ターミナル内のコンテナ輸送の高度化

コンテナヤード内横持ちトレーラー運行の高度化

R5〜R7

RTGを対象としたコンテナ蔵置作業高度化システム

R7〜R9

港湾労働者の安全性・作業効率向上

不安全行動の定量的評価に基づく事故抑止ソリューション開発

R5〜R7

AIを活用した空コンテナ内部のダメージチェック

R7〜R9

出典: 令和8年度 港湾局関係予算概要

導入前に押さえるべき制約と失敗要因

港湾AIの解説記事の多くは効果しか書きませんが、投資判断で本当に必要なのは制約の側です。名古屋港管理組合が整理した3つの構造的課題と、技術的な限界を合わせて整理します。

構造的な3つの課題

1. 高額な初期投資
自動荷役機器の導入には数十億円規模の投資が必要です。特に更新時期を迎える既存施設への適用は財政負担が大きく、荷役機械の更新サイクルに合わせないと投資が二重になります

2. 既存設備との整合性
既存ターミナルを供用しながら自動化を進めるため、有人設備と自動化設備の並行運用を前提とした段階的計画が必須になります。「ある日から全部自動」という切り替えは現実的ではありません。運用ルール・安全管理も二系統になるため、移行期の負荷はむしろ増えます。

3. 労働組合との調整
作業内容の変化に伴う雇用維持・配置転換・再教育の調整が不可欠です。日本の港湾では港運中央労使の了承が実務上の前提になっており、技術と予算が揃っても合意形成なしには稼働できません。名古屋港鍋田ふ頭のケースでは、計画37基全ての稼働について労使の了承が得られたことが公表されています。

技術的な制約

  • AIダメージ判定は完全ではない — 実証AIは腐食のみ対応、判定対象もコンテナ外側(両側面・天井面)のみ。再現率100%時の適合率は83.2%であり、「AI+作業員」の併用が前提
  • 処理時間が現場フローの制約になりうる — 40ftコンテナ1本で約23.6秒。推論の最適化かフロー設計での吸収が必要
  • 単一センサーでは完結しない — 2D画像は膨らみ・へこみが苦手、3D点群は腐食・傷が苦手
  • 屋外環境の影響が大きい — 悪天候・逆光による画質のばらつきが精度に直結する
  • 荷繰り削減の効果には幅がある — 削減可能シフトに対して6〜83%。前提条件により結果が大きく変わる

よくある失敗パターン

  • データが揃っていない状態でAI導入を決める — 蔵置計画AIは過去のコンテナ移動履歴と属性データが学習の前提。TOSにデータが蓄積されていなければ精度は出ない
  • 単体導入で効果を期待する — CONPASだけ、RTG自動化だけでは事前荷繰りのような統合効果は生まれない
  • 予約制を任意運用にしてしまう — 利用率が低いとゲート前の待ち行列は平準化されない
  • セキュリティ投資を後回しにする — 自動化するほどTOS停止時の影響が拡大する

港湾AI・自動化とサイバーセキュリティ — TOSが単一障害点になる

サイバー攻撃の監視画面に映るシステムログのイメージ

AI・自動化を進めるほどTOSへの依存度が上がり、サイバー攻撃を受けたときの停止インパクトが増大します。 これは港湾AIを検討する上で避けて通れない論点であり、日本ではすでに現実の事案として発生しています。

名古屋港ランサムウェア事案(2023年7月)

港内5つのコンテナターミナルを一元管理する名古屋港統一ターミナルシステム(NUTS)がランサムウェア攻撃を受け、約3日間コンテナ搬出入業務が停止しました。攻撃者はロシア系とみられる「LockBit」、リモート接続機器の脆弱性の悪用による不正アクセスとみられており、データセンター内のNUTS全サーバーが暗号化されたと報じられています(攻撃者名・侵入経路はセキュリティベンダー・報道ベースの情報)。

出典: 名古屋港ランサムウェア攻撃の影響と対策(トレンドマイクロ)

事案を受けた3つの制度的措置

国交省「コンテナターミナルにおける情報セキュリティ対策等委員会 取りまとめ」(令和6年1月)を起点に、制度が急速に整備されました。

観点

措置

時期

サイバーセキュリティ基本法

「重要インフラのサイバーセキュリティに係る行動計画」に港湾分野を重要インフラとして位置付け

令和6年3月8日

港湾運送事業法

改正施行規則を施行。事業計画にTOSの概要と情報セキュリティの確保に関する事項の記載を義務化。対象全事業者の記載が完了し、記載内容を確認する監査を開始

施行 令和6年3月31日/監査開始 令和7年8月

経済安全保障

改正経済安全保障推進法が公布され、TOSを使用して役務提供を行う一般港湾運送事業が同法の対象事業に追加

令和6年5月17日公布

つまり、TOSのセキュリティ対策はすでに「推奨」ではなく事業継続の要件になっています。 2025年8月からは記載内容の監査も始まっており、AI導入を検討する事業者にとっては同時並行で対応が必要な領域です。

港湾分野セキュリティガイドラインは第3版へ(2026年5月)

「港湾分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン」は、2024年4月の初版から2025年3月の第2版を経て、2026年5月13日に第3版が公表されました(政府統一基準群・最新の基準を踏まえた改定)。構成は導入編/経営者層編/セキュリティ責任者編/システム構築・運用者編/港湾管理者等編の5編+付属資料です。

押さえるべき要点は3つあります。

  • 保護対象はTOSおよびその中で利活用される情報資産。TOSが停止すると当該港湾のコンテナ搬入・搬出が止まり、大規模な重要インフラサービス障害につながる
  • ガイドライン全体の位置づけは推奨基準だが、港湾運送事業法の事業計画届出で必要となる項目(強制要件)には下線が付されている
  • 指摘されている課題は、①境界型防御には限界がありゼロトラストの考え方に基づくデータ・機器単位の管理策が必要、②セキュリティ管理策の継続的改善が不十分、③制御システムは可用性最優先でウイルス対策ソフト導入やパッチ適用が難しく、耐用年数が長いため汎用ソフトが修正パッチ提供対象外になりやすい

出典: 港湾分野における情報セキュリティ確保に係る安全ガイドライン(国土交通省)コンテナターミナルにおける情報セキュリティ対策等検討委員会

令和8年度予算の施策方針にも「自動化等の進展に対応したサイバーセキュリティ対策の強化」「港湾における官民のサイバーセキュリティ人材の確保・育成」が明記されており、国としてもAI・自動化とセキュリティをセットで扱う方針が示されています。なお遠隔操作RTGについては、安全確保のためのモデル運用規程(平成31年3月、国交省港湾局)も策定されています。

産業制御システム側のセキュリティ設計の考え方については、インフラ・プラント保全のAI活用事例サイバーセキュリティのAI活用もあわせて参考になります。

立場別・段階的な導入ステップ

港湾AIは立場によって「今できること」が大きく異なります。数十億円の荷役機械投資ができる主体は限られており、それ以外の関係者には別の打ち手があります。

立場

まず着手すべきこと

次のステップ

中長期

ターミナルオペレーター(大規模港)

TOSデータの整備・蓄積状況の棚卸し、サイバーポート課金手続き

CONPAS常時運用への対応、蔵置計画AIのPoC

遠隔操作RTG・GCの機器更新計画への織り込み(補助率1/3を前提に)

ターミナルオペレーター(地方港)

蔵置ルールの見直し、TOS活用度の向上

ゲート業務・書類業務の電子化

補助対象港湾の動向を見つつ機器更新時に検討

港運事業者

港湾運送事業法に基づくTOSセキュリティ記載事項の点検

作業計画・要員配置のデータ化

遠隔操作化に伴う要員の再教育計画

荷主・フォワーダー

サイバーポート/CONPASの利用体制整備

搬出入予定情報の早期確定(AI予測の精度に直結)

港側の予約制対応を前提とした物流設計

トラック事業者

CONPAS予約運用への対応(PSカード・予約枠管理)

待機時間データの記録と分析

予約枠を前提とした配車計画

ベンダー・SIer

港湾技術開発制度の採択テーマの確認

ターミナルとの実証パートナーシップ構築

TOS連携・シミュレータとのセット提案

現実的な導入順序

  1. データ基盤の確認 — 蔵置計画AIは過去の移動履歴と属性データが前提。TOSに何年分のどんなデータがあるかを最初に確認する
  2. ゲートから着手 — CONPAS対応は投資が比較的小さく、効果(待機時間削減)が関係者全員に見えやすい
  3. 文書業務の効率化 — 生成AIによる書類・契約チェックは短期間で着手できる
  4. 蔵置計画AIのPoC — シミュレータ上で荷繰り削減効果を定量評価してから本番反映
  5. 荷役機械の遠隔操作化 — 機器更新タイミングに合わせ、補助制度と労使合意を並行して進める
  6. セキュリティ強化を全工程で並行 — 自動化の進展に比例してTOS依存が高まるため、後追いにしない

こんな組織におすすめ/慎重に判断すべき組織

AI・自動化投資を優先すべき組織

  • 補助対象13港湾で荷役機械の更新時期を迎えているターミナル — 補助率1/3を使えるタイミングは限られる。更新と自動化を分けると投資が二重になる
  • オペレーターの高齢化・採用難が具体的な数字で現れている事業者 — 有効求人倍率5.22倍という環境では、省人化は選択ではなく前提
  • 取扱量が多く、荷繰りが日常的に発生しているターミナル — 蔵置密度が高いほど蔵置計画AIの削減余地が大きい
  • ゲート前の待機が慢性化している港 — CONPASは比較的短期間で効果が出やすい
  • TOSにデータが数年分蓄積されているターミナル — AIの学習に必要な素地がすでにある
  • 文書業務の負荷が高い港運・海運・フォワーダー — 生成AIによる契約書・書類チェックは荷役投資より圧倒的に低コストで始められる

慎重に判断すべき/段階を踏むべき組織

  • TOSのデータが整備されていない、または紙運用が多く残る事業者 — AI導入より先にデータ化が必要。学習データがなければ予測精度は出ない
  • 取扱量が少なく荷繰りがほとんど発生しないターミナル — 蔵置計画AIの削減余地が小さく、投資回収が難しい
  • 補助対象外の地方港で、数十億円規模の機器投資が財政的に困難な主体 — ソフト面・業務プロセス面の改善から着手する方が合理的
  • 労使協議の枠組みが整っていない事業者 — 技術と予算が揃っても稼働できないリスクが高い。合意形成を先行させる
  • セキュリティ体制が未整備の事業者 — 自動化はTOS依存を高める。攻撃時の停止インパクトを許容できない状態での自動化はリスクを増やす
  • 短期的なコスト削減だけを目的にしている組織 — 港湾の自動化は労働環境改善・処理能力の安定確保・脱炭素まで含む長期投資であり、単年度のROIでは判断しにくい

よくある質問

Q. 「AIターミナル」と「自動化ターミナル」は同じものですか?
A. 異なります。「自動化ターミナル」は荷役機械の自動化・遠隔操作化を指す言葉で、機器の話です。「ヒトを支援するAIターミナル」は国交省の施策名で、AI・ICT・自働化技術を組み合わせて労働環境と生産性を両立させる取り組み全体を指します。AIによる荷繰り最少化やCONPASのような非機器系の施策も含まれる点が違いです。

Q. AIを導入すれば荷繰りは必ず減りますか?
A. 一律には言えません。国交省の令和4年度実証では削減可能なシフト作業に対して18〜83%の削減が確認されましたが、これは「削減可能」と判定された作業に対する比率で、総シフト回数に対しては6〜26%です。効果は蔵置密度・貨物構成・現行の計画精度に大きく左右されるため、シミュレータでの事前評価が推奨されます。

Q. 遠隔操作RTGはどの港でも補助が受けられますか?
A. 現時点では対象港湾が13港(苫小牧・仙台湾・京浜・新潟・清水・名古屋・四日市・大阪・神戸・水島・広島・関門・博多)に限定されています。それ以外の港湾は直接の対象外です。自治体独自の上乗せ補助(東京都の港湾DX加速化補助事業など)が併用できるケースもあるため、港湾管理者への確認が必要です。

Q. 港湾AIに生成AI(ChatGPTのようなもの)は使われていますか?
A. 荷役やヤード管理の中核で使われているのは、予測(機械学習)と数理最適化であり、生成AIではありません。生成AIが使われているのは傭船契約書のチェックや文書業務支援といった事務領域で、日本郵船の「N-DOX」が代表例です。用途と投資規模がまったく異なるため、分けて検討することをおすすめします。

Q. CONPASの利用に費用はかかりますか?
A. CONPASの利用にはサイバーポート(港湾物流分野)の登録が必要で、同基盤は2026年4月から月額6,600円/1社の有料制に移行しました。課金情報が未登録の場合、帳票連携機能・NACCS連携・CONPAS利用ができなくなるとされています。ターミナル側の利用条件は港により異なるため、各港湾管理者・ターミナルへの確認が必要です。

Q. AIによるコンテナのダメージチェックは実用化していますか?
A. 2026年9月時点では実証段階です。国交省の実証では腐食ダメージについて再現率100%時の適合率83.2%という結果でしたが、対象は腐食のみ、コンテナの外側(両側面・天井面)のみです。膨らみ・へこみは2D画像で判別しにくく、腐食は3D点群で判別しにくいため、複数センサーの併用と作業員による最終確認が前提になります。

Q. 自動化を進めるとサイバー攻撃のリスクは上がりますか?
A. TOSへの依存度が高まるため、攻撃を受けた際の業務停止インパクトは確実に大きくなります。2023年7月の名古屋港の事案では約3日間コンテナ搬出入が停止しました。現在は港湾分野が重要インフラに位置付けられ、港湾運送事業法で事業計画へのTOSセキュリティ記載が義務化され、2025年8月から監査も始まっています。自動化投資とセキュリティ投資はセットで計画すべきです。

Q. 本船スケジュールをAIで最適化している国内事例はありますか?
A. 船社側では日本郵船・MTI・グリッドが自動車専用船のAI配船システムを2025年9月に本格導入しています。ターミナル側の本船積付計画(VP)とガントリークレーン作業計画(WS)については国交省実証でAI機能が構築されています。一方、コンテナ船のバース割当(バースウィンドウ)最適化AIについては、国内ターミナルでの本格運用事例を公表資料では確認できていません。

まとめ

港湾・ターミナルのAI活用は、2026年9月時点で次の状態にあります。

  • 実運用フェーズ: CONPAS(ゲート予約)、遠隔操作RTG、蔵置計画AIのターミナル実装
  • 実証フェーズ: 遠隔操作ガントリークレーン、コンテナダメージチェックAI、ヤード内横持ちの自動化
  • 構想フェーズ: AIターミナル2.0(仮称)による拠点ターミナルへの統合的な集中導入

2026年に入って動いた主要トピックは、東京港初の遠隔操作RTG運用開始(3月31日)、サイバーポート有料化(4月)、AIターミナル2.0(仮称)の提示(4月・6月)、セキュリティガイドライン第3版(5月13日)、横浜港CONPAS常時運用(7月中旬)、神戸港KICT拡張完了(8月19日)です。

判断の要点は3つに集約されます。第一に、効果は実証で確認されているが幅が大きいこと。荷繰り削減6〜83%という数字は前提条件次第で結果が変わることを意味します。第二に、単体導入より統合導入の方が効果が大きいこと。CONPASの予約情報とRTG自動化を組み合わせた事前荷繰りが典型例です。第三に、自動化とセキュリティは不可分であること。TOSへの依存度が上がる以上、セキュリティ投資を後回しにした自動化は業務停止リスクを増やします。

数十億円規模の荷役機械投資がすぐに難しい組織でも、データ整備・ゲート業務の電子化・文書業務の生成AI活用といった段階的な入口があります。まずTOSにどんなデータがどれだけ蓄積されているかを確認するところから始めるのが、最も確実な第一歩です。

物流・サプライチェーン全体でのAI活用については物流業界のAI活用事例、船側の取り組みについては海運業界のAI活用事例、交通インフラ全般の最適化については航空・鉄道業界のAI活用事例もあわせてご覧ください。

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編集部

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